母を肯定できなくてー宗教2世の記録ー

咲良綾

ep7.決壊(親への告白)(脚本)

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咲良綾

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〇黒
  ほどほどに趣味を楽しんで、
  母を悲しませないために擬態して、
  自分の人生は棒に振る。
  そう、決心したはずだったのに。

〇講義室
  集会で座ってるだけで苦しい・・・
  素の自分を受け入れられる場所ができたら、自分の本当の気持ちも見えてきた。
  イベントを祝いたかった
  友達と遊びたかった
  好きなエンタメ楽しみたかった
  将来に夢を見たかった
  恋愛したかった
  大学行きたかった
  普通に就職したかった
  この宗教で育ちたくなかった
  この宗教が教える、「真理」。
  「神の愛」。
  子どもだからわからないんだと思ってたけど、大人になってもわからない。
  わたしは、子ども時代を潰されたんだ。
  わたしが今大事にしてるものがバレたら、また悪魔扱いをするんでしょう?
  そんなはずない。悪魔なんかじゃない。
  今度こそわたしは捨てたくない。
  もう、擬態ができない。
坂下明菜「ごめん、しんどいから車に行ってる」
坂下百合子「明ちゃん・・・?」

〇車内
坂下明菜「・・・」
坂下百合子「明ちゃん、大丈夫?」
坂下明菜「うん」
坂下百合子「・・・」
坂下百合子「無理しなくていいよ」
坂下百合子「お母さんは、明ちゃんが元気でいてくれることが一番大事だからね」
坂下明菜「うん・・・ありがとう」
  お母さんはわたしをとても愛してる。
  でも、一番は、神様だよね。

〇女の子の一人部屋
坂下百合子「明ちゃんが何か苦しんでるのはわかる。 何があるの?」
坂下明菜「・・・わたし」
坂下明菜「奉仕が、嫌い」
坂下百合子「!」
坂下明菜「伝道活動が嫌で仕方ないの。でもやらないと、一員として認められないでしょう?」
坂下明菜「好きになろうと努力したけど、どうしてもダメ。わたしは信仰が育たない失格者なの」
坂下百合子「そんなことないよ。神は愛の神だよ。 ちゃんとわかってくださってるよ」
坂下明菜「じゃあなんで、わたしは伝道が嫌いなの?」
坂下明菜「聖霊の導きで喜びが与えられるんじゃないの?」
坂下明菜「わたしは努力したよ。好きなもの全部捨てて、開拓奉仕して、体を壊す限界まで!」
坂下明菜「鞭を恐れて余計な言葉を封印して、 自分の気持ちを否定して、」
坂下明菜「空っぽの体が聖霊で満たされるのかと思ったら、脱け殻しか残らなかった」
坂下明菜「やっとの思いで自分の気持ちを取り戻したら、信者に必須のものが大嫌いだった!」
坂下百合子「・・・」
坂下百合子「お母さんもあなたたちにしたことを思い出すと、本当に苦しくてどうしようもない」
坂下百合子「あなたたちのためだと思って、 司会者に言われるままひどいことをして」
坂下百合子「お母さんを恨んでるでしょうね。 ごめんなさい」
坂下明菜「違うよ、お母さんは恨んでない! お母さんは謝らなくていい!」
  だって、知ってる。
  母がどんなに必死だったか。
  周囲の空気。圧力。指示。叩かないと子どもの命を救えないという脅し。
坂下明菜「謝って欲しいのは、お母さんじゃない!」
坂下百合子「明ちゃん、神を嫌いにならないでね」
坂下百合子「鞭による懲らしめは、一部の信者が極端になってしまっただけで、神の指示ではないんだよ」
坂下明菜「でも組織ぐるみでやっていたでしょう?」
坂下明菜「どうして長いこと正されなかったの? 神に導かれてるんでしょう?」
坂下百合子「でも本当に、神は愛の神よ。 明ちゃんにも実感して欲しい」
坂下百合子「神は明ちゃんを絶対に見捨てたりされないよ」
坂下明菜「・・・」
坂下百合子「明ちゃん、話してくれてありがとうね」
  母の神への愛は揺らがない。
  ここでわたしが組織の問題点を言いつのれば、信仰の否定で排斥になりかねない。
  自分が続けられない理由は吐き出せた。
  これ以上はもう、何も言えない・・・

〇黒
  それからわたしは、メンタルを病んだため休息するという形で、
  集会に行くのをやめた。
  ああ・・・

〇空
  心が軽い。
  集会も・・・ 奉仕も・・・
  もう行かなくていいんだ。
  羽が生えたみたい。
  大丈夫、怖くない。
  わたしは悪魔の影響なんて受けてない。
  良心に何も恥じるところはない。
  悪いことなんかしてない。
  わたしはハルマゲドンで滅びたりしない。

〇女の子の一人部屋
坂下明菜「正社員で雇ってもらえたけど、今の不動産会社ヤバいなぁ。いつか摘発されるよ」
坂下明菜「転職したいけど、事務の就活は倍率がエグくて難航したんだよね・・・」
坂下明菜「わたしももう34歳だし、事務技能だけじゃ先行き不安だな」
坂下明菜「何か手に職をつけたい」
坂下明菜「うーん・・・リフレクソロジーか。これいいな」
坂下明菜「熊本でちゃんと学べるところはなさそう。 福岡か、東京か・・・」
坂下明菜「まずは資金作りだな。あと一年くらい、今の会社で我慢して・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
坂下敏行「明菜」
坂下明菜「何?お父さん」
坂下敏行「お父さんの退職金、100万円ずつ子どもたちに生前贈与しようと思ってるんだ」
坂下敏行「それなら税金がかからないから」
坂下明菜「えっ・・・ありがとう!」
  これでブラック企業を我慢せずに行動できる!

〇おしゃれなリビングダイニング
坂下明菜「お父さん、お母さん」
坂下明菜「わたし、リフレクソロジーの資格を取りたいの。そのために一年間東京に行きたい」
「えっ・・・!」
坂下敏行「うーん・・・ 淋しいけど、明菜がやりたいなら」
坂下百合子「一年したら帰ってくるのね?」
坂下明菜「うん、そのつもり」

〇女の子の一人部屋
坂下明菜「東京に行くことになりました、っと」

〇幻想
「わー、いらっしゃーい!!」
綾姫「関東のみんな、遊んでね!」
「頑張ってね!」
綾姫「他の地域のみんな、ありがとー!」
  Junoさんは、今は関西在住だ。
DOM「えーっ!?綾さん、こっち来るの?」
綾姫「うん。一年だけね」
DOM「おー!来たらバーベキューとか企画するよ」
綾姫「ひゃっほー!肉ー!」
  このときは本当に、
  一年で帰るつもりだった。

次のエピソード:ep8.上京と解放(心のままに生きる喜び)

コメント

  • ああ、本当によかった…と思えますね。
    その環境で耐え忍んでいた辛さは私には想像出来ませんが、その解放感たるや凄まじいものがあったことでしょう。

  • 人生の岐路に宗教があって、その時々の心情の吐露が胸に迫ります。読みやすく惹きつけられる描写で、一気に読んでしまいました。中々触れることのできない希少なお話をして頂き、ありがたく思います…

  • ああ、綾さんすごいなぁ…。
    なんというか、もう…。
    あの頃もまだ完全に切れたわけじゃなかったんですね。本心をぶつけられて本当に良かった。
    東京行きの裏側にそんなお話があったとは。
    ご両親に反対されなくて良かったです…。😭

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