僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

薊未ヨクト(あざみよくと)

【2期】入院患者暴行事件(脚本)

僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

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〇病室(椅子無し)
ユウタ「だーかーら!あのゾンビ、 なんとかしろよ!」
ゾンビ課職員「樺島さん。 お疲れ様です」
樺島 一心(かばしま いっしん)「この少年が?」
ゾンビ課職員「ええ、先ほどご連絡した被害者です」
ユウタ「いきなりあいつが殴ってきたんだよ! この怪我が証拠だ!」
ゾンビ課職員「ずっとこんな感じなんですよ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ゾンビがいきなり襲うなんて おかしいよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうだな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「こんにちは、ユウタくん」
樺島 一心(かばしま いっしん)「怪我は大丈夫?」
ユウタ「別に。もう痛くもねえし」
樺島 一心(かばしま いっしん)「突然、ゾンビが部屋に入ってきたら、 ビックリするよね」
ユウタ「俺はそんなヘタレじゃない!」
ユウタ「ゾンビゲームとか、よくやってるし。 俺、結構上手いんだぜ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「なるほど。ゾンビは苦手じゃない、か」
樺島 一心(かばしま いっしん)「病室にいたら、急に襲われたの?」
ユウタ「そ、そうだよ!」
ユウタ「とにかく!あいつを今すぐに 病院内から追い出してくれ!」
ユウタ「目障りなんだよ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「理由がわからないと、 また来ちゃうよね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そのゾンビは?」
ゾンビ課職員「別室に隔離しています」
樺島 一心(かばしま いっしん)「よし。 ゾンビの様子を見てくるか」

〇備品倉庫
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾ、ゾンビはここか」
樺島 一心(かばしま いっしん)「うわぁぁぁーっ!」
ゾンビ「うううー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「特に興奮した様子もないね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「どうして空の車椅子を押してるんだ?」
ゾンビ「ううあー、うあ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「散歩に行く?って言ってる」
樺島 一心(かばしま いっしん)「散歩? 相手がいるのかな?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「この子の中ではそうかもしれない」
ゾンビ「あああう、うあうあー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「車椅子、押すのうまくなったでしょ? って。なんだかお話してるみたい」
樺島 一心(かばしま いっしん)「誰かのお見舞いに 来ていたのかもしれないな」
ゾンビ課職員「私が駆けつけた時は、 このゾンビは大人しくしてて」
ゾンビ課職員「暴れた痕跡はなかったです」
樺島 一心(かばしま いっしん)「なるほど」
樺島 ここね(かばしま ここね)「この子が意味もなく、 いきなり攻撃するとは思えないよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「車椅子の貸出履歴があるはずだ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「過去のリスト あたってみてくれないか?」
ゾンビ課職員「かしこまりました!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あの男の子がこの子に襲われたって いうの、本当なのかな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「彼がこのゾンビのお見舞いを妨害した とすれば可能性はあるよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「もう一度、話を聞いてみるか」

〇病室(椅子無し)
樺島 一心(かばしま いっしん)「失礼するよ」
ユウタ「あいつ、追い出したか?」
ユウタの母「ユウタ!大丈夫かい?」
ユウタ「か、かーちゃん!」
ユウタの母「イタタタ」
ユウタ「何やってんだ! あぶねーだろ!」
ユウタの母「アンタが怪我したって 病院から連絡があったから」
ユウタ「たいしたことねーし」
ユウタ「それより、エプロンくらい外して来いよ」
ユウタの母「だって・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ユウタくん。子供に何かあったら 親は心配するものだよ」
ユウタの母「・・・ユウタ、こちらの方は?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「申し遅れました。 ゾンビ課の樺島と申します」
ユウタの母「じゃあまさか、その子が・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「わたし、誰かを傷付けたりしないよ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「該当ゾンビは隔離して調査中です」
ユウタの母「病院は何してんだい。 ゾンビを病室に入れてしまうだなんて」
看護師「申し訳ありません」
ユウタの母「ユウタにもしものことがあったら、 あたしゃ許さないからね!」
ユウタ「別に俺なんてどーなったって構わねぇよ」
ユウタの母「なんてこと言うんだい。 みんな心配しているのに!」
ユウタの母「タケシくんとケンタくんも 今度お見舞いに来たいって」
ユウタ「見舞いなんていらねーよ!」
ユウタ「あいつら、いつの間にか サッカーチームのレギュラーになってるし」
ユウタ「会っても惨めになるだけだ」
看護師「そんな事言わないで。 化学療法が終わるまでの我慢だから」
ユウタ「大人は「もう少し」って、嘘ばっかり! もう何ヶ月だよ!」
ユウタ「頭は痛いし、吐き気がするし。 髪はゴッソリ抜けるしさ」
ユウタ「もう構うな!みんな出てけ!」
ユウタの母「ユウタ・・・」

