二つの鍵と対ワンちゃん

たくひあい

03:お茶会(脚本)

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たくひあい

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〇炎
  ときどき、
  声だけの夢を見る。
  あのときの、夢を見る。
  
  あの日の声を見る。
  「閉じ込めておくことを、好きだって言うのか?」
  ぼくはいつも、守れなくて、ぼくはいつも守ろうとして、ぼくはいつも、
  そう、簡単な事なのに、いつだって言えばよかったのに、何処に行けばいいのかばかり迷って、
  同じ言葉を飲み込んで、足踏みして、だからあの日まで――まつりを連れ出す事が出来なかった。
  何を守っていたのだろう。何を守っているつもりだったんだろう。
  守ることは結局戦う事で、
  壊すことで、奪う事で、殺す事で、
   それなのに。
「貴方は知らないでしょうけど、 あいつは、」
  あいつは
  ぼくの――――

〇走行する車内
まつり「ななとー、起きて起きて」
  そんな声がして、ぼくはやっと自分が寝ていたことに気付いた。
まつり「良かった、やっと目が覚めたんだね」
  目を開けて、まず見たのはにっこりと優しい笑みを浮かべる幼馴染の姿だった。
  幼い顔立ちに柔らかそうな亜麻色の髪。
  真ん丸の大きな瞳はいつも潤んでいて、妖精か何かのようにどこか儚げな雰囲気を醸し出している。
  まだボーっとする気分を引きずったまま、ぼくはいつものように挨拶した。
夏々都「おはよう、マーマレード・大輔・ホライズン」
まつり「おう、おは──」
まつり「そんなオレンジの皮みたいな名前じゃないよ!」
  即座に突っ込まれた。
  まぁ、冗談だが。
夏々都「おはよう、まつりさま」
まつり「うん、おはよ」
  佳ノ宮まつり。それが、ぼくの幼馴染の名前だ。
  性別年齢は不明だが成人しているようで、最近ワケがあって共に暮らしている。
夏々都「・・・・・・」
まつり「どうしたの?」
  しばらく、まつりを見つめたまま硬直してしまった。
夏々都「いや・・・・・・なんでもない」
まつり「ふーん、まぁいいや。ちゃんと起きてくれるかって、心配したけど無事でよかった」
  まつりはいつものように、あるいは数年前のように、にっこりと微笑む。
夏々都「心配をかけたみたいだな」
  ちょうど寝ぼけているうちに頭の中のログが整ってきたところなので、
  ぼくは身体を起こす。「そうだよ」とそいつは頷いた。
まつり「このまま眠ったままだったら、エンバーミング処理を施すところだったんだから」
夏々都「そうか」
  相変わらず・・・・・・何処か独特である。
  まつりのすぐ頭上には知らない車の天井があって、
  辺りを見渡しても知らない座席に寝かされていたっぽさがあるけど・・・・・・
  ぼくはそれまで家に居たような気がする。
  まつりとおはようを交わして、顔を洗ったりして朝食
  を――――
夏々都「えと・・・それで・・・なんだっけ? ぼくは何故、車に居たのですか、此処は?」
  おかしいな・・・・・・記憶が曖昧だ。
  まつりはぼくのか細い独り言に気付かなかったようで
まつり「そういや体は大丈夫? 昨日は寝かせてあげられなかったからね」
  と適当なネタを振って来た。
夏々都「あー・・・・・・大丈夫。今も車の中でよく寝たしな」
  まつりは車を持ってきてないので、これは、御友人のだな。またしても何も知らない夏々都氏は推察する。

