元騎士の旅物語

にーな

10.悲劇(脚本)

元騎士の旅物語

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〇神殿の門
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・?」
  遠くから誰かが来る音がする。
  先程絡珠が出て行ったが・・・・・・戻って来たのか?
椿桔「月冴様!!」
「月冴!!」
「隊長!」
「隊長!」
  入って来たのは、月冴の仲間と部下達。
  月冴の、だ・・・・・・俺の、セイアッドのじゃない。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
椿桔「お迎えに上がりました」
橘 恵哉「今、解きますね」
湊 月冴「近寄るな」
「!」
  自分でも、思っていた以上に冷たい声が出た。
湊 月冴「何をしても無駄だ。此れは人間如きの力では解けない」
橘 恵哉「しかし!」
要 彰久「そのままじゃ無理にでも力を使われてしまう」
湊 月冴「だから何だ・・・・・・・・・・・・俺はもう疲れた。お前達人間の為に兄上様と戦い続けるのは・・・・・・」
桔梗「そんなの月冴らしくない」
湊 月冴「月冴はもう居ない。俺はセイアッド・・・・・・制する闇の子」
桔梗「月冴は月冴だよ」
湊 月冴「・・・・・・っ」
  桔梗が真っ直ぐに俺を見て来る。
  その瞳はまるでセオの様だった。
  ・・・・・・記憶は無くとも、同じだもんな。
湊 月冴「・・・・・・今すぐ戻れ。この赤い鎖は・・・・・・」
ギュネッシ「お前達を破壊するのだから」
「!!」
ギュネッシ「そうだろ?愛しの弟」
湊 月冴「兄上・・・・・・様・・・・・・」
  気付くと、兄上様が俺の隣に居た。
  そして俺の髪に触れる。
ギュネッシ「やっぱり人間は信用出来ない。此処で見張る様に言った筈だけど?絡珠」
帷 翡翠「・・・・・・悪ぃが、俺は翡翠なんでな」
ギュネッシ「そう。まぁ、どうでもいい」
ギュネッシ「・・・・・・もう直、外の魔術師は魔獣と成り果てる。そうなれば如何に騎士団と言えど、数で負けるだろう」
ギュネッシ「・・・・・・本当に醜いな。同じ人間同士殺し合う姿は。お前もそう思うだろう?」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  人間同士を争わせているのは・・・・・・
橘 恵哉「そうさせているのはお前だろう!」
寿 瑠威「あんたのその悪趣味に!」
寿 瑠嘉「俺達の隊長巻き込むなっつーの!」
筧 紫苑「返して貰うよ」
要 彰久「うむ。その方は我等の大切な人なのでな」
湊 月冴「・・・・・・恵哉・・・・・・瑠威、瑠嘉・・・・・・紫苑・・・・・・彰久・・・・・・」
  思わず名前を呼んでしまった。
  直後、横から感じる殺気にハッとなる。
ギュネッシ「人間の分際で・・・・・・我が弟を誑かすか」
湊 月冴「っ逃げろ!!」
ギュネッシ「ならば、その身で受けよ。お前達の隊長とやらの力を」
湊 月冴「ぁああああ!!」
  赤い鎖が光り、体に激痛が走った。
  そして、強制的に発動する力。
ギュネッシ「此れが、再生を齎す破壊の力!」
  意識が真っ白になる。
湊 月冴「・・・・・・っ・・・・・・か・・・・・・はっ」
  意識が戻った時には・・・・・・自分の体すら支えられない程の脱力感に襲われた。
  其れに加え、少しでも体を動かせば激痛が走る。
湊 月冴「・・・・・・!!!」
  何とか顔を上げれば・・・・・・倒れている部下と仲間。
  信頼し、俺について来てくれた部下が、大切だと思っていた仲間に覆い被さる様に倒れていた。
湊 月冴「ぁ・・・・・・あああああ!!また俺の所為で!!俺の所為で人が!!俺が、俺が・・・・・・!!」
桔梗「月・・・・・・冴・・・・・・!!月冴!!」
  ききょう・・・・・・?
  飲まれそうになった思考の奥で、桔梗の声がした。見れば、桔梗が紫苑の下から這い出て来ている。
