第三話 イオマンテの夜(脚本)
〇神殿の広間
コンベッキノ「サクアマツは?」
ユワレ「目覚めてからずっと暴れている」
ユワレ「まるで話しが出来ないケモノのようだ」
ユワレ「もっと早く迎えに行かせてくれれば・・・!」
コンベッキノ「子熊は明日で三年目・・・もう、イオマンテを延ばすことはできないわ」
コンベッキノ「ユワレよ」
コンベッキノ「明日の夜までにサクアが言うことを聞かないようなら、『ケシ』を使って」
コンベッキノ「首長には内密にね」
ユワレ「気は確かか、コンベッキノ!?」
ユワレ「クナシリでの戦いにおいて、異人の捕虜にケシを使ったが、みな中毒死したと口承で伝えられているではないか!」
ユワレ「お前は、サクアの実の母親であろう!」
コンベッキノ「私は」
コンベッキノ「シャーマンよ」
〇川沿いの原っぱ
尚継(なおつぐ)「サクアー!」
尚継(なおつぐ)「ここではないのか・・・」
尚継(なおつぐ)「サクアが言うように、俺にも神の声を聞くことができたら・・・」
尚継(なおつぐ)「いや、まだ諦めては駄目だ」
尚継(なおつぐ)「サクアは、俺が見つけるんだ」
〇山道
尚継(なおつぐ)「こんなところに四葉?」
尚継(なおつぐ)「しかも雨のせいか、ここだけ土が荒れていて、妙な複数人の足跡がついている。 ──争った後か?」
尚継(なおつぐ)「どうも気になる。この足跡を辿ってみよう」
〇屋敷の牢屋
サクア「ここは日が届かないから、時間が分からないや。 どれ位経ったのだろう?」
サクア「ナオ、心配しているだろうな」
サクア「ユワレ達と争った時に四葉を目印に置いたけど・・・誰か気づいてくれるかしら」
サクア「それとも所詮、居候の私なんて探してくれないかな・・・」
サクア「アッ!」
サクア「ネズミ!」
サクア「こっちにおいで!」
サクア「いい子ね。 お願いがあるの」
サクア「ナオをここに連れて来てほしい。 ──できる?」
サクア「フフ、そうね。 それができたら種をたくさんあげるわ」
サクア「行ってきて!」
サクア「ナオはネズミ嫌いかしら?」
ユワレ「・・・」
サクア「ユワレ! 私はイオマンテの儀式には出ない!!」
ユワレ「俺は・・・どうしたらいいんだ?」
〇寂れた村
尚継(なおつぐ)「丸一日歩いたが、ここで足跡が消えているようだ」
尚継(なおつぐ)「こんな所に集落があったのか」
尚継(なおつぐ)「ギャッ!」
尚継(なおつぐ)「お、脅かすなよ、ネズミめ・・・!」
尚継(なおつぐ)「俺はネズミが1番キライなんだよっ!」
尚継(なおつぐ)「あれ?」
尚継(なおつぐ)「また四葉だ! ──こんな偶然あるのか?」
尚継(なおつぐ)「あ、おい、待てネズ公!」
〇怪しげな祭祀場
儀礼用の祭壇には、宝刀や弓矢や鎧、クルミな団子や濁酒などが備えられ、
たくさんのイナウ(稲穂に見立てた、木を削り出して作られた飾り)が捧げられている。
首長「今年も皆の協力のおかげで、イオマンテの儀式ができることを、誇らしく思う!」
首長「さあ、子熊にトノト(濁酒)を!」
アイヌの民「ううっ・・・グスン・・・」
アイヌの民「何を泣いている」
アイヌの民「私が子熊を3年間大切に育ててきたのだもの」
アイヌの民「カムイにして天界に送り返すためとはいえ、お別れは悲しいわ」
首長「次に花矢を射よ!」
ヒグマ(子熊)「?」
アイヌの民「『花矢』は儀礼用の矢だから、痛くないわ」
アイヌの民「でも、これからが・・・」
首長「さあ、丸太を用意するのじゃ!」
アイヌの民「あなたはカムイになるのよ!!」
子熊の魂と肉体が分離され、天に向かって一矢が放たれた瞬間、そこにいる全員が叫び声をあげた。
サクア「・・・」
〇平屋の一戸建て
ユワレ「・・・」
ユワレ「アイツは・・・サクアと一緒に暮らしていた和人!」
ユワレ「なぜ、ここが分かったのだ?」
尚継(なおつぐ)「あっ、あの・・・俺は仙台から来た伊達尚継というものだ」
尚継(なおつぐ)「サクアマツというアイヌのオナゴを探しているのだが・・・」
尚継(なおつぐ)「言葉・・・わかるかな?」
尚継(なおつぐ)「わわっ!」
尚継(なおつぐ)「いきなり何をするっ!」
ユワレ「今のを避けた・・・やるな」
尚継(なおつぐ)「俺は武士の息子だ! そっちがその気なら、相手になるぞ!」
尚継(なおつぐ)「サクアはどこだっ!?」
ユワレ「もしかして、サクアを探しているのか?」
