元騎士の旅物語

にーな

4.天才と言われた少女(脚本)

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〇けもの道
帷 翡翠「この先だ」
  翡翠の案内で、俺達は獣道を抜ける。
帷 翡翠「・・・・・・にしても、おかしいな」
「?」
帷 翡翠「この獣道は何時もなら魔物が出んのに・・・・・・全然出ねぇ」
  ・・・・・・言われてみればおかしい。
  魔物の被害は各国で出てるのに・・・・・・何で、俺達の旅には魔物が出ない?
  俺が相手してるのは、基本的に人間なんだが。
帷 翡翠「まぁ、邪魔されなくていいか」
  翡翠は考えるのを止めたらしく、俺の肩を叩いて先に進んだ。
  ・・・・・・やっぱり、面倒見がいいな。
湊 月冴「椿桔、疲れてないか」
椿桔「問題ありません」
桔梗「ご、ごめんなさい。あと、ありがとう」
椿桔「いえ」
  桔梗を背負っている椿桔に振り返る。
  獣道は流石に荒れてる為、桔梗には厳しい。で、俺が背負おうとしたら、椿桔が先に背負った。
帷 翡翠「もうちょいで街に着くからな」
  そう翡翠が言って数分後。
「抜けた・・・・・・」
  獣道を抜け、街道に出る。
  俺達はその街道を進み・・・・・・

〇海沿いの街
帷 翡翠「着いた。ラフテルの街だ」
湊 月冴「ラフテル?学術都市のか」
帷 翡翠「そ」
  学術都市ラフテル・・・・・・別名魔術師の街。
帷 翡翠「灯台もと暗しってな」
椿桔「街に入るには手続きが必要と聞きましたが」
帷 翡翠「そりゃ学園に入る予定の奴。俺達は学術都市には用があるけど、学園には用はない」
湊 月冴「・・・・・・随分詳しいな」
帷 翡翠「・・・・・・言ったろ。知り合いがいるって」
  此れも突っ込まれたくなさそうだな。
  となると、あまり過去の事は聞かない方がいいか。
帷 翡翠「ほら、さっさと行って休もうぜ」
湊 月冴「ああ」
  という事で、俺達は学術都市に入った。
  学生向けの商店街を素通りし、翡翠は路地裏に入る。俺達は其れについて行った。

〇島の家
  コンコンコン
羨 加奈「はーい」
  翡翠はある家の扉を叩く。
  中から出て来たのは、一人の娘。
帷 翡翠「あー・・・・・・鹿江さんは居る?」
羨 加奈「お婆さん?居るよ。ちょっと待って下さいね」
  彼女は一度中へ引っ込んだ。扉の隙間から「鹿江さーん、お客さんだよー」という声が聞こえる。
東 鹿江「はいはい、お待たせしました・・・・・・坊っちゃん?」
帷 翡翠「えーと、久し振り。というか、その坊っちゃんは勘弁してくれ」
  出てきた老婆の言葉に翡翠は苦笑した。
桔梗「ぼっちゃん?」
  桔梗が首を傾げる。
羨 加奈「え、坊ちゃんってあの?」
  中に戻った娘も少し首を傾げながら問い掛けて来た。
東 鹿江「まぁまぁ、一先ずどうぞ」

〇島国の部屋
  取り敢えず俺達は中に案内され、ソファに椿桔、俺、桔梗の順で座り、一人掛けのソファに翡翠が座る。
帷 翡翠「改めて久し振り、鹿江さん」
東 鹿江「ええ、お久し振りです。其方の方々は初めましてですね。私は東鹿江と申します」
  ・・・・・・東、鹿江・・・・・・何処かで聞いたような・・・・・・?
椿桔「もしや、冨様の幼馴染という方ですか?」
東 鹿江「冨・・・・・・ああ、友ちゃんの事ね」
  椿桔の言葉に俺も思い出した。
  昔聞いた事ではあるが、冨が負けてばかりいたという女性の名前が彼女の名前と同じだ。
  椿桔は冨に色々指導されていたから、覚えていたのかもしれない。
東 鹿江「友ちゃんの知り合いという事は・・・・・・若しや、湊の?」
湊 月冴「名乗らず失礼しました。私は湊月冴と言います。此方は私に仕えてくれている椿桔」
湊 月冴「この子は桔梗」
東 鹿江「あらあら、大きくなりましたねぇ」
湊 月冴「・・・・・・ぇ」
東 鹿江「覚えておらないかもしれませんが、一度パーティーで坊ちゃん達と一緒にお会いした事があるんですよ」
  その言葉に思わず目を逸らしている翡翠を見る。

