ep9.決別と結婚【最終回】(脚本)
〇広い改札
翌日飛んできた母は、
ショックでうちひしがれていた。
坂下百合子「・・・相手の人と、間違いはないのね?」
綾姫「それは大丈夫。 ちゃんと結婚までダメだって話してある」
〇渋谷のスクランブル交差点
DOM「はじめまして」
坂下百合子「・・・どうも。明菜の母です」
DOM「店を予約してあるので行きましょう」
〇レストランの個室
坂下百合子「娘と結婚したいと聞きましたが」
DOM「はい」
坂下百合子「娘の宗教のことはご存知ですか?」
DOM「はい、知っています」
坂下百合子「・・・ご迷惑をおかけすると思うのですが」
DOM「大丈夫です。 親にも話して、了解をもらいました」
坂下百合子「・・・」
坂下百合子「私は、賛成する訳にはいきません」
坂下百合子「でも、娘を縛ることもできません」
坂下百合子「私は、夫の決定に従うつもりです・・・」
DOM「近いうちに御挨拶に伺います」
坂下百合子「わかりました」
DOM「さあ、食べましょう。 この店の料理はうまいですよ」
〇渋谷のスクランブル交差点
DOM「じゃあ、自分はこれで」
DOM「ご挨拶については、 また明菜さんを通じて連絡します」
坂下百合子「・・・はい」
坂下明菜「今日は都合つけてくれてありがとう」
坂下百合子「・・・」
坂下百合子「いい人ね」
坂下明菜「うん」
坂下百合子「いい人だけど・・・」
坂下百合子「・・・」
坂下明菜「・・・ごめんね」
坂下百合子「お母さんはいつまでも待ってる。 あなたが神の愛のもとに戻るのを待ってる」
坂下百合子「あなたに、滅んで欲しくない・・・!」
坂下明菜「・・・」
母はとてもわたしのことを愛してる
でも
母の信仰は相変わらず強固だ。
母の一番はわたしではない。
わたしの一番ももう、母ではない。
〇女性の部屋
坂下明菜「・・・お母さん、いい人って言ってた」
DOM「そう」
坂下明菜「いい人だけど、って・・・」
DOM「・・・」
坂下明菜「う・・・っ」
坂下明菜「ひっ・・・ふ・・・うぅ・・・」
坂下明菜「うわあああああああああああああ」
坂下明菜「ああああああああああああ・・・!」
DOM「・・・」
お母さんに祝福されない結婚。
お母さんを悲しませる結婚。
でも、わたしが幸せになるには、
これしかない。
ごめんなさい。
〇おしゃれなリビングダイニング
報告に対して、妹は優しく冷静だった。
坂下めぐみ「お姉ちゃんがよく考えて決めたことを、 否定はしないよ」
坂下めぐみ「でも、祝福はできない。ごめんね」
父は当然のように喜んでくれた。
坂下敏行「明菜が幸せになるならそれが一番だ」
母は、「夫に従う」という形で結婚を了承し、結婚式にも出席することになった。
父の存在がとてもありがたかった。
〇結婚式場のレストラン
Juno「ご親族の皆様、本日はおめでとうございます」
Juno「ご挨拶にあたり、お二人のことをいつも呼んでいる名前で呼ばせていただきます」
Juno「DOMさん、綾りん、おめでとう!」
坂下明菜「Junoさん、ありがとう・・・」
結婚式の友人代表スピーチは、Junoさん。
世間ずれしてて人見知りなわたしに、たくさん友達ができたのは彼女のおかげ。
わたしの人生を変えた恩人だ。
宗教の信者は、父に従って出席した母だけ。
妹は出席しなかった。
でも
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
ネットで知り合った友達が
たくさん出席してくれた。
くさかなこ「綾さん、DOMさん、おめでとう!」
DOM「おー!」
坂下明菜「なこちゃん、ありがとう!」
くさかなこ「仲良かったもんね~。こうなると思ってた」
DOM「なこさんも結婚するんだろ?」
くさかなこ「うん。結婚式には二人とも呼ぶから来てね!」
坂下明菜「絶対行く、楽しみにしてる!」
くさかなこ「今回に負けないようなおいしい料理、用意してもらうからね!」
坂下明菜「わーいっ!おいしいもの!」
DOM「すみませんね、奥さんが食いしん坊で」
こんなの、ありえないと思ってた。
孤独に息をひそめて、母のために人生を諦めるつもりだった。
・・・お母さん、見てくれましたか?
