元騎士の旅物語

にーな

8.永遠の街(脚本)

元騎士の旅物語

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〇霧の立ち込める森
  俺達は森の中を進む。森は森でも・・・・・・
湊 月冴「此処が大森林か」
空 鈴芽「なんだか不思議な感じ」
  大森林の中。不思議な苔が出す光を頼りに、俺達は奥に進んだ。
帷 翡翠「なんか、方向感覚見失いそうだな」
桔梗「・・・・・・・・・・・・」
湊 月冴「桔梗?どうした、疲れたか?」
  ボンヤリと前を見詰める桔梗。
桔梗「・・・・・・あっち」
湊 月冴「?」
  桔梗が指差した先。何故かその方向は光が一直線に出ており、道の様になっている。
桔梗「あっちで、合ってる」
湊 月冴「!待て、桔梗!」
  迷いなく歩き出す桔梗を慌てて追い掛けた。
湊 月冴「桔梗、一体どうした?」
桔梗「・・・・・・僕も分からない。でも、此方だって分かるんだ」
湊 月冴「・・・・・・分かった。桔梗の言う通りに進もう。だが、逸れるといけないから、手を繋がないか?」
桔梗「うん」
  差し出した手をしっかりと握る桔梗。
  そんな俺達の後に続く椿桔達。
湊 月冴「・・・・・・!待て」
  そんな中、桔梗の手を引いて止める。
帷 翡翠「・・・・・・何だ、ありゃ」
  俺達の先に居たのは・・・・・・大きな体と角を持つ鹿の様な魔物。
  魔物・・・・・・なのか?凄い神聖な雰囲気を持ってるな。
桔梗「・・・・・・──」
湊 月冴「!」
  桔梗が呟いた言葉に思わず彼を見詰めた。
  声を掛けようとした時・・・・・・
  スッ
  鹿の魔物が角で更に奥を指す。
  そして、そのまま何処かへ消えた。
桔梗「月冴、行こう?」
湊 月冴「・・・・・・ああ、そうだな」
  手を引かれ、再び歩き出す。
  桔梗・・・・・・今、“お母さん”って言わなかったか?

〇けもの道
  桔梗の言う通りに奥への進み続けた。
「あ」
マリー「!ぁ・・・・・・」
  その時、俺達の前に現れたのは・・・・・・深く帽子を被っている一人の少女。
湊 月冴「君は・・・・・・まりー?」
マリー「あの時の騎士様?」
  あの日、王都で保護した不思議な名前の少女だった。
湊 月冴「もう騎士じゃない」
桔梗「・・・・・・・・・・・・」
マリー「!セオ様?」
「!」
  桔梗を見ながら言った言葉に、俺達は視線を交わす。当の桔梗は首を傾げていた。
マリー「居なくなっちゃったから・・・・・・心配したよ」
桔梗「えっと」
???「マリー、何処に行ったんだい」
  奥から声がし、少しするとまりーと同じ髪色の男が現れる。
エリック「貴方は・・・・・・あの時の騎士様」
湊 月冴「元、だな。其方はあの時のお父さんか」
エリック「はい。あの時はお世話になりました。どうしてこの様な地に・・・・・・」
湊 月冴「色々あって追い出されたんだ。一先ずリリックという街を目指してる」
エリック「追い出された??えっと、リリックでしたら私達の街ですが・・・・・・」
  思わず俺達は顔を見合わせた。
エリック「・・・・・・セオ様!?」
桔梗「!」
  と、男が桔梗の姿に驚き、桔梗も声に驚いて俺の後ろに隠れる。
エリック「セオ様、今まで何処に・・・・・・」
湊 月冴「桔梗、知ってるか?」
  俺の言葉に隠れたまま桔梗は首を横に振った。
エリック「覚えていらっしゃらないのも無理はありません・・・・・・一先ず、街へ案内しましょう」
  その言葉に甘え、俺達は彼の後をついて行く。

