3.山に住む青年(脚本)
〇山中の坂道
アレから俺達は・・・・・・
湊 月冴「桔梗、大丈夫か?」
桔梗「うん」
椿桔「月冴様、足元お気を付け下さい」
湊 月冴「ああ」
歩きで山道を歩いている。
前に椿桔が送った手紙の返事で魔術師が俺の行先を本格的に捜し始めていると情報があり、
念の為奴等の目が届かないルートを選んだ。
元々騎士として鍛えていた俺や、そんな俺に何処へでもついて来てた椿桔は普通に進めるが、
桔梗は慣れていないから気を付けて進む。
いっそ抱き上げて進んだ方がいいか?
椿桔「・・・・・・月冴様」
湊 月冴「無視しろ。向こうが仕掛けるまで、こっちから手を出すな」
桔梗「?」
山道に入ってから感じる視線。
当然気付いた椿桔は俺の指示を仰ぎ、俺達の会話に桔梗は首を傾げた。
それにしても、この気配・・・・・・前に接触した事がある気がする。
???「・・・・・・チッ」
ビュンッ
湊 月冴「!」
椿桔「月冴様!?」
ザシュッ
湊 月冴「・・・・・・っ・・・・・・!!」
椿桔「月冴様!!」
桔梗「月冴!!」
咄嗟に椿桔と桔梗から庇った直後、俺の左肩に短剣が刺さった。
椿桔「チィ!!」
???「うわっ!?」
椿桔が苦無を投げつつ、俺の肩を押さえながら短剣を抜く。
桔梗「月冴・・・・・・月冴!」
椿桔「落ち着いて下さい、桔梗様。治癒をお願いします」
桔梗「う、うん」
動揺しながらも、桔梗は俺の傷を癒してくれた。
その間に椿桔が一度消え、一人の男を引き摺りながら戻ってくる。
???「この、放せ!!」
椿桔「黙れ。よくも月冴様に怪我を・・・・・・!」
湊 月冴「椿桔、ちょっと待て」
椿桔「はい」
逃げようと暴れる男を仕止めようとする椿桔を抑えながら、顔をよく見た。
確か、彼は・・・・・・
湊 月冴「あの村の住人だな?」
椿桔「!」
桔梗「?」
???「っそうだよ!何でこんな所にいんだよ。俺達を馬鹿にしに来たのか!?」
湊 月冴「いや、違う。俺達は此処を通り掛かっただけだ」
???「信じられるか!それに、そのガキは魔術師だろ!」
指差された桔梗がビクリとして俺の後ろに隠れる。
湊 月冴「桔梗は・・・・・・」
パァン
乾いた音。
椿桔「・・・・・・・・・・・・!」
それは、椿桔が持っていた苦無を飛ばした。
帷 翡翠「何やってんだよ」
???「翡翠!!」
湊 月冴「あの時の・・・・・・」
森の奥から現れたのは、あの時俺の頭を撫でた青年。
男に呆れた視線を向けつつ、手に持つ銃は俺達を警戒した様に此方に向けられている。
それに俺は両手を挙げた。
湊 月冴「危害を加えるつもりはない」
帷 翡翠「あの時の騎士さんか。なら、ソイツを放してくれ」
湊 月冴「元騎士だ。椿桔」
椿桔「・・・・・・はい」
椿桔が男を解放すると、彼は青年の方に駆け寄る。
帷 翡翠「元?騎士を辞めたのか?」
湊 月冴「ああ・・・・・・?」
椿桔「月冴様?」
視界が・・・・・・歪む・・・・・・
マズイ、意識が・・・・・・
「月冴(様)!!」
体が傾いた直後、俺の意識は真っ黒に染まった。
〇神殿の門
「『・・・・・・!・・・・・・!!』」
「『!・・・・・・!!』」
誰か・・・・・・言い争っているのか?