〇寂れた雑居ビル
  窓から見える様子から察するに、普段の通学路にする道と反対方面の雑居ビル街のようである。
  こっち側は・・・・・・飲食店が多い。
  奥に行くほど歓楽街に通じていて、それ以前に通学路と反対側だからあまり来ない場所だ。
夏々都「――あの、此処は?ぼくはまたしても何も知らないんだけど・・・・・・」
  もしかしたら、朝食後に倒れてしまったのかも。
   それなら有り得る。
  ぼくはたまに信じられない寝かたをしているとまつりも心配していた。
夏々都「――もしかして、また朝食後に眠ってた?」
  少しハッキリした声で、改めて尋ねてみたところ、まつりは「そうだよ」と平然と答えた。
まつり「もー、急に電池切れたみたいになるからビビるんだからね」
まつり「担いで来ちゃった」
夏々都「・・・・・・悪い」
  どんな担がれ方をしてたんだろう。
  ちょっと気になって聞こうか迷ったがどう担がれていたところで時間は巻き戻せないので意味はなさそうだ。
  などと葛藤するうちに、
  まつりがこほん、と咳払いする。
夏々都「風邪か?」
  ぼくの頬をぐにー、とつまみながらそいつは、店の方を指した。
まつり「そじゃなくてですね」
夏々都「はぁ」
まつり「こちらは今回の、企画。お茶会会場前からの中継です」
  棒読みで盛り上がりながら、
  会場を遠巻きに見る。
  そっか、お茶会か。
  あ。
夏々都「そういや、そんなこと言ってたな」
  朝、そんな話をしていた気がするのを思い出す。
  確か友人とお茶しに行くからついてきて欲しいとか。
まつり「・・・・・・えへへ。楽しみだね」
  まつりは笑っている。
  幸せそうに。
夏々都「――そうだな」
  まぁ、いいかと思った。
  ぼーっとしたまま、体を起こし、引っ張られるがままに車を降りて・・・・・・
  ・・・改めて思うに。
  此処は、駐車場だ。
  店のある区画が目の前に見えているだけで、すぐ入れるわけじゃなさそうだった。
夏々都「それで、店は、どれだ?」
  辺りを見渡していると、まつりは肩が凝ったといわんばかりに伸びをした。
まつり「んーとね、もう少し先だったと思うから、先に歩いてようか」
  わかった、とぼくは頷き、まつりも寄り添って歩く。
夏々都「もう歩けるよ」
  と答えてみたが、まつりはそう? と不思議そうだった。
  入院してたときは車椅子に乗っていたけど、それだって一時的なもので、身体機能には問題はないのだ。
まつり「いや、足よりも頭の方が問題なのだけどね」
  その言い方だと聊か語弊がありそうなんだけど・・・・・・
  ぼくは生まれつき『ある症状』を抱えている。
  単色で表現された直線などが風景と同化してしまい認識しづらい軽度のディスレクシア
  ――それに、自分の自伝的記憶を忘れる事が極端に苦手であるという超記憶症候群。
  でも別にそこまで不便な事も無いというか。
まつり「そう? ここ数週間でやっとまともに廊下を歩いてるくらいなんだし、せめてまつりの居るときくらい、白線の内側に居てよね」
  ・・・・・・無いというか。
  
  ほんとほんと。

〇寂れた雑居ビル
  街のあちこちにはまだ、シャッターの閉まった店が点在していて物寂しかった。
  少し前に流行ったウイルスの流行によって店が営業を自粛したり、閉店、移転を繰り返しているのだ。
  そして今もなお各地に生々しい傷跡が存在している。
  ・・・・・・、
夏々都「ふぁ・・・・・・」
  それについて考えようとしてみたけど、やはりまだ眠い。
  昨夜は確かに夜遅くまで起きていたし、それに寝る時だって酷かったのだ。

〇可愛い部屋
  まつりが訊ねて来て
まつり「んーーーー」
  とか言いながらニヤニヤと笑ってぼくのベッドに入って来て
  思わず蹴り飛ばそうとしてしまった。
  冷たい体温も、近すぎる距離も、寝ぼけていたにしても気持ちが悪くて、唐突にそんな風にされてちょっと傷付いた
まつり「ご主人様って呼んでいいヨ」
  と腑抜けた声で言われて――そんなこと、あの夜にわざわざ言われて、試すかのようで・・・・・・

〇寂れた雑居ビル
夏々都((あれはなんだったんだろう))
  などと、考えていると
「最近、不景気よねー」
  と、背中の方から女性の声がした。
  ちょっとびっくりして振り向くと、真っ赤なネイルに真っ赤なアクセサリーを付けている、目立ちまくる容姿の女性が居る。
夏々都「あ。・・・・・・こんにちは」
ルビー「久しぶり」
夏々都「お久しぶりです」
  なんだ、覚えられていたのか。
  ぼくの方も彼女の名前くらいは知っている。
  確か、ルビーたんと言う名前だった。
  まつりの友人。

〇流れる血
  ――かつて世間を震撼させたルテルア国際空港テロ(主犯:ヤスカワ タカユキ)のメンバーの一人、殺人鬼。
  本当に返り血を浴びても目立たないからこの色なのかは定かではないが・・・・・・
  以前、まつりと研究所を出たときに会ったことがある。
   今回の付き添い相手のようだ。

