ハワイアンブルーと群青劇(なとなと)

たくひあい

03:女の子になろう(脚本)

ハワイアンブルーと群青劇(なとなと)

たくひあい

今すぐ読む

ハワイアンブルーと群青劇(なとなと)
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇大広間
  ・・・・・・・・・・・・
  誰かが、呼んでいる。
  な? 
  
  ナーシャ?
  
  なに。
  なんだか、すごく懐かしいような気がする。
  懐かしい。
  
  ──広い庭と、シャンデリア。薄暗い廊下、背丈の倍ありそうな、大きな棺桶。
  ぼくは宝箱だと、思ってて・・・・・・
  それに。
  誰かが、ぼくを、呼んでいる。
  
  知らないのに、知ってる。知ってるのに、知らない。
  妙に甘い硝煙の匂い。
  
  砕けた壁の、土と砂埃のにおい。
  「そっか、ぼくは――――」
  知っていて、
  を売り物にしていたんですよね! 重ねて!! 放映することに意味があったんですよね!?
「勝ちたいからって、そんなことまでするんですか」
  な・・・・・・なと、――ななと

〇走行する車内
佳ノ宮まつり「夏々都君!!」
  目を、覚ます。
  
  車内の天井が見える。
行七夏々都「・・・・・・、寝て、たのか」
  随分眠っていた気がするが、そういえば今日はまつりとルビーたんと一緒に食事に行っていたのだったか。
  すぐ横で、まつりが、きょとんとぼくを見降ろしている。
佳ノ宮まつり「おはよ。よく眠れた?」
行七夏々都「おはよ」
  返事をしながら体を起こす。
  えーーと。
  寝起きが悪い方なので、まだ混乱しているけど・・・・・・
  今車が停止しているという事は家に着いたって事に違いない。
  いつまでもご厄介になっている場合じゃないだろうし、
  目的地に着いたら、早く降りなくては叱られそうだ。
行七夏々都「すみません、すぐ、降りま・・・・・・」
  ドアに手を掛け、ふと違和感を覚えた。
  ――ん?
  なぜ、まつりは降りようとしない?
  もしやガソリンでも入れに行ってるんだろうか。
  それとも、ルビーたん辺りが寄り道しているのかなどと呑気に考えていたぼくはなんとなしに窓の向こうを見る。
  「・・・・・・」

〇西洋の城
行七夏々都「・・・・・・」
  城が、聳え立っている。
  
  和風ではなく、西洋風。
  左右と真ん中の棟があり、その奥に宿舎があるような、あの城。
  ガラス越しに、入口を囲む立派な門が見える。
  施設名が彫られていたので目を凝らして見つめた。
  ――――■■学園
  生徒さんに迷惑が掛かってしまうので、仮にK学園しておくが、名前からして恐らく、佳ノ宮系列の学園名。
行七夏々都「さすがに、変なホテルとかじゃなさそうだけど・・・・・・」
佳ノ宮まつり「ホテルに行きたかったの? 今度一緒に行く?」
  まつりはきょとんとしている。
  確かに寝たいという意味じゃ寝不足なぶん今から部屋で寝直したいよ。
  膝枕もいいけど、やっぱり柔らか素材の枕じゃないと熟睡出来ないし。
  それで、そうだな、添い寝くらいならしてやっても・・・・・・って、
行七夏々都「そうじゃなくて。どこなんだ、此処?」
  訊ねると、まつりは笑みを浮かべた。
佳ノ宮まつり「此処は佳ノ宮財閥があった頃からの歴史ある伝統の女学園なんだ」
佳ノ宮まつり「校舎に使われているこの城は創立時に、仲の良い貴族から貰ったもので、某国からそのまま移設されている本物の城なんだってー」
  じょ・・・・・・
行七夏々都「女学園!?」
  意味が解らない。城って移設するもんなのか。本物ってことは認知の歪みでも妖界や異世界へのナビでも無いってことで──
  それはつまり本物で・・・・・・
  
  脳内が軽くパニックを起こしている。
  混乱の末。
行七夏々都「・・・・・・あの佳ノ宮系列で女学園なんてあったんだ」
  真っ先に出て来たのがそんな感想だった。
  まつりの実家である佳ノ宮家は、

