Ⅹ(脚本)
〇中華風の通り
鬼丸「殿さん」
公春「ああ、鬼丸ちゃんお疲れちゃ~ん」
鬼丸「手紙、全部配り終わりました」
「ご苦労。帰って休め。 武者丸も既に烏辺野へ戻っておる」
鬼丸「信西さんっていい人だな。 お菓子も貰ったし、 外まで見送ってくれたし」
「ああそうかそれはよかったな(棒)」
鬼丸(・・・ったく、誰かとは大違いだ。 顔ぐらい見せろってんだよ)
左京大夫「もし。藤原左府様の御車とお見受けする」
公春「何者か」
左京大夫「ああいやいや!妖しい者ではござらぬ」
左京大夫「左京大夫にございます。 去年の節会の折、 顕仁様の傍にてご挨拶させて頂きました」
「夜分非礼であろう。日を改められよ」
左京大夫「い、幾度もお目通りを お願い申し上げておりましたが、 ご多忙につき中々叶わず・・・」
左京大夫「ご無礼を承知でお待ちしておりました」
鬼丸「出て来てやんなよ殿さん。 この人、道端でずっと待ってたんだろ」
左府「舎人の分際で差し出口を挟むな」
左京大夫「さ、左府様」
左府「こやつへの説教のついでだ。 そなたの話も聞いてやる」
鬼丸(このひねくれた考え方は、 どっから湧いてくるんだろ?)
左京大夫「き、近日、我が主顕仁様が宴を催されます」
左府「顕仁殿下が・・・」
〇屋敷の書斎
〇中華風の通り
左府「人交わりを好まず 引き籠って読書三昧の御仁がお珍しい」
左京大夫「左府様にあらせられては、 何卒ご参列頂きたく罷りこした次第にて」
左府「帝の御容態芳しからぬ折、宴とは」
左京大夫「弟君、雅仁殿下も御快癒をお祈りし 歌舞音曲を天に捧げられておるとの由」
左京大夫「ならば我が主は詩歌にて天下安寧を・・・」
左府「歌は不得手だ。他をあたられよ」
鬼丸「ちょっとくらい顔出してやってもいいだろ」
鬼丸「どうせ友達いないんだからさ」
左府「なに?」
公春(言っちゃった)
左府「ふん。子鬼に言っても詮無きことだが、 教えてやろう」
鬼丸「はあ?」
左府「この男は大臣の座を狙って、 私に近づいて来たのだ。 数刻道端で待つなど何ほどでもないわ」
左京大夫「め、滅相もない!みどもはただ・・・」
左府「分かっておるのだ。 王者議定に己が名を連ねよと、 へつらいに参ったのであろう」
左府「早々と帝のお隠れを待ち望むとは! うぬの主に伝えよ、控えおれと!」
随身「もうよい。話にならぬ」
左府「・・・なに?」
左府「従者風情が。誰に口をきいている?」
随身「無論、藤原頼長よ」
顕仁皇子「汝の性根はよく見定めた」
皇太子 顕仁親王
左府「あ、顕仁様!」
左府「ど、どけい!」
左府「いやいや、随身に成りすまし 我が心中を測るとはお人が悪い」
左府「この左府の裏をかくとは流石皇位継承者! 感服いたしました!」
公春「覚えておいてね。 殿、こういう一面もあるから」
鬼丸「くそカッコ悪いぞ、左府さん」
随身「お控え召されよ兄君。 天下の左大臣様のご命令ですぞ」
左府「あ、兄君・・・? ま、まさか・・・!」
左府「げえっ!孔明!」
雅仁皇子「誰が孔明だ」
左府「お二方とも、戯れ事が過ぎますぞ」
顕仁皇子「帝とは不憫なものよ。 斯様に汚らわしき者どもと共に 政に携わらねばならんのだからな」
左府「汚らわしいとは、 いかに皇子様とて聞き捨てなりませぬ」
左府「我ら貴族は日々不借身命で 国家の為に勤めておりまする」
雅仁皇子「それは苦労をかけるな。 王家の威光を奪い合うことが 不借身命というならば、 いつでもその荷を下ろして構わぬぞ」
左府「・・・クッ」
鬼丸(いいぞ! 誰か知らねえけど偉そうな坊ちゃん!)
公春「爽快感が顔に溢れ出してるわよ」
顕仁皇子「左府よ。 弟もそこな非人の如く、 汝のよき傀儡とするがいい」
顕仁皇子「私は帝の座など御免被る」
雅仁皇子「逃がしませぬぞ、兄君」
雅仁皇子「貴方もこれより政に携わってもらう」
雅仁皇子「勿論、この私の右腕として♪」
顕仁皇子「傀儡の傀儡か・・・冗談ではない」
顕仁皇子「一人で悩め」
左京大夫「お、お待ちください!殿下!」
雅仁皇子「逃げるか!引き籠り!」
雅仁皇子「俺一人に全部押し付けやがって・・・」
雅仁皇子「左府、館まで送ってくれ」
左府「え~っ?私これから忙しいんですが・・・」
雅仁皇子「何か言ったか?」
左府「何でもございません!お送り致します!」
鬼丸(今回、いいとこ無しだな。この人)
CONTINUED