むらむらしちゃだめっ!

大河内 りさ

1むらむら『悲喜劇のはじまり』(脚本)

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〇空っぽの部屋
宇多邑 苑江「『シーン6、書斎』用意──」
仲村 柊「『ここにいたんだ』」
中邑 ゆうり「『どうしたの?』」
仲村 柊「『きみとゆっくり話したくて』」
中邑 ゆうり「『私も話したいことがあるの』」
中邑 ゆうり「『私、あなたの腕になりたい』」
中邑 ゆうり「『あなたが笑う時、泣く時、怒る時、喜ぶ時・・・』」
中邑 ゆうり「『あなたの隣で、同じ時間を過ごしたい』」
中邑 ゆうり「『ずっとルカードのそばにいたいの』」
仲村 柊「『エリゼ・・・!』」
中邑 ゆうり(好機・・・!)
中邑 ゆうり(狙うは柊の唇!! つまずいたフリしてキスを──)
仲村 柊「『ずっと、きみをこうして抱きしめたかった』」
中邑 ゆうり「・・・ッ!」
中邑 ゆうり「〜〜〜〜ッ!!」
中邑 ゆうり「・・・・・・」
中邑 ゆうり「イヤーッ!!」
宇多邑 苑江「はい、ストップ」
仲村 柊「お前なぁ・・・」
中邑 ゆうり「違ッ──」
中邑 ゆうり「これは決して柊に "むらむら"したんじゃなくて」
中邑 ゆうり「シチュエーションに左右されただけで──」
宇多邑 苑江「困ったねぇ。 これじゃ文化祭に間に合わないよ」
宇多邑 苑江「今からでも配役変える?」
中邑 ゆうり「そんなぁ!!」
宇多邑 苑江「「花邑くんの呪い」が解けないと このシーンできなくない?」
中邑 ゆうり「大丈夫です!!」
仲村 柊「その姿で言っても説得力ないから」
中邑 ゆうり「うぅっ」
宇多邑 苑江「ゆうりちゃんも私みたく推しがいれば すぐに呪いが解けたのにね」
中邑 ゆうり「や、先輩の解呪方法は わりと独特だと思います」
宇多邑 苑江「そう?」
宇多邑 苑江「好きな人がいないのも珍しいと思うけど」
中邑 ゆうり「いない訳では・・・」
中邑 ゆうり「とっ、とにかく!」
中邑 ゆうり「今はこの悲劇にどう立ち向かうのかが 至上命題ですっ!!」
宇多邑 苑江「わー、すごい顔」
仲村 柊「至上命題ねぇ・・・」

〇図書館
  悲劇の始まりは
  1週間前に遡る──

〇図書館
中邑 ゆうり「失礼しまーす」
壱邑 一貴「ハァ。図書委員って意外と仕事多いのな」
壱邑 一貴「蔵書点検とかめんどくせー」
中邑 ゆうり「委員決めの時に寝てるから 押し付けられたんだよ」
天邑 遥斗「中邑先輩!」
天邑 遥斗「と、壱邑先輩」
壱邑 一貴「俺はオマケか」
中邑 ゆうり「天邑くん。もう来てたんだ」
天邑 遥斗「準備室に宇多邑先輩と仲村先輩もいますよ」
中邑 ゆうり「水縹先生は?」
天邑 遥斗「それが、どこにも見当たらなくて」
壱邑 一貴「召集かけといて何やってんだ」
天邑 遥斗「みんな集まるまで 準備室で待ってましょう」