〇コンサートの控室
ゾンビ課職員「車椅子の貸出資料、見つけました!」
ゾンビ課職員「最後に借りたのは 『井上』という名前の人物のようです」
看護師「あ!」
看護師「もしかして・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「何か心当たりが?」
看護師「前に、あの部屋に入院していた患者さんの 娘さんじゃないかと」
看護師「確か、あれは五年前──」

〇病室(椅子無し)
  あの病室に
  末期癌の女性が入院していました──
看護師「井上さーん。 マミちゃん、来ましたよ」
マミ「お母さん! 今日も散歩行こっか!」
マミの母「今日はちょっと難しいかも」
マミ「調子が悪い?」
マミの母「薬の副作用がね」
マミ「・・・ねぇ、お母さん」
マミ「手術、しようよ」
マミの母「ううん。もういいの」
マミの母「進行を遅らせるだけの手術なんて 意味がないわ」
マミの母「これ以上みんなに迷惑かけるわけには いかないから」
マミ「やめてよ!そんな、諦めるような言葉」
マミ「家もバリアフリーに改装したり、 父さんもいろいろ準備してるよ」
マミ「マミもね。お母さんとのお出かけリスト、 作ってあるの!」
マミ「ほら! もう車椅子も上手に動かせるんだよ!」
マミの母「ありがとね。 お母さん、その気持ちだけで十分よ」
マミの母「みんな、ずっと大好きだから」

〇病院の待合室
マミの父「ありがとうございました。 妻も皆さまに感謝していると思います」
マミ「・・・」
マミ「どうして看護師さんは」
マミ「お母さんを説得してくれなかったの?」
マミ「手術すれば」
マミ「もっと一緒にいられたはずなのに!」
看護師「マミちゃん・・・」

〇コンサートの控室
看護師「私にとっても辛い思い出です」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あの子は今でも 母親に治療を受けて欲しいと思って」
樺島 一心(かばしま いっしん)「車椅子を押し続けていたのか」
樺島 ここね(かばしま ここね)「きっとユウタくんを見て、 自分のお母さんのことを思い出したんだよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ユウタくんを探そう」
樺島 一心(かばしま いっしん)「彼が治療に前向きになってくれれば」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あの子の心残りも、 晴れるかもしれないよね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「看護師さん」
樺島 一心(かばしま いっしん)「彼が行きそうな場所に 心当たりはありますか?」
看護師「たぶん、屋上だと思います」
看護師「あそこから、 家や学校の方をよく見ていますから」