「『何・・・人に魔・・・を与え・・・ので・・・!?』」
「『人は・・・かだ。だか・・・こそ、魔・・・を与え・・・。身を・・・・・・事に・・・な・・・』」
「『其れ・・・なら・・・俺は・・・・・・・・・・・・』」
俺は、この世界の為に・・・・・・
〇ボロい山小屋
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
木製の天井。
右腕に重みを感じ、視線を向ければ・・・・・・俺の右腕を枕に桔梗が寝ていた。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・?」
桔梗の頭を撫でようと左手を動かそうとしたが、酷く重い。
椿桔「!お目覚めになりましたか」
湊 月冴「椿桔」
椿桔「ご無理をなさらず・・・・・・申し訳ありません。どうやら、あの短剣に毒が塗られていたらしく」
湊 月冴「ああ、成る程・・・・・・俺は魔力皆無だからな」
魔力があれば、体内の魔力を操作して解毒出来るらしいが、俺は元々皆無だからな・・・・・・。
帷 翡翠「おー、起きたのか?」
桔梗「う・・・・・・ん・・・・・・!月冴!」
青年が入ってくると同時に桔梗が起きた。
帷 翡翠「あんたの事情はソイツから聞いた・・・・・・仲間が悪い事をしたな」
湊 月冴「いや、警戒するのは当然だ。あんな事をさせてしまったんだから」
帷 翡翠「あれはあんたの責任じゃねぇだろ。まぁ、金無くてこんな山奥に住む事になっちまったけどな」
湊 月冴「・・・・・・?金が無い?」
帷 翡翠「?ああ、支援の方は期待してなかったから、あんたが気にする事じゃ・・・・・・」
がっ
寝かされていたベッドから降りようとしたら、椿桔に抑えられる。
湊 月冴「椿桔、放してくれ。直ぐに確認しなければ・・・・・・」
椿桔「それは騎士団の役目です。月冴様はちゃんと支援を申し立て、王はそれを許可しました」
椿桔「そして、別の騎士が確かに支援金の手配をしたのも確認済みです」
湊 月冴「それは分かっている・・・・・・横領するとしたら、彼処だ。だから、確認しなければ」
椿桔「月冴様。今の貴方は騎士ではありません」
その言葉に思わず硬直した。
桔梗「つ、月冴?」
そのまま脱力し、ベッドに沈み込む。
ああ・・・・・・そうだ、俺はもう騎士じゃないんだ。
帷 翡翠「大丈夫か?」
湊 月冴「・・・・・・ああ、すまない。騒がせてしまった」
帷 翡翠「いや、気にすんな。取り合えず、毒が抜け切るまで休んでいけよ」
湊 月冴「ああ、感謝する」
心配そうな桔梗の頭を撫でた。
・・・・・・何時から俺の腕を枕にしてたんだ?軽く痺れてるんだが。
帷 翡翠「取り敢えず、歩けるか?」
湊 月冴「ん?ああ」
ベッドから足を降ろせば、椿結が手を差し出してくる。
その手を取って、足踏みをした。
湊 月冴「問題ない」
帷 翡翠「・・・・・・そっか」
湊 月冴「?」
帷 翡翠「いや、何でもねぇ」
帷 翡翠(確か、あの短剣に使ってた毒は全身麻痺する筈なんだけどな・・・・・・調合間違えたか?)
帷 翡翠「一先ずついて来な」
歩き出した青年の後に続いて歩き出す。
〇古いアパートの廊下
帷 翡翠「おっと、悪い。俺は翡翠」
湊 月冴「月冴だ。こっちは椿結と桔梗」
帷 翡翠「おう、聞いてる」
笑顔を浮かべる青年、翡翠。
〇結婚式場のレストラン
???「『ああ、聞いてるよ』」
〇古いアパートの廊下
湊 月冴「・・・・・・?」
椿桔「どうかなされましたか?」
湊 月冴「翡翠・・・・・・前に会った事があるか?」
帷 翡翠「!」
翡翠は一度目を見開き・・・・・・目を逸らした。
