第二話 生命讃歌(脚本)
〇雪山の森の中
鹿「!!!?!!!?」
尚継(なおつぐ)「スゴイ!今日は鹿が罠にかかっているぞ」
尚継(なおつぐ)「ううっ、許せよ!」
尚継(なおつぐ)「これで、今日も1日生き延びた」
〇雪山の森の中
兼継(かねつぐ)「うわ〜い!」
兼継(かねつぐ)「今日も大漁だ〜!!」
兼継(かねつぐ)「アシリの罠はスゴイや!百発百中なんだもん」
尚継(なおつぐ)「アイヌは、女も猟を習うのか?」
サクア「猟は男のものだ」
サクア「言っただろう、私は仲間が嫌がることをやってきたのだ」
サクア「男たちに混じって猟場を走り回っては、首長に大目玉を食らっていたよ」
ビッコを引くサクアと息絶えた鹿をソリに乗せ、帰る尚継の足取りは軽かった。
〇漁船の上
──開拓当初
雪でシップ(石狩)への道が閉ざされると、村の屈強な若者を集め、トウベツ川を下らせて食糧を確保していた。
ただし、この時期は水温がマイナスで、落ちたら15分も待たず心停止する上に、
航路を妨げている流木を除去する作業もしなくてはならず、
まさに、命を賭けた船の移動であった。
〇古民家の居間
たけ「サクアが村に居着くようになって、村に活気が出たね」
村人「仙台から来た初めの冬は」
村人「こんなに蝦夷の冬が厳しい上に、食糧を調達するのが難しいなんて思ってなかったから、」
村人「最初はどうなるものかと思ったけど」
村人「サクアの知恵のおかげで、猟に出るたびに獲物を獲れるようになったんだ」
村人「そりゃあ、活気が出るさ〜ね!」
村人「えらいもんだよね〜!」
村人「今までは食糧を運ぶために、シップ(石狩)まで若者に危険な冬のトウベツガワを下らせていたけど」
村人「今じゃ、そんなに行かなくても済むから、あたしらも気が楽だよ」
村人「みーんな、サクアのおかげさ」
たけ「こんな短期間で村人の心を掴んでしまうとは・・・本当に不思議なオナゴだ」
〇古民家の居間
村の子供「今日は鹿!? 毎日ご馳走だね!」
村の子供「おっきーなあ! まつ毛が長いね〜」
兼継(かねつぐ)「サクアは猟の神さまなんだぜ!」
兼継(かねつぐ)「雪の上に耳を当てると獲物が何処にいるのか分かるし、」
兼継(かねつぐ)「サクアの教えてくれた場所に罠を仕掛けると、簡単に獲物がかかるんだからな!」
「す、スゴーイ!」
尚継(なおつぐ)「兼継はサクアの完全な崇拝者だな」
ちよこ「さあ、今日は鹿鍋だよ! たくさん食べて、冬を乗り切ろう!!」
サクア「美味い!」
サクア「私のおかげで、今日もご飯が美味いな〜!」
尚継(なおつぐ)「そういうことは、自分で言うな!」
サクア「アハハ!」
尚継(なおつぐ)「実際に罠を作ったり、獲物を仕留めて運ぶのは俺なのに・・・」
尚継(なおつぐ)「みんな、サクアばかりを褒めやがる!」
尚継(なおつぐ)「たまには俺も褒めてくれ!」
サクア「まあまあ。この大きな肉、食べてもいいよ?」
サクア「あ〜んして?」
尚継(なおつぐ)「子ども扱いするな!」
ちよこ「不貞腐れてるところが子供なのよ」
ちよこ「ねえ、サクア。 食べ終わったら私の部屋に来てね」
サクア「昨日教えてくれた、縫い物の続きだな? 分かった!」
尚継(なおつぐ)「すっかり姉上とも仲良くなったな。 これじゃ、どっちが兄弟なのか分からないぞ」
兼継(かねつぐ)「待ってよ姉さん、今日は俺が獲物の居場所を聞き分けるコツを教えてもらうんだから!」
兼継(かねつぐ)「特に、雪の中に潜んでいる獣の探し方をね!」
尚継(なおつぐ)「兼継までっ!?」
〇古民家の居間
アシリは器を床に置くと、珍しく真面目な顔で座を正した。