〇結婚式場のレストラン
???「『初めまして。僕は・・・・・・』」

〇島国の部屋
湊 月冴「・・・・・・あ」
帷 翡翠「思い出さなくて良かったのに」
  困った様に笑う翡翠。
湊 月冴「空の・・・・・・」
帷 翡翠「今は帳だ」
  そう言い、翡翠はそれ以上聞かれたくなさそうに眼を逸らした。
羨 加奈「お茶入れましたよー」
  そのタイミングで娘がお茶を持って来る。
帷 翡翠「えっと、鹿江さん。その子は?」
東 鹿江「ああ、この子は学園に通ってる子ですよ」
羨 加奈「初めまして、私は羨加奈って言います。学園の見習い魔術師で、実家が遠いので休みの間お婆さんの家でお世話になってます」
  ・・・・・・つまり、下宿しているのか。
帷 翡翠「今日は学園休みなのか」
羨 加奈「うん、何か王都の方であったらしくて、先生とかも召集されてるから」
  加奈の言葉に椿桔は一瞬、翡翠はじっと俺の方に視線を送った。
  ・・・・・・態々俺が逃げたから召集された?流石に其れは無いと思うんだが・・・・・・
桔梗「学園って何?」
  と、桔梗が俺の服を引きながら聞いてくる。
  あー、そうか・・・・・・桔梗は軟禁されてたからな。
羨 加奈「魔術師養成学園。魔術師になるには、学園で学んで、課題をクリアする必要があるの」
羨 加奈「まぁ、中には先生や国に召し上がられる事で、その過程を飛ばす場合もあるけどね」
  加奈は桔梗に簡単に説明した。
  俺の友人の慎理は最高魔術師に召し上げられたパターン。
  が、桔梗は・・・・・・
桔梗「僕は?」
羨 加奈「え?」
桔梗「僕、学園に通ってないし、先生も居ない」
羨 加奈「・・・・・・君、もしかして・・・・・・大丈夫だよ」
羨 加奈「そういう子も学園に通えるし、学園を卒業出来れば魔術が使えない奴等なんかの言いなりにならずに済むから」
  魔術が使えない奴等・・・・・・か。此処が魔術師の街だから仕方無いが・・・・・・
帷 翡翠「悪かったな、魔術が使えなくて。その魔術で住んでた村が壊されたもんで、使おうとも思わねぇんだ」
羨 加奈「・・・・・・え」
椿桔「申し訳ありませんね、大した魔力が無いので大した魔術が使えなくて」
椿桔「其れで自分の身を盾にする騎士様の邪魔をする魔術師を制せなくて」
  魔術師反対派の方が多いんだよな、このメンバー。
湊 月冴「椿桔」
椿桔「本当の事でしょう。詠唱時間を稼ぐ為に身を粉にし、自衛出来る筈の魔術師の為に民への守りを回したり」
椿桔「結界張るのをサボって騎士団が尻拭いしたり」
帷 翡翠「あ。もしかして、祭りのアレって魔術師が原因だったのか?」
羨 加奈「え、え」
東 鹿江「加奈さん。確かに魔術師の方は凄いですが、その選民思考の様な考えはお止めなさいと言っているでしょう?」
  鹿江さんは溜め息を吐きながら言う。
桔梗「・・・・・・月冴は魔術師嫌い?」
湊 月冴「人によるな」
  この娘、少し危ないな。
  騎士団に嫌われるタイプだ。
桔梗「・・・・・・・・・・・・」
湊 月冴「桔梗?」
桔梗「僕・・・・・・全然分かんなくて」
湊 月冴「興味あるのか?」
桔梗「うーん・・・・・・よく分からない」
  まぁ、桔梗は許されなかった場所に居たからな。
  俺と一緒に旅をするより・・・・・・
東 鹿江「興味がおありですか?」
「え」
  鹿江さんに問われ、思わず桔梗と一緒に見た。
東 鹿江「加奈さん、確かこの後ご学友とお会いになられるのですよね?」
羨 加奈「は、はい!そうです!」
  戸惑っていた加奈が慌てて頷く。
東 鹿江「興味がおありになるなら、会われてみてはどうです?」
桔梗「・・・・・・・・・・・・」
  桔梗は俺と鹿江さん、そして床を見た。
湊 月冴「・・・・・・会ってみたらどうだ?」
桔梗「え?」
湊 月冴「どうしても魔力が無い俺には共感出来ないからな。魔術師の知り合い作っておいて損はないかもしれない」
桔梗「・・・・・・月冴が・・・・・・言うなら」
  そう言いながら、桔梗はぎゅっと俺の手を掴む。

