追放と覚醒(脚本)
〇兵舎
ギゼル「カイル、無能のお前を追放する!」
カイル「なっ! なぜだ!?」
カイル「俺はパーティの役に立っていたはずだぞ!」
カイル「依頼の選定、魔物の下調べ、宿屋の確保・・・・・・」
ギゼル「バカかお前は! そんな雑用、誰だってできるだろうが!」
ギゼル「このギゼル様が率いる『白銀の狼』はBランクの冒険者パーティなんだぜ?」
ギゼル「Bランク冒険者に求められることはただ一つ」
ギゼル「強力な魔獣を討伐することだ」
カイル「そ、それはそうかもしれないけど・・・・・・。でも・・・・・・」
ギゼル「外れスキルしか持ってねえ無能をパーティに入れたのが間違いだったぜ!」
ギゼル「ザコは失せろ!!」
10歳になった子供は、スキルを授かる
その内容は人によって様々で、とても強力なものもあれば、ハズレスキルと呼ばれてしまうようなものもあった。
カイル「俺だって、好きでハズレスキルを貰ったわけじゃない!」
カイル「『ハキ』スキルの使い道はよく分からないけど、それでも必死に剣術や魔法を磨いてきたんじゃないか!」
カイル「それに、少しでも皆の役に立とうと雑用だってこなして・・・・・・」
ギゼル「ゴチャゴチャうるせえ!」
ギゼル「とにかく、これは決定事項なんだ!」
ギゼル「無能はパーティから出て行け!」
カイル「わ、分かったよ・・・・・・」
カイル「なら、リリサ。荷物をまとめていっしょに行こう・・・・・・」
リリサ「・・・・・・いいえ。私はこのパーティに残るわ」
カイル「リリサ?」
ギゼル「はっ! そういうこった!」
ギゼル「同郷だか何だか知らねえが、無能のお前にはこんないい女はもったいねえ!」
ギゼルがリリサの胸に手をやる
カイル「おい! リリサは俺と付き合ってるんだぞ!!」
ギゼル「いつまで勘違いしてやがる!」
ギゼル「お前はとっくに見捨てられてるんだよ!」
ギゼル「リリサからも言ってやれ!」
カイル「リリサ! 嘘だよな?」
カイル「俺とお前は、同じ村で生まれ育って・・・・・・」
カイル「5歳の頃には結婚の約束だって・・・・・・」
リリサ「・・・・・・気持ち悪い男ね」
リリサ「いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら?」
リリサ「私達はもう終わった関係なのよ」
カイル「う、嘘だ・・・・・・。そんなはずはない・・・・・・」
カイル「きっと何か理由があるんだろう?」
リリサ「しつこい男は嫌われるわよ」
リリサ「『ハキ』スキルなんて、訳の分からない外れスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない」
リリサ「私のせいにしないでくれる?」
ギゼル「・・・・・・ということだ」
ギゼル「ぷっ。それにしても、本当に価値のないスキルだよな」
ギゼル「確か、スキルレベル1では掃除がうまくなるんだったか? くだらねー!」
スキルにはレベルが存在する
レベルが上がるにつれて強力になるのだが、大抵のスキルはレベル1でもそれなりに有用なものばかりだ
しかし残念なことに、『ハキ』スキルのレベル1は掃除がうまくなるだけ
リリサ「一応、レベル2に上がるまでは待ってあげたんだけど」
リリサ「先月、レベルが上がってできるようになったことって、何だったかしら?」
カイル「・・・・・・ズボンを素早く履けるようになった」
ステータス画面には、レベル1『掃き』、レベル2『履き』と表記されていたけど、よく分からない
見たことのない文字だ
異国の言葉か、古代文字か何かかもしれない
リリサ「そういえば、そうだったわね!」
リリサ「ふふっ。ほんっとに使えないわよね!」
ギゼル「ああ。笑っちまうほど使えねえ!」
ギゼル「はははははっ!!」
リリサとギゼルが笑う。
それだけでなく、仲を見せつけるように体を密着させる
カイル「くそぉおおお!! ふざけやがってぇええええ!!!」
俺は激情して、殴りかかろうとする
ギゼル「バカが」
ギゼルはあっさりと俺の攻撃を見切り、反撃を繰り出してきた
カイル「ぐあっ!?」
ギゼル「無能のお前が俺に勝てるわけねえだろ?」
ギゼル「『格闘王』の俺によ!」
リリサ「きゃーっ! 素敵よ、ギゼル」
リリサ「無能のカイルとは大違い!」
カイル「リリサ・・・・・・」
