HONEY PET DADDY

咲良綾

エピソード1.お父さんは、猫。(脚本)

HONEY PET DADDY

咲良綾

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〇ペットショップの店内
  わたしには、秘密がある
奏(かなで)「え? わかった、聞いてみる」
奏(かなで)「お母さん、小鳥のご飯忘れてない?」
お母さん「あっ!」
お母さん「ごめんごめん、うっかり」
セキセイインコ「ありがとう」
奏(かなで)「どういたしまして」
  わたしは動物と話せる
  なぜなら
  5年前、一度死んだから

〇職人の作業場
奏(かなで)「お父さん、力持ち!」
お父さん「はっはっは」
お父さん「奏、もう宿題終わったのか?」
奏(かなで)「うん、お手伝いある?」
お父さん「じゃあ、宿泊ペットのブラッシングお願いできるか?」
奏(かなで)「やるやる!」

〇ペットショップの店内
奏(かなで)「ニャッピー、気持ちいい?」
ニャッピー「うん」
奏(かなで)「今回のお泊まりは長かったね」
奏(かなで)「早くおばあちゃんに会いたいね」
ニャッピー「うん!」
礼央(れお)「奏」
奏(かなで)「礼央、どうしたの?」
礼央(れお)「こいつ、紹介しとこうと思って」
来人(くると)「こんにちは」
奏(かなで)「外国の人?」
来人(くると)「ドイツ人の血が混ざってるんだ」
来人(くると)「犬童来人っていいます。よろしくね」
奏(かなで)「礼央の親戚?」
礼央(れお)「弟」
奏(かなで)「えっ」
礼央(れお)「父さん、再婚したんだ」
奏(かなで)「ええーっ!犬童先生が!?」
礼央(れお)「うん、 うちの動物病院の受付やってる一子さんと」
礼央(れお)「こいつはその息子。俺たちと同級生だよ」
奏(かなで)「へえぇ~っ! わたしは根古内奏です。よろしくね」
来人(くると)「うん」
ダガー「礼央くん、弟できたんすか!」
来人(くると)「わあーっ!!」
ダガー「あっ、驚かせてすんません」
奏(かなで)「怖く見えるけど大丈夫、うちの店員さんだよ」
ダガー「どうも、割層打我です」
紗鳥(さとり)「ダガー、またお客さん驚かせてるの?」
来人(くると)「わ・・・」
紗鳥(さとり)「こんにちは」
奏(かなで)「こっちもうちの店員さん」
紗鳥(さとり)「臼井紗鳥です。白くてびっくりした? 私、アルビノだから」
来人(くると)「アルビノ?」
紗鳥(さとり)「生まれつき色素が薄いんだ」
紗鳥(さとり)「目が悪いから、人の顔をあまり覚えられなくて」
紗鳥(さとり)「次会ってわからなかったらごめんね」
奏(かなで)「でも紗鳥さん、動物の見分けはすごいんだよ!」
紗鳥(さとり)「動物は、空気が素直だから」
来人(くると)「空気?」
紗鳥(さとり)「うん。人間で空気が素直な人って少ないんだよ」
紗鳥(さとり)「身の回りでは、オーナーくらいかな」
来人(くると)「? へー」
紗鳥(さとり)「あ、噂をすればオーナーの空気」
お父さん「お、礼央くん。その子が新しい家族か」
礼央(れお)「はい」
来人(くると)「よろしくお願いします」
お父さん「こちらこそよろしく」
お父さん「犬童動物病院にはいつもお世話になってるし、先生とは親友だよ」
お父さん「娘とも仲良くしてやってね」
来人(くると)「はい」
紗鳥(さとり)「あ、私出ます」
紗鳥(さとり)「はい、HONEY PETです」
紗鳥(さとり)「・・・えっ?」
紗鳥(さとり)「あの、オーナー・・・」
お父さん「どうした?」
紗鳥(さとり)「ニャッピーの飼い主のご家族からなんですけど、飼い主のおばあちゃん、亡くなったって」
「!!」
ニャッピー「・・・」

