ep2.抑圧と自我(懲らしめの鞭)(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
坂下明菜「ただいま」
坂下明菜「!?」
〇古めかしい和室
吉川清子「もっとしっかり!反抗的な態度を取っているうちは、鞭が効いていません」
坂下百合子「お尻を出さないと、もっと回数が増えますよ!」
坂下めぐみ「イヤー!!イヤイヤイヤアアアアア!!!!!」
坂下百合子「うっ・・・」
吉川清子「お子さんが滅ぼされてもいいんですか!」
吉川清子「毅然とした態度で!親が怯んではいけません。お子さんの命がかかっているんですよ!」
坂下百合子「10数える間にお尻を出しなさい!」
坂下めぐみ「ギャアアアアアアア!!イヤアアアア!!!!!」
〇おしゃれなリビングダイニング
坂下明菜「・・・」
バカだな。さっさと出せば一発で終わるのに
でもめぐみちゃんはまだ4歳だもん、わからないよね・・・
叩かれないと、何もわからないんだ。
賢くて間違えない大人に正されないと
でも
大人になってから真理を知った人、ずるいな
あの痛みも恐ろしさも、知らないんだもの
わたしには学校という鞭の発生しない安全地帯があるけど、めぐみちゃんにはそれがない
めぐみちゃんは守られているの?
わからない、可哀想としか思えない
神はけして間違えない、愛の神。
わかっているけど・・・
愛せないのは、わたしが
子どもでバカだから?
〇教室
坂下明菜「何の話?」
友達2「漫画だよ!」
坂下明菜「新聞の4コマ?」
友達2「違うよー、少女漫画!」
坂下明菜「ふぅん・・・」
坂下明菜(楽しそう。読んでみたいな)
〇女の子の一人部屋
坂下明菜「・・・」
こっそり買っちゃった。
坂下明菜「・・・」
坂下明菜「・・・」
坂下明菜「お、お、面白ーーーい!」
坂下明菜「なにこれ、続き気になる!絵も可愛い! 来月も買いたい!」
〇教室
友達1「え、漫画描いてるの?うまーい!」
友達2「ほんとだ!完成したら見せてね」
坂下明菜(・・・楽しい!)
坂下明菜(ああ、漫画家になりたいな・・・)
坂下明菜(でも、無理だ)
坂下明菜(この世の栄光を追い求めても、もうすぐ滅びるから無駄なんだった)
坂下明菜(わたしも、 神の王国を第一にしないと滅ぼされる)
坂下明菜(この世の漫画には、悪魔の影響が・・・)
坂下明菜(でもこんな可愛くてドキドキして楽しいもの、どうやって憎んだらいいの)
どうしたら世を憎んで
神の愛を実感できるんだろう。
〇黒
神権宣教学校に入ればわかる?
〇講義室
長老「素晴らしい割当でした。 次も頑張ってください」
坂下明菜「ありがとうございます」
坂下明菜(要するにテーマに沿った寸劇制作だもんね。 脚本書くみたいで楽しい♪)
坂下明菜(でも得意だから神の助けはいらないっていうか・・・聖霊の導きとか実感できないな)
〇黒
伝道者になればわかるかも
〇おしゃれな廊下
坂下明菜「この雑誌を2冊100円のご寄付で 提供しています」
女性「買いますけど・・・ あなたたち、子どもなんて使って卑怯ですよ」
女性「はい、お金。こんなことさせられて可哀想に」
坂下明菜「ありがとうございます。どうぞお読みください」
坂下百合子「ああいうときは、自分の意思でやってるんですって言わなくちゃ」
坂下明菜「・・・はい」
坂下明菜(こんなこと、やりたくはないよ、大嫌い。 でもやれば喜びに変わるっていうから)
坂下明菜(全然変わらないけど)
〇黒
バプテスマを受ければ
〇展示スペース(展示物無し)
坂下明菜(これはテンションあがるな・・・)
坂下明菜(神に献身して、一度死んで生まれ変わる儀式だもの。今度こそ実感できそう)
〇講義室
高校生でバプテスマを受け、休みの多い月は、補助開拓奉仕(月60時間の伝道活動)をする
わたしは「模範的な2世」だった。
高校卒業時も、進学や就職をせず、
母校からの臨時講師の打診も蹴った。
アルバイトしながら、開拓奉仕(年間1000時間の伝道活動)を目標に補助開拓奉仕に励む。
父を説得して取った世間的にはバカな進路を、会衆の仲間は褒めそやし、
坂下百合子「明ちゃん、頑張ってるね!すごいわ」
とりわけ母が喜んだ。
〇女の子の一人部屋
・・・けれど少しずつ、
綻びがわたしを襲う
坂下明菜「・・・」
また、こっそり漫画買っちゃった。
物語を考えるのも、
イラストを描くのも楽しい。
可愛くて怖い歌、どうしようもなく好き。
魔法、戦闘、恋愛、異教の物語
バイト仲間に借りたゲーム機で遊ぶのも
やめられない。
聖書研究なんかより断然面白い。
奉仕が大嫌いで信仰も育たないのは、わたしがこんなことしてるから?悪霊のせい?