〇城下町
エリック「ようこそ、リリックへ」
  永久の街、リリック。
  木材で作られた家々。
  確かに最近では見ない風景に、懐かしい感じのする街だ。
住人「エリック、帰ったのか」
エリック「ああ、戻ったよ」
住人「マリーもお帰り・・・・・・セオ様?」
  彼を出迎えた青年が桔梗を見て目を丸くした。
住人「セオ様?」
住人「お戻りになったのですね」
住人「ご無事で良かった」
  其からぞろぞろと人が集まって来る。
  其れに戸惑った桔梗がまた俺の後ろに隠れて、出て来なくなってしまった。
湊 月冴「そのセオ、というのは桔梗の事だと思うんだが」
エリック「ええっと・・・・・・貴方達はキキョウと呼んでいらっしゃるのですね」
湊 月冴「ああ。名前が無かったから、俺が名前を決めたんだ」
エリック「そうでしたか・・・・・・娘の事といい、セオ様の事といい、騎士様には感謝する事ばかりですね」
湊 月冴「だから騎士じゃないって」
  話しながら皆に振り返れば、珍しそうにキョロキョロと周りを見渡している。
湊 月冴「そのセオ様とやらについて詳しく聞けるだろうか」
エリック「ええ、構いません・・・・・・お連れ様はどうしますか?」
湊 月冴「桔梗はどうしたい?」
桔梗「・・・・・・行く」
椿桔「私は月冴様のお側に」
帷 翡翠「俺はちょっと抜ける。見て回りてぇ」
空 鈴芽「私は・・・・・・お兄ちゃんと一緒に行こう、かな・・・・・・」
皇 螢「僕も其方に同行する」
  という事で、一旦翡翠達と別れてえりっくと呼ばれた彼について行った。