〇ペットショップの店内
ダガー「うっうっうっ」
紗鳥(さとり)「ダガー、泣きすぎ」
ダガー「ニャッピーのおばあちゃん・・・俺も大好きで」

〇郊外の道路
おばあちゃん「ダガーさんはおしゃれだねぇ」
ダガー「いや、俺、ハゲだし」
おばあちゃん「病気で毛がないんだってね」
おばあちゃん「でも、似合ってるよ?」
おばあちゃん「形のいい頭だね。撫でてもいいかい?」
ダガー「うん・・・」

〇ペットショップの店内
ダガー「俺の人相を最初から気にしなかったのって、ニャッピーのおばあちゃんとオーナーだけで」
紗鳥(さとり)「あー、偏見ない人って貴重だよね」
紗鳥(さとり)「私もオーナーに出会うまでは大変だったし」
お父さん「ご家族は引き取れないので、ニャッピーの飼い主を探して欲しいそうだ」
お母さん「そう・・・心当たりに当たってみるわ」
奏(かなで)「ニャッピー、大丈夫?」
ニャッピー「奏、抱っこ」
奏(かなで)「うん」
奏(かなで)「あっ!」
奏(かなで)「ニャッピー!!」
お父さん「まずい!」
奏(かなで)「礼央!つかまえて!」
礼央(れお)「えっ」

〇郊外の道路
礼央(れお)「来人、捕まえろ!」
来人(くると)「わぁ!?」
お父さん「ニャッピー!」
お父さん「落ち着け!そっちにおばあちゃんはいないぞ!」
お父さん「ニャッピー!!」
奏(かなで)「お父さん!!」
「オーナー!!」

〇幻想2

〇病室
「うう・・・」
お母さん「新也さん!」
奏(かなで)「お父さん!」
お父さん「・・・ここ、どこ?」
お母さん「病院よ」
お父さん「おばあちゃんどこ?」
奏(かなで)「え?」
お父さん「おばあちゃん、おばあちゃ・・・」
お父さん「うわあー!!」
奏(かなで)「お父さん!?」
お母さん「新也さん、しっかりして!」
お父さん「違うよ、ぼく、そんな名前じゃない!」
ニャッピー「ニャッピーだよ!」
「!?!?」
奏(かなで)「まさか、そんな」
  お父さんも?

〇クリニックのロビー
紗鳥(さとり)「ニャッピーを迎えに来ました」
犬童 一子「お待ちしていました、どうぞ」

〇手術室
犬童 大河「ニャッピーくん、特に怪我もなく元気です」
紗鳥(さとり)「良かった。犬童先生、お世話になりました」
犬童 大河「しかし、別の問題が」
ダガー「え?」
紗鳥(さとり)「ダガー、この子ニャッピーじゃない」
ダガー「え? どう見てもニャッピーっすけど」
紗鳥(さとり)「絶対違う。ニャッピーの空気じゃない」
紗鳥(さとり)「この空気・・・まさか」
紗鳥(さとり)「オーナー?」
ダガー「何言ってんすか、紗鳥さん」
犬童 大河「見てもらう方が早いか」
ダガー「猫がタイピング!?」
  紗鳥は流石だな
  俺はニャッピーじゃない
  根古内新也だ
「!?!?」

