市長、アイドルになる!?(脚本)
〇個別オフィス
それから一週間後
石川「市長、今月の市報出来上がりましたよぉ。 ほら、ここ見て下さい」
石川「市長のことと猫カフェのこと、ちゃんと記事になってますよぉ 僕が考えたメニュー、インパクトが強くて評判いいみたいです」
星野愛香「確か、猫耳大福と肉球まんじゅう、にゃんこどら焼きだっけ?」
石川「はい、それとパンケーキならぬ、にゃんケーキ、キャットコーヒーと、ウインニャーコーヒーです」
星野愛香「それそれ、よくそんなネーミング思い付くわよね。 まるで、猫ちゃんの名前の時と大違いだわ」
石川「前の市長が、大のダジャレ好きだったんです。 それと大福、どら焼き、饅頭は前市長の好物でしたから」
星野愛香「でも、猫カフェに和菓子があって良かったかも。 高齢の方も来てくれてたし」
石川「犬や猫は、年齢問わず大人気ですからね」
星野愛香「そうね。 因みに石川くんは、犬と猫どっちが好きなの?」
石川「僕は犬派ですかね。 実家で飼ってるんです。 豆柴で名前は『大福』」
星野愛香「そっ、そうなんだ・・・」
石川「ところで市長、次はいつ視察に行きますか?」
星野愛香「そうねぇ、議会が終わってから考えましょ」
石川「そうですね。 じゃあ、僕は業務に戻ります」
星野愛香(ここんとこ、猫カフェの件で自分の時間作れなかったなぁ。 今度の休みくらいは、ゆっくりしないと・・・)
〇繁華な通り
土曜日、愛香はとあるイベントの為外出していた。
星野愛香「今日は待ちに待った推しのイベント」
星野愛香「思いっきり楽しむぞ~」
〇ナイトクラブ
アイラ「みんなぁ、今日はピンキームーンのライブに来てくれてありがとぉ」
ミレイ「これからも精一杯頑張るので、応援よろしくお願いしまぁす」
〇繁華な通り
星野愛香「はぁ~、ピンキーのライブ楽しかったなぁ~。 二人共可愛かったし、チェキも撮れて大満足」
星野愛香「これだから、アイドルは堪らないのよね。 さっ、家に帰ってアイドルの動画でも見よっと」
〇ファンシーな部屋
家に帰ると愛香はパソコンを開き、アイドルの動画を検索する。
星野愛香「やっぱ、今日はピンキーの動画の気分だなぁ。 ん~、どれにしよっかなぁ」
検索していると、愛香の手が不意に止まった。
星野愛香「何これ? 週末限定アイドル募集中? どんな職業の人でもOK? 夢を現実にしませんか?」
愛香はアイドル募集中の詳細を見る。
星野愛香「週末限定なら仕事に差し支えないし、職業も秘密厳守って書いてある」
星野愛香「それにオーディションは明日じゃない!」
星野愛香(どうしよう。 募集の年齢は25まで 夢を叶えるチャンスは今しかない)
星野愛香「・・・よしっ、当たって砕けろで応募してみよう」
〇白
〇オーディション会場
翌日、愛香はオーディション会場にいた。
周りには、アイドルの夢を叶える為たくさんの女の子達が会場に集まっている。
星野愛香(みんな、私より若い子ばっかりじゃない。 どう見ても、場違いな感じがするわ・・・)
愛香の不安をよそにオーディションは始まる。
事務所関係者「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。私、事務所の代表取締役をしております。 『渋沢』と言います」
事務所関係者「設立して間もない事務所で、皆さん怪しんでるかもしれませんが、ちゃんとした事務所なのでそこは安心して下さい」
会場に笑いが起きる。
事務所関係者「私の隣にいる女性は、今後マネージャーをしてもらう『夏目』です。 夏目さん、自己紹介をどうぞ」
事務所関係者「初めまして、今後マネージャーを勤めることになりました夏目です」
事務所関係者「生半可な気持ちでアイドルを目指している人は必要ありませんので、軽い気持ちでオーディションに来ている方は退場して下さい」
夏目の言葉に、会場の雰囲気が張り詰めた。
事務所関係者「夏目さん、そんな怖い顔で皆さんを睨み付けたら、オーディション始められませんよ?折角来て頂いたんですから・・・」
事務所関係者「私、元からこういう顔なんで・・・」
事務所関係者「じゃあ、気を取り直してオーディションを始めます。 一番の方、自己紹介をどうぞ」
こうしてオーディションは始まり、
夏目の質疑応答に苦戦した者は自動的に不合格扱いになった。
そして、愛香の順番が回って来る。
