元騎士の旅物語

にーな

9.闇と月(脚本)

元騎士の旅物語

にーな

今すぐ読む

元騎士の旅物語
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇神殿の門
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
ギュネッシ「目が覚めたかい?」
  するりと俺の頬を撫でる手。
湊 月冴「・・・・・・兄上様」
ギュネッシ「ああ、やっと目覚めた」
  目の前には嬉しそうに微笑む慎理基兄上様・・・・・・つまり、ギュネッシ。
  代々誕生石と呼ばれるモノに宿る俺とは違い、人から人へと宿る兄上様。
  恐らく、慎理が記憶と魔力を封じられた俺の友人になったのも、兄上様の策略なのだろう。
  眠っている間に兄上様が何かしたのか、俺はセイアッドとしての記憶を思い出した。
  そして、魔力も少しずつ戻って来ている。
  母さんが自分の命と引き換えにしても、結局は封印は破れてしまったな。
  俺の体には、赤い鎖が張り巡らされていた。
  此れは・・・・・・昔・・・・・・人が俺を利用した時のもの。
  俺の力を無理矢理引き出す物で・・・・・・それで、自業自得の結果になったんだったな。
湊 月冴「・・・・・・何が目的ですか」
ギュネッシ「ん?」
湊 月冴「兄上様が私に執着する理由が分からないのです」
ギュネッシ「其れはお前が愛しい弟だからに決まっているだろう?人間共に利用された哀れな弟」
ギュネッシ「私の唯一・・・・・・私にはお前以外要らない」
  その言葉にゾッとする。
  まさか、兄上様の目的は・・・・・・
湊 月冴「私の破壊の力?」
ギュネッシ「ふふふ」
  眠っておられる天上の父上様に与えられた能力。
  制する為に、行き過ぎたものを破壊する力。
  そして、破壊したものを糧に再生する。
湊 月冴「まさか、この世界を破壊するおつもりですか?」
ギュネッシ「ああ、そうさ!こんな人間に毒された世界そのものを破壊し、新たにお前と私だけの世界に再生し直す!」
湊 月冴「っ・・・・・・!!」
  いかに兄上様といえど、世界の破壊と再生は出来ない。
  其れは私の能力・・・・・・だから、この赤い鎖で捕えているんだろう。
湊 月冴「・・・・・・何故、彼は兄上様に協力・・・・・・」
湊 月冴「ガァッ!?」
  赤い鎖が輝き、激痛が走った。
ギュネッシ「私の前で人間の話をするな」
湊 月冴「兄上・・・・・・様・・・・・・」
  あの時・・・・・・遥か昔に私が人間の為に身を犠牲にしたのが間違いだったか。
絡珠「失礼します」
ギュネッシ「・・・・・・どうしました?」
  彼へと振り返る兄上様は、顔を晒した状態の最高魔術師の姿。
絡珠「魔術師達からの連絡です。騎士達が動き出したと」
ギュネッシ「今行きます。絡珠、大丈夫だとは思いますが見張りを」
絡珠「はっ」
  兄上様が出て行く。
  ・・・・・・ああ、此処は兄上様を祭った遺跡か。
絡珠「・・・・・・随分大人しいな」
湊 月冴「・・・・・・抵抗するだけ無駄だ。遠い昔に経験している」
  抵抗すればするほど、この力は周囲に牙をむく。
湊 月冴「空絡珠・・・・・・其れが本来のお前なんだろう」
絡珠「・・・・・・ああ。とはいえ、月咲が死んだ時に絡珠も死んだようなものだ」
湊 月冴「だから翡翠と?」
絡珠「継母に追い出されたのも丁度良かったからな」
  静かに私の言葉に返す翡翠、基絡珠。
  彼は私を見詰めた。
絡珠「・・・・・・俺は、たった一人の友人だった月咲を取り戻す為に、解放する為に今回の件を引き受けた」
絡珠「その為にお前を村に入れた・・・・・・なぁ、何でお前・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・絡珠?」
絡珠「何でそんなにいい奴なんだよッ」
  彼の表情が歪む。
絡珠「もっとお前が・・・・・・他の貴族みたいな奴等だったら、俺はお前を本気で恨めたのに」
湊 月冴「お前は私を恨む権利がある。お前の友人の体を奪い・・・・・・」
湊 月冴「兄の言いなりとなって、この世界ごとお前やお前の妹に害をなそうとしているのだから」」
絡珠「───え」