〇空
「えええええーーーっ!?」

〇ペットショップの店内
奏(かなで)「ニャッピー・・・」
ニャッピー「はい」
奏(かなで)「お父さん」
お母さん「本当に入れ替わってるのね」
ダガー「どうしてこんなことに」
ニャッピー「ご、ごめんなさい。ぼくのせいで」
お父さん「ニャッピーは俺の言葉がわかるな?」
ニャッピー「はい」
お父さん「多分あのとき、俺たちは一度死んだ」
ニャッピー「えっ」
お父さん「でも魂を押し戻された」
お父さん「おそらく、ニャッピーのおばあちゃんだ」
ニャッピー「そんな、どうして」
ニャッピー「ぼく、一緒に行きたかったのに」
お父さん「俺を道連れにして?」
ニャッピー「!」
お父さん「それはおばあちゃんも喜ばないだろう」
ニャッピー「う・・・」
お父さん「魂が押し戻される過程で、混乱が起きた気がするんだ」
お父さん「俺としては、生きてるだけで御の字だ」
ニャッピー「でもやっぱり、ぼくのせいで・・・」
お父さん「あの時点で、君の管理責任者は俺だ」
お父さん「悲しみに暮れる君の安全を確保できなかった。 君の責任ではないよ」
奏(かなで)(わたしが、ケージを開けちゃったから・・・)
お父さん「奏も悪くない。それより、先を考えよう」
お父さん「俺はこの家の飼い猫になり、経営を見守って指示を出す」
お父さん「ニャッピー、苦労するかもしれないが、俺の身代わりとしてここにいてくれ。サポートはする」
ニャッピー「・・・はい」
お父さん「今の話、皆に説明できるか?」
ニャッピー「やってみる」
ニャッピー「あの、オーナーの話を伝えます」
「・・・」

〇ペットショップの店内
ニャッピー「いらっしゃいませ」
常連の女性「根古内さん!大丈夫?」
常連の女性「心配したよ!」
ニャッピー「ええと・・・」
お母さん「はい、体は大丈夫です」
お母さん「でもまだ、記憶が混乱していて」
常連の女性「あら、そうなの」
常連の女性「何かできることがあれば言ってね」
お母さん「ありがとうございます」
ニャッピー「・・・」

〇ペットショップの店内
犬「わう!」
ニャッピー「ぎゃあぁ!!」
紗鳥(さとり)「犬の相手は、無理しなくていいよ」

〇ペットショップの店内
ダガー「あ!そこ触っちゃダメっす!」
ニャッピー「わぁ!」
ダガー「ここに書いてあるっすよ、ほら」
ニャッピー「・・・」
ダガー「あ、そうか。字とか読めないっすよね」
奏(かなで)「教えてあげる。一緒に勉強しよう」
ニャッピー「はい・・・」

〇手術室
ニャッピー「こんにちは」
犬童 大河「ああ、事情は聞いてるよ。相談かい?」
ニャッピー「はい。何かあれば先生を頼れって、オーナーが」
犬童 大河「うん。光栄だね」
ニャッピー「あの、頭の良くなる薬とかありませんか! ぼく、注射でも我慢します!」
犬童 大河「申し訳ないが、そういうものはないね」
ニャッピー「ぼく、全然オーナーの代わりできないし、みんな優しいけど、本当はぼくじゃダメなんです」
ニャッピー「ぼくも・・・おばあちゃんじゃなきゃ・・・」

〇狭い畳部屋
おばあちゃん「ニャッピー!」

〇手術室
ニャッピー「なんで、なんで。おばあちゃん」
来人(くると)「父さん、僕話していい?」
犬童 大河「来人」
犬童 大河「ああ、構わないよ」
来人(くると)「ニャッピー、つらいね。 僕もわかるよ、元の家族が忘れられない気持ち」
来人(くると)「新しい家族と言われて、すぐに受け入れるのは難しいよね」
来人(くると)「思い出も絆も、僕だけ圧倒的に足りない。 正直まだよそ者の気分だよ」
来人(くると)「でも、父さんはそのままでいい、少しずつ家族になればいいって」
来人(くると)「・・・一緒に頑張ろう?」
ニャッピー「おばあちゃんを忘れなくても、いいの?」
来人(くると)「いいよ。ね、父さん」
犬童 大河「ああ、もちろんだ」

〇公園の砂場
奏(かなで)「・・・」

〇可愛い部屋
奏(かなで)「ニャーニャーすき!」
奏(かなで)「いっしょにねるの!」
お父さん「この猫、うちの子にするか」
お母さん「奏に甘いんだから」
お父さん「結婚7年目でようやく授かった娘だからな」