ユワレ「悔しいが、今の俺では首長や巫女に対抗できるだけの力はない・・・」
ユワレ「もし、サクアを救えるとしたら・・・」
尚継(なおつぐ)「剣を下げた・・・!?」
ユワレ「──俺について来いよ」
尚継(なおつぐ)「手招きしてるってことは、中にサクア が居るのか!?」
尚継(なおつぐ)「おい、待てって!」
〇怪しげな祭祀場
アイヌの民は輪になり、手拍子しながらユーカラを歌う。
その輪の中に呆けた顔のサクアも居た。首長は刀を手に舞を踊っていた。
ユワレ「いいか、好機はユーカラが一度中断した時だ」
ユワレ「俺がお前の背中を押した時に飛びだせ。 後は俺が何とかする」
尚継(なおつぐ)「サクアだ! だが、何か様子がおかしくないか?」
ユワレ「逃げ出した後にすぐ、この薬草と一緒に大量の水を飲ませれば、催眠状態から抜け出すだろう」
ユワレ「さあ、行けっ!!」
〇怪しげな祭祀場
首長「ぬおっ!? 灯りが消えたぞ!」
コンベッキノ「は、早く松明を! イオマンテを止めては駄目だ!!」
サクア「・・・」
尚継「サクア、こっちだ!」
アイヌの民「何も見えない!」
アイヌの民「イテッ!」
アイヌの民「みんな、慌てるな!」
アイヌの民「ふう・・・やっと見えるようになった。 手分けして、もっと松明を増やせ!」
〇怪しげな祭祀場
コンベッキノ「サクア・・・?」
コンベッキノ「さ、サクアはどこ!?」
ユワレ「コンベッキノ!」
ユワレ「ケシで催眠状態のサクアが暗闇に錯乱して、外に飛び出していったそうだぞ!!」
ユワレ「首長にケシを勝手に使ったことがバレれば、俺もアンタもタダでは済むまい」
コンベッキノ「・・・!」
首長「不吉な! イオマンテの最中に炎が消えるなど、ワシが首長になって初めてのことじゃ」
首長「ん?サクアはどこじゃ」
コンベッキノ「──サクアは、今しがたの混乱で体調を崩したようで、ユワレに頼んで別室に休ませています」
首長「なんじゃと!?」
コンベッキノ「私がこのイオマンテを取り仕切ります!」
首長「ふうむ・・・処女の巫女に比べると力は劣るが、致し方ない」
首長「儀式を取り仕切ることを許可しよう」
コンベッキノ「・・・承知しました」
〇川沿いの原っぱ
サクアを背に乗せた尚継は、全速力で山道を駆け抜けた。
尚継(なおつぐ)「ハア、ハア」
尚継(なおつぐ)「雨が止んで、月が出てきた」
尚継(なおつぐ)「良かった。誰も追って来ないぞ・・・」
尚継(なおつぐ)「あの男の言葉は、カタコトしかわからなかったが、これで良かったんだろうか?」
尚継(なおつぐ)「なあ、サクア」
尚継(なおつぐ)「あそこでは何か儀式のようなことをしていたな」
尚継(なおつぐ)「サクアは巫女の格好。明らかに俺は儀式の邪魔をしたんだと思う」
尚継(なおつぐ)「それを思うと」
尚継(なおつぐ)「心臓がまるで、蛙のように飛び跳ねて、止まらない!」
尚継(なおつぐ)「俺は何か、大変なことを仕出かしてしまったのだろうか!?」
尚継(なおつぐ)「そうだ・・・」
尚継(なおつぐ)「これと水をすぐに飲ませろと言っていたような?」
尚継(なおつぐ)「草はすり潰せば与えられるが・・・ 水はどうやって?」
尚継(なおつぐ)「サクアには申し訳ないが、これしかない」
尚継はすり潰した草を自らの口に含み、川の水を頬に溜めると
口移しにサクアへと内容物を流し込んだ。
サクア「ううん・・・」
サクア「ゴホッゴホッ・・・ゴホッゴホッ」
尚継(なおつぐ)「目覚めた!」
サクア「ナオ・・・?」
サクア「どう・・・したの?」
サクア「痛い・・・そんなに抱きしめられたら、苦しいよ」
尚継(なおつぐ)「心配したんだ!もう二度と、消えないでくれ」
尚継(なおつぐ)「一緒に、居てくれ・・・」
サクア「二度と・・・消えたりしない」
サクア「約束する」
サクア「助けに来てくれて、ありがとう」
〇黒背景
──tobecontinued
いまいち頼りないと思っていたナオが1人で助けに行けるのかなと思いましたが、そこは武士の子。しっかりとやり遂げましたね。まずはひと安心です。
儀式の熊さんのキャラデザが可愛すぎて、ちょっぴり心が痛んでしまいましたね(涙)
立ち回りからの救出劇、とってもドラマティックな回でしたね。見応えたっぷりです!
そういえば、作中のケシの花、道内って野生のものがたくさんありますよね。”業者”さんには内緒ですね!