坂下明菜「・・・」
もうわたし、大きくなったよ。
どうして賢くなれないの。
世の中の創作物を見ていると、悪魔に惑わされてるなんて思えない。
善くあろうと足掻く人たちの物語。
罪深さを見つめて逃げない物語。
こんな心を動かすものを造って輝く人たちを、心動いて笑い泣く人たちを、滅ぼす?
愛しさしか湧いてこない。
わたし、この世を愛してる。
まだ神のことは理解できない。愛せない。
愛せるはずだとずっと言い聞かせているだけ
坂下明菜「・・・」
〇女の子の一人部屋
坂下明菜「・・・」
坂下明菜「?」
坂下明菜(わたし、いつの間にか寝て・・・)
坂下明菜「!」
坂下百合子「明ちゃん。全部見たわ」
坂下明菜「・・・!」
魔法を使って戦うファンタジーの設定資料、書きかけの創作物、読みかけの漫画
何もかも広げて寝ているところを見られた。
坂下百合子「これは聖霊の導きよ。 神が危険を教えてくださったんだわ」
ああ、そうか。やっぱりわたしがやってたのは悪いことで、見過ごされないんだ。
・・・助かった。
これで、やめられる。
〇おしゃれなリビングダイニング
さすがにもう、鞭の懲らしめはされない。
まずは会衆の責任者である長老の「牧羊(ぼくよう)訪問」を受けて諭される。
長老「では、姉妹は反省しているんですね」
坂下明菜「はい」
長老「これからどうしたいですか?」
坂下明菜「悪霊の影響がありそうなものは全部捨てます」
長老「それがいいですね」
坂下明菜「そして開拓奉仕をします。 余計なものに気を取られる時間をなくします」
坂下百合子「明ちゃん・・・」
長老「それは素晴らしい! 神も喜んでおられますよ」
わたしは決心した。
自分の欲はもう捨てる。
全部の影響を排除して、活動に集中する。
そこまですれば、さすがに
わたしにも信仰が育つでしょう。
〇黒
わたしがここまで覚悟を決めて
宗教内に留まらないといけないのには、
どうしようもなく重い理由がある。
バプテスマを受けた信者は、
穏便に「脱退」などできないのだ。
周囲を喜ばそうと未成年でバプテスマを受けた2世を最も苦しめるであろうシステム
それは
排斥。
壮絶ですね😱
ききかじり程度の知識しかありませんでしたが、この作品を通してよくわかりました。
綾さんの当時の気持ちが伝わってきます。
うっすらと知識としては活動内容を知っていましたが、当事者の目を通すと本当にきついですね。押し付けられた常識・正解と、自分の本当の心のはざまで苦しみ続けていたのが伝わってきました。
薄々、友達や知り合いから聞いていたので、そういうことなんだろうなと思っていましたが、体験談として読むとやっぱりそうかと思いました。
実際、ムチで叩いたと聞いたとしても、そういう教育方針なのかなと思って通報まではしないから、どこまでがボーダーラインなのか悩ましいですね。