〇寂れた雑居ビル
まつり「友人って言うか、腐れ縁って言うか」
まつり「お見舞いにも来てたし」
ルビー「そうね・・・・・・あの事件は、傷ましかった」
  と彼女も言いながら、少し悲しそうに頷く。
  だけどすぐに目を三角にしていた。
ルビー「あー、しかしムカつく!あんとき安眠妨害しやがって!」
まつり「それは仕方ないじゃん。母親みたいに怒鳴るの何なの」
ルビー「ドタン!バタン!!」
まつり「なんで騒音立てる演技までするんだよ!いっつもいっつも張り付いてるみたいに騒いで。監視ですか? 内通者でしょ」
  本当に仲良しだ。
ルビー「夏々都君、聞いてよ、この子──」
  ルビーたんがふと、此方を向く。
夏々都「・・・・・・この辺も、まだ閉まってる店とか多いですね」
  ぼくが、会話を切り出そうとしたのと被ったが、彼女は改めて真面目な表情になって頷く。
ルビー「そうね。この前も大阪のなんとかって銀行? が潰れたじゃない。横領とかで。──でもあれって、単に景気だけの問題なのかしら」
  まつりからもそういえばそのような話題はここ数か月で頻繁に聞いたことがあった。
  確か倒産した印刷会社に、銀行、それに法テラス。
  どっかに大怪盗だか怪人だか暗躍してるんじゃないのかというくらい似通った手口で、何故か関西圏に集中していた。
まつり「そうそう。なんか絶対裏に居るよね。裏金とかー。不正献金とかー。心の怪盗団を信じますか?って奴だよ」

〇寂れた雑居ビル
  スマホの地図を見ているルビーたんを先頭に、みんなで雑踏の中を歩く。
  食べ物屋が多いこの地域も、食事時の時間帯からずれているのもあって今は比較的空いていたので歩きやすい。
  和と洋とどっかの国が入り交りつつ奇妙な調和を見せる建物たちを興味深く眺めながら、なんだか世界の縮図だなと思った。
ルビー「今回行く店はね。穴場カフェのお勧めガイドに載ってたのよ。パンケーキが美味しいんですって。一度行ってみたいと思ってたのよね」
  頷いていると横を一足先に店に向かう子どもが通り抜けていく。
「パンケーキ食ーべたい! パンケーキ食ーべたい!」
「ちょっと、みゆき!うるさいよ!」
  やがて、みゆきさんは追いかけてきた母親によってやれやれ、と言う風に引きずられていった。平和な午後の光景だ。

〇古民家カフェ
  昼過ぎていた事もあり、すぐに注文が届く。
  朝ごはんをあまり食べなかったのもあって、結構真剣に食べた。
  ぼくはサンドイッチを頼んだのだが、レタスとベーコンとトマトの相性に感銘を受けていると──
  ふと、店員さんの他に、見慣れない従業員の姿が目に留まった。
  最近流行っているというロボット店員だ。
  席と席の間を行き来して、注文をとったり運んだりしている。
夏々都「へぇ・・・・・・」
  なんか近未来感があるな。
  さっきからテーブルの上に置いてあったメニュー表と一緒にあるパンフレットを手に取る。
  ――「お話してね!」
  対話型・給仕ロボット『対ワンちゃん』シリーズ、
  ココちゃん。
  さっきから静かに目の前の席に座ってスコーンを食べていたルビーたんが、にやりと笑う。
夏々都「・・・・・・何か?」
ルビー「そのロボット。今のうちに見ておいた方が良いわよ」
  彼女は言う。
ルビー「今後見納めになるかもしれないから」
  唐突にどうしたというのか。
  このロボット、最近出たばかりじゃないか。学校でも人気だっていうし──
夏々都「なんか、あったんですか」
  聞いてみると彼女は嬉しそうに笑顔を向けてきた。
ルビー「そ。聞いてよ。あれね、 今権利問題で荒れてんの。 この子なんか、『その手の話題は聞きあきた』つって」
  この子――の視線の先を見ると、まつりは静かに麦茶を飲んでいた。なるほど、会話には加わらなさそうだ。
夏々都「権利・・・・・・盗作ですか?」
ルビー「いやそれがなんというか、日本のメーカーが最新の技術で特許を出願したものの、某国のメーカーが先に出願してたって話ね」

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