〇黒

〇荒野
  月の皆様を先頭に、私達は月冴様の元へと向かう。
東 大和「!おい、椿桔!こっちだ」
椿桔「!東隊長」
  遺跡の前に転移すると、山の隊長殿が居た。
  彼の誘導で、騎士達の間を抜ける。

〇戦地の陣営
桔梗「騎士さん沢山いる」
環 晴彦「おや、元気そうだね」
桔梗「あ、あの時の・・・・・・」
  連れて来られたのは、旦那様を初めに隊長の皆様が集まっている所だった。
湊 月夜「・・・・・・椿桔、ご苦労だった」
椿桔「いえ、申し訳ありません。月冴様をお守りする事が出来ませんでした」
湊 月夜「いや、我々もまさか本人が出向くとは思っていなかった」
椿桔「・・・・・・月冴様を取り戻しに行きます」
湊 月夜「・・・・・・ああ」
  例え、この身がどうなろうとも・・・・・・あの方を取り戻す。
湊 月夜「・・・・・・今、この遺跡を騎士団が取り囲んでいる。そして、五分後に抗議という名の攻撃を仕掛ける」
湊 月夜「お前達は月と共にその隙を突いてあの子の元へ行け」
椿桔「はっ」
湊 月夜「・・・・・・必ず共に戻れ。お前の身に何かあれば、あの子が悲しむ」
椿桔「!・・・・・・はい。必ずや共に」
  お見通しだな、旦那様は。
  私の言葉に頷いた後、旦那様は桔梗様を見た。
湊 月夜「・・・・・・お前が、件の桔梗か」
桔梗「!」
椿桔「桔梗様、あの方は月冴様のお父上に当たる方です」
桔梗「お父さん?」
  その言葉に旦那様がピクリと反応する。
  ああ、そういえば月冴様は旦那様の事を尊敬して、桔梗様によくお話されていたからな・・・・・・。
湊 月夜「・・・・・・お前の兄を取り返すのを手伝ってくれるか。新たな息子よ」
桔梗「!は、はい!」
  桔梗様が笑顔で頷くと、旦那様も優しい顔をされた。
  月冴様にしか見せない笑顔。此れで、桔梗様の将来も決まった・・・・・・あとは、月冴様をそのお隣に戻すだけ。
湊 月夜「・・・・・・そして、その娘が空の鈴芽という者か」
空 鈴芽「・・・・・・初めまして。私は・・・・・・」
湊 月夜「元々、先代当主の燕とは親しくし、息子の事も知っていた」
空 鈴芽(燕・・・・・・確かお兄ちゃんのお母様のお名前・・・・・・)
湊 月夜「其れを見抜けなかったのは、私の落ち度だ・・・・・・お前が気にする事では無い」
  ・・・・・・其れは私の落ち度でもある。
  普段から鍛錬に騎士の仕事に追われ、友人と言えば殿下とあの男くらい。