〇広い畳部屋
エリック「改めて、エリックという者です。この子は娘のマリー」
湊 月冴「月冴・・・・・・湊月冴だ」
椿桔「椿桔、と申します」
桔梗「桔梗、です」
エリック「どうぞ、自由にお掛けください」
  彼等の家らしい所に案内され、俺達はテーブルを挟んで座る。
エリック「・・・・・・さて、我々がこのリリックに住み着いたのは数千年前になります」
湊 月冴「?先祖が?」
エリック「ええ、先祖であり・・・・・・私の父です」
「!」
  父が数千年前に・・・・・・其が本当なら、一つだけ該当する種族がある。
湊 月冴「魔族・・・・・・・・・・・・いや、エルフか」
エリック「!本来の種族名をご存知でしたか」
  えりっくが髪を耳に掛けた。その耳は尖っている。今でこそ魔族として伝わっているが、本来はエルフという種族だ。
  彼等エルフは闇の弟側に付いたとされ、其が後々に魔族と呼ばれる所以になったとされている。
  俺が知ったのは偶々だった。
  桔梗と出会った街で購入した本。
  其処に、そう書かれているメモが挟まれていたのだ。
湊 月冴「つまり、貴方達はエルフなのか」
エリック「はい・・・・・・ツバキさんは恐らく、ハーフエルフなのでしょう」
椿桔「え」
  椿桔が戸惑う様に視線を泳がせる。
エリック「失礼ながら、ご両親は?」
椿桔「・・・・・・母は物心付く前に・・・・・・父は知りません。母は生まれの村の者です」
エリック「では、父君・・・・・・恐らく、カールという者でしょう」
湊 月冴「知り合いか?」
エリック「ええ・・・・・・私の弟です」
「!?」
  つまり、目の前のえりっく殿は椿桔の叔父なのか?
エリック「弟はある事情で街と森を出て行き、貴方の母君と結ばれた後に居なくなったのでしょう」
椿桔「・・・・・・・・・・・・私は・・・・・・・・・・・・望まれていたのでしょうか」
エリック「私では推測する事しか出来ませんが・・・・・・あの子なら、誰よりも子を愛したでしょう」
  俯く椿桔の手を握った。そんな俺達を見て、桔梗も俺とは反対の手を握る。
エリック「貴方は・・・・・・恐らく、厳しい環境下に居たのでしょう」
椿桔「!」
エリック「ハーフエルフといえど、成長期は純粋な人よりも長くゆっくりとしたものです」
エリック「ですが、騎士様とさほど変わらない様子。あくまで推測ですが、貴方が生きる為にその力が使われていたのでしょう」
椿桔「・・・・・・・・・・・・ハーフエルフだから、両目の色が違うのでしょうか」
エリック「そうですね・・・・・・特徴の一つですから」
湊 月冴「・・・・・・正直、椿桔がハーフエルフだとか、俺は其処まで興味ない」
「!」
湊 月冴「椿桔が何処の誰だろうと俺の家族だ。其れだけで十分だ」
椿桔「・・・・・・はい」
  椿桔の心からの笑顔に、俺も微笑み返した。
湊 月冴「勿論、其れは桔梗も同じだ」
桔梗「!」
湊 月冴「お前が桔梗である以上、俺の大事な家族だ」
桔梗「・・・・・・うん!」
  俺達は互いに微笑む。
  そんな俺達をえりっく殿は微笑ましそうに見詰めていた。
エリック「さて、セオ様の話をしましょう」
湊 月冴「ああ、頼む」
エリック「セオ様は数百年前・・・・・・セイアッド様のご友人であり、この地で初めて育てられた人の子です」
湊 月冴「数百年前・・・・・・!?」
椿桔「セイアッド様、というのは?」
エリック「ああ、人の世界では闇の弟と呼ばれている方です」
「!?」
  思わず椿桔と顔を見合わせる。
  闇の弟・・・・・・いや、確かに名前があっておかしくないが・・・・・・まさか、こんな所でその名前を知る事になるなんて。
椿桔「セイアッド・・・・・・ですか」
桔梗「・・・・・・セイ」
  椿桔が繰り返した名前も、桔梗が呟いた名も、何故か俺には聞き慣れた名に聞こえた。
エリック「セオ様は元々この森に捨てられており、我等が面倒を見ておりました」
エリック「やがて・・・・・・彼は自らセイアッド様の器になる事を選んだのです」
湊 月冴「器に?」
エリック「はい。そして、自分からセイアッド様が抜けた後、再び巡り合う為にと自らの時間を戻す魔法を自らに施し、長い眠りに就きました」
湊 月冴「・・・・・・?魔法?魔術では無いのか?」
エリック「魔術は光の兄が人々に与えた魔。我等が扱うのは魔法です」
湊 月冴「魔術とは異なる・・・・・・魔法」

〇森の中
  ザザ・・・・・・
「『魔術は・・・・・・だ。だから、魔法を・・・・・・方がいい』」
???「『そうなんだ。どう違うんだ?』」
「『魔術は術式を組み・・・・・・を使い・・・・・・を貯め・・・・・・んでしまう』」
「『魔法は陣を描き・・・・・・を使い・・・・・・』」
???「『確かに・・・・・・を使った方がいいな。教えてくれ・・・・・・』」