俺は彼女に手を伸ばす。
だが、その手は無慈悲にも踏みつけられた。
ギゼル「しつこいぞ! 自分から出ていかねえなら・・・・・・」
ギゼル「身の程を分からせてやる必要があるようだなぁ!」
カイル「・・・・・・あぎゃっ!」
何度も何度も、足蹴にされる。
痛い・・・・・・。
痛い・・・・・・。
カイル「わ、分かった・・・・・・」
カイル「リリサのことは諦める・・・・・・」
カイル「パーティからも出ていく。だから・・・・・・」
ギゼル「いーや、信用できるかよ!」
ギゼル「二度と俺たちの前に現れないように、徹底的に叩き潰す!」
カイル「や、やめろ! やめて・・・・・・」
ギゼル「思い知れや! 無能野郎!」
カイル「ぎゃああああぁっ!!!」
こうして俺は、ギゼルの手によって数十分に渡り暴行を受け続けた。
ボロ雑巾のようになった俺はその場に捨て置かれた。
意識を失った俺が目覚めたのは、夕暮れだった。
俺はやり場のない怒りを胸に、街を出る。
〇森の中
そして森に辿り着く。
カイル「くそっ! くそおおおおぉっ!!!」
剣を振り回す。
寄ってくる低級の魔物を片っ端から討伐していく。
カイル「無能だと? ハズレスキル持ちの無能だって?」
カイル「なんで・・・・・・、どうして・・・・・・」
剣術にはそこそこ自信があった。
村の同世代の中で一番強かったし、冒険者になってからもDランクには一番先に上がった。
カイル「なんでだよ!」
カイル「こんな訳の分からない『ハキ』スキルなんて、いらない!」
カイル「いらなかったんだよおぉっ!」
叫びながら、剣を振るい続ける。
スキルを使いこなせない者が中級以上に上がることは難しい。
素の能力では俺よりも弱かったギゼルやリリサも、スキルが馴染んでからはあっという間に俺を追い越してしまった。
カイル「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・。ははっ・・・・・・」
カイル「こんなことしたって意味がない・・・・・・」
カイル「そうだ・・・・・・。これからどうしようか?」
しばらくすると、体に違和感を覚えた
カイル「これは・・・・・・。スキルのレベルアップか」
カイル「レベル1『掃き』、レベル2『履き』に続いて、いったいどんな役立たずスキルなんだ?」
俺は自嘲気味にそう呟く。
その時だった。
「グルオオオオオォッ!!!」
カイル「ビッグトレントだと!?」
カイル「どうしてこんな街の近くに!?」
「グルオォッ!」
カイル「ぐっはあああぁっ!」
俺はビッグトレントの攻撃を受けて、吹き飛ばされる。
カイル「さっきまで狩っていた低級の魔獣とはレベルが違う・・・・・・」
カイル「こりゃどうしようもないな」
カイル「いやダメだ」
カイル「あんなに馬鹿にされたまま、死んでたまるかよ」
カイル「おらあああぁっ!!」
「グルオォッ!」
俺はビッグトレントと死闘を繰り広げる
カイル「ちっ! やはり力の差は歴然・・・・・・」
カイル「こうなりゃ、最後の賭けだ!」
カイル「『ハキ』スキルよ! お前の新しい力を見せやがれっ!」
ステータス画面の文字が変容していく。
レベル3『葉切』
カイル「文字は読めねえが、俺は信じるぞ!」
カイル「このスキルで、あいつを倒すんだ!」
「グギャアァッ!」
カイル「いけえぇっ!」
カイル「これが俺の新たなる技だああぁっ!」
「グ、グルオォッ!?」
カイル「いっけえええぇっ!!」
俺は渾身の力で剣を振った。
ズシャーン!!!
カイル「ふっ。どうにかなったか・・・・・・」
俺は力を使い果たして、倒れ込む
背後には、葉が全て切り落とされて絶命しているビッグトレントの姿があったのだった
仲間だと思っていた者たちにボコボコにされたけど、そのせいで覚醒されてよかったですね。ハキ=葉切・・なるほどですね。強さを取り戻したら、彼女を取り返しに行ってほしいです。
スキルの当たり外れはありますけど、使えないスキルほどレベルが上がればすごかったりしますよね。
「ハキ」の意味がおもしろかったです。
ハキっていうからザキみたいなすっごいのが最後くるかと思って期待しましたが、なりませんでした(笑)そして最後の最後でLevelアップのしかけ(同じ読みで違う漢字)に気づきました!日本語ならではの遊びですね。