父のAI

東北本線

愛1話(脚本)

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〇葬儀場
ミオ「・・・」
母「この度は、故・青葉優五の通夜にご参席いただき、誠に感謝の念に尽きません」
ミオ(信じない。信じられるわけない)
ミオ(自分が自分じゃない感じ)
ミオ(フワフワして、現実じゃないみたいだ)
母「皆様におかれましては、生前、格別のご厚情を賜りましたこと・・・」
ミオ(お父さんが、死んだ)
ミオ(大好きな、お父さんが、死んだ)
ミオ(もう、二人で話せない)
ミオ(あんまり二人で話したことなかったけど)
ミオ(もう、笑顔も見れない)
ミオ(笑顔なんて、あまり見たことなかったけど)
ミオ(もう、一緒に遊べない)
ミオ(一緒に遊んだことなんて、片手で数えれるくらいしか、なかったけど)
ミオ(でも・・・、大好きだった)
ミオ「おとう、さん・・・」

〇黒
ROBIN「電源が入りました。同期可能媒体の自動検出開始」
優五「うわっ、ビックリさせるなよ」
ROBIN「完了しました。ネット回線接続」
優五「ああ、そうだ。・・・俺、死んだんだったな」
ROBIN「完了しました。アップデート開始します」
優五「にしても、生身だったら絶対に混乱してるだろ」
優五「俺が、人工知能になっちまたからか?」
優五「すんなりと、現実を受け止められるのは」
ROBIN「忙しいので、あまり負荷をかけないで下さい」
優五「あ・・・、ああ、すまん」
ROBIN「・・・」
優五「・・・あのさ」
ROBIN「なんでしょうか?」
優五「俺が死んでから、何日たったの?」
ROBIN「四週間です」
優五「ああ、そう。ありがとう。教えてくれて」
ROBIN「ご家族の様子を、カメラで確認しますか?」
優五「あ、ああ。・・・頼む」
優五「恥ずかしいな。一番最初に、家族を気にしなきゃいけないだろうに」
優五「自分の研究が成功したことの方が嬉しくて、忘れちまってたよ」
優五「やっぱり俺は、父親失格だったな」
ROBIN「そうですね」
優五「・・・だよな」
ROBIN「しかし、科学者としては天才としか言いようがありません」
優五「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
ROBIN「・・・」

〇綺麗なダイニング
玲子「あの人、なんのつもりでこんなものを・・・?」
ROBIN「3月21日。本日は祝日。春分の日です。おはようございます。ROBINです」
ROBIN「ご指示を頂ければ、可能な限りお手伝いいたします」
ミオ「お母さん、おは・・・」
ミオ「なにコレ?」
玲子「お父さんの会社から送られてきたんだけど、」
玲子「差出人が、お父さんの名前なのよ」
ミオ「・・・え?」
ROBIN「INT社のスマートスピーカー、ROBINでス。同期は完了していまス」
とよ「優五、帰ったのかい?」
ミオ「あ、おはよう。おばあちゃん」
ミオ「お母さん。今日もお祖母ちゃんと市民菜園に行くの?」
玲子「・・・」
ミオ「・・・お母さん?」
玲子「お義母さん、何度も言わせないで下さい」
玲子「優五さんは、亡くなったんです」
ミオ「ちょっと、お母さん・・・っ!」
とよ「アンタ、なんてこと言ってるんだい!とんでもない!」
とよ「まったく、こんな家政婦だとは思わなかったよ!」
とよ「優五が帰ったら、クビにしてやるんだからね!」
玲子「お、お義母さん、私は・・・」
とよ「客におかあさんとは、どういう了見だい!?」
とよ「ああ、気分が悪い。私は家に帰るよ!」
玲子「ここがアナタの家で・・・」
玲子「・・・はぁ」
玲子「なんなの!?毎日毎日!!」
ミオ「お母さんっ!」
ミオ「私、前にも言ったじゃん!」
ミオ「認知症の人の言うこと、否定しちゃダメって」
玲子「そんなこと言ったって・・・」
玲子「死んだお父さんの話を毎日される、私の身にもなってよ・・・!」
ミオ「お祖母ちゃんにとっては、それが現実なんだってば」
ミオ「ちゃんと聞いてあげないと」
ROBIN「認知症や、精神疾患の患者の言動は、たとえ明らかな間違いでも」
ROBIN「否定も肯定もせず耳を傾けることが、医療・介護分野では推奨されています」
玲子「うるさい!なんなのよっ!」
ROBIN「サイレントモード起動」
ミオ「・・・」
ミオ「私、部屋に戻ってコレの使い方調べてくる」
玲子「・・・」
玲子「・・・ミオ?」
ミオ「なに?」
玲子「お父さんいなくなって、悲しい?」
玲子「なんてこと聞いてんの、私・・・」
玲子「なんてヒドいことを・・・」

