#3 しつらくえん(脚本)
〇スーパーの店内
加藤麻里奈「はあ・・・」
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「子供のくせに、輝明の何が分かるの?」
加藤沙夜「・・・お父さんは・・・優し」
加藤麻里奈「うるさい!」
加藤沙夜「ひっ・・・」
加藤麻里奈「良いわよね、沙夜は。お父さんに可愛がってもらえて!」
加藤麻里奈「私なんて・・・私なんて・・・!」
加藤沙夜「・・・」
〇スーパーの店内
加藤麻里奈「何であんなこと言っちゃったんだろう」
加藤麻里奈「沙夜は何にも悪くないのに」
加藤麻里奈「私っていつもそうだな・・・」
加藤麻里奈「頭に血が昇ると、何も考えられなくなって・・・」
加藤麻里奈「・・・」
〇スーパーマーケット
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「病気なのかな・・・私・・・」
加藤麻里奈「最近、幻覚も多いし・・・」
加藤麻里奈「病院行った方がいいのかな・・・」
加藤麻里奈「でも・・・」
〇駐車車両
ジェシカ「・・・」
〇スーパーマーケット
加藤麻里奈「・・・きっと、気休めにしかならない」
加藤麻里奈「私の胸の中のぐちゃぐちゃが消えてなくなるまで、ずっとこのままだ」
加藤麻里奈「どうして私はこんなに悩んでるんだろう」
加藤麻里奈「本当は考えたくないのに」
加藤麻里奈「考えすぎて、不安になって・・・」
加藤麻里奈「人を信じられなくて・・・」
〇駐車車両
ジェシカ「・・・」
〇スーパーマーケット
加藤麻里奈「もう・・・やだよ」
加藤麻里奈「何で、私はこうなの・・・」
?「ねー、あの人独り言やばくない?」
?「念仏でも唱えてるのかしら」
?「あははっ。何あれ、ちょーウケる」
?「マジモンの人じゃん」
加藤麻里奈「うぅ・・・」
加藤麻里奈「誰か・・・助けて・・・」
???「おねーさん?」
加藤麻里奈「ひっ・・・」
斉藤郁人「ごめんなさい。驚かせちゃったかな?」
加藤麻里奈「・・・」
斉藤郁人「ぼーっとしてると危ないですよ。ここは車の出入りも激しいので」
加藤麻里奈「ごめんなさい・・・」
斉藤郁人「あっ、待って!」
加藤麻里奈「・・・何ですか?」
斉藤郁人「そんな暗い顔してたら、可愛い顔が台無しですよ」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「私って可愛いですか?」
斉藤郁人「はい」
加藤麻里奈「こんな、おばさんなのに?」
斉藤郁人「全然おばさんに見えませんよ」
加藤麻里奈「それって・・・本心?」
斉藤郁人「本心です」
?「ねぇママ〜、おやつは何円まで?」
?「3000円まで!」
?「太っ腹ァ!」
?「くぅ〜〜。スロットで負けてなければ」
?「いいのよ、あんたは払わなくて」
?「かたじけねぇ・・・」
加藤麻里奈「・・・」
斉藤郁人「あ、そのストラップ・・・ もしかして「ちいくろ」ですか?」
加藤麻里奈「「ちいくろ」知ってるんですか?」
斉藤郁人「知ってますよ! 有名じゃないですか」
加藤麻里奈「有名・・・なのかな? 私の周り、知ってる人いなくて」
斉藤郁人「えー勿体ない。知らない人は人生損してますよ」
加藤麻里奈「ですよね! あんなに可愛くて・・・癒される・・・」
〇駐車車両
ジェシカ「・・・」
ジェシカ「・・・きゃはっ!」
〇レトロ喫茶
加藤麻里奈「「ちいくろ」を読んでいる間だけは、ここではないどこか別の世界にいるような感覚になるんです」
斉藤郁人「分かります! 現実逃避できると言いますか、嫌なことを忘れられるんですよね」
加藤麻里奈「「ちいくろ」の世界は全てがシンプルで、現実世界のようなしがらみがない!」
加藤麻里奈「ちいくろたちが遊んでるのを見ているだけで、心が浄化されるんです」
斉藤郁人「分かります。「ちいくろ」の世界こそ、真の幸福ですよね」
斉藤郁人「暮らしも、労働も、日常生活の全てに喜びがある」
加藤麻里奈「そうなんです! 喜びがあるんです!」
斉藤郁人「でも・・・」
加藤麻里奈「現実世界に・・・同じような喜びはない」
斉藤郁人「はぁ・・・」
斉藤郁人「世知辛いですね・・・」
加藤麻里奈「ですね・・・」
加藤麻里奈「私も「ちいくろ」になりたいです・・・」
斉藤郁人「・・・」
斉藤郁人「なれないかな・・・?」
加藤麻里奈「?」
斉藤郁人「僕たちで「ちいくろ」に、なれないかな」
加藤麻里奈「・・・なれたらいいなぁ」
斉藤郁人「・・・」
斉藤郁人「なれますよ。きっと」
加藤麻里奈「え?」
斉藤郁人「嫌なことも、不安も、全部忘れてしまえばいい」
斉藤郁人「ただ楽しい時間を過ごす。それだけでいい」