〇広い畳部屋
椿桔「・・・・・・月冴様?」
湊 月冴「あ、いや・・・・・・何でも無い。多分まだ、上手く整理出来ていないだけだ」
  今の記憶・・・・・・誰が、誰に教えて貰ってたんだ?
エリック「長い間眠っていたセオ様ですが、ある時に目覚められました。しかし、長い眠りだった為」
エリック「暫く半覚醒状態で我等がお世話をしておりましたが・・・・・・ある日、その日の世話係当番と共に姿を消されてしまい」
エリック「・・・・・・ずっと探しておりました。弟も捜しに行く為にこの地を出たのです」
湊 月冴「・・・・・・そして、流れ着いてあの領主に利用された訳か」
  チラッと桔梗を見れば、彼は不安そうに俺を見上げる。手を伸ばし、そんな桔梗に頭を撫でた。
湊 月冴「大丈夫だ」
桔梗「うん・・・・・・僕はセオ、としての事を覚えてない。だから桔梗だよ」
エリック「そう・・・・・・ですね。キキョウさん」
桔梗「うん」
  それにしても・・・・・・この地は桔梗にとっても、椿桔にとっても大事な場所なのかもしれないな。
湊 月冴「この地に来れて良かった・・・・・・そう言えば、森の中で大きな魔物の様なのを見掛けたが」
エリック「ああ、彼女は魔物ではなく聖獣と呼ばれる者です」
湊 月冴「聖獣・・・・・・」
エリック「魔物は魔術を使い過ぎ、負を抱え過ぎた事で制御し切れなくなった果てに変じた姿。聖獣は自ら覚悟と決意と共に変じた姿になります」
  ・・・・・・つまり、あの聖獣も元は人だったのか。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  目を閉じて深く深呼吸する。
  情報が多すぎて頭が痛くなりそうだ。
椿桔「・・・・・・月冴様、一先ず今は桔梗様の事だけ整理しましょう」
椿桔「闇の弟の件や魔術等の事はまた後日。少しずつ整理していきましょう」
湊 月冴「ああ、そうだな」
  今は桔梗の事だけでいい。
桔梗「ねぇ、月冴」
湊 月冴「ん?」
桔梗「闇の弟ってなあに?」
「・・・・・・・・・・・・え」
  桔梗は神話を知らないのか。
湊 月冴「ちょっと待ってろ・・・・・・ああ、この本だ」
  桔梗にあの神話の本を渡した。
  ペラペラと桔梗が本を捲ると・・・・・・例のメモが落ちる。
桔梗「あ」
エリック「其れは・・・・・・カールの字!?」
湊 月冴「!という事は、かーる殿は桔梗の元まで行き着いていたのか?そして、偶々其処で俺がその本を買った」
  まるで・・・・・・そうなる様に仕組まれた様で気味が悪いな。
桔梗「んと、この闇の弟さんの器だったって事だよね?」
湊 月冴「ああ、そうだな」
桔梗「闇の弟さんって、壊す者なの?」
エリック「!それは・・・」
湊 月冴「そうとは限らない」
エリック「・・・!」
湊 月冴「確かに世間的にはそうなっている」
  何度も読み返した神話。
湊 月冴「だが、はっきりとそう書かれてるものは何も無い。其れに、俺は如何しても闇の弟と壊す者が一緒だとは思えない」
椿桔「確かに闇の弟には制する者としての役割は与えられていますが・・・・・・制するのと破壊するのを一緒にしてはいけませんね」
桔梗「そっか・・・・・・光の兄が、壊す者の可能性もあるんだね」
エリック「・・・・・・・・・・・・」
  そう言えば、光の兄は慈しむ事を与えられたんだったな。
  確か闇の弟は人を制そうとした時、人に利用されたと・・・・・・

〇教会内
  ザザ・・・・・・
「『止め・・・・・・ろ!!そんな事をすれば・・・・・・』」

〇広い畳部屋
エリック「・・・・・・貴方達の考察は当たっています」
湊 月冴「!という事はまさか・・・・・・」
エリック「セイアッド様は・・・・・・」

〇黒
「《見 つ け た》」

〇広い畳部屋
湊 月冴「・・・・・・っ・・・・・・!?」
椿桔「月冴様!?」
桔梗「月冴!?」
  全身を嫌な予感が走った。
  ドゴンッ
「!!」
  直後、外から衝撃音がする。
  俺と椿桔は其々武器を出して外に飛び出る。