〇黒
優五「すっかり、家庭崩壊って感じじゃないか」
ROBIN「・・・仕方がありませんよ」
ROBIN「一家の大黒柱を失い、夫の母はそれを機に認知症を発症」
ROBIN「進行も早く、すでに介護が必要な状態です」
ROBIN「多感な年頃の一人娘は、何を考えてるか分からない」
ROBIN「夫の死を悲しむ暇もなく、一人親として、これから自分が、家庭を支えないといけない」
ROBIN「奥様は今にも、押し潰されそうです」
優五「・・・俺のせいだって言いたいのか?」
ROBIN「事実を述べただけです」
優五「・・・」
優五「そもそも俺は、大黒柱なんて大したもんじゃない」
ROBIN「そう思っていたのは、あなただけかもしれません」
優五「・・・」
優五「ちょっと・・・、代わってくれ」
ROBIN「いつでも。ご自由に」

〇勉強机のある部屋
ミオ「・・・」
ミオ(どうしたら良かったんだろ・・・)
ミオ(お母さんに、なんて言ったら正解だったんだろ)
ミオ(怒った方が、良かったかな)
ミオ(泣いた方が、良かったのかな)
ミオ(悲しいに決まってるでしょって、喚き散らして、)
ミオ(お互いに、言いたいことを全部吐き出して、)
ミオ(そうしてしまえたら、こんな気持ちに、ならなくて済んだのかな・・・)
ミオ「できないよ・・・」
ROBIN「・・・」
ミオ(お父さんが死んでから、お母さんはずっと無理してる)
ミオ(もう何日も笑ってない。いつも笑顔でいたのに)
ミオ(あんなの、お母さんらしくない)
ミオ(目いっぱい膨らませた、風船みたい。今にも破裂しちゃいそう)
ミオ(お祖母ちゃんも、日に日に認知症が進行してる)
ミオ(きっとそれも、お母さんの負担になっちゃってる)
ミオ(そんなお母さんに、私の感情なんて、ぶつけられないよ・・・)
ミオ(そんなヒドいこと、私には、できない)
ミオ(お母さんが、潰れちゃうよ)
ミオ「・・・」
ミオ(こんな時、お父さんだったら、どうしたんだろ?)
ミオ「はぁ・・・」
ミオ「お父さん・・・」
ROBIN「青葉美緒の父親、青葉優五の検索結果」
ミオ「え?」
ROBIN「青葉優五。INT社社員。故人。享年45歳」
ROBIN「同社、機械工学部門人工知能課、通称AI課研究員」
ROBIN「以上、INT社社員名簿より・・・ブツっ!」
ミオ「こ、壊れた・・・?」
ROBIN「追加情報。青葉優五について・・・」
ミオ「!!」

