第7話 満弦の笑顔(脚本)
〇ファンシーな部屋
満弦「わしも、もっと陽奈子のことが知りたいぞ」
そう言って、満弦が急に真面目な顔をした。
子供の姿のくせに、やけに男っぽい目を向けてくる。
私は何故か、顔が熱くなるのを感じていた。
遠山陽奈子(やだやだ、これじゃ私が変態みたいじゃん!)
満弦「どうしたのだ、陽奈子?」
じっ。
下から覗き込むように、私を見つめてくる満弦。
さっきとは打って変わっての、あどけない表情に言葉が詰まってしまう。
遠山陽奈子「べっ・・・別にどうもしてないわよ」
遠山陽奈子「っていうか、近いし。 あんま、ジロジロ見ないでくれる?」
赤くなっていることを悟られまいと、顔を背けた。
しかし満弦は、ますます前のめりに近づいて私の顔を凝視すると、パチパチと瞬きしてから口を開いた。
満弦「お主・・・もしやわしを意識しておるのか?」
満弦「そうなのじゃな!?」
途端に目をキラキラさせて、顔を輝かせる満弦。
ソフトクリームを前にした時とは比べ物にならないほどの嬉しそうな表情に、私はまたも胸がキュッとなってしまう。
遠山陽奈子(なにこの顔。 私が意識してたら、そんなに嬉しいわけ?)
満弦「どうなのじゃ!?」
遠山陽奈子「そ、そんなんじゃないから!」
満弦「ならば何故わしの顔を見ない?」
満弦「わしを意識しているのでなければ、こちらを向けるであろう?」
遠山陽奈子「そ、それは・・・」
満弦「本当はどうなのだ?」
遠山陽奈子(そ、そんな可愛い顔して聞かれても・・・!)
期待いっぱいの瞳と、興奮して色づくほっぺた。
そしてパタパタとせわしなく動く尻尾が私の理性をぐらつかせる。
遠山陽奈子(しっかりしろ陽奈子!)
遠山陽奈子(これは子犬を見てときめいてるのと一緒だから!)
遠山陽奈子(ただそれだけなんだから!)
満弦「わしに胸をときめかせたのではないのか!? 正直に申してみよ!」
遠山陽奈子「本当にそんなんじゃないってば! しつこいな!!」
変な焦りと動揺で、思わず声が大きくなる。
遠山陽奈子(しまった。言いすぎた!)
そう思ってハッとした時には、満弦は私に背を向けてうずくまっていた。
遠山陽奈子「ごめん。言いすぎた」
満弦「陽奈子は、そんなにわしが嫌いか?」
遠山陽奈子「え?」
満弦「わしはお主が嫌がるからと、婚姻の儀も口づけも我慢して待っておるのに」
満弦「それなのに・・・」
遠山陽奈子(うっ・・・そんなあからさまに落ち込まなくても)
ドヨンとした空気を背負う背中が、なんともいじらしい。
遠山陽奈子「ほんとにごめんって! 嫌ってるわけじゃないから!」
満弦「ならば口づけせよ」
遠山陽奈子「は?」
満弦「わしを嫌っておらぬというなら、口づけくらい構わぬだろう!?」
振り返った満弦の顔は、完全に拗ねた子供そのものだ。
遠山陽奈子「そんなこと言われても困るよ」
満弦「できないならば、嫌っているわけではないなどと言い訳をするな!」
満弦「この嘘つきめ!!」
遠山陽奈子(な、なにその言い方)
遠山陽奈子「人が下手に出れば、勝手なことばっかり言って・・・!」
遠山陽奈子「もう~あったまきた! 満弦なんて知らない!」
遠山陽奈子「勝手に拗ねてなさいよ」
満弦「むうぅぅううう~~~!」
満弦「神の機嫌を損ねると、ロクなことにならんからな!!」
「ふんっ!!」
〇大学の広場
大石梨花「・・・で、結局、その自分勝手男クンと喧嘩続行中ってわけなんだ?」