加藤麻里奈「そんなこと・・・できるわけ」
斉藤郁人「おねーさん、結婚してるんですよね」
加藤麻里奈「・・・」
斉藤郁人「結婚生活って、実際どうですか?」
斉藤郁人「思ってたのと違ったりしません?」
加藤麻里奈「・・・」
斉藤郁人「その指輪が、あなたを縛り付けているのかもしれない」
加藤麻里奈「えっ・・・ちょっ!」
斉藤郁人「これは僕が預かっておきます」
加藤麻里奈「そ、そんな・・・」
斉藤郁人「次会う時に返します」
斉藤郁人「とりあえず、連絡先だけ交換しましょう」
加藤麻里奈「・・・」
ジェシカ「きゃはっ」
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「えへへ・・・」
〇レトロ喫茶
斉藤郁人「自己紹介が遅れましたね」
斉藤郁人「僕は斉藤郁人といいます」
斉藤郁人「最近、こちらに引っ越してきた大学生です」
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「えへ」
加藤麻里奈「えへへ・・・」
〇レトロ喫茶
斉藤郁人「指輪は・・・僕と会うための口実です」
斉藤郁人「あなたが落とした指輪を、たまたま僕が拾った」
斉藤郁人「返してもらうために、会いに行く」
斉藤郁人「何も、後ろめたいことはありません」
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「そういえば、「ちいくろ」と「マシマロ」の出会いもこんな感じだったなあ」
加藤麻里奈「おどおどしてる「ちいくろ」を、「マシマロ」が明るくエスコートして・・・」
私って、単純なのかな
それとも、人間はこんな簡単なことで幸せになれちゃう生き物なのかな
ワクワクする。次会う時が待ち遠しい
その気持ちだけで、日々を乗り越えられる気がする
加藤麻里奈「家庭が・・・世界の全てだと思ってた」
加藤麻里奈「でも・・・そんなことなかったんだね」
加藤麻里奈「・・・ふふっ」
〇大樹の下
私「お腹すいた・・・」
彼「じゃあ一緒に“狩り”に行こう!」
彼「きっと美味しい獲物がたくさんいるよ!」
私「怖いよお・・・」
彼「大丈夫。一緒なら怖くない」
?「・・・」
?「グェッ!?」
彼「良いところに獲物発見!」
彼「挟み撃ちしよう!」
私「えぇ・・・!」
?「グァァ! グァァ!」
彼「シャアアアッー!」
私「しゃ、しゃー!」
?「グェェ!」
?「ウウゥ・・・」
彼「やったー! 倒したー!」
私「やった・・・!」
彼「ぺろぺろ・・・美味しい!」
彼「ゼリーの味がするよ!」
私「ぺろ・・・」
私「冷たくて、美味しいね」
彼「うん!」
お母さん?
彼「お腹も膨れたところで、次は何しよっか?」
私「うーんとねー」
お母さんってば
私「デートがしたい!」
彼「で、デートですと!」
お母さんお母さんお母さんお母さん
私「あれ? もしかして」
私「これが既にデート・・・?」
お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお母さん
彼「・・・かもしれないね!」
私「にゃーん」
お母さん
〇アパートのダイニング
加藤麻里奈「へっ・・・?」
加藤沙夜「おはよう。お母さん」
加藤麻里奈「私、寝ちゃって・・・」
加藤沙夜「お父さん、今日も帰り遅いって」
加藤麻里奈「そ、そう・・・」
加藤沙夜「私、寝るね」
加藤麻里奈「お・・・おやすみなさい・・・」
加藤麻里奈「あっ」
加藤麻里奈「お風呂入った・・・?」
加藤麻里奈「ご飯は・・・?」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「はは・・・」
加藤麻里奈「私、母親失格だな・・・」
〇女の子の一人部屋
加藤沙夜「失格だよ」
加藤沙夜「死んだ方がいい」
加藤沙夜「・・・」
加藤沙夜「でも・・・」
加藤沙夜「お母さんは、お母さんだけだから」
加藤沙夜「他にいないから」
加藤沙夜「・・・」
加藤沙夜「出会いは・・・なかったことにできないけれど」
加藤沙夜「隠すことなら・・・できるよね」
加藤沙夜「大丈夫。何があっても・・・」
加藤沙夜「私がこの家族を元に戻すから・・・」
〇空
それが、私にできる
唯一の「再編」だから
やはり、怖いです。バランスは、いつ壊れても、おかしくないです。子はかすがわせる感じがします。許してくださいジェシカちゃん。
親の本能に振り回される子供のなんと痛ましいことでしょう😭
ただ、本能を抑制できない人間が多いのも事実ですよね…
あー、このなんとも言えない読後感を多くの人に知って欲しい…
気づいてあげてほしい!