〇武術の訓練場
帷 翡翠「月冴!」
湊 月冴「無事か」
帷 翡翠「ああ」
  翡翠達も駆け寄って来て、合流した。
  そして、広場の方を見た時・・・・・・
???「ああ、其処に居たか」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・慎理・・・・・・?」
  赤い瞳の慎理だった。
エリック「まさか・・・・・・ギュネッシ様!?」
  えりっく殿が慎理を違う名前を叫ぶ。
ギュネッシ「エルフの一族・・・・・・此処に隠れ住んでいたか。まぁ、お前達の事は今はどうでもいい」
ギュネッシ「其れよりも、今は我が愛しい弟だ」
湊 月冴「っ」
  一瞬、瞬きをした瞬間に彼が俺の目の前に来ていた。
ギュネッシ「私の弟・・・・・・愛しい月」
エリック「!お離れ下さい!!ギュネッシ様は光の兄で、セイアッド様を・・・・・・!」
ギュネッシ「それ以上は余計な事言わない方が良い」
エリック「ぐっ!!」
マリー「お父さん!!」
湊 月冴「えりっく殿!!」
  えりっく殿に向けて魔術が放たれ、彼の体が吹き飛ぶ。
椿桔「くっ、月冴様から・・・」
「悪いが、ジッとしててくれや」
椿桔「・・・!?」
湊 月冴「椿桔!!」
  俺に駆け寄ろうとした椿桔が風の牢に閉じ込められた。
  其れを使ったのは・・・・・・
空 鈴芽「お兄ちゃん?」
ギュネッシ「流石“空”の一族。風の使い手」
湊 月冴「翡翠・・・・・・何を・・・・・・」
帷 翡翠「・・・・・・お前は、俺の友人だった月咲じゃない」
湊 月冴「月・・・・・・咲・・・・・・」

〇英国風の部屋
  ザザ・・・・・・
月咲「『月に咲くと書いて月咲(つかさ)さ』」

〇武術の訓練場
  ガッ
  首に衝撃が走ると同時に意識が遠退く。
桔梗「月冴!!!」

〇黒

〇武術の訓練場
桔梗「月冴!!!」
椿桔「くそぉ!!」
  風の牢が破れない。苦無を突き押し付けても、手で破ろうとしても壊れない。
空 鈴芽「待って・・・・・・お兄ちゃん!!」
  声にハッとして視線を上げれば、気絶させられた月冴様を翡翠さんが担ぎ上げていた。
  そのまま翡翠さんと慎理さんは月冴様と共に姿を消す。

〇武術の訓練場
椿桔「ぐっ」
  彼等が完全に消えると、風の牢が消えた。
  月冴様が・・・・・・攫われた・・・・・・
桔梗「月冴!!」
  桔梗様の悲痛な声が辺りに響く。
椿桔「っ螢!!」
皇 螢「!!」
  螢に覆い被さった。
  彼女は抵抗しない。
椿桔「貴様!!王族の差し金だろう!!どういう事だ!!」
皇 螢「ぐっ・・・・・・確かに僕は兄上の命で月冴と合流した!」
皇 螢「だが、僕は何も知らない・・・・・・知らされていない・・・・・・」
椿桔「く・・・・・・そぉ!!」
皇 螢「・・・・・・・・・・・・」
椿桔「鈴芽!!」
空 鈴芽「!」
椿桔「翡翠は貴様の兄だろう!!貴様もグルか!!」
空 鈴芽「ち、ちが・・・・・・」
???「落ち着け。若いの」
  肩に手を置かれ、飛び退く。
  其処に居たのは・・・・・・
椿桔「彰久さん・・・・・・!?」
皇 螢「!月の・・・・・・」
橘 恵哉「彰久だけではありませんよ」
  その声に視線を向ければ、月の皆様が揃っていた。
椿桔「何故、月の皆様が?」
橘 恵哉「君の手紙で此処に来た・・・・・・手遅れだった様だが」
  悔しそうに顔を歪める月の副隊長。
橘 恵哉「最高魔術師が何らかしらの目的で狙っていたのは分かっていた。その為、我等が派遣されたのだが・・・・・・」
要 彰久「間に合わなかったか」
「戻ろうぜ、副隊長」
橘 恵哉「ああ・・・・・・此れより奪還作戦に移行する」
椿桔「!お待ち下さい!」
  副隊長の恵哉さんに駆け寄る。
椿桔「月冴様が連れて行かれた場所が分かるのですか!?」
橘 恵哉「予想は付いている。最高魔術師が定期的に訪れている遺跡がある」
椿桔「遺跡・・・・・・!光の兄を祭った遺跡」
橘 恵哉「そうだ。僕達も此れから其処に行く」
筧 紫苑「・・・・・・椿桔さんも来る?」
椿桔「勿論です」
  月冴様の正体が何であろうと関係ない。
  あの方の味方であり、一緒にいると約束したのだ。
エリック「・・・・・・此方へ」
椿桔「!」
エリック「この村の奥には、セイアッド様を祭った祭壇があります」
  娘さんのまりーさんの肩を借りて立ち上がるえりっくさんに振り返った。
橘 恵哉「闇の弟を?」
エリック「ええ。光と闇、兄と弟・・・・・・その繋がりが、祭壇と遺跡を繋げています」
「!」
要 彰久「つまり、その祭壇から件の遺跡まで一気に行ける訳か」
橘 恵哉「それは正直助かる。騎士団がその遺跡に立ち入ろうとしているのだが、魔術師の妨害に遭っている」
椿桔「案内して頂けますか」
エリック「・・・・・・マリー」
マリー「うん」
  えりっくさんが他の方に預けられると、まりーさんが走り出す。其れを私達は追い掛けた。

