第3話 どなた様でも占います(脚本)
〇シックなカフェ
小林啓介「辰さん、後はこの棚を外に出せばいいのか?」
古屋辰郎「おう! 重いのばっか任せちまって悪りいな」
今日、俺は辰さんの店の手伝いに来ていた。と言っても開店の準備ではない。
小林啓介「・・・大体終わりましたかね」
古屋辰郎「ああ。これで・・・」
古屋辰郎「心置きなく店をたためるってもんだ」
事件の影響もあってカフェ『ジャック』は閉店することになったのだ。
古屋辰郎「とはいえ、あと1週間は小林くん達に手伝ってもらうけどな」
小林啓介「残念です、俺この店好きだったのに・・・」
古屋辰郎「変な噂もたっちまったしな、相変わらず刑事さんにも睨まれたまんまだし・・・」
古屋辰郎「いい加減に生きてきたバチがあたったんだろ。ここらが潮時だな」
小林啓介「そんな・・・」
人は見たいようにしかものを見ないというが、それでもあんまりだ。
証拠もないのに妄想を信じるなんて馬鹿げている。
古屋辰郎「動いたから喉かわいただろ。今、アイスコーヒーを出してやるよ。 ピザトーストのおまけつきだ!」
小林啓介「やった! ありがとう辰さん!」
辰さん特製アイスコーヒーに厚切りピザトースト。
でもその絶品メニューも、もう味わえなくなるのだと思うとやりきれない。
全てはあの事件のせいだ。
小林啓介(そうだ、事件と言えば・・・)
小林啓介「辰さん、ちょっとお客さんについて聞きたいことがあるんだけど・・・」
古屋辰郎「客? 吉田の爺さんか? それとも佐藤さんとこの奥さん?」
小林啓介「いや、常連客じゃなくて、スーツを来た客なんだけど・・・」
小林啓介「事件があった日にさ、辰さんとコーヒーについてしゃべってた人がいただろ?」
古屋辰郎「んー、いたっけか」
小林啓介「ほら、胡散臭い笑顔で、アタッシュケースを持った・・・」
古屋辰郎「ああ、あの真面目そうな客か。でもなんでまた?」
小林啓介「ちょっと確かめたいことがあって・・・何でもいいから教えてくれると助かるかな」
不思議そうな顔をしながらも辰さんは答えてくれた。
古屋辰郎「と、言ってもなあ、あん時はコーヒーの話しかしなかったし・・・」
古屋辰郎「・・・お? そういや」
小林啓介「何か思い出した?」
古屋辰郎「その人が持ってたアタッシュケースの中身が見えたな」
小林啓介「え? あのシルバーの?」
古屋辰郎「ああ、何か探し物でもあったのか、少しの間だけ開いててな。 で、ちらっと見えたんだが・・・」
古屋辰郎「なんというか個人データの紙束みたいのがあったんだよな・・・」
小林啓介「個人・・・データ・・・?」
古屋辰郎「履歴書とか住民基本台帳とか、何かそんな感じのやつだよ」
古屋辰郎「保険の勧誘でもしてるのかね。ちょっと気味悪かったな」
小林啓介(やっぱり・・・宇利杉が俺のことをばんばん言い当てられたのも事前に俺を調べていたからか)
小林啓介(結局、あいつの占いはインチキかよ!)
そして俺に見せた、綾音さん殺害のあの動画もやはり・・・。
古屋辰郎「小林くん、どうした? 早く食わねえとトースト冷めちまうぞ?」
小林啓介「・・・あの、辰さん、ひとつ協力してほしいことがあるのですが・・・」
〇田舎の公園
宇利杉瓜夫「――なるほど、犬を飼っていらっしゃるのですね。品種はチワワですか」
篠田弘子「すごい! 全部当たってます! もう超能力じゃないですか!」
宇利杉瓜夫「お褒めにあずかり光栄です」
宇利杉瓜夫「それでいかがいたしましょう。もうひとランク上の占いをなさってみませんか。 料金は少々かかりますけどねぇ」
篠田弘子「ええ~どうしようっかな~・・・今月あまりお金使ってないし・・・」
篠田弘子「うん、決めた! 思い切って──」
小林啓介「いりません!」
篠田弘子「きゃっ!? 啓介、なんでここに・・・!」
小林啓介「こいつは俺と約束があるんで! じゃあ!」
篠田弘子「ちょ、ちょっと啓介! いきなり何!?」
俺はほぼ強引に弘子を引っ張って、公園から連れ出した。
〇街中の道路
幸い宇利杉は追って来なかった。
完全にあの男の姿が見えなくなるまで歩いてから、弘子の手をはなした。
篠田弘子「いきなりなんなのよ! それにあの人にも失礼じゃ・・・」
小林啓介「バカ野郎! ろくに知らないヤツを信用するヤツがいるかよ!」
篠田弘子「そ、そんな。怒鳴んなくてもいいじゃん・・・」
小林啓介「あ、いや、ごめん・・・」
小林啓介「ええと、とにかく、あいつと何を話してたんだよ?」
篠田弘子「何って占いだけど?」
篠田弘子「あのね、宇利杉さんって、すごいのよ! 私や家族のことを次々に当ててくるの!」
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