エピソード② 僕の話 +1(脚本)
〇黒
「おはようございます。」
〇近未来の病室
「おはようございます。」
・・・
目覚めると
いつものチャージベッドの中だった。
おや・・・?
マル「お目覚めですね。 おはようございます!」
小さな彼が僕に声をかける、
いつもの風景。
僕「えーと、なんだったっけ・・・。 なにか大事なことを聞こうと思っていたはず、だけど」
マル「寝ぼけているんですか? さぁ仕事の続きをしましょう!」
僕「そう急かすなよ、いま行くから」
いつものようにオペレーター室に向かう。
〇地下に続く階段
カン、カン、カン、カン。
靴音が、響く。
〇コンピュータールーム
僕は、いつものように、
オペレーター室にいた。
〇研究機関の会議室
僕は奥の席につくと、
マルが、いつものように
珈琲を持ってくる。
マル「アロー、 はい、いつものです」
僕「うん、ありがとう。マル。」
僕「続きを読まなきゃな。」
監視が仕事、といっても、
直接映像データの解析結果だけ「脳」と呼ばれる集積回路に送信させればいいので、
ずっとカメラ(眼)を
眺める必要も、ない。
珈琲を飲んで本を読んでる姿は、はたから見ると僕は遊んでいるように見えるだろう。
「本」というものも「ニンゲン」の「遺跡」から調達された貴重な資料で。
ぺらり。
僕は「ニンゲン」に関する「研究」をずっとしている。
僕らを作った、いわば「神様」と呼ばれるものみたいだ。
僕には液体の有機物からエネルギーを作り出す機構も持っており、無機物であり、有機物である。
炭素を含まないのが無機物、含むのが有機物。
炭素は
黒いもの・・・黒いもの・・・
はて・・・どこかで・・・
〇炎
炭素原子の生成にはヘリウムの原子核であるアルファ粒子の3重衝突が必要となる。これには約1億度の熱が必要
(トリプルアルファ反応(トリプルアルファはんのう、
triple-alpha process)とは、3個のヘリウム4の原子核(アルファ粒子)が結合して
炭素12の原子核に変換される核融合反応の1つである。
ニンゲンが記録したものによるのだけれど、言わば「ヘリウム燃焼の灰」
密閉された核に圧力がかかり膨張出来ない状態だと、
過度な温度上昇による暴走的な反応「ヘリウムフラッシュ」が起きて炭素が生成される
ゆえに1億度。
核融合炉の中と同じ。
危険な「外の世界」と同じだ。
でも僕は管理センターの中にいる。
ここは安全。
もし「生物」という有機物がいるのなら「卵」というものと同じなのかもしれない。
殻で覆われ満たしているもので、僕は守られている。
炭素は圧力が強ければ強いほど透明度の高く純度が高いものが出来るようで、
「ニンゲン」は「ダイアモンド」という「宝石」として珍重していたよう。
その辺に沢山あるのに。
〇研究機関の会議室
マル「何をブツブツ言っているんです。 仕事は進んでいますか?」
僕「ちゃんとやってるよ」
そのすぐ小言をいう、有能な小さくて丸い秘書。
僕はそれを「マル」って呼んでる。
滅多に呼ばないけど。
〇荒地
ダイヤモンドのような鉱物を採取する機械を、エラーがないか監視して物流センターに集積してる。
その後はどうなってるか知らない。僕の知るところではないからだ。
〇研究機関の会議室
マザーがそう言うから、従っているだけ。
その通りにしていれば、僕は好きな読書をしながら珈琲が飲めるのだから。
今日も淡々と「仕事」をこなすだけだ。
話し相手は
助手?秘書?執事?友達?の「マル」と、定期通信をする「マザー」、あとは管理センター内の方たち。
言うなれば、会話も特に必要無い。
無線通信で命令すれば良いわけで。
(知らなければ、テレパシー?とかいうものに見えるだろう)
僕が会話を好むのは、振動から伝わる感覚を好むからだろう。
それは「ニンゲン」で言うところの
「鼓動」なのだろう。
一定のリズムで胸に響きを伝える。
それを「生きてる」って言うらしい。
僕も同期を取るためにクロックという機構が身体の中で一定間隔の信号を送っている。
僕は生きている・・・のだろうか?