〇祭祀場
マリー「この先・・・・・・此処」
  まりーさんを追い掛けた先にあったのは、洞窟の様なところに作られた祭壇。
マリー「此処に、セオ様は寝ていたの。其れに、本当なら此処にセイアッド様が宿る誕生石が現れるんだって」
椿桔「そうなのですか」
マリー「うん。だけど、数百年前にこの村に来た魔術師って名乗った人に持ち去られ、それからは此処に現れなくなったんだって」
椿桔「・・・・・・誕生石・・・・・・」
  もしかして、其れは月冴様の・・・・・・
  いや、今は其れはどうでもいい。
皇 螢「僕も行く」
椿桔「!」
  振り返ると、其処には螢が居た。
  すると、彼女はネックレスを外す。
皇 螢「此れを通して兄上に情報が行く様になっている」
橘 恵哉「つまり“目”という事か」
皇 螢「ああ。とは言え、此れは有事の時以外は服の下に隠していいと言われていた・・・・・・」
皇 螢「翡翠の“目”には僕が誰よりも早く気付くべきだった」
  そう言いながら、螢はそのネックレスを地面に落とし、そのまま槍で破壊した。
椿桔「・・・・・・お前の事は信用しない。螢」
皇 螢「ああ、構わない」
空 鈴芽「私・・・・・・も行く」
  螢の横に並んだのは鈴芽。
空 鈴芽「お兄ちゃんの考えは・・・・・・よく分からない。だから、聞きに行かなきゃ・・・・・・」
空 鈴芽「其れに、月冴は私にとっても・・・・・・」
  その言葉に螢が一驚いた様な顔をする。
  ・・・・・・本当に月冴様はオモてになられるな。
桔梗「僕も行く!」
椿桔「桔梗様・・・・・・」
  桔梗様が私の手を掴んだ。
  正直、桔梗様には此処に残っていて欲しい。
  えりっくさんは攻撃されたが、止めようとしたからだ。
  それ以降は攻撃をする素振り等はなかったから、この村は恐らく襲われないだろう。
  だから、安全な此処に残っていて欲しいんだが・・・・・・
桔梗「僕が月冴の家族、だから!月冴の所に行く!」
  ・・・・・・此れは・・・・・・止められそうにないな。真っ直ぐ過ぎる瞳が月冴様と同じだ。
椿桔「・・・・・・私の側を離れないで下さい」
桔梗「うん!」
  こうして、月冴様奪還に向かう事に。

〇英国風の部屋
  トプン・・・・・・
月咲「なぁ、君は誰なんだ?」
  誰かの声がした。
  微睡みの中、確かに俺に向けられた声に意識を浮上させる。
  其処に居たのは、まだ幼い少年だった。
  彼は制御石の中に宿る俺を見ている。
月咲「俺は月咲。月に咲くと書いて月咲さ」
  ・・・・・・月・・・・・・
月咲「あ、声がした。やっぱり此処にいたんだ」