事務所関係者「では、星野さん。 自己紹介をどうぞ」
星野愛香「エッ、エントリーナンバー21番。 星野愛香です。 よっ、よろしくお願いします」
事務所関係者「星野さん、リラックスリラックス。 顔が引きつってますよ? 深呼吸しましょう」
星野愛香「すっ、すみません」
愛香は渋沢の言われた通り、軽く深呼吸する。
事務所関係者「大丈夫ですか? 自分のペースで構いませんので、応募の動機を教えて下さい」
星野愛香「はっ、はい。 私は小さいころからアイドルになるのが夢で、休みの日はイベントに行ったり動画を見るくらいアイドルが大好きです」
星野愛香「普段私は公務員として働いてますが、このまま夢を夢で諦めていいのかと、自問自答しながら毎日を過ごしていました」
星野愛香「そんな時、アイドル募集の書き込みを見つけ、このチャンスを棒に振るわけにはいかないと決心し応募することを決めました」
事務所関係者「なるほど・・・ ありがとうございました」
事務所関係者「先程、公務員と仰いましたが具体的な職種は何ですか?教師?それとも銀行員とかですか?」
星野愛香「そっ、それは・・・」
星野愛香(どうしよう・・・ ここは正直に市長と言うべき? それとも、市役所職員の方が無難かしら・・・)
事務所関係者「質問に答えられないなら、今すぐここから退室して下さい。 お疲れ様でした」
「し、市長をしております・・・」
事務所関係者「市長・・・ですか?」
星野愛香「はっ、はい・・・」
事務所関係者「市長の方がアイドル志望ですか・・・ 聞いて呆れますね」
星野愛香「そう思われて当然だと思っています」
事務所関係者「夏目さん、今回のアイドル募集の条件覚えてますよね?」
事務所関係者「えっ?」
事務所関係者「どんな職業の方でもOKなはずでしたよ?」
事務所関係者「それはそうですけど・・・」
事務所関係者「星野さんは市長の方でしたか」
事務所関係者「ですが、どうして市長に?」
星野愛香「私の住んでる所は、消滅可能性自治体にリストアップされてる所です」
事務所関係者「消滅可能性自治体?」
事務所関係者「若い女性の方の人口が減少し、様々な問題が起きてしまうことですよ。財政悪化やお店の撤退、隣り町との合併などですよね?」
星野愛香「はい。 私は今、この問題を自分の課題だと考え活動しています」
事務所関係者「その問題解決策として、何かされたことはありますか?」
星野愛香「最近ですと、我が市に猫カフェをオープンいたしました。連日大盛況で、若い方から年配の方まで足を運んでくれています」
事務所関係者「猫カフェですか? もしかして、お店の名前は『猫市猫座』 ですか?」
星野愛香「えっ、ご存知なんですか?」
事務所関係者「はい。私も大の猫好きですからね。 あと大福が美味しいんですよ。 『猫耳大福』」
星野愛香「そうだったんですね。 ありがとうございます」
事務所関係者「あの、そろそろ本題に戻りたいんですけど・・・」
事務所関係者「おっと失礼。 夏目さん、星野さんに質問はありますか?」
事務所関係者「もしアイドルになった場合、市長の職はどうなさるおつもりですか?」
星野愛香「週末限定アイドルなら、業務に差し支えありません。私は土日休みですから」
事務所関係者「分かりました。 これでオーディションは終了です。 お疲れ様でした」
星野愛香「ありがとうございました」
〇休憩スペース
オーディションを終え、愛香は休憩室で休んでいた。あれ程若い女性で溢れかえっていた会場には、たったの数名しか残っていない。
星野愛香(数名しか残ってないということは、ほとんどの人が不合格だったんだ)
星野愛香(私だって不合格の可能性はあるんだよね)
愛香は全てのオーディションが終わるまで待っていた。
〇オーディション会場
数時間後、全てのオーディションが終わり愛香は再び会場に呼ばれた。
事務所関係者「皆さん、オーディションお疲れ様でした。 只今より、合格者を発表致します。 呼ばれた方は、そのまま会場に残って下さい」
事務所関係者「まずは一人目エントリーナンバー5番。 月島虹花さん。 そして二人目はエントリーナンバー14番。 立花花音さん」
事務所関係者「三人目は・・・」
星野愛香(お願い・・・ どうか受かって・・・)
事務所関係者「エントリーナンバー21番。 星野愛香さんです」
星野愛香(えっ、今私の名前呼ばれた!?)