〇研究機関の会議室
ビーッビーッビーッ
緊急警報、緊急警報!
突然のブザーが鳴る。
よくあること。
吹き荒れる嵐が掘削機械を狂わせる。
暴走したり、止まったり。
僕は用意をして、現地まで見に行かないといけない。(それに耐えられる機構を持っているのは、僕しかいないから)
エネルギーチャージだけは、かかせない。作業の途中で僕が止まってしまったら、管理センター全体の危険だからだ。
それくらい重要な仕事、と思う。
だから僕はわりと自由で特別扱いなのだろう。
(フツウは管理センターの中を勝手に歩き回ったり、外に気軽に出ることも出来ないだろう)
〇舞台下の奈落
従来のロボット達は、配属されると一生その場所から動くことはなく(補給以外は)ずっとそこで作業するだろう。
特に感情もなく淡々と仕事をこなす。
それがマザーの意思で疑問にも思わず、当たり前になっているからだ。
〇巨大研究所
ブーッ、ブーッ、ブーッ。
「ちょうど、いいところだったのに」
僕は読みかけの本を置くと、支度をしてバギーに向かった。
入口には、
新しいバギーが支給されていた。
(ん?新しいバギー?そういえば、どこかで・・・)
なにか思い出そうとしても思い出せない。そこからの記憶がないのだ。
(壊れ・・・てた?)
壊れたことがあった・・・のかもしれない。
僕は試しに検索してみた、が、何もない。何も無いのだ。
僕はバギーに乗り込むとブザーのなったエリアに走っていく。
〇基地の広場(瓦礫あり)
砂風は強く吹いている。
僕はバギーの中でモニター越しに様子を見ている。
というのも、機械が壊れているというより「壊されてる」ように見えたからだ。
なにかからの電波というか通信を受け取ってるみたいだ。監視されてるというか。
〇雪山
その細かい判断ができるのは、僕だけだろう。
酸素がなく燃えるというより、化学反応が起きて光っている、まずそれを抑えなければ。
僕はレスキューの役目も担っている。
監視されてるかもしれないが、仕方ない。長いアームを伸ばし、遮断シートを被せる。
とりあえず手出しはできないだろう
それについて気になるのは、
「反乱分子」というものが邪魔をしている可能性があるらしい。
「反乱分子」とは、集団の中で反乱を起こすもの。
すなわち僕らの仲間、管理センターの中に、それをする者がいる・・・とマザーは僕に言うのだ。
中央管理センターに入れないものは、フツウは作業機械として動いているか、
地下のシェルターに個々に潜んでいるらしい。
詳しくは僕にも分からない。
〇戦闘機の操縦席(滑走路)
機械を停止させ回収する作業をアームで行っているとアラートが鳴った。
「アラートが。またL-23エリアか」
ん?また?
過去にもあったということか?
僕の記憶の欠片に何かがある。
「黒い・・・もの」
そう、黒いものだ。
〇雪山
ここはL-18エリア。
区画はAからZまであり、エリアごとに数字で割り振られている。住所のようなものだ。
(ここでは分かりやすく自動翻訳されているが、独自の体系の言語を使用している)
例のエリアに近い。
ここの作業を終えたら、そこに向かおう。
〇数字
僕は思い出した。何もかも。
間違いなく、記憶は消されていた。
何故、記憶が消されたのか。
バックアップがバッファ(一時記憶部)に残ってたからデータがあったものの
(自動修復されて格納されていたらしい)、故意に僕の記憶を消した何らかが、あるということだ。
用心しないと。
恐らく「黒いもの」
そう「黒いもの」を、僕は拾った。
現場に行って、確認せねば。
嵐に流されてしまったかもしれないが、なにかの痕跡があるかもしれない。
〇黒
つづく