  桔梗だけじゃない。恵哉の下から椿桔が
  瑠威の下から鈴芽が
  瑠嘉の下から螢が
  彰久の下から翡翠が這い出て来た。
湊 月冴「まさ、か・・・・・・」
ギュネッシ「庇っただけで生きている、だと?・・・・・・防御盾か、小癪な」
  本来隊に一つ渡される防御盾も隊員一人一人が持っていたらしい。
  その上で庇い、彼等を助けた・・・・・・?
  だが、それでも・・・・・・
桔梗「月冴を・・・・・・放して!!」
  桔梗から強い光が放たれた。
  此れは、魔法・・・・・・セオに教えた・・・・・・
ギュネッシ「馬鹿だな。この鎖は破れない」
桔梗「月冴!!諦めないで!!お兄さん達の為に!!」
湊 月冴「・・・・・・!」
  桔梗に仲間が触れる事で、石が光り、更に力を与える。
  『『『『『隊長!』』』』』
  動かない彼等の声も聞こえた気がした。
湊 月冴「・・・・・・っ」
???「・・・・・・ハァッ!」
湊 月冴「!」
  ガキィイン
  誰かが鎖に斬りかかった。
  バキィイン
  直後、壊れないと思っていた鎖が壊れ、その誰かに受け止められる。それと同時に兄上様が一瞬で遠退いた。
湊 月冴「・・・・・・騎士団長」
湊 月夜「・・・・・・息子を頼む」
椿桔「は、はい!」
  騎士団長・・・・・・父さんが俺を椿桔へと預ける。そのまま父さんは兄上様へと向かって行った。
桔梗「月冴・・・・・・」
椿桔「月冴様・・・・・・」
  俺の目は、倒れて動かない彼等に向けられる。
橘 恵哉「た・・・・・・い、ちょ・・・・・・」
湊 月冴「!恵哉!!」
  僅かに指を動かした恵哉。
  それに、椿桔が彼の側に下ろしてくれた。
橘 恵哉「隊長・・・・・・私を・・・・・・私達を・・・・・・見つけてくれて、ありがとうございました・・・・・・」
湊 月冴「動くな!今動けば・・・・・・」
  既に動かした指が黒く、ボロボロと落ちていく。
橘 恵哉「冤罪で・・・・・・嵌められた私を・・・・・・隊長は信じて・・・・・・拾って下さった・・・・・・」
湊 月冴「当たり前だ!お前は仲間を裏切る様な男じゃない!」
湊 月冴「其れに、俺と違って魔術師になれたのに、俺を選んでくれた!お前を信じるのは当然だ!」
橘 恵哉「其れが・・・・・・嬉しかった・・・・・・のです・・・・・・貴方は・・・・・・私の・・・・・・」
  パサァ
湊 月冴「けい・・・・・・や・・・・・・?」
  恵哉が・・・・・・崩れた・・・・・・?
「隊長・・・・・・」
湊 月冴「瑠威!瑠嘉!」
寿 瑠威「孤児になった俺達を・・・・・・」
寿 瑠嘉「親が居ない事で荒れてた俺達を・・・・・・」
「見付けて、騎士団に入れて騎士にしてくれて、ありがとう」
湊 月冴「るい・・・・・・るか・・・・・・」
  手を伸ばしても、届く前に崩れる体。
要 彰久「隊長・・・・・・」
湊 月冴「彰久!」
要 彰久「まだ、幼かった貴方が・・・・・・私を、尊敬すると言ってくれた・・・・・・だから、騎士で居られた・・・・・・」
湊 月冴「止めろ、頼む」
要 彰久「騎士でいさせて・・・・・・くれて、ありがとう」
  頼りにしていた体も崩れていった。
筧 紫苑「たいちょ」
湊 月冴「駄目だ紫苑!お前は俺の部隊で一番若いのに・・・・・・!」
筧 紫苑「そんな若い・・・・・・俺を、隊にいれて・・・・・・くれた・・・・・・」
湊 月冴「紫苑!」
筧 紫苑「小さくて・・・・・・舐められた・・・・・・でも、隊長は・・・・・・信じていれてくれた・・・・・・」
筧 紫苑「そんな隊長の大切なもの・・・・・・護れて良かっ・・・・・・」
  最後の彼も崩れる。
湊 月冴「なん、で・・・・・・」
椿桔「月冴様・・・・・・」
湊 月冴「そんな・・・・・・何で・・・・・・どうして、俺の手から抜けていく・・・・・・!」
湊 月冴「何で、皆、俺が俺の所為で、俺が居たから・・・・・・!」
椿桔「月冴さ・・・・・・」
帷 翡翠「悪い」
  ドッ
  首に衝撃が走ると同時に、俺は意識を飛ばした。