〇草原
  だから、この旅で出来た友人である彼に気を許してしまった。

〇戦地の陣営
鏡 華絵「螢」
皇 螢「っ、はい」
  その時、華の隊長である鏡隊長が彼女に声を掛ける。
鏡 華絵「今の貴女は誰?」
皇 螢「私は・・・・・・騎士『華』の一人、皇螢です」
鏡 華絵「そう・・・・・・なら、隊長として命じます。貴女の恩人である彼を取り戻しなさい」
皇 螢「御意!」
  騎士団流の敬礼で返す螢。
椿桔「・・・・・・そういえば、王族は?」
湊 月夜「沈黙している。冨の報告では、騎士団と魔術師両方が居ないこの状況でも傍観を決めているとの事だ」
  その言葉に螢を見た。
  其れに螢は首を横に振る。
皇 螢「すまないが、僕にも父上や兄上達の様子は分からない。連絡手段も絶ってしまったし」
椿桔「・・・・・・沈黙しているなら、今の内に」
湊 月夜「ああ。お前達のサポートは柊がする」
湊 月夜「・・・・・・解散」
  その言葉に桔梗様を抱えて駆け出した。

〇枯れ井戸
  私の前を月の方々が先行する。
  そして、後に彼女たちが続いた。
橘 恵哉「此処から」
椿桔「承知」
  遺跡の裏側。
  其処に井戸の様な物があり、月の指示に躊躇いなく飛び降りる。

〇坑道
桔梗「!井戸じゃない」
椿桔「どうやら井戸に見せ掛けた通路の様ですね」
  私達が底に着くと、上から衝撃音がした。
  どうやら攻撃が始まったらしい。
椿桔「・・・・・・月冴様、今参ります」

〇要塞の回廊
  通路を駆け抜ける。
  魔術師連中は騎士団の方に手一杯の様だ。
橘 恵哉「!待て」
椿桔「!」
  その時、先頭を走っていた橘副隊長が足を止めて警戒した。
橘 恵哉「何者だ」
絡珠「・・・・・・・・・・・・」
空 鈴芽「!お兄ちゃ・・・・・・ん・・・・・・」
  物陰から出て来たのは・・・・・・翡翠。
  その姿に怒りに包まれる。
椿桔「翡翠・・・・・・いや、絡珠!!」
橘 恵哉「待て椿桔!」
  制止を聞かず、絡珠の首目掛けて寸鉄を突き付けた。彼は其れに対し、ナイフで弾いてくる。
空 鈴芽「お兄ちゃん!」
絡珠「・・・・・・・・・・・・」
皇 螢「翡翠・・・・・・」
絡珠「・・・・・・・・・・・・」
  鈴芽と螢の声に無言で返して来た。
橘 恵哉「空の一族の絡珠、だな」
絡珠「・・・・・・ああ」
橘 恵哉「悪いが、此方は急いでいる・・・・・・邪魔をするなら、容赦しない」
  橘副隊長が睨みながら言うと、彼はナイフを下ろす。
椿桔「・・・・・・どういうつもりだ」
絡珠「・・・・・・何故、あの男を救おうとする」
橘 恵哉「・・・・・・我が部隊は、隊長に拾われた者ばかりだ。お前が隊長を憎んでいたとしても、我々にとってあの方は恩人だ」
絡珠「・・・・・・・・・・・・」
桔梗「・・・・・・翡翠、あのね・・・・・・月冴は凄く優しいよ。其れは、翡翠も知ってるよね」
絡珠「・・・・・・ああ、知っているさ・・・・・・月冴は凄くいい奴だ」
絡珠「・・・・・・だけど、俺にとっちゃ月咲もいい奴だったんだよッ」
  絡珠が桔梗様を見詰め返しながら、搾り取る様な声で返した。
  月咲様の方は私は知らない。
  私が出会ったのは、あくまで月冴様だ。
絡珠「お前達に分かるかよ。親友が突然別の何かに変わっちまった俺の気持ちなんて」
桔梗「分かんない・・・・・・僕が出会った時には、月冴だったから」
絡珠「俺にとっちゃ、彼奴は俺の親友の仇だ」
桔梗「其れだけじゃないよね」
絡珠「!!」
桔梗「月冴は、翡翠の友達だったでしょ?だから、迷ってるんだよね?だから、僕達の所に来たんだよね?」
  思わず桔梗様を見る。
  その目は、何時もの純粋なものでなく、透き通った・・・・・・見通す様な瞳だった。
桔梗「月冴は凄くいい人だから」
絡珠「・・・・・・煩い」
桔梗「絡珠の親友だった月咲の事も・・・・・・本当はとっくに・・・・・・」
絡珠「煩い!!」
椿桔「!」
  絡珠が撃って来る。
  其れを苦無で弾いた。
絡珠「俺は・・・・・・俺は・・・・・・」
桔梗「僕は月冴を取り戻すよ。月冴に、この世界を壊させちゃいけない」
絡珠「・・・・・・俺に勝ってから言え」
桔梗「うん、分かった」
  その言葉に、私達は其々構える。