〇華やかな広場
  それから数時間後。
  俺は桔梗と共に公園に来ていた。
  少し離れた所に椿桔と翡翠が居る。
羨 加奈「あ、お待たせ~」
  そして、加奈が一人の娘の手を取ってやって来た。
羨 加奈「えっと、彼女は・・・・・・」
空 鈴芽「空鈴芽。貴方達は・・・・・・誰?」
  “空”の単語に思わず翡翠の方に視線を向ける。
湊 月冴「あ、っと、俺は月冴。湊月冴。この子は」
桔梗「・・・・・・桔梗」
  桔梗は俺の後ろに隠れながら言った。
空 鈴芽「よろしく・・・・・・・・・・・・!」
  鈴芽は視線を離れてる椿桔達を見る。
  と、翡翠は困った様に笑って離れて行った。
  視線で椿桔に追う様に頼めば、彼がその後に続く。
湊 月冴「魔術師について聞かせて欲しい」
空 鈴芽「え・・・・・・うん・・・・・・いいよ」
  桔梗を俺の後ろから出しながら頼めば、鈴芽はキョトンとしながらも頷いてくれた。

〇公園のベンチ
  其れから俺達は公園のベンチで話を聞く。
  と言っても主に桔梗が鈴芽の話を聞き、隣のベンチで俺が本を読み、加奈が落ち着かなそうにソワソワしてるだけだが。
空 鈴芽「其れで、媒体を経由する事で発現させるの。魔術には属性があって、人によって属性に偏りが出来るの」
桔梗「僕のは何だろ」
空 鈴芽「得意な魔術は?」
桔梗「うーん・・・・・・言われた魔術を使ってたから・・・・・・」
空 鈴芽「・・・・・・もしかして、貴方も特例なのかも」
桔梗「?」
羨 加奈「え?特例!?」
湊 月冴「おっと」
羨 加奈「あ、ごめんなさい」
  加奈が突然立ち上がった事で本を落としかけた。
湊 月冴「気にしなくていい・・・・・・その、特例というのは?」
空 鈴芽「何かにおいて縛りを受けないタイプの魔術師の事」
羨 加奈「鈴芽は媒体を縛られない特例なんだよ」
  特例・・・・・・か。
湊 月冴「他にはどんなものがあるんだ?」
羨 加奈「例えば・・・・・・最高魔術師は、其れこそどんな縛りも受けないって聞いた事ある」
空 鈴芽「ああ、あの伝説。魔力での縛りさえないって話だよね」
  ・・・・・・やっぱり桁違いなんだな。
桔梗「月冴」
湊 月冴「ん?」
桔梗「僕、特例なのかな」
湊 月冴「そうなのかもな」
  俺の方にやって来た桔梗の頭を撫でる。
羨 加奈「本当に君が特例なら、魔術師養成学園に入った方がいいよ!」
  加奈が少し興奮した様に桔梗に言った。
  其れにビクリとし、桔梗は俺にくっ付く。
空 鈴芽「加奈、驚かしちゃ駄目だよ」
羨 加奈「あ、ご、ごめんね?」
湊 月冴「・・・・・・魔術師、か」
桔梗「・・・・・・?」
  桔梗の将来を考えれば・・・・・・このまま学園に通わせるべきかもしれない。
  だが・・・・・・もし、其れで他の魔術師みたいになったら嫌だな。
桔梗「・・・・・・月冴?」
湊 月冴「何でもない。桔梗はどうしたい?」
桔梗「え?」
湊 月冴「学園、通ってみたいか?」
桔梗「ううん」
湊 月冴「え」
  俺の問い掛けにあっさりと桔梗は否定した。
桔梗「僕を見つけて、僕を連れ出してくれたのは月冴だもん。僕は月冴と一緒に行きたいんだ」
桔梗「僕は月冴が嫌じゃなかったら、一緒に居たい」
湊 月冴「・・・・・・そうか。悪いな、学園には当分通わない」
空 鈴芽「そっか。残念、同じ学生になれると思ったのに」
羨 加奈「えぇ、勿体ない・・・・・・」
  俺は桔梗を抱き上げ、膝の上に乗せる。
湊 月冴「もっと一緒に旅をするか」
桔梗「うん!」
  額をお互いに付け、笑顔で話した。