〇王妃謁見の間
  巨大勢力で、社会の暗部であるのと同時に、昔でいう財閥を持っていたとか、親類が貴族とか・・・・・・いろいろと壮大な家系だ。
  内部には軍人が多かったのもあり、古き考えというか、男尊女卑の傾向が強かったといわれている。

〇西洋の城
佳ノ宮まつり「確かにあそこは、ガチで学問を『男性のもの』と言い切っているよ」
佳ノ宮まつり「勿論、学問だけじゃなくて研究とかも、頭を使う仕事は全部男性がすべきで複雑な分野程男性と決めてかかってる」
  尚更に、女学園なんか建てそうな印象がないんだよな・・・・・・
佳ノ宮まつり「いやぁ、あのガチさは、一般人が引くくらいすごいからね」
佳ノ宮まつり「ちょっとレポートが上がって、名前が女性っぽかったら、ガチっぽい男性名に書き直すもん」
  何度も頷きながら、苦労を語るまつり様。まつりもなんかあったんだろうか。
佳ノ宮まつり「だから、そりゃもう、いろいろ、あったんだけど」
  まつりは感慨深そうだ。
佳ノ宮まつり「先人たちの計り知れない、物凄い苦労があるんだよ」
行七夏々都「そ、そうか・・・・・・偉大な創立者なんだ」

