母を肯定できなくてー宗教2世の記録ー

咲良綾

ep3.排斥の恐怖(忌避問題)(脚本)

母を肯定できなくてー宗教2世の記録ー

咲良綾

今すぐ読む

母を肯定できなくてー宗教2世の記録ー
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇講義室
坂下明菜「めぐみちゃん」
「なに?」
坂下明菜「あはは、愛実姉妹、呼んだのは妹の方だよ」
森崎愛実「そっかー、わたしを呼ぶならもう、「姉妹」ってつくのか!」
坂下めぐみ「この前巡回大会でバプテスマ受けたもんね」
坂下めぐみ「わたしもめぐちゃんじゃなくて愛実姉妹って呼ばなきゃ」
森崎愛実「やだなぁ、めぐみ姉妹が自分のこと呼んでるみたいで、変な感じ!」
坂下明菜(この二人、仲良しだな。 妹が年上だけど童顔だから同じくらいに見える)

〇おしゃれなリビングダイニング
坂下めぐみ「あ、森崎姉妹こんにちは。 今日はお姉ちゃんのストレッチ施術?」
坂下明菜「うん」
坂下めぐみ「わたしは今から愛実姉妹と出かけるんです」
森崎則子「聞いてるよ。いつもありがとうね」
坂下明菜「また?仲良しだねー」
坂下めぐみ「えへへ、行ってきまーす」
坂下明菜「行ってらっしゃーい」
森崎則子「・・・」

〇講義室
長老「次のプログラムに移る前に発表があります」
長老「森崎愛実さんは、もう我が組織の成員ではないことをお伝えします」
「!?」
  愛実姉妹が・・・排斥?
  嘘、昨日も妹と出かけたばかりなのに
  排斥されるのを知って、最後の思い出作りをしてたってこと?だからあんなに頻繁に
  めぐみちゃん・・・ショックだろうな
坂下めぐみ「・・・」
  「排斥」というのは、大きな罪を犯したり信仰を否定するなどした信者に下される措置。
  排斥された人にはもう、親しくするどころか話しかけることも許されない。
  例え、身内でも。
  必要不可欠な会話以外、できない。
  組織を清らかに保ち、心からの悔い改めを促すための、「神の愛ある取り決め」なのだ。

〇講義室
  愛実姉妹・・・いや、愛実ちゃん。
  復帰を目指すんだ・・・
  信者に復帰するには、悔い改めの態度を示しつづけなければいけない。
  全員に無視されながら集会に出席する。
  それを数年単位で継続する。
森崎則子「明菜姉妹!割当ありがとうございました」
坂下明菜「あ、森崎姉妹!ありがとうございます」
  森崎姉妹の後ろに、笑顔でついて回ってる。
  輪に入る雰囲気を味わいたいんだろうな
  愛実ちゃんを見ないようにしないと・・・
  ・・・つらい。胸が痛んで仕方がない。
  森崎姉妹はもっとつらいだろう。
  これが、愛の措置・・・?
  今さら信仰を否定したら、お母さんともめぐみちゃんとも、まともに話せなくなる。
  世との交友を控えてきたから、
  親しい友人はほとんど同じ信者ばかり。
  えげつない囲い込みだなって・・・思ってはダメだよね。多分わたしの理解が浅いだけ・・・

〇安アパートの台所
坂下百合子「これで大体片付けは終わったかしら」
坂下明菜「うん、手伝いありがとう」
坂下百合子「穂波姉妹、これからよろしくお願いします」
石川穂波「はい、こちらこそ」
  わたしは実家を出て、パートナー生活をすることになった。実家から10分のプチ独立。

〇女の子の部屋
  テレビもない、シンプルな環境。
  宗教活動に集中する。余計な情報は入れない。
  今度こそ、聖霊の導きを邪魔するものはない。
  信仰を否定して排斥されるわけにはいかない。
  母と同じ信仰が欲しい。