〇黒

〇草原
  遠い昔。
  天上の父上様が眠られた後、俺は人に混ざって繁栄を見続けた。
  兄上様も其れは一緒だった。
  初めは他の生き物や自然と共存し、穏やかだった人間達。
  だが、何時の頃からか其れが変わってしまった。人間は欲を求め、次々と破壊し奪っていく様になってしまった。
  俺は、人間達を止めようと必死だった。
  兄上様は早々に人間を見捨ててしまった。
  だが、俺はもう少し待ちたかったんだ。
  欲に溺れるのだけが人間じゃないと信じて。
  その頃には、俺はもう人間を愛していたから。
  俺だけじゃなく、俺と共に来てくれたエルフ族、そして俺の言葉に賛同してくれた人間達も一緒に来てくれた。
  俺はエルフ族に安寧の地を、彼の人間達に俺の名前でもある月の名前を与えた。
  そうする事で、彼等に力を与え、護る事が出来た。だが、其れを見ていた人間達に、俺は捕らえられてしまった。

〇祭祀場
  人間達は独占する為に俺の破壊の力を無理矢理引き出させ、自分の敵を滅ぼそうとした。
セイアッド「止めろぉお!!」
  俺は赤い鎖に抵抗した。
  其れが結果的に俺を捕らえた者達を死なせてしまった。
セイアッド「止めなくては・・・・・・」
  其れでも、人間の戦いは止まらなかった。
ギュネッシ「此処までした人間達をまだ見捨てないのか」
セイアッド「俺は・・・・・・人間を信じたい・・・・・・」
ギュネッシ「お前を利用し傷付けたのだぞ!!私は・・・・・・人間を許さない」
  兄上様は人間を見捨てる処か滅ぼす事を決めてしまった。
  兄上様も、戦いも止めないといけないのに、俺自身疲労してしまい動けなかった。
  そんな俺を見たエルフ族が覚悟を決め、己の姿を変えて人間達に向かっていった。
セイアッド「お前達・・・・・・!!」
  そんな覚悟に俺も疲労した体を動かし、魔獣を生み出して放つ。
  この魔獣は聖獣となった者達を護り、戦いで汚染されてしまった地を治す能力を持たせた役割を持たせた。

〇神殿の門
  其れに対し、兄上様は魔術を人間達に与えてしまった。
  魔術は術式を組み、己の魔力を使う事で負である穢れを体内に貯め込んでしまう。
  俺が其れに気付いたのは、穢れを貯め込み過ぎた人間達が次々と魔物と化したからだ。

〇草原
  俺は直ぐに魔術を使うのを止めようとしたが、俺を敵視していた人間達は聞く耳を持たなかった。
  魔術で俺の味方が傷ついていってしまうのもあり、俺は魔法を味方達に教えた。
  魔法陣を描き、万物に宿る精霊の力を借りて行使する。だから、体に影響はない。
  そして、魔物と化した者達を従え残った人間を滅ぼそうとする兄上様と戦う覚悟を決めた。