〇屋上の隅
樺島 一心(かばしま いっしん)「つまり、あの子はゾンビになってもなお」
樺島 一心(かばしま いっしん)「母親に治って欲しいと願っているんだ」
ユウタ「だから、なんだってんだ! 俺には関係ねー!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「泣いてる?」
ユウタ「目にゴミが入ったんだ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「もう一度聞くけど」
樺島 一心(かばしま いっしん)「その怪我は、 本当にあの子の仕業なんだね?」
ユウタ「・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ユウタくん?」
ユウタ「俺がやった」
ユウタ「あのゾンビは、何にもしてねーよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「なぜ、そんな嘘を?」
ユウタ「だってあいつ」
ユウタ「母ちゃんみたいに 心配そうな顔をして」
ユウタ「俺のことを 覗き込んでくるんだよ」
ユウタ「だから」
ユウタ「つい、イラついて・・・」
ユウタ「当たっちまったんだ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ユウタくん・・・」
ユウタ「これはその時、 自分で怪我しただけだ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「話してくれてありがとう」

〇病室(椅子無し)
ユウタの母「なるほど、そういう事だったんだねぇ」
ユウタ「ごめん」
ユウタ「だから、あいつを外に出してやって」
樺島 一心(かばしま いっしん)「実はもう、部屋の外まで連れて来てるんだ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビは大丈夫って言ってたよね?」
ゾンビ「うあー、ううう」
樺島 一心(かばしま いっしん)「うわっ! そこで。そこで止まってて」
ユウタ「どうして連れて来たんだ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「言ったよね?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「この子がここに来なくなるには」
樺島 一心(かばしま いっしん)「この子を納得させる必要があるって」
ゾンビ「うあうあー、うううー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「「散歩行く?」だって」
ユウタ「オマエらゾンビはお気楽でいいよな!」
ユウタ「死なねーし、病気にもならねーし」
ユウタ「俺はオマエらが・・・」
ユウタ「羨ましい」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ユウタくん・・・」
ユウタ「だから絶対」
ユウタ「病気を治して退院してやる」
ユウタ「オマエらが羨ましくなるくらい」
ユウタ「元気になってやるんだ!」
ユウタの母「ユウタ・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ううあー、うあうああー」
ゾンビ「うあ?ううあ?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あーうー」
樺島 一心(かばしま いっしん)「車椅子から手を離した!」
ゾンビ「うあー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「「治療を続けるから、治るよ」って言った」
樺島 ここね(かばしま ここね)「そしたら、「良かった」って」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうか、理解したんだな」
ユウタ「あいつ、どこに行ったんだ?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「病院の外へ出て行ったよ」
ユウタ「ど、どういう事だよ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビは、執着から解き放たれると、 特殊行動が治るんだよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あの子の場合は 病院の外を歩き続けるんだろうね」
ユウタ「そうなのか・・・」
ユウタの母「寂しいのかい?」
ユウタ「そんなんじゃない!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「素直じゃないなー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「じゃあ、わたしたちが 時々お見舞いに来てあげるよ」
ユウタ「な、なんでそうなるんだよ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「君がちゃんと治療を続けてるって」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あの子に伝えなきゃいけないからね」
ユウタ「刑事さんはいいけど・・・」
ユウタ「オマエはうるさいから来るなよ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うるさいって、わたしが?」
ユウタの母「こらっ!ユウタ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「君ねぇ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「まあまあ、ここね。落ち着いて!」
「はははは」
  家族
  友達
  ──か

〇病室(椅子無し)
  数日後
「ユウタくん。検温の時間ですよ」
看護師「あら?寝てるのかしら」
看護師「あらあら。 窓、開けっぱなしで」
看護師「あ!」
看護師「そういうことね」
ユウタ「なんだよ! さっさと検温しろよ!」
看護師「はいはい」

〇大学病院
樺島 ここね(かばしま ここね)「今日は「うるせー!」とか 絶対言わせないんだから!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「まあまあ、そんなこと言わずに」

次のエピソード:【2期】水と油と逃亡ゾンビ事件

コメント

  • やはりウルウルときますねー!😭

    ハートフルで素敵なお話です✨それぞれの人物たちに血が通っていて、素晴らしいと思いました✨😭💖

    ユウタ…頑張ってね✨きっと大丈夫だよ✨って声かけたくなりました✨

  • 病気では無い熱を覚えたユウタ君なら、きっと退院出来るでしょうな。🤭

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