〇おしゃれな廊下
坂下明菜「お忙しいところすみません、今日は皆さんに是非読んでいただきたい雑誌を差し上げています」
坂下明菜「特に、この記事が興味深かったので、ぜひ」
女性「うちは結構です」
坂下明菜(よし、一件クリア。 ちゃんと証言して、断られた)
坂下明菜(断られたら再訪問しないで済むから、逆にほっとしちゃう)
坂下明菜(穂波姉妹に交代してしばらく休める。 あー、次から全部留守だったらいいのに)
坂下明菜(いや、ダメだ、こんなこと考えちゃ! 伝道は最も重要な、神から託された業なのに)
坂下明菜(この活動は、神に喜ばれてる! わたしは天に宝を蓄えている!)
坂下明菜(奉仕の喜び、奉仕の喜び・・・)

〇秘密のアジト
坂下明菜(集会所の建設奉仕は最高!)
坂下明菜(信者ばかりの中で普通に働けば、 伝道活動の時間が減免される♪)
坂下明菜(アルバイト休まないといけないし交通費も自費だけど、毎月あったらいいのにな)
坂下明菜(・・・・・・)
坂下明菜(・・・自分の伝道嫌いを実感しちゃう。 いつになったら好きになれるかな)
  信者は伝道時間の報告で、成員と認められる。
  信仰の必須条件だから嫌いなままだと詰む。
  母のように宗教活動を好きになりたい。
  好きにならないまでも、慣れたい。

〇講義室
坂下明菜(今日は特に頑張って予習したけど・・・)
坂下明菜(どうしても屁理屈に感じて、 ストンとこないんだよね)
坂下明菜(これが真理だって心から確信したいのに。 小説の伏線回収みたいにワクワクしたいのに)
坂下明菜(確信すれば、伝道活動にも積極的になれる気がするのに)
坂下明菜(神の知恵は計り知れないのだから、余計なこと考えずに素直に受け取るべきなんだろうけど)
坂下明菜(ああ、わたしの信仰は、霊的な喜びは、どこ?)

〇通学路
  家を出て、約二年後
坂下明菜(・・・最近、奉仕が苦じゃなくなってきた。 積極的にはなれないけど、さすがに慣れたかな)
坂下明菜(このまま、頑張れば・・・)

〇黒
  落ち着いた思いとは裏腹に、
  体に異変が起こる

〇女の子の部屋
  ニキビがどんどんひどくなって治らない。
  鼻や顎で膿を持って膨れて、直径3センチくらいのものもあって、痛い
  お母さんが心配して契約しちゃった30万のエステの効果も微妙・・・
  こんな汚い顔であんなキラキラな場所に行きたくないのに。親のお金使いたくないのに。

〇女の子の部屋
  もう、起きないと・・・奉仕の区域カードを預かってるのに集合時間に間に合わない
  あれ・・・なんで?
  涙が止まらない
  ああ・・・
  わたしの体は、どうしたの?

〇黒
  その後も調子は戻らず、
  わたしは開拓奉仕を降りて
  実家に戻った。

〇女の子の一人部屋
  実家でしばらく休めば、
  また頑張れるはず・・・
  でもいくら休んでも、
  体は回復しなかった。

次のエピソード:ep4.どん底(鬱発症)

コメント

  • ぐぅぅ、辛い…。

    この囲い込みのための脱退者(および身内)への厳しい仕打ちこそが宗教の本当に嫌なところですよね。自身の防御として世間には信仰の自由を宣うくせに…。

  • 遅ればせながら一気にここまで読ませていただきました。
    愛するお母様が大切にしているものを自分も大切にしたいという思いと、それを心から受け入れられず体調にまで影響してきてしまった明菜の気持ちを思うと胸が痛みます。
    幼い頃からの思想的な教育にもかかかわらず、自分で考えることを放棄しなかった彼女だからこその苦しみなのでしょうね。明菜の今後を見守りたいと思います。

  • 綾さんはいつも思慮深いと思っていたのですが(いい意味ですよ)、こういった背景を通してより一層綾さんの人柄を知れた気がします。
    排斥とはそういう事だったんですね。他人はともかく、身内とも…となるとやはり考えるものがありますね。
    デリケートなことなので、見当違いな事言ってないかな、とビクビクしますね💦

コメントをもっと見る(5件)

ページTOPへ