トウベツピリカコタン

ゆきんこ

第六話 鮎田塾(脚本)

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〇菜の花畑
サクア「綺麗〜!」
サクア「黄色い絨毯みたいだ!!」
ちよこ「菜の花よ。 綺麗なだけじゃなく、油が取れるわ」
サクア「こっちの畑はまだ芽が出ていない! 何が出来るのだ?」
ちよこ「こっちは亜麻畑よ」
ちよこ「ピンク色のかわいらしい花が咲くわ」
ちよこ「かわいらしいだけじゃなく、繊維が取れるの」
ちよこ「布にすると大麻よりなめらかな肌触りで『月光で織られた生地』って言われているわ」
ちよこ「これからは自給用の農作物だけではなく、」
ちよこ「対外的な農業をして、外貨を増やすのよ」
サクア「すごく不思議だ・・・」
サクア「アイヌでも豆とかイモとかは植えていたけど、狩猟がほとんどだから、」
サクア「油はアザラシとかの動物から取るし、服は毛皮だったり鮭の皮を加工するけど」
サクア「植物を加工して油や服を作るなんて、和人は面白いことを考えるなあ」
サクア「狩りをしなくても、良い世界か・・・」
サクア「楽しみー!」

〇農村
邦直(くにただ)「トウベツが開拓模範村に選ばれたぞ!」
尚継(なおつぐ)「三大幹線道路も整ったし、これから移住者が増えますね!」
邦直(くにただ)「ああ。人が増えるなら、もっと住みよい村作りをしなくてはな」
邦直(くにただ)「学校、役場、郵便、警察、病院とやるべきことはたくさんある」
邦直(くにただ)「きまりも作らなくてはな。 忙しくなるぞ、尚継!!」

〇廃倉庫
  村の開拓は着実に進み、亜麻の大量栽培に成功した後、六軒町に製線工場ができた。
  加えて、国有未開地への入植を促す植民区画地設定の制度により、他府県からも移住者が急増した。

〇古めかしい和室
鮎田先生(あゆた)「みんな揃ったなら、始めるよ」
  ──鮎田塾
鮎田先生(あゆた)「この村には『邑測』という邦直さまが定めたきまりがあります」
鮎田先生(あゆた)「それはこの村の6〜14歳の子供たちは全員、男女問わず勉強しなさいと言うことです」
「ハイ!! 鮎田家老・・・じゃなくて、センセイ!」
サクア「アハハ!」
鮎田先生(あゆた)「そなたは・・・邦直さまから聞いてはいるが、」
鮎田先生(あゆた)「ここは初等科の子供らが来る塾だが、良いのかい?」
サクア「兼継たちがどんな教育を受けているか気になったのだ」
サクア「センセイがウソつきだと、トウベツの未来が暗くなるからな」
鮎田先生(あゆた)「ウソつきはドロボーの始まりという言葉があるが」
鮎田先生(あゆた)「私は岩出山藩の家老だったから、ウソなどつかないよ」
鮎田先生(あゆた)「面白い思考の娘だな。 しかし、口は悪いが腹は立たない」
鮎田先生(あゆた)「本来なら女学校に通う年齢だろうに、あまり教育は受けてきていない様子」
鮎田先生(あゆた)「では、始めようか。 読本の一枚目を開いてみましょう」

〇古民家の居間
ちよこ「鮎田塾の一日目はどうだったのかしら?」
「面白かったー!!」
サクア「カナヅカイは楽しかったが、ヨウホウサンヨウはちんぷんかんぷんであった!」
兼継(かねつぐ)「鮎田センセイがサクアに当てるたびに、言い争いになるのが面白くて、」
兼継(かねつぐ)「あんまり授業内容を覚えていないよ!」
サクア「教室は、男の子が前で女の子は全員後ろの席なんだ」
サクア「不公平だと思って、兼継と席を変えてもらったら、怒られてしまった」
サクア「ヒドい話しだと思わないか?」
ちよこ「鮎田家老の困り果てた顔が目に浮かぶわね」
ちよこ「もう少し製線工場が軌道に乗ったら、縫製専門の女学校を作ろうと思っているのよ」
ちよこ「サクアは縫製と刺繍が上手だから、楽しいと思うわ」
サクア「ホウセイのジョガッコウ!? 行きたい行きたい!!」
ちよこ「それまでに鮎田家老の堪忍袋が切れなきなきゃいいのだけど・・・」
ちよこ「そういえばサクア、最近は尚継と一緒に行動していないんじゃない?」
ちよこ「あんなに兄弟みたいにくっついて歩いていたのに、どうしちゃったのよ?」
サクア「そ、そんなにくっついて歩いてなんていない!」
サクア「わ、私は学問で忙しいのだ!」
「あの2人、何かあったね・・・!」