サクア「山の神の囁きを聞こうとすれば、獲物がどこに居るかが分かるようになる」
サクア「そのためには、周りのモノ全てが神であることを理解しなくてはならない」
サクア「神は恵みを与える代わりに、ヒトに試練を与えている」
サクア「神の存在を身近に感じられた時、猟の獲物のニオイや息遣いが立ち昇るんだ」
ちよこ「うーん? すごく・・・宗教的な話しね」
兼継(かねつぐ)「ぜんぜん分からないや」
兼継(かねつぐ)「ねえアシリ、どうやって神さまの存在を感じるの?」
サクア「どこにでも神さまがいるんだ。 常に周りに感謝して、お互いが支えあっていることを認めてみてよ」
サクア「例えば、今食べたこの鹿にも感謝するんだ」
サクア「最高の礼をつくして祈りを捧げることで、神々の世界に送り返す」
サクア「これは、鹿の神さまの歌」
兼継(かねつぐ)「よし、俺も!」
兼継(かねつぐ)「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ・・・」
サクア「ナオよりカネのほうが、よっぽど素直だね」
サクア「素直はイイことだよ。 早く猟のワザを、身に付けるかもね!」
尚継(なおつぐ)「お、俺だって感謝くらいできる! ナムアミダブツ、ナムアミダブツ!」
サクア「アハハ!兼継と張り合うなんて、子どもか!?」
〇新緑
サクア「ナオの村に居ついてから4ヶ月か・・・」
サクア「春ももう、目の前ね」
サクア「雪もそれほど積もらなくなってきて、散歩も歩きやすくなってきたわ」
ユワレ「やっと足が治ったようだな、サクア!」
サクア「ユワレ!?なぜ、ここに?」
ユワレ「俺と一緒に、村に戻ろう!」
サクア「・・・イヤよ。私、戻らない」
サクア「母さんや首長にも伝えてくれて構わない。 私は、和人と共に生きる」
ユワレ「もうすぐ、イオマンテの儀式があることは、分かっているだろう?」
ユワレ「お前が必要なんだよ、サクア!」
サクア「私が必要?」
サクア「都合の良いときにしか人間扱いしないくせに、今更何よ?」
サクア「ゼッタイに行かないわ!」
ユワレ「不本意ではあるが・・・力づくでも連れて帰る!」
サクア「アアッ!」
アイヌの民「大人しくしろ」
サクア「ユワレ!! ヒドいよ、トモダチだと思っていたのに・・・!」
ユワレ「お前のためなんだ・・・いつか・・・わかる日が来るから・・・」
ユワレ「この薬を嗅げば意識が飛ぶ。 しばらく大人しくしてくれ・・・」
サクア「ううっ」
サクア「助けて・・・ナオ・・・」
〇山中の川
尚継(なおつぐ)「サクアー?」
尚継(なおつぐ)「いつもこの時間なら、狩場に居るのにな」
〇古民家の居間
尚継(なおつぐ)「まだサクアが散歩から戻らない!? もう夕刻だぞ」
ちよこ「昼の暖気と夕方からの雨で、山の方は雪崩が起きやすくなってるけど、まさか・・・ね」
兼継(かねつぐ)「俺、猟場を探してくるよ!」
尚継(なおつぐ)「俺が猟場や山道を見てくるから、姉上と兼継は近辺を手分けして見てきてくれ」
尚継(なおつぐ)「胸騒ぎがする・・・どこに行ったんだ、サクア?」
〇黒背景
──tobecontinued
みんなに好かれるサクアはとても魅力的な人物だとら思います。すっかり馴染んできたと思ったところからの急展開。その性格と能力は、連れ去るほうにとっても貴重ということでしょうか。
第二話を楽しみにしていました。「開拓→成功→定住→繁栄」と安易な話に流れず、困難さや冬の厳しさも描いているのでリアリティが増して魅力的ですよね。そして物語もサクアの身に、、、急展開の第三話も期待しています!