トウベツピリカコタン

ゆきんこ

第四話 道路開削とアプフチカムイ(脚本)

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〇村の広場
邦直(くにただ)「半年ぶりのトウベツか・・・」
邦直(くにただ)「仙台から開拓の戦力になる追加の188名の移住者を引き連れてはきたが、」
邦直(くにただ)「あの雪の厳しさと交通の不便さでは、冬を越せなかった者もいるかもしれないな」
邦直(くにただ)「まだ半人前の尚継に全てを任せるには、少々酷であった・・・」
尚継(なおつぐ)「父上!お帰りなさい!!」
邦直(くにただ)「尚継、ご苦労であった」
邦直(くにただ)「や、何やら体つきが逞しくなったのではないか? 背も伸びたようだな」
邦直(くにただ)「して、みなは無事にしておるのか?」
尚継(なおつぐ)「誰一人病気やケガもせず、健やかに過ごしております」
邦直(くにただ)「・・・そうか!よくやったな、尚継。 さすが儂の子よ」
尚継(なおつぐ)「父上には及びません。 それより、開拓の許可は?」
邦直(くにただ)「無論、許可された。 だがまずは、農地の開拓より道路を作らねばならんな」
邦直(くにただ)「そして、この密林地帯をどう伐採していくかに尽きる。 再移住者は188人だが、皆がみな働き手ではないからな」
尚継(なおつぐ)「しかも、ここの木は仙台の木とは違い、皮が相当分厚いのです」
尚継(なおつぐ)「私たちの鋸や斧では一日削っても一本倒せるかどうか・・・」
邦直(くにただ)「人を、雇うには金も無い。地道にやるしかないな」

〇けもの道
尚継(なおつぐ)「一本一本が太い上に、堅い。本当にスゴイ樹木だ」
村人「くそ、斧がまるっきり役に立たないぞー!」
村人「何とか木を切り倒しても、切り株の根が張っていて、全然抜けない!」
尚継(なおつぐ)「思っていた以上の手強さだな」
サクア「ナオ!お弁当だよ」
尚継(なおつぐ)「皆の者ー 昼休憩だ!」
尚継(なおつぐ)「・・・」
サクア「浮かない顔ね」
尚継(なおつぐ)「せっかく春になり、道路を作れるというのに、この密林地帯に手を焼いている」
尚継(なおつぐ)「まあ今回は、サクアのような非力なオナゴの出る幕ではないな」
サクア「あら、そんなこと言ったら、イイこと教えてあげないんだから」
尚継(なおつぐ)「神さまになら、もう、お願いしたよ」
サクア「え!ウソっ? アプフチカムイは何て言ったの!?」
尚継(なおつぐ)「冗談だよ、本当に俺が神さまと話せるわけないだろ?」
サクア「ビックリした〜 何だ、ナオは冗談を言えるようになったのか!」
サクア「アハハ」
尚継(なおつぐ)「どういう意味だよ!?」
尚継(なおつぐ)「今回ばかりは、神頼みも出来ないよ。 力自慢の男たちが一日かかりきりでも、10本倒すのが、やっとなんだぜ」
尚継(なおつぐ)「道路どころか、人夫が体を壊さないか心配だよ」
サクア「それなら尚更、神さまの力を借りよう!」
サクア「アプフチカムイは火の神なんだ。 木は2晩火をつけると、簡単に倒せる」
尚継(なおつぐ)「あっ、そうか! 思いつかなかった!!」
サクア「ただし、注意しなくてはならないのは火の始末だ」
サクア「しっかりとアプフチカムイと対話をしなければ、すぐにヘソを曲げて大火事になる」
尚継(なおつぐ)「対話・・・?」
サクア「アプフチカムイは気難しい老人のような性格なんだ」
サクア「だから、しっかりと腰を据えて話しを聞いてあげれば、こちらの望みを叶えてくれる」
尚継(なおつぐ)「火が飛び火しないように、しっかりと見守るということか?」
サクア「和人は、神さまと対話したことがないのかな?」
サクア「私がアプフチカムイと対話するから、ナオたちは木を切り倒してくれ」
サクア「あと、斧が貧弱すぎる」
サクア「北の異人が持ってきた斧はその斧の10倍はあるぞ」
サクア「まずは、道具を外来のモノに切り替えたらどうだ? クシロにはあると行商人に聞いたぞ」
邦直(くにただ)「お前がサクアか」
尚継(なおつぐ)「父上!」
邦直(くにただ)「たけから聞いておる。 猟に関しての知恵が働くとは聞いていたが、伐採についても詳しいのだな!」
サクア「そうだよ!私はナオより役に立つと思う!!」
尚継(なおつぐ)「だーかーらー! 実際に猟をしたり、木を伐採するのは俺なんだから、少しは謙虚になれよな!!」
邦直(くにただ)「まあまあ、尚継よ。サクアの知恵は屈強な男100人でも敵わないかもしれん」
邦直(くにただ)「早速、クシロに使いをやろう。 道具が揃ったら、火を使って開削だ!」