事務所関係者「今回、ものすごく悩みました。 何故なら、皆さん一人一人に魅力があったからです」
事務所関係者「ですが、厳正なる審査の結果この三名の方に絞らせて頂きました」
事務所関係者「本当に皆さん、ありがとうございました」
〇オーディション会場
会場には、名前を呼ばれた三名だけが残っている。
月島虹花「私がアイドルかぁ~ まだ信じられない」
立花花音「私もだよ~ 何か今から緊張しちゃうね」
二人は年齢が近いからなのか、意気投合していた。
星野愛香「あの~、 お二人って何歳ですか?」
月島虹花「私は22歳で、カフェで働いてます」
立花花音「私は20歳で映画館で働いてます」
月島虹花「あなたは?」
星野愛香「私は25歳で、市長やってます」
立花花音「市長?」
月島虹花「市長って・・・ あの市長?」
星野愛香「はっ、はい・・・」
星野愛香(やばい、市長がアイドルとかやっぱドン引きするよね・・・)
月島虹花「へぇ~、市長さんなんだぁ 何かスゴいね」
立花花音「うん。市長がいるアイドルグループの私達って、何か最強じゃない?」
月島虹花「確かにそうかも。 よろしくね! 市長さん」
星野愛香「あのぉ、市長じゃなくて星野愛香です」
月島虹花「ごめ~ん、星野愛香さん」
立花花音「これからよろしくね!」
星野愛香「こちらこそよろしく!」
〇小さい会議室
三人はオーディション会場を離れ、会議室に来ていた。
事務所関係者「皆さん、お疲れではないですか?」
月島虹花「はい、大丈夫です」
事務所関係者「では、これから契約書をお渡ししますので内容をよく読んだ後、こちらの契約書に名前と印鑑をお願いします」
月島虹花「あの、週末限定アイドルなんですよね? 契約書とか、大袈裟じゃありませんか?」
事務所関係者「うちでは、そういう決まりですから。 それに、先を見通す可能性だってありますし」
星野愛香「先を見通すって、どういう意味ですか?」
事務所関係者「人気次第では、デビューも夢じゃないってことですよ。 とりあえず、あなた方には地域密着型アイドルを目指してもらいます」
月島虹花「地域・・・」
立花花音「密着型・・・」
星野愛香「アイドル?・・・」
事務所関係者「そうです。 活動としては、地域のイベントに参加し認知してもらうことを最優先にします」
事務所関係者「星野さん、あなたにとってはいいことなんじゃないですか?市の為に何か出来ることがあるかもしれませんよ?」
星野愛香(そうよ。 アイドルになれば、市のイベントに参加し若い人を呼び寄せられるかも・・・)
三人は契約書をじっくり読み終えた後、契約書にサインをした。
事務所関係者「皆さん、今からあなた方はアイドルです。 そんな皆さんに会わせたい方がいます。 夏目さん、呼んで来てもらっていいですか?」
事務所関係者「分かりました・・・」
事務所関係者「二人共、中に入って・・・」
夏目が、ピンキームーンの二人を連れて会議室に入って来る。
事務所関係者「あなた達、この二人を知ってるわよね?」
月島虹花「ピンキームーンのアイラとミレイ!」
立花花音「かっ、かわいすぎる!」
星野愛香「ゆっ、夢じゃないんだ・・・」
月島虹花「けど、どうしてここにピンキームーンがいるんですか?」
事務所関係者「この二人は、うちの事務所の先輩で 今、ライブに向けて別のスタジオで振りの練習をしてるの」
立花花音「そうだったんですね」
事務所関係者「アイラ、ミレイ。 今日からあなた達の後輩になる三人よ」
アイラ「初めまして。 ピンキームーンのアイラです。 これからよろしくね!」
アイラは三人と握手をする。
ミレイ「ミレイです。大変なこともあるけど、一緒に頑張ろうね!」
ミレイも三人と握手をする。
事務所関係者「二人共、練習に戻っていいわ。 ありがとう」
二人は、三人に手を振り会議室を後にした。
事務所関係者「それでは、これからグループ名を発表します。 あなた方のアイドルグループ名は・・・」
事務所関係者「『Polaris』です。 ポラリスという意味を知ってますか?星野さん」
星野愛香「意味ですか? 確か『北極星』だったような・・・」
事務所関係者「正解です。 北極星は同じ位置にいることから、旅人の道しるべとなっていたそうです」
事務所関係者「あなた方には、色んな道に迷っている人達の道しるべになって頂きたいと思っています」
事務所関係者「いかがですか?」
月島虹花「『Polaris』かぁ・・・」
星野愛香「色んな人の道しるべ・・・」
立花花音「可愛くて、素敵な意味のある言葉・・・」
月島虹花「すごくいいと思います!この名前で是非活動させて下さい!」
事務所関係者「ありがとうございます。 星野さん、立花さんもよろしいですか?」
星野愛香「はい、よろしくお願いします!」
こうして、愛香は新生地域密着型アイドル『Polaris』の一員となった。