〇城の廊下
「違う!私はそんな事をしていない!」
湊 月冴「・・・・・・?」
  恵哉と出会ったのは、俺が隊長になる前・・・・・・唯の騎士だった頃に城に来ていた時だった。
  魔術師同士の諍い。
  まだ、その頃は魔術師への偏見も無く、俺は足を止めて其れを見た。
  どうやら、彼が盗みを働いたとされ、魔術師から追い出されそうになっているらしい。
湊 月冴「失礼」
「!」
湊 月冴「彼はそんな様に見えない。今一度調べてみるべきでは?」
魔術師「なんだと貴様!」
魔術師「騎士の分際で!」
湊 月冴「騎士であるからこそ、冤罪を掛けられているなら止めたい。どうか、ちゃんとした判断を」
魔術師「黙れ!」
  結局彼は魔術師を辞めてしまった。
湊 月冴「なら、俺の所に来ないか?」
橘 恵哉「え?」
湊 月冴「お前が今から騎士を目指せば、きっと俺が上司になる。魔術師になれるだけの実力がるんだ。きっと騎士としてもやっていける」
湊 月冴「其れで、俺を助けてくれ。そして一緒に強くなって、あんな奴等見返そう」
橘 恵哉「・・・・・・はいっ」
  そして、俺の元にやって来てくれた恵哉。
  何時だって、俺を支えてくれた。

〇中東の街
「は、雑魚いな!」
湊 月冴「ああ、随分威勢がいいな」
「!」
  瑠威と瑠嘉と出会ったのは、まだ魔獣の襲撃で王都が荒れていた頃。
  両親を失った彼等は、路地裏を拠点にして所謂悪い事をしていた。
  そんな彼等を見付け、追いかけ回して軽くお仕置きしたのが俺だった。
湊 月冴「それにしても、廃らせておくのは勿体無いな」
「ゼェゼェ・・・・・・?」
湊 月冴「俺と一緒に来ないか?お前達程の力があれば、きっといい騎士なれるぞ」
寿 瑠威「・・・・・・俺達が負けたんだ」
寿 瑠嘉「あんたに従うよ」
  彼等に手を差し出したのも俺で、二人はその手を取ってくれた。
  それからずっと隊のムードメーカーとして、何時も俺に笑顔をくれた。

〇屋敷の書斎
月冴「・・・・・・!」
要 彰久「あー・・・・・・初めまして?」
  彰久と出会ったのは、屋敷。
  父さんが連れて来てくれた初めての騎士が彼だった。
  父さんや叔父さんは屋敷では身内に変わるから、純粋な騎士は初めてで輝いている様に俺には見えていた。
月冴「騎士様なのですね!」
要 彰久「え、ああ・・・・・・」
月冴「凄い、本当の騎士様だ・・・・・・」
要 彰久「・・・・・・そんな凄い存在じゃないぞ?」
月冴「そんな事ありません!自分の命を懸けて戦う騎士様は、心から尊敬出来ます」
要 彰久「・・・・・・ありがとう」
  そう言って、俺の頭を撫でてくれた。
  それから隊長になって直ぐに俺の所に来てくれて、何時だって頼りにさせて貰った。

〇おしゃれな廊下
「本当に戦えるのか?」
湊 月冴「・・・・・・?」
筧 紫苑「舐める・・・・・・な」
  紫苑と出会った時、彼は今以上に小さい体で、屈強な騎士に囲まれていた。
湊 月冴「・・・・・・!お前、噂の天才君だな?」
筧 紫苑「!」
「おー倅君」
湊 月冴「こんにちは。お前の噂は聞いている。小柄だからこその立ち回りが上手いと。良かったら俺の所に来てくれないか?」
湊 月冴「俺も素早い戦いが得意だから、似た様な戦い方の者がいると助かる!」
筧 紫苑「・・・・・・・・・・・・」
「ね、熱烈だな」
  紫苑は俺から猛アプローチして、隊に来て貰った。
  最年少だったが、其れでも実力を発揮し、刺激し合え存在だった。

〇黒
  其れが・・・・・・其れが・・・・・・俺の所為で、皆・・・・・・壊れてしまった。
湊 月冴「あ・・・・・・ぁああ・・・・・・ああぁぁぁああああ!!」
セイアッド「《・・・・・・すまなかった。俺とお前は違うというのに、お前に押し付けてしまった》」
湊 月冴「・・・・・・セイ・・・・・・?」
セイアッド「《眠れ・・・・・・後は俺がやる》」

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