〇山中の川
サクア「昼間は可笑しかったな!」
サクア「ナオの父上、見知らぬオナゴの言うことを真に受けて、大丈夫なのかな〜?」
サクア「ヒトが善すぎるだろ?」
サクア「もし、私がアイヌの間者だったら」
サクア「あっという間に、この和人の集落を滅ぼせるな!」
サクア「しないけど!」
ユワレ「・・・」
サクア「アッ!」
ユワレ「待て、逃げるなサクア!」
ユワレ「今日はお前と話しをしに来ただけだ」
ユワレ「この前は、無理矢理連れ去った上にケシまで使って悪かった」
サクア「・・・ナオから聞いたが、イオマンテから私を連れ出すのに、ユワレが段取りしてくれたらしいな」
サクア「複雑だが、とりあえず礼は言うよ」
ユワレ「今の首長たちの考えは、もう古い。 時代に合わせてアイヌも変わるべきだ」
ユワレ「俺も最初は和人はアイヌの土地を侵略する敵に過ぎないと思っていた」
ユワレ「だが、お前を監視しているうちに考えが変わったんだ」
ユワレ「アイヌと和人が共存して、同じヒトとして生きる未来があるのではないかとな──」
ユワレ「ただ今の俺はまだ、その考えを 実現できる術がない」
ユワレ「だが近い未来、俺はその夢を必ず実現するつもりだ」
ユワレ「その時はまた、アイヌの里に戻ってきてくれ」
サクア「母上は、どうしてる?」
ユワレ「自ら志願して、巫女の役目を担っているよ」
ユワレ「──お前のことはケシによって気が触れて、崖から足を滑らせて死んだということにした」
ユワレ「悲しむそぶりは見ていない」
サクア「そうか・・・むしろ、良かった」
サクア「和人の子供を産んだ途端、父上に去られ、巫女としての力も失い」
サクア「自分の居場所が無かったのは、母上も私と同じだからな」
サクア「幸せになってほしい」
ユワレ「どんな毒親だろうと、子は親を選べないし、憎みきれない」
ユワレ「それは俺も同じだ」
ユワレ「最後に」
ユワレ「アイヌと和人、どちらか選ぶことなってもアイヌはお前を受け入れるよ」
サクア「・・・もう、戻らなきゃ」
サクア「サヨナラ」
ユワレ「しばしの別れだ。──いつか、お前はアイヌに戻るだろう」
ユワレ「──巫女としての力がある限りな!」

〇けもの道
サクア「アプフチカムイよ、汝の話を聞かせたもれ」
サクア「そして、我らの願いを叶えたまえ」

〇炎

〇木の上
「木が倒れるぞー!」
  メキメキメキッ

〇森の中
尚継(なおつぐ)「だいぶ、風通しが良くなったな!」
村人「この、大きな斧は物凄くよく切れるのに軽くて、驚いたよ!」
村人「爆破するぞー!!」
村人「焼いた木の根も爆破すれば、簡単に抜けるぜ!」
尚継(なおつぐ)「本当に良かった。これで道路は何とかなりそうだな」
  木の周りに枯れた木を積み、焼いて倒す方法で道路の開削は進み、
  石狩物揚場からトウベツ神社のオンコの木の根元まで5里(約21km)の小道が開通した。
尚継(なおつぐ)「これでやっと農地を開墾し、肥沃な土地を耕せば自給ができる」
尚継(なおつぐ)「これもサクアのおかげだ」

〇炎
アプフチカムイ「アイヌの巫女よ・・・」
サクア「なあに?アプフチカムイ」
アプフチカムイ「和人に肩入れすることによって、アイヌの猟場が脅かされることは、分かっているのか」
サクア「・・・そうだね」
サクア「でも、私は和人と共にトウベツで暮らすと決めたのだ」
サクア「和人とともに猟だけではなく、農耕がしてみたい。 塾も作りたいし、機織りもしてみたい!」
サクア「何より、アイヌが忌むべき存在ではなく、共に生きる同じ人間なのだと証明したいのだ」
アプフチカムイ「まだ若い巫女よ・・・だからこその魅力もあるのだが、危なかっかしいのう・・・」
アプフチカムイ「どこまでこの巫女が運命の荒波に逆らえるのか・・・」
アプフチカムイ「見届ける価値はありそうだな──」

〇黒背景
  ──tobecontinued

次のエピソード:第五話 トウベツ祭り

コメント

  • サクアはナオの父親にも気に入られたみたいで、よかったです。若い人たちの思いが通じてお互いに共存できればいいのですが、今後ひと波乱ありそうですね…

  • とってもキレイな物語展開ですね。困難な開墾の息遣いまで伝わってくるようで!サクアの居場所が定まって一安心という感じですが、ユワレの別れ際のセリフは気になりますね……

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