〇可愛い部屋
  奏・・・?
お父さん「至急、救急車を」
お母さん「新也さん、奏の意識が!」
お母さん「奏!」
お父さん「しっかりしろ、奏!」
  だめ
  だめ!
  神様、お願い!
お父さん「奏!」
お母さん「ああ、奏!」
奏(かなで)「・・・?」
  わたしの体が
  たおれてる
奏(かなで)「!?」

〇公園の砂場
礼央(れお)「おい」
奏(かなで)「礼央」
礼央(れお)「奏の父さんのこと、聞いたよ」
奏(かなで)「はは、びっくりだよね!」
奏(かなで)「外側だけお父さんで、中身は猫」
奏(かなで)「わたしが好きだったお父さんは」
奏(かなで)「やっぱり・・・猫の方なんだよね」
奏(かなで)「外側だけじゃ・・・」
礼央(れお)「俺が好きだったのは、死んだ母さんだ」
奏(かなで)「!」
礼央(れお)「でも、新しい母さんも大事にする」
礼央(れお)「これから大事になるんだ」
礼央(れお)「形なんて色々だ、ひとつじゃない」
奏(かなで)「・・・礼央」
礼央(れお)「わかったらさっさと帰れ」
礼央(れお)「新学期はいつものアホみたいな顔で登校しろよ!」
奏(かなで)「アホみたいな顔って、何よ!」

〇空き地
お父さん「奏、迎えに来たぞ」
奏(かなで)「お父さん」
お父さん「夕飯はハンバーグだ」
お父さん「俺も食べたいな」
奏(かなで)「だめだよ!玉ねぎ入ってるから、猫には毒!」
お父さん「やっぱり、奏にはわかるんだな。俺の言葉」
奏(かなで)「・・・あっ」
お父さん「大丈夫。隠さなくていいよ」
奏(かなで)「何を?」
お父さん「奏の体を残してくれてありがとう」
お父さん「優しい子だな」
お父さん「『ニャニャ子』」
奏(かなで)「あ・・・」
お父さん「俺の、大事な娘」
奏(かなで)「お父・・・さん」

〇郊外の道路
お母さん「あ、丁度良かった」
ダガー「今からニャッピーを迎えに行くんすよ」
紗鳥(さとり)「皆で一緒に行きません?」
奏(かなで)「うん!」
紗鳥(さとり)「あ」
ダガー「何すか」
紗鳥(さとり)「奏ちゃん、素直な空気出てる」

〇クリニックのロビー

〇空

〇ペットショップの店内
  わたしの家族は
  うっかり者のお母さんと
  頼れるお父さんと
  人間初心者の猫と
  あったかい店員さんと
  動物たち
  血も種族も越えて
  わたしたちはもっと
  家族になる

次のエピソード:エピソード2.愛は種族を超える?

コメント

  • 修正後の読了となってしまいましたが、命の重さをメッセージとして感じる凄く素敵な作品でした😭
    主人公の設定に“実は”のフックもあり、設定の伏線が生まれたことで父だけではない広げ方が出来て、テンプレ化しやくなっているのが勉強になります🤔
    自分が続きを考えてしまうと、誰かを爬虫類にして冬眠問題を勃発させてしまうかも(笑)
    話数を重ねて何回かシャッフルした後で、“戻らない”パターンされたら号泣回に😭

  • 流石です!流石の展開の絶妙さとキャラクターの個性と入れ替わりのギミックと…書ききれないくらい、面白い作品。ハートフル!
    1/23修正後→ニャニャ子〜!
    泣けました!!強くなってやがる…。

  • それぞれ悩みを抱えながらも、家族の力が支えとなって前へ進む、ほっこりするお話でした。動物も店員さんも含めて「家族」というのが、とても素敵です^^
    動物と会話できる猫父さんのおかげで、人間たちの悩みを動物が解決したり(その逆も)する話が面白そうですね!

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