エピソード③(脚本)
〇黒
僕の記憶は消されていた。
一体、誰が?
恐らくブザーと感触記憶で、消された記憶が蘇ったのだ。
通常の機械とちがって、僕には五感(六感?)と感情、というものがある。
(記憶は消せても、接触のデータまでは消せなかったらしい。修復されて感覚部に隠れるように残った。)
〇荒地
壊れてた機械は修復するために持ち帰り用のコンテナに収めてバギーの後方に乗せ、例のポジションまで移動する。
アラートの地点まで進んだが、特に変わりはないようだった。アラートの誤動作だろうか?
〇荒地
スコープで周辺をくまなく探す。
波打つ砂浜から
ひとつの不自然な「くぼみ」を見つけた。
地図には載っていないし、監視もあるのに、なぜ気づかなかったのか。
砂をはらっていくと、丸いハッチがある。
僕は慎重にハッチに手をかける。
ハッチは簡単にあいた。
〇ダクト内
穴の奥は暗くなっていて、なにも見えない。レーザーを照らすが奥が相当深いようだ。
(気づかないように、こんなところにハッチがあるなんて)
人工的なものなのは明らかだ、しかも地図にない(マザーの知るところでない)というところ、危険かもしれない。
入るか、どうしようか・・・
〇荒地
とりあえず今のところはマーカーだけ付けて、装備を整えてからまた来よう。
燃料も残り少ないし。
機械の回収もあるし。
ハッチを閉めようとした時、蓋の裏に1センチ位の「黒い粉」が付着しているのに気がついた。
(これはもしかして)
僕は考えた、例の「黒いもの」の欠片かもしれないと。
蓋の裏をこそげ取り容器に回収するとそっとハッチを閉め、すぐにバギーに乗り込み砂埃を巻き散らした。
〇近未来の病室
僕は体をクリーニングし着替えて部屋に戻り、いつものように珈琲を飲んでいた。
珈琲の香り、を感じるのは五感を持つ僕の特権かもしれない。
あのエリアの探索。 作戦を立てなければ。
〇研究機関の会議室
「珈琲がもうすぐ切れそうだな」
僕がいつも飲んでいる「珈琲」をどこで手に入れるって?
それは、管理センター内の研究室に常駐する「ハカセ」に譲ってもらうからだよ。
外で僕が拾った「モノ」や「鉱石」と交換にね。(マザーには内緒でね)
〇薄暗い廊下
僕はハカセの元へ向かう。
彼の仕事は、修理と解析や設計開発だ。
(僕の愛用のバギーやパワードスーツも彼の設計からだし) なので彼もまた重要な「特別扱い」。
彼は外の世界に出ることが出来なくて、いつも研究室にいるし、
他の機械とは話が合わない(学習機能や知能が搭載されてない)から、
唯一の外の情報源として、僕の出入りを貴重としているんだ。 まぁ彼を尋ねるのは、友達との宝物交換会みたいなものだよ。
〇植物園の中
博士は、有機物を扱う術を知っていた。 彼は「プランター」と呼ばれる有機物を栽培する研究エリアを構築しており、
〇広い厨房
冷蔵貯蔵庫も持っていて、複数の微生物を貯蔵していた。
また、「キッチン」と呼ばれる研究室で有機物を加熱加工し、エネルギーに変える装置もあった。
〇舞台下の奈落
僕と同じように、マザーの禁忌とする「ニンゲン」に関する研究をする友として、懇意にしている。
(マザーと同じくらい知識を持っているかも)
きっと僕の認識する世界は狭い。 本を読んでるだけでも、僕の知らない認識の違う思考が読み取れるし。
マザーはそれらを全て、知識として持っているのだろう。 それは一体どういった感情や思考なのか、僕には計り知れないが。
そうだ、黒いモノを「ハカセ」に解析してもらおう。
〇近未来の開発室
シュウウゥゥ
扉が開くとハカセは座ったまま
書類を読んでいた。
僕「アロー。」
僕は言うと、ハカセは怪訝な様子を示した。
ハカセ「・・・」
ハカセ「君はいつもそうだ。 部屋に入る時は、 きちんと「消毒」をしろと、 いつも言っているだろう?」
僕「ごめんな。 きょうは「特別なモノ」を持ってきたから勘弁してくれよ!」
資料を目にしていたハカセは顔を上げた。
「特別なモノ?」
ハカセ「それは楽しみだ、 いつもより美味しい珈琲をご馳走してやるよ」
ハカセ「さ、そこに座って待っていてくれ」
彼がたまに見せる笑顔は、可愛い。
ハカセ「きょうは特製ハイブレンドだ」
僕「ありがとう」
ハカセ「で?特別なモノっていうのは?」
僕「これさ」
僕は袋を少し開けて中身を見せた。
ハカセ「ほう、興味深いな。なんだろうね」
僕「これを、君に分析して欲しいんだ」
僕「君にだけは言うけど、僕は先日、これに似ている、大きなカタマリを見つけて回収した」
僕「しかし、事故があって、 それを秘密裏に回収され 記憶を消されていた」
僕「僕は感覚に残る記憶から 全てを思い出したんだ!」
ハカセ「事故の話は聞いてるよ。 しばらく医療センターにいたらしいな」
僕「うん、なんとか戻ってこれたよ。 また君の珈琲が飲みたいからね!」
ハカセ「嬉しいこと言うじゃないか。 わかったよ。ちゃんと用意してあるから。 はい、これでいいか?」
彼は僕が珈琲を所望することが、わりと嬉しいらしい。
僕「いつもありがとう!」
僕「もうこれがないと 落ち着かないくらいだよ」
ハカセ「そうか、育てたかいがあるな」
ハカセ「まぁ、その袋のものは預かっておく。 次来るときまでには、解析しとくよ」
僕「うん、よろしく。 それより、キミに借りたこの本さ・・・」
僕らは他愛のない会話を
しばらく楽しんだ。
〇黒
ん・・・
〇近未来の開発室
僕「うぅん・・・」
ハカセ「・・・」
彼は書類を見ている。
僕「ごめん、僕は眠ってしまったみたいだ」
ハカセ「あぁ、別にいいさ。 スリープモードになるほど 疲れていたんだろう? チャージしていくかい?」
僕「ありがとう。 でも、もう部屋に戻るよ。 またね、お代はおいておくよ。」
僕「じゃあまたね!」
ハカセ「あぁ、またな」
ハカセ「・・・」
〇近未来の病室
僕は部屋に戻ると
今日のことを思い出していた。
僕「どうせ朝は、マルに起こされるんだ。それまで眠っていよう」
僕「おやすみ・・・」
プラグを繋いで・・・
ピッ、ピピピピピ・・・
〇黒
つづく