帷 翡翠「気のせいだろ。ほら、行くぞ」
・・・・・・あまり突っ込まれたくない、か。
それ以上聞かず、俺は大人しく翡翠の後に続いて歩き出す。
〇テーブル席
少し歩くと、大きな食堂に辿り着いた。
帷 翡翠「先ずは飯にしようぜ」
湊 月冴「ああ、助かる」
???「翡翠だー!」
タタタタ・・・と何人かの子供が駆け寄って来る。
それに対して桔梗が俺の後ろに隠れる。
帷 翡翠「よっ」
???「これからご飯?」
帷 翡翠「そうだ」
???「あ、桔梗ちゃんもいる」
桔梗「!!」
湊 月冴「おっと」
桔梗が呼ばれた途端、俺の足にしがみ付いて来た。
・・・・・・子供相手ならまだいいと思ったんだけどな。
???「あ、お姉さ」
湊 月冴「お兄さん」
???「え?」
???「お兄さんなの?そんな女の人みたいな顔なのに」
???「女顔っていうんだろー」
???「本当にお兄さんなのか?」
桔梗「っ月冴は男だもん。僕と同じで男なんだもん」
桔梗が少しだけ顔を出して反論してくれる。
帷 翡翠「こら、お前ら客に失礼だぞ。悪いな」
湊 月冴「いや、元気なのはいい事だ」
椿桔「・・・・・・躾は必要かと思いますが」
湊 月冴「椿結」
椿桔「はい。出過ぎました」
取り敢えず反論してくれた桔梗と気にしてくれた椿結の頭を撫でた。
帷 翡翠「あんた、お人好しだろ」
湊 月冴「魔術師以外にはな」
帷 翡翠「・・・・・・意外とはっきり言うんだな」
〇木の上
木々を上手く利用した家々。
住人は大変そうだが、それでも笑顔で暮らしていた。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・穏やかだな」
帷 翡翠「ああ。こんな山奥に押しやられたけど、その分魔術師に振り回れる事無く静かに暮らしていける」
湊 月冴「そうか」
・・・・・・良かった。
あんな事があった後でも、穏やかに暮らしていける姿が見られて。
〇山道
それから一週間程、この山奥の村の世話になる。
十分に毒が抜けて、左腕が問題なく動かせる様になった事を確認し、村から発つ事にした。
帷 翡翠「おう、そっか。じゃあ、麓まで案内するわ」
湊 月冴「・・・・・・お前こそお人好しじゃないか」
帷 翡翠「相手を選ぶけどな」
この一週間で翡翠とも大分親しくなっている。
凛音や慎理と過ごしている様な感覚だった。
桔梗も数日掛けてやっと子供達と打ち解け、別れる際にはバイバイと手を振っていた。
帷 翡翠「この道を行けば、次の街に着けるぜ」
湊 月冴「ああ。本当に世話になった」
帷 翡翠「気にすんな・・・・・・あの街に居る領主様には気を付けろ」
湊 月冴「・・・・・・分かった」
領主、か・・・・・・。
翡翠と別れた後は、車が通るのがやっとの道を三人で進む。
〇温泉街
湊 月冴「確か、この街は・・・・・・」
椿桔「酒の街と呼ばれていますね」
桔梗「酒?」
湊 月冴「此処の酒は有名で、各地に輸送されてるんだ」
桔梗「そうなんだ」
湊 月冴「まぁ、桔梗は駄目だな」
椿桔「ですね」
辿り着いたのは良質な酒を提供する事で有名な街で、その所為か酒場が多くあった。
湊 月冴「先ずは宿だな」
椿桔「手配して参ります。月冴様はゆっくりと街を見て回って下さい」
湊 月冴「ああ、ありがとう」
ペコリと頭を下げ、椿結は人混みの中に消える。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
桔梗「?どうかしたの?」
湊 月冴「いや、何でもない」
・・・・・・街を歩く殆どは武装した男達。
やけに多いな・・・・・・恰好からして傭兵か?