〇英国風の部屋
  鮮明になっていく視界の先で、少年がにっこりと笑う。
母「月咲、何をしているの?」
月咲「母上!やっと、彼の声か聞こえたんだ!」
母「彼の?・・・・・・本当に、此処に居るのね」
  少年の後ろから現れた美しい女性。
  彼女は何処か複雑そうに此方を見ている。
母「月咲、少しだけ貸しておいてくれる?」
月咲「いいよ」
母「あ、絡珠君がいらしてたわ」
月咲「『はーい』」
  少年が去り、女性だけが残った。
母「月の方・・・・・・どうか、あの子の・・・・・・」
  その言葉を聞き遂げた後、また眠りに就く。
月咲「月!今日は君にいいものを見せるよ」
  あまり俺に心を開き過ぎるな
月咲「いいだろ?友人なんて絡珠くらいしか居ないんだから」

〇ヨーロッパの街並み
  景色が動いた。
  彼が制御石を外に向けて移動しているのだろう。
  彼はすっかり俺に慣れてしまった。
  俺の使命を考えると、あまり親しくならない方がいいんだがな。

〇菜の花畑
月咲「ほら、此処だ!」
  映る景色には、一面の花畑が。
月咲「綺麗だろ?」
  ・・・・・・ああ
月咲「何時かこの景色を隣で見たいな」
  ・・・・・・そうだな
月咲「月もそう思うか?なら、約束だ」
  その約束は果たされる事は無かった。

〇草原
月咲「つ・・・・・・き・・・・・・」
  早く助けを・・・・・・このままでは月咲が・・・・・・!!
月咲「月・・・・・・俺・・・・・・」
  俺がこの制御石に宿ってしまったばかりに・・・・・・
月咲「俺の・・・・・・友人になって・・・・・・くれて・・・・・・」
  !!
  ザーザー
  そうだ、あの日は雨が降っていたんだ。
湊 月夜「月咲!!」
  誰かが駆け寄って来る。
湊 月夜「月咲?どうした」
つかさ「つか・・・・・・さ・・・・・・」
湊 月夜「月咲・・・・・・いや」
つかさ「つかさ。そうだ、俺は・・・・・・」
湊 月夜「・・・・・・月冴。家に戻るぞ」
月冴「・・・・・・はい」
  差し伸べられた手を掴んだ。

〇英国風の部屋
母「あなた、月咲・・・・・・!まさか・・・・・・」
湊 月夜「月冴だ」
母「つかさ?」
湊 月夜「月に冴えで月冴」
母「そう、月冴。私達の子供・・・・・・」
  そう、あの日から俺は月冴に。

〇黒
湊 月冴「俺は──」

〇森の中
???「セイ!」
  声に意識がまた浮上する。
  セイ?
???「セイアッドだからセイ」
  奇怪な名前を付けるな
???「森の外の人から見たら、僕達の名前そのものが奇怪さ」
  態々俺を捜しに来たという青年。
  彼はセオと名乗り、エルフ達の村から来たと話した

〇神殿の門
セイアッド「・・・・・・っ・・・・・・」
  ああ、もう駄目だ。
  人はやり過ぎた。
  だから、魔物と化した人と人が作り出した物を無にし、其れを糧に再生する。その為に俺は居るんだ。
セオ「どうしてもやるの?」
  俺を気遣うような声。
セオ「止めていいんだよ?」
  その言葉に過るのはセオに連れられ、時折体という器を貸して貰い、愛する人々と関わらせてくれた日々。
セオ「辛いなら、止めていいんだ」
セイアッド「──駄目だ。其れだけは出来ない。止める事は許されない。此れが、俺が生まれて来た意味なんだ」
  だから、止められない。

〇黒
  其れから巡る景色は・・・・・・
  俺が、セイアッドとして、繰り返してきた日々の記憶。
湊 月冴「俺は──セイアッド。闇から生まれた光の弟。制する者で・・・・・・愛する人々を護る者」

次のエピソード:9.闇と月

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