あなたの娘は幸せそうですか?
神には愛されないけれど、あなたが命を与えた娘は不幸ではありません。
わたしの幸せは、永遠の命ではない。
悲しまないで。
どうぞ安心してください。
坂下百合子「・・・」
坂下百合子「・・・」
〇明るいリビング
それから時は流れ───
明菜「星ちゃん、空ちゃん、 めぐみお姉ちゃんともしもしの時間だよー!」
「はーい!」
わたしは二人の娘に恵まれた。
明菜「繋ぐよ~」
娘たちは毎週、妹とネット通話で戯れている。
坂下めぐみ「おはよう~!」
星奈「めぐみお姉ちゃん!おはよう!」
空「めぐみお姉ちゃん、折り紙見て!」
坂下めぐみ「わー!上手!」
坂下めぐみ「今度お人形の服作って送ってあげるね」
星奈「やったー!」
空「あ、おばあちゃんいた!」
星奈「おばあちゃん、半分しか見えてないよ!」
坂下百合子「え、こう? これで見える?」
空「違う、口が見えてない!」
星奈「おばあちゃん、おみかんたくさん送ってくれてありがとう」
坂下百合子「どういたしまして。おいしかった?」
母とは今のところ縁を切ることもなく、孫の顔を見せてあげられている。
わたしは今、とても幸せです。
でも、これは非常に幸運な例です。
今これを見て、余計に苦しくなる宗教2世がいるかもしれない。
どうぞ、自分の心を守ってください。
〇黒
今回伝えたかったのは、明らかにおかしい親ではないケースでも問題があることです。
〇講義室
宗教2世の主な苦しみは、親のために心を偽って生きることだと思います。
子どもは親に依存しなければ生きられません。
信仰を否定するつもりはありません。
ただ、
命を握った親が、子どもに宗教の選択を迫らないでください。
〇空
宗教に限らず、大人が子どもにとって暴力にも似た影響力を持っていると自覚してください。
子どもに心を偽らせず、大事にできる世の中であって欲しいと願っています。
完
こういう言い方が正しいかは分かりかねますが、非常に面白かったです。まさにヒューマンドラマ。激動ですね。
親子の関係も変化していく。それでも親と子ではあり続けられるという事はおっしゃる通り全体の例として見たら稀有な事なんだろうなと思うとともに、良かったなと思いました。
学生時代の講師が同じ宗教の方で、聖書と共に勧誘を受けた事もあるのですが、実態は聞かされていなかったので驚きの連続でした。
宗教で救われている方がいらっしゃる一方で、柵に苦しまれている方もいる事実。
当事者ではないので無責任な事は言えません。咲良さんが苦悩を乗り越え、幸せを掴み、明るい未来を歩まれていること。それだけで良かったと思いました。ありがとうございました。
過去宗教2世の書籍を読んだことがあり、いわゆる「毒親」面に焦点をあてた構成でした。その印象が強く残っていましたが、本作を通じて自身の認識が改まったように感じます。
伝道活動を「断られた方が楽」という言には目から鱗でした。理性で自分に言い聞かせても体に現れる拒否反応、東京で「自由だ!」と喜ぶ言葉の重み、「排斥」の完全無視に対して家族の繋がりを絶たないための自然消滅狙い……一気読みして良かったです。