一先ず桔梗の手を取ってゆっくりと歩き出した。
桔梗「・・・・・・!」
湊 月冴「ん?近くで見てみるか?」
桔梗「え?う、うん」
桔梗が興味を示した・・・・・・オルゴールの店に近寄る。
「良かったらネジを回してごらん」
桔梗「いいの?」
湊 月冴「店側がいいと言ってるんだからいいんじゃないか?」
桔梗「うん」
桔梗が箱型のオルゴールを手に取り、横についているネジを回した。
そして、蓋を開けると・・・・・・
桔梗「わぁ・・・・・・」
綺麗な音が流れる。
此れは・・・・・・確か子守歌だな。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
桔梗は目をキラキラしながらオルゴールを見詰めていた。
湊 月冴「・・・・・・気に入ったか?」
桔梗「うん」
湊 月冴「此れをくれ」
「はい」
桔梗「え?でも・・・・・・」
湊 月冴「いい思い出、だな」
桔梗「・・・・・・うん、ありがとう」
桔梗は大事そうにオルゴールを抱え込む。
そんな桔梗を温かい気持ちで見ていると・・・・・・
「アレ?月冴?」
湊 月冴「?」
後ろから声を掛けられ振り返った。
妥 海翔「やっぱり!美人さんと見間違うその顔!月冴だ」
湊 月冴「・・・・・・その美人については深く聞かないでおきますよ、海翔殿」
妥 海翔「あはは、そうしてくれると助かる」
其処にいたのは・・・・・・一時期騎士団にもいた、妥海翔という男。
妥 海翔「何で騎士団の隊長さんがこんな遠い街に?」
湊 月冴「もう騎士ではありませんから」
妥 海翔「・・・・・・え、辞めたのか?」
湊 月冴「はい。海翔殿は何故此処に?」
妥 海翔「俺は騎士団の経験を活かして傭兵になったんだよ」
湊 月冴「傭兵・・・・・・」
妥 海翔「此れから時間あるか?この先にお勧めの酒屋があんだ。そこならジュースもあるぞ」
海翔殿が桔梗を見ながら言うと、桔梗はそっと俺の後ろに隠れる。
湊 月冴「そうですね・・・・・・」
椿桔「お待たせ致しました」
「!」
と、俺と海翔の間に椿結が割り込んだ。
椿桔「・・・・・・・・・・・・」
妥 海翔「椿結も相変わらずらしいな」
湊 月冴「ええ・・・・・・宿の手配は?」
椿桔「問題ありません」
湊 月冴「なら、そのお誘い受けましょう」
妥 海翔「よっしゃ」
〇怪しげな酒場
それから俺達は海翔殿お勧めとやらの酒場に入る。
妥 海翔「それにしても久し振りだな。隊長は元気か?」
湊 月冴「あの熊と副隊長殿に相変わらずキレられてますよ」
妥 海翔「相変わらずだな~」
俺達は酒を、桔梗はジュースを飲みながら談笑した。
湊 月冴「所で、随分と傭兵が多い様ですが」
妥 海翔「ああ、此処の領主が傭兵を集めてるんだよ」
湊 月冴「傭兵を、ですか」
妥 海翔「ああ、何でも近くの山に野盗が住み着いたから退治して欲しいんだとさ」
その言葉に俺と椿結は視線を交わす。
近くの山の野盗・・・・・・まさか、翡翠達の事か?それに支援金は移住先の領主に一時預けられる筈・・・
湊 月冴「・・・・・・詳しく聞かせて欲しいのですが」
妥 海翔「ああ、勿論。実は月冴も誘おうと思ってたんだ」
其れから詳しい事を海翔殿から聞き出す。
野盗討伐の予定は明後日。
それまでの滞在期間中、領主から補助が出され、好きに食べたり飲んだり泊まったりしていい。
その代わり、野盗は一人残らず捕まえるか殺す事。
海翔殿を潰した後、眠そうな桔梗を抱き抱えて店を出た。
〇温泉街
湊 月冴「胸糞悪い」
椿桔「直ぐ領主の事を調べ、騎士団に通報します」
湊 月冴「頼む」
店主「あんたら、ちょっと」
「!」
振り返れば、酒場の店主が店裏から手招きをしている
俺達は店に寄り掛かって休んでいるフリをしながら、然り気無く店長を隠した。