〇役所のオフィス
宇多邑 苑江「2人ともお疲れ〜」
壱邑 一貴「疲れんのはこれからッスけどね」
宇多邑 苑江「おっ、それは疲れるほど 仕事してくれるって意味だね?」
宇多邑 苑江「いやぁ頼もしい後輩だ!」
壱邑 一貴「違っ──」
天邑 遥斗「先輩、お菓子どうぞ」
中邑 ゆうり「ありがと! いただきまー・・・」
中邑 ゆうり「ん?」
中邑 ゆうり「この本、何だろ」
天邑 遥斗「わぁ、年季入ってますね」
宇多邑 苑江「分類ラベルが貼ってないから 図書室の本じゃないね」
壱邑 一貴「水縹の日記だったりして」
壱邑 一貴「ちょいと拝見──」
仲村 柊「それはマナー違反だろ」
壱邑 一貴「いいからいいから」
壱邑 一貴「拾い主は3割〜」
仲村 柊「拾得物報労金の上限は2割だ」
中邑 ゆうり「拾ったの私なんだけど」
壱邑 一貴「じゃあ中邑が2割読め」
中邑 ゆうり「・・・ちょっとだけ」
仲村 柊「あっ、こら!」
中邑 ゆうり「だって、気にならない?」
壱邑 一貴「ご開帳〜」
宇多邑 苑江「で、中身は?」
中邑 ゆうり「『5月10日、利用者が少ない』」
中邑 ゆうり「『6月5日、今日も利用者が少ない。リクエスト本入荷』」
中邑 ゆうり「・・・図書委員の活動日誌ですね」
壱邑 一貴「何だ、つまんねーの」
仲村 柊「それなら問題ないな」
中邑 ゆうり「古く見えるけど、いつ頃のかな」
仲村 柊「年度は・・・書いてないか」
中邑 ゆうり「どれも同じ筆跡だね」
壱邑 一貴「『7月4日、今日は水縹さんと貸出当番が一緒でラッキー』」
中邑 ゆうり「急に個人的な感想が出てきた!」
中邑 ゆうり「水縹って、先生のことかな?」
仲村 柊「そういえば、ここの卒業生だったな」
壱邑 一貴「──待った。この水縹さん、女子だ」
壱邑 一貴「ほらこれ」
中邑 ゆうり「『7月5日、水縹さんがポニーテールをしていた。可愛い』」
仲村 柊「『7月10日、水縹さんがアイスを食べていた。可愛い』」
壱邑 一貴「『7月11日、水縹さんが小説を読んで目を潤ませていた。可愛い』」
中邑 ゆうり「語彙力なしか!!」
仲村 柊「もはや水縹さん観察日誌だな」
天邑 遥斗「あ、端っこに落書きがありますよ」
中邑 ゆうり「当時のゆるキャラかな?」
中邑 ゆうり「あ、名前が書いてある」
中邑 ゆうり「"はなむらむら"・・・?」
中邑 ゆうり「えっ・・・何!?」
仲村 柊「ゆうり!」
壱邑 一貴「本が・・・」
宇多邑 苑江「光ってる!?」
天邑 遥斗「眩しっ──」
「わぁああああーっ!?」
仲村 柊「・・・ッ」
仲村 柊「大丈夫か、ゆう──」
「うぎゃあああーっ!?」
???「何だこれ!?」
???「にんじんが喋った!?」
???「ごぼうが喋った!?」
???「その声は壱邑くんと天邑くん!?」
壱邑 一貴「その声は宇多邑せんぱ──」
壱邑 一貴「何で紫大根だけ 2本いるんだよぉぉおおお!?」
中邑 ゆうり「落ち着いて、いっちー!」
宇多邑 苑江「その声はゆうりちゃん? お揃いの色だね!」
中邑 ゆうり「喜んでる場合じゃないです!!」
仲村 柊「ゆうり・・・なのか?」
中邑 ゆうり「柊・・・ いったいどうなってるの!?」
水縹 慧「ただいま~」
中邑 ゆうり「先生だ! どうしよう!?」
仲村 柊「全員ロッカーに隠れて!」
壱邑 一貴「うわっ、掴むな!」
壱邑 一貴「投げるな~!!」
仲村 柊「静かにしてろ!」
水縹 慧「お待たせ~。差し入れ買ってきたよ~」
水縹 慧「って、仲村くんしか来てないの?」
仲村 柊「そうみたいです・・・」
水縹 慧「どうして魔導書がここに!?」
仲村 柊「は? 魔導・・・?」
水縹 慧「この本は、 僕が在学中に創り上げた魔導書だ」
仲村 柊「黒歴史書の間違いでは?」
仲村 柊「それ、水縹さん観察日誌ですよね」
水縹 慧「読んだの!?」
仲村 柊「すみません。委員会の日誌かと──」
水縹 慧「何か異常は!?」
仲村 柊「えっ?」
水縹 慧「身体に変化とか──」
水縹 慧「いや、きみは"仲村"だから大丈夫か」
仲村 柊「どういう・・・」
壱邑 一貴「大丈夫じゃねえぇえーっ!!」
中邑 ゆうり「壱邑くん静かにっ!」
天邑 遥斗「暴れないでくださいよ!」
宇多邑 苑江「ちょっと押さないで──」
「ギャーーーーッ!!」
中邑 ゆうり「ああっ! 先輩がしおしおに!」
中邑 ゆうり「死なないで先輩〜ッ!!」
中邑 ゆうり「──ッ!?」
中邑 ゆうり「元に戻った!!」
中邑 ゆうり「先輩しっかりして!!」
宇多邑 苑江「ううっ」
宇多邑 苑江「何がどうなって・・・」
水縹 慧「呪いが発動してしまったのか──」
壱邑 一貴「何で俺らは戻らないんだ!?」
天邑 遥斗「ごぼうとして生きていくなんて嫌すぎる!!」
天邑 遥斗「戻ったぁ〜!」
壱邑 一貴「クソッ、どうなってんだ」
水縹 慧「──それは「花邑くんの呪い」だよ」
「「花邑くんの呪い」・・・?」
中邑 ゆうり「何ですか、それ」
水縹 慧「苗字に"むら"がつく人間を "はなむらむら"に変えてしまう」
水縹 慧「恐ろしい呪いだ」
中邑 ゆうり「苗字に"むら"・・・?」
中邑 ゆうり「なかむら」
天邑 遥斗「あまむら」
宇多邑 苑江「うたむら」
壱邑 一貴「いちむら」
仲村 柊「なかむら・・・」
壱邑 一貴「待て、何でお前は無事だったんだ!?」
水縹 慧「同じ"むら"でも、 おおざとを表す"邑"が対象だからだ」
仲村 柊「俺は"村"だったから助かったんですね」
中邑 ゆうり「何それずるいっ!!」
仲村 柊「先生、どうしてそんなに詳しいんです?」
水縹 慧「この呪いを創ったのは僕だからだ」
中邑 ゆうり「呪いを創った!?」
水縹 慧「あれは僕が高校生だった頃──」