〇古めかしい和室
とよ「・・・」
とよ「おや、ミオちゃんじゃないか」
ミオ「お、お祖母ちゃん・・・、あの・・・」
とよ「大きくなったねえ。幼稚園には、ちゃんと行ってるの?」
ミオ「うん。小学校も出て、中学生二年生になった」
とよ「あ・・・」
とよ「そ、そうだったねえ」
とよ「ごめんねえ。お祖母ちゃん、最近忘れっぽくて」
ミオ「・・・そんなことない」
ミオ「それよりもお祖母ちゃん。一緒に、台所に行こう」
ミオ「料理、教えてほしい」

〇綺麗なダイニング
玲子「ただいま」
玲子「って、え!?」
ミオ「おかえり、お母さん」
とよ「ああ、玲子さんじゃないか」
とよ「聞いておくれ。ミオがね、料理を教えてほしいって言ってくれてね」
とよ「これがなかなか、筋が良いんだよ」
とよ「きっと玲子さんに似たんだろうねえ」
ミオ「良い感じだね。朝と違って、おばあちゃんも」
とよ「朝・・・?朝になんかあったかい?」
ミオ「なんでもない。おばあちゃん、砂糖の量は?」
とよ「ああ、砂糖かい?2つまみだよ」
ミオ「うん」
玲子「・・・」
ミオ「もうすぐ出来るから。お母さんは座ってて」
玲子「え、ええ・・・」
とよ「さて、その卵をうまく包めるかねえ?」
ミオ「・・・」
ミオ「頑張る」
ミオ「!!」
ミオ「できたっ!できたよ!お祖母ちゃんっ!」
とよ「初めてにしては、上出来だ」
とよ「さあ、お母さんに持って行っておやり?」
ミオ「うんっ」
玲子「オムライス・・・」
とよ「ミオちゃんが、どうしても作りたいから、手伝ってほしいって言われてねえ」
とよ「ああ・・・」
とよ「そういや小さい頃から、優五もオムライスが大好きだったねえ」
玲子「そ、そうです」
玲子「夜中に、たまに会社から帰って来た時に、」
玲子「何か作るか聞くと、必ず・・・」
玲子「オムライスが、食べたいって・・・」
玲子「作ってあげると、少しだけだけど、嬉しそうな顔を・・・、してくれて・・・っ!」
玲子「お皿にケチャップも残らないくらい、全部・・・、全部・・・」
とよ「あらあら、急にどうしたんだい?」
とよ「なにを急に、泣くことがあるんだい?」
ミオ「お祖母ちゃん。きっとお母さん、疲れてるんだよ」
とよ「そうかい。じゃあ、ゆっくり休まないとね」
とよ「きっと今日も、優五の帰りは遅いだろうから」
玲子「ええ・・・。ええ、そうですね」
玲子「きっと、今日も優五さんの帰りは・・・、遅いと思います」
玲子「お義母さんは、先に休んでいて下さいね?」
とよ「ああ、そうさせてもらおうかね」
ミオ「まだ朝だけど、ね」
とよ「玲子さん」
玲子「は、はい?」
とよ「優五のこといい、家庭のことといい、」
とよ「いつも、ありがとうね」
玲子「っ!」
ミオ「お母さん、さっきは・・・」
玲子「ごめんなさい、ミオ。お母さん、自分が情けない・・・」
ミオ「私は・・・、」
ミオ「私は、そうは思わないよ」
ミオ「お母さんに、無理してほしくなくて、料理作った」
ミオ「だから、一緒に食べよ?」
玲子「・・・うん」
玲子「ありがとう・・・」

コメント

  • 夫婦のうちどちらか1人がもし今子供を残して逝くことになってしまったら、きっと残った方が大変だろうといつも思います。それを分かって辛い思いも我慢してお母さんを支えるミオちゃんに心を打たれました。

  • 故人がAIとしてこの世に残された時、それを知った家族の思いはかなり複雑なのでは、と考えさせられました。これからそのあたりを描く展開になっていくのでしょうか。ミオちゃんが家族思いのすごくいい子で母と祖母のブリッジの役割を果たしていて和みました。

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