店主「察しが良くて助かる。あんた等、騎士団に伝手があるのか?」
湊 月冴「ええ、まぁ」
店主「なら、俺がこの辺の奴等に声を掛けて領主の悪事を集める。それを騎士団に伝えてくれ」
湊 月冴「!領主を告発するのか?」
店主「ああ・・・・・・今の領主は魔術師なんだ。奴自身、抱えてる魔術師がいて、好き勝手しやがってる」
店主「それに、山の奴等は野盗なんかじゃねぇ。静かに暮らしてるし、よく山で採れた果物や肉を届けてくれるんだ」
・・・・・・やっぱり、翡翠は悪い奴じゃない。
湊 月冴「ああ、分かった」
それにしても・・・・・・本当に魔術師は余計な事ばかりしてくれるな。
〇木の上
その日はそのまま宿に泊まり・・・・・・翌朝、俺は一旦椿結と別れてまた山の村へと戻る。
帷 翡翠「は?何で戻ってきたんだ?」
翡翠には本当に驚いた顔で俺と桔梗を出迎えた。
湊 月冴「あの街の領主なんだが」
帷 翡翠「関わんねぇ方がいいぞ」
湊 月冴「魔術師らしいな・・・・・・で、この山に住み着いた野盗討伐を傭兵団に依頼したそうだ」
帷 翡翠「!!あの野郎・・・・・・!!」
俺の言葉に翡翠の顔が怒りで染まる。
湊 月冴「結構日は明日」
帷 翡翠「くそっ、明日じゃ全員逃がす事は難しいな」
確かに。
この村に滞在している間に分かった事・・・・・・この村には子供や老人は勿論、臨月に入っている妊婦もいる。
山を下りるのは厳しいだろう。
湊 月冴「という事で、明日一日桔梗を預かってくれ」
帷 翡翠「・・・・・・はぁ!?」
湊 月冴「桔梗、明日一日この村に結界張れるか?」
桔梗「出来るよ」
湊 月冴「流石だ」
やる気で頷いた桔梗の頭を撫でた。
帷 翡翠「は?何考えて・・・・・・」
湊 月冴「世話になった礼だ。返り討ちにする」
帷 翡翠「は?返り討ち?」
湊 月冴「ああ」
訝し気な翡翠に笑って頷く。
今の俺は騎士じゃない。なら・・・・・・ちょっと魔術師を痛い目に遭わせてもいいよな?
〇山道
その日の晩には椿結が合流し、悪事の報告を受けて騎士団に通報をした。
翌朝。
帷 翡翠「おいおい、本当にやるのか?」
湊 月冴「ああ。というか、翡翠達は俺の後ろに居ろよ?」
刀片手に一人で麓近くまで来ると、翡翠や男達が何人かついて来ている。
湊 月冴「・・・・・・来たな」
帷 翡翠「!」
妥 海翔「あれ?月冴?」
やがて、狙った様に傭兵団が来た。その先頭には海翔殿が居る。
妥 海翔「えーと、まさか・・・・・・」
恐る恐る言って来る海翔殿にニコリと笑って返した。
妥 海翔「・・・・・・ああ、マジかよ」
湊 月冴「マジです。お前達が野盗扱いしてる彼等には世話になっていまして・・・・・・という事で返り討ちにします」
妥 海翔「・・・・・・一抜けた」
そう言うと海翔殿は持っていた大剣を地面に突き刺す。
妥 海翔「月冴を敵に回すとかやってらんねぇ。俺は抜けた」
言いながら巻き込まれない様にだろう、海翔殿は少し離れた。
湊 月冴「他は?」
???「・・・・・・・・・・・・」
他の傭兵は戸惑いつつも、降参する気はないらしい。
湊 月冴「翡翠、下がっていろよ」
帷 翡翠「いや、けど相手は多勢・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・元はと言え、騎士団の隊長をしていた身だ。傭兵相手に遅れは取らない」
帷 翡翠「!」
足に力入れて強く蹴り出す。
帷 翡翠「・・・・・・早っ」
妥 海翔「だよなー」
そして、駆け抜けると同時に傭兵達の意識を摘んでいく。
俺が通り過ぎた後、傭兵達が倒れていった。
妥 海翔「あー、月冴。一応別動隊いんだけど」
湊 月冴「椿結が殲滅してる頃だと思いますよ」
妥 海翔「だよなー」
一方、その頃。
椿桔「・・・・・・弱いですね」
椿結の前に転がる傭兵達。
