トウベツピリカコタン

ゆきんこ

第五話 トウベツ祭り(脚本)

トウベツピリカコタン

ゆきんこ

今すぐ読む

トウベツピリカコタン
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇村の広場
尚継(なおつぐ)「農地を開拓し、木材を手に入れることができたから、家も建て直すことが出来たぞ」
尚継(なおつぐ)「板蔵とは雲泥の差だ」
尚継(なおつぐ)「今思えば、よくあの厳しい冬を簡素な板蔵で乗り切ることができたな」
尚継(なおつぐ)「サクアにも出会えたし、神さまって本当にいるのかもしれない」
尚継(なおつぐ)「たまには感謝しよう」
邦直(くにただ)「尚継、ちょっと手伝ってくれ」
尚継(なおつぐ)「その木の苗は?」
邦直(くにただ)「イチイの木を開拓記念樹にする。 寒さに強く日陰にも耐え、生長は遅いが長生きする」
邦直(くにただ)「この地ではサカキが育たないから、玉串などの神事にも使えるしな」
尚継(なおつぐ)「赤いオンコの実が付く木ですね! 果肉が甘くて美味しいんだよなあ」
邦直(くにただ)「この記念樹の横に小社を奉還して、阿蘇神社とする」
邦直(くにただ)「これからの農作物の豊作祈願や開拓の安全祈願など、神事をここで執り行うぞ」
尚継(なおつぐ)「神事といえば、お祭りですね!」
尚継(なおつぐ)「仙台祭りのように、和太鼓を叩き笛を吹いて、すずめ踊りをしましょう!」
尚継(なおつぐ)「寄席や茶屋、的屋などの露店も必要ですね!」
尚継(なおつぐ)「最後は花火で決まり!」
邦直(くにただ)「はは、お前というやつは・・・」
邦直(くにただ)「まだまだやることはたくさんあるが、小社ができたら、まずは簡単な儀礼をするのも悪くないな」
尚継(なおつぐ)「やったあ!! 早速みんなに知らせてきます!!」
邦直(くにただ)「待て尚継! まだ、小社も建っていないというのに!」
邦直(くにただ)「まったく・・・まだまだ頭の中は子供か・・・」
邦直(くにただ)「だが、皆の士気を上げるためにも、たまには遊びも必要かもしれんな」
邦直(くにただ)「頭が固くなっていたのは儂の方かもしれぬ。 今回は尚継に任せてみよう」

〇村の眺望
サクア「まだかな〜まだかな〜」
ちよこ「サクアったら! 毎日見に来ても、麦や豆は伸びないわよ」
サクア「そうかなあ?昨日よりも少しは伸びたよ」
サクア「さっきコロボックルも見かけたから、ここら辺の畑はよく育つと思うよ」
ちよこ「コロボックルって何?虫??」
サクア「小さいオジサン!」
ちよこ「世話好きのオジサンなんて、村人に居たかしら?」
ちよこ「まあ、楽しみなのは良いことよね」
ちよこ「移住してきた時に割当てられた土地は痩せ地で、作物なんか育たなかったから、トウベツに移ったのだけど」
ちよこ「父上の狙い通り、どんな作物でもグングン育ちそう」
尚継(なおつぐ)「サクア、姉上! 祭りだ、祭りをするぞー!!」
「祭り!?」

〇神社の本殿
  新緑のトウベツに祭囃子が響く。
  邦直が衣冠装束で阿蘇神社に参拝後、尚継の指揮のもと、村人たちは思い思いに故郷の祭りを再現しようとしていた。

〇神社の出店
サクア「は、華やかだ!」
尚継(なおつぐ)「仙台の青葉祭りはもっともっと華やかだよ」
尚継(なおつぐ)「今年はカネが無かったからできなかったけど」
尚継(なおつぐ)「奉納提灯とかノボリとか神輿とか、来年からは少しずつ大きい祭りにしていけたらいいな」
尚継(なおつぐ)「でも、サクアが感動してくれてるみたいで、嬉しいな」
サクア「あ、あれは何?妖怪!?」
尚継(なおつぐ)「なっ、なんだろうな? 本人に聞いてみようか・・・」
獅子舞モドキ「獅子舞のつもりだったんだが」
獅子舞モドキ「用意できなくて、試行錯誤の上、こうなったんだ」
獅子舞モドキ「だが、怖がって誰も噛ませてくれない・・・」
サクア「噛まれると、どうなる?」
獅子舞モドキ「頭が良くなる、長生きする、病気が治る、美人になる・・・ゲン担ぎさ」
獅子舞モドキ「お前は噛まれたいかい?」
サクア「やるやる!」
  ガブリ
サクア「アハハ! まあまあ痛いな!」
サクア「美人になったかなー!?」
サクア「あっちでは、扇を持って踊っているな!」
サクア「私も混ぜて〜!」
尚継(なおつぐ)「すずめ踊りか、懐かしいな! 俺も踊るか」

