第5話『隣の真下さん(前編)』(脚本)
〇アパートの玄関前
隣の真下さん(前編)
〇整頓された部屋
向井 音「まぁ『ストーカー』って言うと大袈裟なんだけど、何か付けられているような気がするというか・・・」
真下 英雄「それを『ストーカー』って呼ぶんでしょ?」
向井 音「だよね」
真下 英雄「何か心当たりは?」
真下 英雄「例えば、その・・・二股相手のどっちかとか」
向井 音「それは無いんじゃん?」
真下 英雄「まさかと思うけど・・・三股目とか?」
向井 音「ディスってる?」
真下 英雄「『才能あるね』って話じゃん」
向井 音「1回チラッと見えた感じだと、真下さん世代のオッサンに見えたけど」
真下 英雄(お、オッサン・・・)
向井 音「やっぱり真下さんくらいの歳でも、制服姿のJK・JCはそそられるもん?」
真下 英雄「え? それは・・・」
真下 英雄「(じーっ)」
向井 音「え、今そそられてる?」
真下 英雄「いや、違くて・・・怒らない?」
向井 音「何が?」
真下 英雄「その『スカート丈が長めで、靴下がくるぶしで』みたいな着こなしが」
真下 英雄「俺ら世代からすると、変っていうか・・・」
向井 音「は? コレが流行ってんじゃん」
向井 音「わかってないな~、勘弁しろし」
真下 英雄「はいはい、申し訳申し訳」
向井 奏「真下さ~ん」
真下 英雄「奏ちゃん、いらっしゃい」
向井 奏「あ、お姉ちゃんも居たのですね」
向井 奏「ちょっと聞いて欲しい話があるのです」
向井 音「聞いて欲しい話?」
向井 奏「奏、最近誰かにストーカーされているみたいなのです」
「えぇっ!?」
〇整頓された部屋
向井 小百合「そうですか、音と奏が・・・」
真下 英雄「物騒ですし、一応警察に相談とかしておいた方が・・・」
向井 小百合「それは、大丈夫だと思います」
真下 英雄「いや、でも何かあってからじゃ・・・」
向井 小百合「・・・実は先日、私の職場にも来たようなので」
真下 英雄「え、ストーカーがですか?」
向井 小百合「いえ、探偵らしいです」
向井 小百合「聞き込みされた同僚がこっそり教えてくれたので」
真下 英雄「つまり、音ちゃんや奏ちゃんは尾行されていた・・・」
真下 英雄「でも、何で探偵なんて・・・何か思い当たる節は?」
向井 小百合「・・・多分、ですが」
向井 小百合「元夫が出所して、私たちの事を探しているのかなと・・・」
真下 英雄「そうですか、元旦那さんが・・・」
真下 英雄「って、あれ・・・出所?」
真下 英雄「旦那さんって、亡くなったんじゃ・・・?」
向井 小百合「娘たちには、本当の事は伝えていないので」
向井 小百合「『あなたたちのお父さんは、傷害で捕まりました』なんて、言えませんし」
真下 英雄「傷害・・・」
真下 英雄「まさかとは思いますが、DVとかは・・・?」
向井 小百合「・・・DVと言うのかはわかりませんが」
向井 小百合「音に手を上げた事は、あります」
真下 英雄「・・・・・・」
向井 小百合「確かに、何回同じ事を注意されても直さなかった音も悪かったとは思います」
向井 小百合「なので、DVって言うと大袈裟かもしれませんが・・・」
真下 英雄「大袈裟じゃありませんよ」
真下 英雄「大の大人が幼い娘に手を上げるなんて、正当化する必要は1ミクロもないですよ」
向井 小百合「真下さん・・・」
真下 英雄「だとすると尚更、探偵に嗅ぎ回られるのは避けたいですよね」
真下 英雄「俺に協力できる事があったら、何でも言ってくださいね」
向井 小百合「いつもいつも、申し訳ないです」
向井 小百合「でも今の段階では、何も・・・」
真下 英雄「そうですね・・・」
真下 英雄「あっ、こんなのどうでしょう?」
〇アパートの玄関前
向井 小百合「おはようございます」
真下 英雄「おはようございます」
向井 小百合「・・・変、ですかね?」
真下 英雄「いえ、良いと思います」
真下 英雄「じゃあ、行きましょうか」
向井 小百合「はい」
〇デパ地下
真下 英雄「ここのチョコが美味しいんですよ」
向井 小百合「本当にお好きなんですね」
真下 英雄「あ、新作が試食できるみたいですよ」
向井 小百合「え、食べましょ食べましょ」
市丸 豪「(じーっ)」
〇おしゃれな通り
真下 英雄「おっと、電話だ」
真下 英雄「ちょっとだけ、すみません・・・」
向井 小百合「いえ、お気になさらず」
真下 英雄「あ、もしもし・・・」
向井 小百合「・・・・・・」
市丸 豪「(じーっ)」
「(とんとん)」
真下 英雄「ちょ~っと、お茶しませんか?」
〇テーブル席
向井 小百合「『新居探偵事務所 市丸豪』さん、ですか・・・」
市丸 豪「すみませんでした・・・」
真下 英雄「で、誰に頼まれたんですか?」
市丸 豪「それは言えないです、規則ですから」
真下 英雄「ふ~ん・・・」
真下 英雄「じゃあ依頼人さんには『居場所は見つけられなかった』って報告してもらえます?」
市丸 豪「そ、そういう訳には・・・」
市丸 豪「この件も失敗したなんて知られたら、僕はクビですよ」
向井 小百合「この件『も』ですか・・・」
真下 英雄「まぁ、子供に尾行気付かれるくらいですからね」
真下 英雄「向いてなさそうですし、いっそ辞めちゃえばいいんじゃないですか?」
市丸 豪「向いてないのは百も承知です」
市丸 豪「でも今無職になったら、父一人娘一人でどう生きていけば・・・」
向井 小百合「大変なんですね」
市丸 豪「むしろ、気付かれずに私の背後に回った真下さんは凄いです」
市丸 豪「『師匠』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
真下 英雄「勘弁しろし」
真下 英雄「でもさ、探偵さん」
真下 英雄「それ以前に、依頼人の事もちゃんと調べてくれないと困るんですよ」
市丸 豪「調べましたよ、規則ですから」
真下 英雄「DV夫に元妻の居場所を教えるのは、それこそ規則に反するんじゃないですか?」
市丸 豪「DV!?」
向井 小百合「まぁ、娘に手を上げたのは事実なので」
市丸 豪「娘!?」
真下 英雄「いや、今更何言って・・・」
市丸 豪「だって真下さん、独身ですよね?」
真下 英雄「俺? 俺はそうだけど・・・」
真下 英雄「え?」
市丸 豪「え?」
向井 小百合「え?」
「・・・・・・」
真下 英雄「探偵さんが調べてたのって・・・俺?」
市丸 豪「・・・言えません、規則ですから」
向井 小百合「えっと、その・・・」
真下 英雄「勘弁しろし」