〇神殿の門
セイアッド「兄上様!俺はこの世界も人々も愛しています!だから、貴方を止めます!」
ギュネッシ「何故だ!?お前を傷付けたこんな世界は要らない!全て壊して再生させる!!」
  俺は護る為に、兄上様は壊す為に、俺達は戦った。
  だが、同じ位父上様に力を与えられ、全く異なる力を持つ俺達の戦いは拮抗し、やがて互いに力を使い果たした。
  その頃には、魔物は討伐されたが全ての存在がボロボロになっていた。
  だから、俺は自分の責任として、ボロボロになってしまった物を俺が破壊した事にして其れを使い、世界を再生した。
  だが、其れが俺の残った最後の力だった。
  自分の器を犠牲にして使った事で俺は魂ごと消滅する所だった。
ギュネッシ「セイアッド!!!」
  兄上様の叫び声。
  其れを聞いた直後、俺はとある石に封じられた。

〇水の中
  魔力に満ちた石により、俺の魂までは消滅しなかったが・・・・・・
  今度は兄上様の器が崩壊した。
  直ぐに兄上様は近くに居た人間に宿る事で魂の消滅を防いだ。
  その戦いは此れで終わった。
  人間はこの戦いを無駄にさせまいと戦いを止め、俺が再生した世界を慈しんでくれた。
  だが、人間は時が過ぎれば忘れてしまうもの。俺が力を取り戻した頃には、また人間は戦いを始めてしまった。

〇草原
  其れに兄上様は魔術を与える事で魔物にしてしまい、俺は人間が必要以上に魔術を使わせない為に制御石を与え
  人間達による汚染を制する為に魔獣を使い、破壊しては再生をした。
  其れを何度も繰り返した。
  軈て兄上様はその繰り返しに世界を恨む様になり、俺自身もその繰り返しに疲れていった。

〇森の中
  そんな矢先に出会ったのが、セオだった。
  セオは俺を色んな所に連れ出し、俺との思い出を作っていった。
  セオだけが、俺に無理をして俺の役目をしなくてもいいと言ってくれた。
  其れは嬉しかったが、俺は其れでも役目を果たした。

〇菜の花畑
  そして、次に目を覚ました時・・・・・・俺は人間の元にいた。
  彼等は月の名を冠していたのもあって、俺の味方になってくれた者達の子孫だと分かった。
  その一族の子供は、セオ同様に連れ出してくれた。
  思い出を・・・・・・作る筈だった。
  だが、あの日、あの子を死なせてしまった。
  いや、死なせたくなくて・・・・・・俺自身があの子に成り代わってしまったんだ。
セイアッド「俺は・・・・・・俺など・・・・・・」
  最初から居なかった方が良かったのかもしれない。
  俺が居たから、戦いが激化し、無駄に多くの血を流させてしまったのかもしれない。
セイアッド「何故・・・・・・俺を生み出してしまったのですか・・・・・・父上様」
  俺は・・・・・・もう疲れた。
  俺がセイアッドに戻った事で、月冴も死んだ様なものだ。

〇神殿の門
湊 月冴「おれは・・・・・・」

〇黒

〇要塞の回廊
  流石に少数精鋭の月と私達を相手にして、絡珠は勝てなかったらしい。
  絡珠は膝をついている。
桔梗「教えて、翡翠。月冴は何処に居るの?」
絡珠「っ、俺は空の絡珠だ・・・・・・魔術師を護り、有益にする為に・・・・・・」
桔梗「だから、僕は翡翠に聞いてるんだよ。僕の仲間で、月冴の友達の翡翠に」
  桔梗様の言葉に・・・・・・絡珠は深く溜息を吐いた。
帷 翡翠「本当に勘弁してくれ・・・・・・俺のキャラじゃねぇっての」
空 鈴芽「お兄ちゃん・・・・・・」
帷 翡翠「悪かったな、鈴芽・・・・・・本当は空絡珠なんざもう居ねぇってのに」
橘 恵哉「空の一族は代々魔術師を輩出し、魔術に人生を掛ける一族」
橘 恵哉「・・・・・・だからこそ、最高魔術師に従う。そして、本来なら其れを背負うのは鈴芽殿だった」
空 鈴芽「!私の・・・・・・代わり?」
  その言葉に彼は苦笑する。
椿桔「・・・・・・何時からです」