椿結はスッと縄鏢をしまう。
椿桔「さて、他に居ないのを確認して月冴様と合流しないと」
〇温泉街
妥 海翔「えっと、何処向かってる?」
湊 月冴「んー、領主の所」
帷 翡翠「え」
傭兵達を縛り付けた後、俺は街を進んだ。そんな俺の後を戸惑いながら翡翠と海翔殿が付いて来る。
帷 翡翠「領主とこ行ってどうするんだ?」
湊 月冴「痛い目に遭ってもらう」
「痛い目に遭ってもらう?」
〇屋敷の門
話している内に領主の屋敷へと着いた。
???「此処は領主様の屋敷だ。用の無い者は去れ」
湊 月冴「用があるから来た」
門番らしい男に止められるが、其れに普通に返す。
???「・・・・・・って、月冴さん?」
湊 月冴「やぁ・・・・・・意識飛ばされなくなかったら、通してくれ」
???「いっ・・・・・・なんか怒ってます?」
湊 月冴「ん?」
???「ドウゾオトオリクダサイ」
門番は騎士の一人だった。
俺が領主について怒ってるのを察したらしく、あっさりと通してくれる。
(怒ってるんだ・・・・・・)
〇日本家屋の階段
さっさと領主の屋敷を進んだ。
領主は国から任命された者がなり、屋敷が提供される。
その為、大体の屋敷は似た構造だ。
だから・・・・・・
〇豪華な部屋
湊 月冴「失礼するぞ」
領主「!?」
領主の部屋は分かる。
領主「な、何だね君は」
湊 月冴「お前が野盗扱いした者達に世話になった者だ」
領主「!やれ!」
領主の言葉に周りの魔術師らしい奴等が魔術を放とうとしてきた。
湊 月冴「遅い」
領主「なっ」
「・・・・・・えぇ」
まぁ、魔術を放つ前に手刀を落として意識を摘む。
後ろでドン引きされてる様な気がするが、取り敢えず無視した。
湊 月冴「さて、ちょっとお話しようか?」
領主「くっ!」
湊 月冴「だから遅いって」
領主「ぎゃっ!」
領主が媒体だろう杖を構えると同時に叩き落とす。
そのまま足払いして転がし、顔の直ぐ側に黒刀を刺した。
湊 月冴「・・・・・・お前、俺が申請した支援金を横取りしただろ」
領主「!!」
湊 月冴「そして、都合の悪い村人を山奥へ押しやり、野盗として始末しようとした」
湊 月冴「・・・・・・許されない事だ。お前は領主失格だ・・・・・・!!」
領主「う、煩い!!その顔で説教するな!!白百合の顔で!!」
帷 翡翠「白百合?」
妥 海翔「あー・・・・・・月冴のお母さんの渾名だっけ」
湊 月冴「お前が母さんを白百合と呼ぶな。其れは父さんだけが呼んでいい名だ」
父さんは母さんの誕生日に毎年、白百合を贈り・・・・・・その白百合を髪に差していたから、白百合と呼ばれていたらしい。
湊 月冴「其れに母さんは鍛えてばかりの俺よりも可憐だ」
妥 海翔「直ぐ身内誉めるー」
帷 翡翠「・・・・・・・・・・・・」
湊 月冴「兎に角、お前には罰を受けて貰う」
領主「ぐえっ」
俺は領主の襟を掴んで引き摺る。
〇日本家屋の階段
領主「いっ」
「あ」
領主「痛っ!」
「・・・・・・・・・・・・」
領主「いった!!」
湊 月冴「煩い。喚くな」
「確かに痛い目遭わせてる・・・・・・」
〇屋敷の門
頭をぶつけようが、体をぶつけようが無視して外に放り出した。
騎士「え、えーと、月冴さん?」
湊 月冴「ん?」
騎士「イエナンデモゴザイマセン」
門番の騎士には笑顔で黙って貰い、彼方此方に体をぶつけた領主を見下す。
そんな事をしている内に、野次馬が出来た。
湊 月冴「お前の罪、償って貰わないとな」
領主「ひっ」
湊 月冴「先ずは俺から・・・・・・」
湊 月冴「よくも無下にしてくれたな。通る事例は数少ないんだ、ぞっ」
領主「ぎゃん!」
「わ」
俺は領主に一発平手打ちする。殴らないだけ手加減してるつもりだ。
椿桔「月冴様」
湊 月冴「あ、椿桔」
椿桔「殲滅完了、及びこの男の不正を騎士団に報告しました」