〇西洋の城
  唐突に、まつりがぼくの方に指を伸ばした。
  この前みたいに挨拶として頬や指を舐めるのではなく、足元、太もも辺りに指を這わせるかのようだ。
  ・・・・・・。
  妙だな。
  なんだか感触がダイレクトに伝わり過ぎる。
  太ももなんていつもの衣服では布地に包まれており、もう少し布が擦れる感覚があるのだが・・・・・・
  ぼくは、そのままなんとなく視線を下――――
  !?
  まつりが掴んだ部分、ぴらんと何か布が足から捲れて自分の太ももが露わになっている。
行七夏々都「えっ? 何これ」
  ・・・・・・。
   捲れた布から見える足が、直に風を浴びてスース―している・・・・・・
  そりゃさっきから、おかしいな、おかしいなぁとは、思っていたんですがね。
佳ノ宮まつり「スカート」
行七夏々都「・・・・・・頭が追い付かないんだけど」
  着た覚えが無い。
  状況が今一つ理解出来ないのだが、もしかしてぼくは実は女の子で名探偵で
  あるいは007と呼ばれて居たりして、それで今日から急遽此処に入学だったりするのだろうか。
  今回はそういう感じのお話なのかもしれない。
佳ノ宮まつり「そんなわけないでしょ。そりゃ女の子みたいに可愛いけど」
  まつりが呆れた目で見降ろして来る。
  ちょっと癖になりそうだ。
  じゃなかった。
行七夏々都「えーっと、じゃあ、この服は?」
  聞くと、まつりは目を輝かせて頷いた。
佳ノ宮まつり「由緒ある女学園の制服だよ。よく見てみて」
  ぼくは自分の姿をよく見てみた。
  丸いラインのセーラーブレザー。
  端に金色のレースのついたプリーツスカート。胸元の大きなリボン。
行七夏々都「紛うこと無き女学園の制服なのだろうと、ぼくでもわかる」
  金掛かってそうだなという事も。
行七夏々都「何でこんなものがあるんだ?」
佳ノ宮まつり「「ルビーたんに作ってもらいました。あの人、仕立て屋だったからね」
行七夏々都「へぇー」
  それは実は以前に聞いたことがある。
  腕は確からしい。
  何処からどう見ても、しっかりと、ぼくのサイズの制服だ。
  ――――じゃなくて。
行七夏々都「・・・・・・じゃなくて。なんで、ぼくが着てるの?」
佳ノ宮まつり「説明しよう!」
  まつりはぼくから手を放し、得意げに胸を張った。
佳ノ宮まつり「佳ノ宮系列の学校があるって話は、前にしたと思う」
行七夏々都「あぁ。今目の前にあるしな」
  頷くと、まつりは数秒、どう言ったものか悩んでいるそぶりを見せた。
佳ノ宮まつり「夏々都には出掛ける事以外内緒にしていましたが、前から行こうと思ってたんだ」
行七夏々都「何しに?」
佳ノ宮まつり「お話しに。此処の理事長が顔見知りなんだよね」
佳ノ宮まつり「やっぱり年輩の土地勘とか、大人間でどんな対立構造があったか知るのって、大事だからね」
佳ノ宮まつり「屋敷は燃えちゃったけど、近い年代の系列の施設を辿る事で手掛かりになるかなって」
  細かい点は置いといて、まぁ、それは一理あると思った。
  何かわからないものに追われ、誰か知らないけど悪口を浴びるくらいなら
  根本の原因でも知って居れば必要以上に怯えないというものだ。
行七夏々都「なるほどな・・・・・・」
  ぼくが小学生の頃。
  まつりの家があった佳ノ宮家の屋敷は全焼している。
  中の人が悉く惨殺されていた、という話もあって、まつりも当時何年か酷いショック状態に陥り、まともに食事が出来ない程だったし
  怪我もあってぼくと同じく最近まで入院していた。
  犯人は未だ不明。大きな事件だったにも関わらず真相は何処にも載る事が無く・・・・・・
  別の人の言い方を借りると「闇に葬られた」という事になるのだが―――生き残ったぼくとまつりは、その手掛かりを探している。
佳ノ宮まつり「それでルビーたんに制服を仕立てて貰っていてね。受け取りが今日で」
行七夏々都「どうして?」
佳ノ宮まつり「潜入するんだよ、だから」
行七夏々都「え、せ、潜入? が、学園に?」
  謎に動揺するぼくだった。
行七夏々都「・・・・・・そ、そいつは凄い。まるで探偵みたいだね」
佳ノ宮まつり「そ。こっそり潜り込む事。予定が今日しか空いてないからね」
  まつりは誇らしげである。
  潜入の意味は知ってる。
佳ノ宮まつり「うん、ななと君、名探偵」
佳ノ宮まつり「えへへへ」
  まつりがとろけた笑顔を見せる。
  パシャパシャと、端末を取り出して写真を撮っている。
佳ノ宮まつり「これは、待ち受け用~」
  「――――待てよ。そもそも、ぼくはいつの間に着替えたんだ?」
  覚えて居る事と言えば、喫茶店から出て、駐車場まで行った。
  車にのって、それで・・・・・・カーテン付きの高級車に詰め込まれた。
行七夏々都(いや、ルビーたんの車で帰ってたんじゃなかったか)
行七夏々都「あ、あれ。おかしいな・・・・・・なんだか、記憶に齟齬が?」
  途中から意識が無い上に、目覚めたら女装して車に乗せられてるなんて・・・・・・別の本の話で見たような気もするが。
佳ノ宮まつり「そこはですね、あえてなぞらえてみました!」
佳ノ宮まつり「二人のあの夏。熱い思い出。思い出してくれるかなと思って」
  きゃっ、と棒読みで照れて見せるまつり様。
行七夏々都「そうなんだ」
  どの夏なんだ・・・・・・?
  いっぱい夏がある。
佳ノ宮まつり「でも意外と怒られなくってね。前もそんな遊びをしてたら、グレードアップしてくれたー!とか言われちゃってさー。えへへ」
佳ノ宮まつり「ただ記憶を保持する事でこっちは真剣に悩んでるのに、厚かましくずかずか踏み込んでネタにしやがるんだよ」
佳ノ宮まつり「重く傷つく~! そもそも嫌がらせ、向こうが始めたのに」
行七夏々都「そうなんだ」
  ・・・・・・。
  まぁメディアミックスで、真剣に悩んでいることを晒し者にしないだけまつりの方がマシなんだけれど。
  何処とは言わないけど、自称リスペクトと言いながら
  一番悩んでいる事を一番嫌な形で目立たせて何度も弄って来る奴も居るからな・・・・・・

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

成分キーワード

ページTOPへ