二つの鍵と対ワンちゃん

たくひあい

02:親子丼スパイラル(脚本)

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〇走行する車内
ルビー「でね」
  彼女は笑う。
  昔の、様々な話をした。
ルビー「また『親子丼にしましょうねぇー』なわけ」
  佳ノ宮家の事、まつりの事、研究所の事。これからの仕事の事。
  意外と積もる話はあるようで、案外飽きる事も無かった。
ルビー「親子丼食べるのはいいのよ、そのたんびにこっちチラチラ見て来て」
ルビー「毎回気持ち悪くなってきちゃった、もう食卓ひっくり返すとこだったわ」
  今話しているのは、彼女の個人的な思い出話。
  親がある仕事をしていた彼女は、母親が関わっている暴力的な集会があるたびに「夕飯を親子丼にしましょうねぇ」と言われて
  子ども心になんだか傷つき、そのうち親子丼鬱になって・・・・・・というところからの壮大なスペクタクルである。
ルビー「てか親子丼って、親子でドンになる感じがしてサムくない? 普通に鮭とイクラの概念もたまには入れるべきだわ」
まつり「まぁ、親子丼は鳥と玉子ってのも決めつけだしね」
  だんだん話がカオス化していっているが、母親の静かな執着というテーマはなかなかに馬鹿に出来ないものがある。
  親子丼鬱になってしまう境遇にも同情のようなものがあった。
  一緒にやりましょうね、と言われるには重たすぎるものを毎回夕飯時に意識させられながら食事するくらいなら、
  友人とカフェに行く方がマシというのもわかる。
ルビー「んで、親子丼が、『処分決定』で、肉じゃがが『処分実行』、牛丼が『有罪』を示すことになったわけ」
まつり「それだと、明太子は何処に入るの?」
ルビー「そうねぇ・・・・・・、『確定』かしら。それか・・・・・・『裏切り』『スパイ』」
まつり「じゃあ、『おでん』が南側だね」
  目的地までの距離はどのくらいだっただろう。
  他愛ない話をしながら冷房の効いた車内でふかふかの座席を観察していると、程なくして
ルビー「で?」
  ――――と。彼女は発した。
ルビー「あれから、どう?」
まつり「あれから、とは」
ルビー「彼とは、仲良くやれてる?」

〇走行する車内
  彼、とは勿論今膝の上で寝ている少年のことだ。今は穏やかな顔でむにゃむにゃ言っており、あまり直視すると心臓によくない。
まつり「やっとご飯を手から食べてくれるようになった」
  まつりは少年を撫でながらぼんやりと呟いた。ありのままに、本当にその通りの話をする。
まつり「前までは口に押し込んでたんだけどね。自力で、食べないから」
まつり「お風呂とかは自分で入るからいいけどさ」
まつり「あと、ちゃんと服を着てるし、食器を使って食べる事にはもう慣れたと思う」
まつり「廊下を不必要に斜めに歩かないし、意味なく壁登らないようになったよ」
ルビー「それ、人間の話よね」
まつり「あと、固形物しか食べなくて・・・・・・おにぎりとか、ハンバーグとか」
ルビー「それで?」
まつり「サラダとか、カタチの曖昧な物は食べないから、茹でた生野菜」
ルビー「・・・・・・はぁ」
  彼女のため息が車内に響く。

〇混雑した高速道路
  ――――窓の向こうには、車の群れが見える。
  今が夏休み期間とあって、田舎といえどもそれなりに帰省ラッシュのようだったが、
  さすがに都会の人ごみ程ではなく、ごくまれに足止めされる程度だった。
ルビー「あーぁツマンネ。もーっと浮いた話とか無いのぉ?」
  彼女は信号機の時間を待ちながら、ぼやいた。
ルビー「せっかくの可愛い子を捕まえて、あんたが手を出さないなんて、何、世紀末?ハルマゲドン?」
まつり「ごめん、今手が離せない」
ルビー「なんで、暇でしょうよ」
ルビー「ブロック崩し中」
  その瞬間には自分の世界に入っているまつり。
  集中力はまだ余っているので会話できないこともなかったが、彼のことを簡単に括られるのは納得がいかない。
まつり「NATOとの第三次大戦にはなりそうだけどねー」
  会話の傍らも手は動いている。受信メールの数々を開いては削除。
  削除。削除。
  「そういえば最近受信メールを逐一確認して居なかったな」と、ついでにチェックしたのはいいけれど、
  『信じられない!傷付いたから!この人間関係リセット症候群!』
  『都合の悪いことは忘れるんですか?都合いいですねー! 認知症ですかー?』
  ・・・・・・人間関係リセット症候群という罵倒が100件くらい来ている。
  
  ※そんな病気は無い。
  自分の居ない間に一体何があったんだろうか。
まつり「うーむ・・・・・・」
  メモをし続けなくては自分の痕跡が覚えておけないというのはこういうときに不便だな。
  まつりもまた、不安定な自己を引き摺っている。自分の周りの人間等を記憶しておくのが苦手なのだ。
  あれがこうで、これがこうなって・・・・・・とさまざまな事をメモをして読み返すことで日常生活が送れている。

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