〇役所のオフィス
花邑 慧「『7月10日、水縹さんがアイスを食べていた』・・・」
水縹 透子「花邑くん!」
花邑 慧「わっ、水縹さん!?」
水縹 透子「何書いてるの?」
花邑 慧「とっ、図書委員の活動日誌だよ!」
水縹 透子「えらーい! 読ませてよ」
花邑 慧「えっ!? それはちょっと・・・」
男子生徒「水縹ー! これどこの本か分かるー?」
水縹 透子「いま行くからちょっと待ってー!」
水縹 透子「ごめん、呼ばれたから行くね」
花邑 慧「あっ・・・」
男子生徒「花邑なんかと何話してたんだ?」
水縹 透子「日誌つけてくれてるんだって」
男子生徒「ふーん・・・」
男子生徒「それよりさ、 委員会終わったら遊びに行かね?」
水縹 透子「え、どうしようかな・・・」
花邑 慧「くっ・・・名も知らぬモブAめ! 気安く水縹さんを誘いやがって」
花邑 慧「水縹さんに"むらむら"する奴は全員、 "はなむらむら"になってしまえ──」

〇役所のオフィス
水縹 慧「──という具合で」
水縹 慧「「ぼくのかんがえたさいきょうののろい」が巡り巡って」
水縹 慧「「苗字に"邑"がつく人間は"むらむら"すると"はなむらむら"になる」という呪いとして確立されたんだよ」
中邑 ゆうり「情報量が多すぎる!!」
中邑 ゆうり「まず先生の苗字!!」
水縹 慧「奥さんの苗字。旧姓が花邑」
中邑 ゆうり「つまり水縹さんとうまくいったんですね おめでとうございます!!」
水縹 慧「ありがとう」
中邑 ゆうり「で、どう巡り巡ったら そんな呪いが完成するんです!?」
水縹 慧「僕の漆黒の闇の力が強すぎて?」
中邑 ゆうり「現役の厨二病罹患者だ!!」
中邑 ゆうり「ていうか"はなむらむら"って何!?」
水縹 慧「図書委員の非公式キャラクターとして 僕が生み出した妖精さ」
中邑 ゆうり「あれ妖精なんだ・・・」
壱邑 一貴「何で"邑"がつくヤツが対象なんだよ」
壱邑 一貴「"花邑"の自分が呪われんじゃん」
水縹 慧「正確なところは分からないが」
水縹 慧「僕がモブAの苗字を思い出せなかったのが 原因のような気はしている」
中邑 ゆうり「なんという因果応報」
天邑 遥斗「「"むらむら"すると"はなむらむら"になる」って言ってましたけど」
天邑 遥斗「この呪い、まだ残ってたりします?」
中邑 ゆうり「残ってるの!?」
中邑 ゆうり「ドキドキしたら またあの変な生物になるってこと!?」
水縹 慧「ドキドキじゃなくて"むらむら"」
中邑 ゆうり「似たようなもんじゃん!!」
天邑 遥斗「嫌すぎる!」
水縹 慧「呪いを解く方法は分かっているから 安心したまえ!」
中邑 ゆうり「よかった」
仲村 柊「その方法は?」
水縹 慧「"はなむらむら"にならずに 好きな人とキスできたら呪いは解ける」
「はっ・・・?」
中邑 ゆうり「好きな人と──」
中邑 ゆうり(キス・・・)
仲村 柊「大丈夫か?」
中邑 ゆうり「・・・ッ!」
中邑 ゆうり「嘘っ!?」
水縹 慧「想像しちゃった?」
中邑 ゆうり「やめてーっ!!」
水縹 慧「ま、そういう訳だから 頑張って好きな人とキスしてね!」
中邑 ゆうり「難易度が高すぎるーッ!!!!」

次のエピソード:2むらむら『それぞれの免疫力』

コメント

  • 異性とムラムラせずにキスする。
    みんなの前でキスをする羽目になればその先がないからムラムラもなくて済むか…。恥ずかしさが勝つか…。解決策がわからないスタートでワクワクします。

    はっ。ワクワクは大丈夫か。呪いにもかかってないのに四文字の擬音に敏感になってしまいますね。

  • 圧が、圧が強いwww🤣
    邑が多いなと思っていたら、まさかの仕込みでした😂まさか周囲も巻き添えとは!
    素材の魅力を存分に使った物語……一体どこに着地するのか楽しみです。

  • 会話が面白いし、呪いの種類も天才的ですね🤩 さすが センスの塊といった感じです🙇
    ムラムラせずにキスするって、ダブルバインド な縛りが面白いですね!!
    小劇場の演劇的センスも感じます。

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