〇神社の本殿
サクア「あれが花火か」
サクア「綺麗・・・」
サクア「今日は夢みたいな日だった」
サクア「獅子舞もすずめ踊りも」
サクア「歩きながら食べた焼き鳥も、イモ団子も美味しかったし、露店の射的も楽しかった!」
尚継(なおつぐ)「アイヌにはお祭りって無いの?」
サクア「あるけど、儀式だ」
サクア「イオマンテもそうだが、 イシカリのヤハタで行なう『アシリ・チェプ・ノミ』が大きなものだ」
サクア「新しいカムイ・チェプ(鮭)を迎える儀式で、川の河口で雄鮭だけを捕る」
サクア「祭壇にイシカリ河口の神、アソイワヤマの神、村の神、テイネ山の神のイナウにトノト(濁酒)を塗って、感謝の気持ちを伝える」
サクア「あっ、色が変わった」
尚継(なおつぐ)「俺も、夢みたいだ」
尚継(なおつぐ)「ずっと、心の隅で父上を恨んでいたが」
尚継(なおつぐ)「厳しい冬を越え、道路を八幡まで開通させ、祭事を任せてもらい、」
尚継(なおつぐ)「今までの靄がスッキリと晴れたようだ」
尚継(なおつぐ)「今はこれが正解だったと思えるよ」
尚継(なおつぐ)「仙台で燻っていたら、こんな景色はみられなかった」
尚継(なおつぐ)「それに」
尚継(なおつぐ)「サクアにも会えなかったし」
サクア「な、なんだか恥ずかしいな」
尚継(なおつぐ)「そう言われると、俺も恥ずかしい・・・」
サクア「・・・手くらい、握っていいのに」
尚継(なおつぐ)「・・・手くらい、握ったらダメかな?」
「・・・❤️」

〇海岸の岩場
  日高 沙流郡
武四郎(たけしろう)「ここの商人たちは、アイヌの民を無理矢理ニシン漁の出稼ぎに行かせるだと!?」
沙流の首長「最初は和人たちは、ニシンの買付けに来ているだけだった」
沙流の首長「ニシン100匹と米20グラムを交換するという不公平な条件でな」
沙流の首長「そのうち、ニシンを食べるだけでなく、肥料にも使うようになって」
沙流の首長「うまい儲け話しがあるからと出稼ぎの話しを持ち出してきたのだ」
沙流の首長「だが、最近になって日本政府がこの島を『北海道』と呼び、日本の一部だと一方的に言い始めてから、」
沙流の首長「この土地も和人の物だから、ここで暮らしたかったら言うことを聞けと脅すようになってきたのだよ」
アイヌの民「言うことを聞かない人は、すぐに酷い目に合うわ!」
アイヌの民「出稼ぎに行った男たちは、何年も帰ってこない」
アイヌの民「働く環境も劣悪だと聞いています」
沙流の首長「一番サイアクなのが、和人が本州から持ってきた『天然痘』という病気が流行し、たくさんの仲間が亡くなった」
沙流の首長「松浦さん、あんたには悪いがもう和人に協力はできない」
沙流の首長「もちろん、あんたがアイヌを良く考えてくれているのは分かっている」
沙流の首長「だが、もはや和人ということ自体がみんなの反感を買っている」
沙流の首長「万が一、松浦さんの身に何かあっても、儂らは庇えないだろう」
沙流の首長「もうサルには来ないでくれ」
武四郎(たけしろう)「そんな・・・」
武四郎(たけしろう)「俺がアイヌの民への感謝の気持ちを込めてつけた『北海道』という名が、アイヌを苦しめているというのか・・・」
武四郎(たけしろう)「俺が開拓使として蝦夷地の調査を行ってこれたのは、」
武四郎(たけしろう)「古くからこの地に住むアイヌの協力があってのこと!」
武四郎(たけしろう)「俺は政府に抗議する!」
武四郎(たけしろう)「この事実を後世にも伝えるためにも、本にして世に知らしめてやる!!」

〇黒背景
  ──tobecontinued

次のエピソード:第六話 鮎田塾

コメント

  • 今回の話は束の間の休息といったところでしょうか。2人もいい感じでラブストーリー回でした。しかし、事態はこれから大きく動いていくようですね…

  • 松浦武四郎まで登場して、物語が大きく展開し始めそうですね。ミクロな開拓物語からマクロな北海道の政情まで網羅ですね!
    やはりイチイの木とオンコの実は欠かせませんね!丸ごと口に入れて噛みしめて、その苦みに苦しむのは子供の頃のお約束でした!

成分キーワード

ページTOPへ