〇森の中
ユワレ「このイオル(猟場)も荒らされている」
アイヌの民「ユワレ、やはり和人の罠が大量に仕掛けられていたぞ!」
ユワレ「ただでさえ去年の大雪のせいで、鹿が減っているのに」
ユワレ「和人の密猟者が急増して、若い鹿もカンケイなく根こそぎ狩ってしまう」
ユワレ「今までは、首長が関わるなと言い続けてきたから、見てみぬフリをしてきたが」
ユワレ「今こそ和人とのウコチャランケ(話し合い)をするべきだ」
アイヌの民「ユワレに賛同する!」
アイヌの民「海の民は鮭の猟を禁止された上に、土地も奪われ、和人に労働を強制されているそうだ」
アイヌの民「立ち上がらなくてはならない! 頭の固い老人たちに、反旗を翻そうじゃないか!!」
アイヌの民「改革を!!」
アイヌの民「ユワレを首長に!!」
ユワレ「ずっと、待っていた・・・この時を」
ユワレ「アイヌ寄りの和人である松浦武四郎殿を頼りに、日本政府に嘆願書を出す」
ユワレ「そして、カムイモシリ全土のアイヌのための協会を作り、この世の中を変えて行くぞ!」
ユワレ「サクア・・・」

〇菜の花畑
サクア「黄色の絨毯が、オレンジ色に染まった!」
サクア「綺麗だ。この世の中は、本当に美しい」
サクア「和人と共に生きるようになって、見慣れた景色が違って見えるようになった」
サクア「だがその反面、嫌な噂も聞こえてくる」
サクア「いつか、アイヌが差別される話しを聞いても」
サクア「何も感じなくなる日が来るだろうか」
尚継(なおつぐ)「ここに居たのか、サクア!」
サクア「な、ナオ!?」
尚継(なおつぐ)「なんでそんなに驚くんだよ」
尚継(なおつぐ)「俺はオバケじゃないっつーの!」
サクア「オバケのほうが、まだ良かったけど」
尚継(なおつぐ)「最近、俺の遠出が多くてスレ違いだったな」
尚継(なおつぐ)「珍しく、付いてくると言わなかったからだけど」
尚継(なおつぐ)「鮎田塾はどんな感じだ?」
サクア「悪くない・・・ 今日は『学問のすゝめ』をセンセイが読んでくれた」
尚継(なおつぐ)「あー!福沢諭吉センセイか」
尚継(なおつぐ)「天は人の上に人を作らず」
尚継(なおつぐ)「人の下にも人を作らず、だっけ?」
サクア「学問をするのに、環境はカンケイないそうだ」
サクア「ならば、アイヌの民も学問をしても良いのではないだろうか」
サクア「日本政府はアイヌ人も日本人として考えているのだろう?」
サクア「日本人らしく、名字をつけたり和人風の名前にしたり、イレズミや耳飾りを禁止したり、」
サクア「農業中心の生活にしたり、日本語を使いなさいと言っているそうだ」
尚継(なおつぐ)「『同化政策』だな」
尚継(なおつぐ)「俺も、アイヌの民も学問を習っても良いと思うよ」
尚継(なおつぐ)「明治になって、欧米や英国に開拓使が派遣されて、その開拓使が持ち帰った文化によって、」
尚継(なおつぐ)「目まぐるしく文化や法律が変化している」
尚継(なおつぐ)「アイヌの民さえ良ければ、」
尚継(なおつぐ)「日本初の和人とアイヌが席を並べる学校をトウベツに作ろうか」
サクア「ナオ・・・!」
サクア「ありがとう!!」
サクア「こんな・・・こんなに嬉しいのは初めてだ!」
尚継(なおつぐ)「サクアが喜ぶと、俺も嬉しいよ」
尚継(なおつぐ)「これ・・・本当は、もっと素敵な場所で渡そうかと思ってたんだけど・・・」
サクア「櫛・・・?」

〇菜の花畑
ユワレ「・・サ・・クア・・」
サクア「ユワレ!?」
  突如現れたユワレは、2人の目の前で宙を掻きながら
  ゆっくりと崩れ落ちていった。

〇黒背景
「イヤアアア!!」

次のエピソード:第七話 ウコチャランケ(話し合い)

コメント

  • 鮎田塾は知りませんでした。勉強になります。当時は(というかそれ以前から)、勉強ができるというのはとても貴重でうれしいことだったんですよね。自分ももっとちゃんと勉強すればよかった… ラストが何とも気になります…

  • 注目されている小中一貫校も、ルーツを辿り辿れば鮎田塾かもしれませんね。本作で当別への興味関心が強まります!

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