〇村の広場
  あの村で気絶した時に最高魔術師が接触してきてな

〇要塞の回廊
椿桔「成程な」
皇 螢「・・・・・・翡翠」
帷 翡翠「!」
  スパァアン
「・・・・・・・・・・・・ぇ」
  その時、螢が思いっ切り彼の頬を引っ叩いた。
皇 螢「鈴芽の事もあるから、此れで済ませてやる」
帷 翡翠「・・・・・・・・・・・・あ、はい」
空 鈴芽「じゃあ・・・・・・私も」
帷 翡翠「え」
  ドゴン
帷 翡翠「~~~~~っ」
「うわぁ・・・・・・」
  鈴芽が思いっ切り杖で頭を叩いた。
  ・・・・・・鈍い音したなぁ。
桔梗「えと、えと、ぼ、僕も?」
椿桔「・・・・・・まぁ、今はいいでしょう。今は月冴様の元に案内して頂かねば」
帷 翡翠「あ、ああ」
  ・・・・・・戦闘でボロボロな上に頬が赤く頭にたん瘤。
  うん、後回しにしよう。
  後でまたボロボロにしてやる。
帷 翡翠「・・・・・・此方だ」
  翡翠が私達に背を向けて駆け出した。
帷 翡翠「・・・・・・彼奴は、最高魔術師の言う通りにするらしい」
椿桔「え?」
帷 翡翠「抵抗しないまま、世界を壊すそうだ」
皇 螢「世界を・・・・・・」
空 鈴芽「壊す・・・・・・やっぱり、セイアッドが壊す者、なの?」
帷 翡翠「・・・・・・どうだろうな。少なくとも壊す力は持ってるらしい」
  セイアッド、か。
  月冴様がセイアッドで・・・・・・この世界を壊す。だが、其れは・・・・・・月冴様なら絶対に望まない事。
  セイアッドと月冴様なら、私は月冴様を取る。例え、月冴様がセイアッドとして諦めている状態でも、月冴様の願いを通す。
帷 翡翠「・・・・・・お前等にとって、月冴はどんな存在だ」
  ふと、翡翠が此方を見ないまま聞いて来た。
椿桔「私にとっては、月そのものですね」
帷 翡翠「月?」
椿桔「私に光を与えて下さった。強過ぎず、優しい光を」
帷 翡翠「・・・・・・それなら、月咲は太陽だったな」
椿桔「私は、私の月を取り戻す為に動きます」
帷 翡翠「俺は、俺の太陽を取り戻そうとしてたのかもな。けど、迷ったり強制されたりした時点で俺の負けだな」
  月と太陽、か。
  太陽と言えば・・・・・・
椿桔「ギュネッシ」
帷 翡翠「?」
椿桔「まさか、慎理殿がそういう存在だとは思わなかったです。彼と最高魔術師は違う存在だと思っていましたが・・・・・・」
要 彰久「・・・・・・確か、神話では人に宿るのが破壊する者で、石に宿るのが護る者じゃなかったか?」
  要殿の言葉にハッとする。
  なら、破壊を望んでるのはギュネッシ?
  セイアッドを其れを阻止しようとしていた?
椿桔「・・・・・・ああ、もう・・・・・・訳が分からない」
桔梗「うん、頭一杯一杯・・・・・・もう、月冴を取り戻してからにしよう」
椿桔「・・・・・・賛成です」
  兎に角、私達は月冴様を取り戻す為に走った。

次のエピソード:10.悲劇

成分キーワード

ページTOPへ