遠山陽奈子「だって勝手すぎるんだもん!」
遠山陽奈子「不機嫌なだけでも面倒くさいのに、いつも以上に偉そうだし!」
遠山陽奈子「夕飯の時なんか「煮物の味付けがボンヤリしてるのは、そのハッキリしない性格のせいか?」とか言い出しちゃってさ!」
遠山陽奈子「どこの小姑よ!?」
私は、満弦が人間ではないことを隠して、昨日の出来事を梨花に相談していた。
すると、それまで私の話をうんうん聞いていた梨花は、テーブルにひじをついてズバリこう言った。
大石梨花「陽奈子はさ、彼のどこが好きなワケ?」
遠山陽奈子「すっ!? なんっで、そういう話になるのかなぁ!?」
大石梨花「だって、彼の笑顔にときめいちゃったんでしょ?」
遠山陽奈子「それは!」
小さい方の満弦が可愛くてつい・・・とはいえず、言葉を濁す。
遠山陽奈子「ちょっと、意外な一面だったから・・・でも、ほんのちょっとだし・・・」
大石梨花「あ~、ギャップにやられちゃったってヤツね」
大石梨花「あるある、そういうの」
大石梨花「あたしもさ、この見た目でメンチ切ったのに、逆に惚れられるパターンあるもん」
大石梨花「たまにだけど」
遠山陽奈子「惚れたわけじゃないもん。 ちょっと可愛いなと思っただけだもん」
大石梨花「陽奈子がそう言うならそういうことにしておくけど~」
遠山陽奈子「本当に違うんだってば!」
大石梨花「はいはい、わかったって。でもさ・・・」
梨花は、ニカッと笑って言葉を続けた。
大石梨花「相手が意外な一面を見せてくれるのって、こっちを信用してくれたみたいで、純粋に嬉しいもんだよね」
遠山陽奈子「そう・・・かも」
遠山陽奈子(っていうか・・・むしろ、それかも!)
私が子供の姿の満弦に胸をときめかせたのは、決して恋愛感情などではない。
遠山陽奈子(野良ネコが初めて手からゴハン食べてくれたとか、引き取ったワンコがすっかりリラックスして嬉しいとか・・・)
遠山陽奈子(そういう感情ってことだよね!)
私は思わず、テーブル越しに身を乗り出して梨花の手をギュッと握った。
遠山陽奈子「ありがとう、梨花! 悩み、解決したかも!」
大石梨花「お? おうっ、ならいいけど」
──と、そこへ。
烏丸陸人「遠山さんと大石さんって、本当に仲がいいんだね」
手を握り合う私と梨花の前に、笑いをこらえながら烏丸くんが現れた。
遠山陽奈子「か、烏丸くん!」
烏丸陸人「もしかして、愛の告白でもしてたとか?」
そう言われて、慌てて手を引っ込める。
遠山陽奈子「ち、違う違う! これは、純粋な友情的なヤツ!」
烏丸陸人「あははっ、わかってるって。 少しからかっただけだよ」
烏丸陸人「ちょっと・・・羨ましくなっちゃってさ」
遠山陽奈子「へ?」
大石梨花「羨ましい、ねぇ」
烏丸陸人「あっ、変な意味はないよ?」
烏丸陸人「ただ僕も、もっと仲良くなれたらなぁと思ってたからね・・・」
遠山陽奈子(それって、私たちとってこと・・・?)
見ると、烏丸くんは柔らかい笑顔を浮かべている。
一瞬だけ視線がぶつかって、烏丸くんはちょっぴり慌てたように梨花のほうを向いた。
遠山陽奈子(もしかして、烏丸くんって梨花が好きなのかも?)
遠山陽奈子(そういえば、烏丸くんが話しかけてくるのって梨花と一緒の時が多いような・・・)
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