01:ハワイアンブルーの悲劇(脚本)
〇一軒家
◇7月某日。日本的には、夏。
過去最高だという今年は、とにかく暑かった。
昼間の蝉の大合唱を聞きながら、憂鬱に佳ノ宮まつり(かのみやまつり)は小さくため息をついていた。
まつり「あっつい・・・・・・」
確か気温は30度を超えていたはずだ。
こんなに暑いと、暑さに対するどうしようもない苛立ちを思わず外の生き物合唱団に八つ当たりでぶつけたくなってきてしまうが、
そんなに暇があるわけでもない。これから出かける用事があるのだ。
まつり「(せめて、帰ってくる頃には、気分も変わっているといいのだけど・・・・・・)」
といよいよドアに手を掛けた瞬間。
上着の端末が鳴り響いたので、半ばうんざりしながら上着から端末を取り出した。
まつり「はい。もしもし? 今ね、出掛けるとこで」
この忙しいときに一体誰なんだろう。
電話ってなんでいつも何かのタイミングと重なるんだろう。
そんな事を思いつつ、何か言いかけたとき――――
??「やぁマック」
電話の向こうから『彼女』の声がした。
まつり「違いますー。まつりさんですよ」
まつりは淡々と返す。
そういえばなんでマックなんだろうと思ったが聞いてどうという訳でも無い。
??「単刀直入に言うと、実はこっちであんたらの話がさ」
まつり「うん?」
??「風の噂で回って来てるんだけど」
単刀直入に、『彼女』は、言った。
あんたらの話という漠然とした言い回しのが引っ掛かる。
一体なんの話だ、何が回って来ているのか。
まつり「えっと、何が」
ドキドキしながら訊ねると、彼女は語る。
ある子どもが『ある事件』に巻き込まれた事。それによって家族が居ない事。
口封じに狙われる目撃者の少年を引き取って暮らしている事。
以前、階段から転げ落ちた事。
それにまつりが好きなポテトチップスの味に、
おじさんが無断で使い込んだ資金の事まで――――?
??「どう? この前バーにいた女から聞いたんだけど」
聞けば聞くほどに確かにそれらはほとんどまつりや知人のことだった。
監視した中身や、それに嘘を盛ったような内容を、知らぬ間に誰かに吹聴されている。
まつり「・・・・・・な、なんで、誰から」
??「犬、って名乗ってたわね」
まつり「犬?」
??「そう、確かヤハタの犬だって」
まつり「・・・・・・」
使用人を犬と呼ぶ主人は珍しくないが、自ら名乗っていると話は違ってくる。
有り体に言えば「関わってはいけない種類の人間」、人権を放棄した下層のことが多いのである。
犬、と公衆の場で名乗っている自体が異様なのだ。
まぁそもそも現代ではSM以外に殆ど使う人もいないので、
もし名乗っている、あるいは犬という呼び方での対応を強要されているとなるとかなり治安の悪いところなのか、暴力の線がある。
??「話に関してはあんたから聞いたそうよ。内情とか・・・・・・大っぴらに話して大丈夫なの? 探されてるんでしょ」
まつり「いや、知らないけど。入院してたし」
??「・・・・・・そう。やっぱりあの女・・・・・・」
まつり「え?」
まつりは、思わず聞き返す。
??「いや、屋敷が無くなってから、がめつい奴が後見人捜しに奔走してるって噂もあるのよね」
まつり「後見人、って。屋敷はもう──」
まつり「・・・・・・って、そうだ、時間!」
慌てて通話を切ると、まつりは歩き出した。
遠くに海の見える道を、図書館沿いへと進みながら、ぶつぶつと独り言を呟く。
嫌な気分だ。
本当に気持ち悪い視界だ。
まつり「今から出かけるって時に、急に不安なフラグ立てないで欲しいよねー」
まつり「やっぱりスーパーとラヴァーズが話したのかなー」
戸締りしててもどっからか見張ってるって事だ。スパイじゃないか。
山で言えば、登頂おめでとうございますというか
こんな事ばかりだ。
本当に。
まつり「ね。ナナトはどう思う?」
先へと急ぎつつ、端末を持って居ない手で、もう片方の腕――――自分のすぐ下に目線を向けた。
まつり「・・・・・・っと、まだ寝てたんだ」
その腕には、すやすやと寝息を立てる黒髪の少年が抱えられている。
これから彼を連れて車に乗るのだけど・・・・・・
しばらく坂道だし、横抱きではきつそうだからと、背負い直す。
まつり「よいしょ、っと。とりあえず、約束、急がなきゃね」
それから片手でメールを送信。
今何処(*'ω'*)? 外出たよ
彼女からの返信はすぐに来た。
近くの駐車場
〇郊外の道路
家の近くの駐車場と言えば、シティバス乗り場の裏にあるそれが真っ先に思いつく。
少し歩いた坂の途中に金網のフェンスに囲まれた一角があり、そこに月極駐車場の看板が括りつけられていて──
その白線で区切られた一番手前のスペースに、本日、昨日はまだ無かった真っ赤な車が停まっていた。
〇駐車車両
この暑い季節に、なんだか暑苦しい、と失礼な事を思いながら
まつりはその近くまで向かう。
車窓の奥には女性が居て──
ルビー「うーん、アプデ以降、冒頭からぴったり揃えるのって、無理なのかなぁ」
まつり「・・・・・・アプデ?」
「やっぱりこの白い髪の子が『キャフフ』って笑ってるくらいから演出が変わるのよねー」
ニヤニヤとした笑みを浮かべているが、此方には気付いていないようで視線を合わせてはくれないようだ。
まつり「おーい」
まつりは、もう一度、声を掛けてみた。
まつり「おはよー」
・・・・・・・・・・・・、反応が無い。
「はぁーあ、昔は結構、画面見ながらこっちに沿わせるように出来たんだけどなぁ。損した気分」
単語から察するに此方からは画面が見えないけど、パズルゲームか何かだろう。
よほど暇だったのか、熱中してるのか。
もう少し強気でいかないと気付いて貰えなさそうだ。
まつり「なーにーがー!」
まつりは思い切ってコンコン、と車を叩いてみた。
「ゆに子ファンはいきなり縁を切られたーって言ってるけど、これ、ゆに子が商業とダブスタを隠してたのバレたシーンなんだよね」
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