湊 月冴「ありがとう。また何が欲しいか考えておいてくれ」
椿桔「有り難き幸せ・・・・・・あ、其れなら私も一発構いませんか?」
湊 月冴「ああ、勿論」
俺の言葉を聞いた椿桔が領主に近付いた。
椿桔「よくも月冴様のお優しい心を無駄にしてくれましたね」
領主「ぎゃん!」
そして、領主を蹴る。
湊 月冴「翡翠、お前も何かあるなら殴っておけ」
帷 翡翠「え?」
湊 月冴「騎士団に確保されたら、手が出せなくなるぞ」
帷 翡翠「・・・・・・じゃあ、遠慮無く」
翡翠も領主に近付き・・・・・・
帷 翡翠「よくも追い出して、支援金横取りして、脅してくれやがったな!」
領主「ぎょえっ!!」
思いっ切り殴り飛ばした。
湊 月冴「さて」
騎士「ハ、ハイ」
湊 月冴「疲れてしまったから、後はお願いします」
騎士「カシコマリマシタ」
はぁ、久々に怒って疲れてしまったな。
俺達が領主に背を向けている間に、野次馬も領主に恨みがある奴が殴る。
騎士が居るから、命は助かるだろ。
俺達は桔梗を迎える為に、山奥の村へと帰った。
〇木の上
桔梗「お帰り、怪我無い?」
湊 月冴「ああ、無い」
桔梗「良かったぁ」
桔梗は俺に抱き付き、ペタペタと体を触ってくる。
湊 月冴「そんなに心配しなくても、傭兵や領主に負ける程弱くないぞ?」
桔梗「だって、椿桔が見てないと直ぐに無茶するって」
思わず椿桔を見れば、顔ごと目を逸らされた。
・・・・・・余計な事を・・・・・・
帷 翡翠「何時も無茶してんのか?」
湊 月冴「そんな事は・・・・・・」
桔梗「してる」
椿桔「してます」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
帷 翡翠「そんなんじゃ、過保護にもなるわな」
翡翠は声に出して笑う。
やっと翡翠の年相応な顔を見た気がするな。
桔梗「あのね、月冴」
湊 月冴「ん?」
桔梗「待ってる間にね、お守り作ったの」
湊 月冴「へぇ。何処にあるんだ?」
桔梗「こっち」
桔梗に手を引かれ、屋内へ。
椿桔「──脅された、というのは貴方の出生の事で?」
帷 翡翠「!気付いてたのか」
帷 翡翠「あー・・・・・・月冴には言わないでくれ。あの頃とは変わっちまったからな」
椿桔「・・・・・・畏まりました」
〇山の中
それから俺達は一晩泊めて貰い、翌日には出発する事に。
帷 翡翠「昨日より荒れた道になるが、この先の獣道を行けば更に向こうの街に出る」
帷 翡翠「其処にゃ俺の知り合いが居るからな。彼奴なら事情を話せば匿った上で色々手配してくれる」
湊 月冴「其は有難い・・・・・・けど、何故翡翠も来るんだ?」
何故か翡翠も一緒に行く事になって。
帷 翡翠「俺には脅されるネタがあるからな。また狙われ兼ねねぇし、月冴に借りがあるからな」
湊 月冴「借り?そんなものあったか?」
帷 翡翠「領主を返り討ちにしてくれただろ」
湊 月冴「アレは俺が気に入らなかっただけ」
帷 翡翠(・・・・・・ま、それだけじゃないんだけどな)
そんな事を話していると、桔梗が翡翠の袖を引いた。
桔梗「えっと、よろしくお願いします?」
帷 翡翠「おう。よろしくな」
優しい笑顔で桔梗の頭を撫でる翡翠に、それ以上ツッコむのを止める。
湊 月冴「取り合えず案内頼む」
帷 翡翠「ああ」
こうして、旅の仲間が増えた。
〇貴族の部屋
『月の皆様へ。
今回、また不正をした領主を月冴様が成敗しました
少々やり過ぎたと反省されておいででしたので、お会いになった際はあまり責めないで下さい。
さて、今回の件で旅の仲間が一人増えました。面倒見の良さそうな青年で、月冴様とも相性が良さそうで楽しそうです』
帝 凛音「・・・・・・本当に彼奴は大人しく出来ないなぁ。ま、其が彼奴らしいといった所か」
帝 凛音「さて、彼奴の事は一先ずあの子に任せるか」