prologue(脚本)
〇一軒家
7月某日。亜麻色の髪を日傘で隠し、佳ノ宮まつり(かのみやまつり)は空を見上げた。
佳ノ宮まつり「あっつい・・・・・・」
青い空。照りつける日差し。
過去最高気温だという今年はとにかく暑く、気温は30度を超えていたはずで、夏という季節を感じさせる。
自宅のドア前の日陰からも、未だ照り付ける日差しの強さを感じられ、普段なら、用事でも無ければむやみに出歩かないだろう。
そんな中に薄手とはいえカーディガンを羽織り、眠そうな目つきでふらふらと歩いているのは、大事な用があるからである。
お出かけ用鞄に入れたカメラを覗き込み、まつりはちょっとにやける。
佳ノ宮まつり「(楽しみ、だな)」
〇海岸線の道路
地図アプリで見た道を思い出しながら海沿いの道を歩く。
しばらく入院していたので最近ようやく覚え始めた道だが、
しばらく直線が続くので迷いようが無さそうだと思いながら景色を見渡す。
佳ノ宮まつり((歩くって、久しぶりだ・・・・・・))
海。釣具店、商店、コンビニ。遠くに見える見慣れない建物はどれも興味深い。
家の近くにはスーパーがあるけれど、あれだって――――
佳ノ宮まつり「わっ」
足元でぽちゃんと音。蛙が跳ねた。先日の雨で水溜りがあったらしい。
佳ノ宮まつり「びっくりした」
蛙が逃げていくのを見届け、まつりはそのまま水溜りを見つめた。
アスファルトの水溜りに映るまつりの姿は今も何処か頼りなく、白い肌も相まって、儚げな印象をしている。
佳ノ宮まつり「・・・・・・」
それを見ていると幼い頃の記憶が僅かながら頭に過って来た。
〇立派な洋館(観測室の電気点灯)
まつりがその当時『屋敷』と呼ばれるにふさわしい大きな家に住んでいた事、
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