〇見晴らしのいい公園
  其れから俺達は鈴芽達と別れ、翡翠達を探しに行く。
桔梗「あ、居たよ」
椿桔「月冴様」
湊 月冴「ありがとう、椿桔」
帷 翡翠「・・・・・・おう」
  少し離れた庭園の様な所に彼等は居た。
椿桔「・・・・・・桔梗様、喉は乾いておりませんか?」
桔梗「え?」
椿桔「向こうに飲み物を売っているカートを見掛けました。ご同行願えますか?」
桔梗「・・・・・・うん、いいよ。月冴の分も買って来るね」
湊 月冴「ああ、ありがとう」
  椿桔が桔梗を連れていく。
帷 翡翠「・・・・・・月冴」
湊 月冴「ん?」
  俺は芝生に座り込んでいる翡翠の隣に腰掛けた。
帷 翡翠「とっくに分かってるんだろ?俺が“空”の家の生まれで・・・・・・鈴芽が俺の妹だって事に」
湊 月冴「やっぱりか」
  “空”の一族は古い貴族の一族であり、多くの魔術師を輩出している一族だ。
帷 翡翠「ああ・・・・・・俺と鈴芽は所謂異母兄妹ってやつ。俺の父さんは普通の人だったんだけど、母さんとは恋愛結婚でさ」
帷 翡翠「だから俺には魔術師の才が無かったんだ。で、母さんあんまり体が強い人じゃなくて、俺が小さい頃に病気で・・・・・・」

〇英国風の部屋
母「私の事は憎んでも構わない。それでも私は・・・・・・」

〇見晴らしのいい公園
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・?」
帷 翡翠「其れで、父さんが随分落ち込んでさ。其れから暫くして継母が来て、鈴芽を産んだ。初めは兄妹だったんだが・・・・・・」
帷 翡翠「俺が鈴芽の面倒を見てる間に、継母は母さんを知ってる奴等を追い出してって」
帷 翡翠「・・・・・・最後に俺を追い出した。其れから、漂ってる俺をあの村の人達に助けて貰って」
湊 月冴「・・・・・・そうか、大変だったな」
帷 翡翠「・・・・・・今のお前に言われんのもなぁ」
  苦笑する翡翠。
  ・・・・・・少し調子が戻ったか?
湊 月冴「!!」
  気配を感じて立ち上がる。
  其れに翡翠が訝し気な顔をした時・・・・・・
学園長「談笑中失礼致しますぞ」
帷 翡翠「!」
  此方に歩み寄って来る立派な格好をした高齢の男。
空 鈴芽「・・・・・・学園長」
帷 翡翠「!鈴芽、何で・・・・・・」
  少し離れた木の裏から、鈴芽が飛び出した。
空 鈴芽「学園長、どうして此処に・・・・・・」
学園長「其方の青年に用があってね」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  学園長と呼ばれた老人は俺に視線を向けてくる。其れに俺は一歩前に出た。
湊 月冴「・・・・・・俺に何の用だ」
学園長「ふむ。貴方は湊月冴で間違いないか」
湊 月冴「ああ」
学園長「少々気になる話を聞きましてね。貴方は王都に居る魔術師に追われている、と」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
学園長「警戒されないで下さい。貴方を匿う為に来たのです」
「!!」
  俺達は思わず学園長を見詰める。
学園長「私は王都の魔術師とは違うのですよ」
湊 月冴「・・・・・・分かった」
帷 翡翠「!月冴!?」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  離れた所に隠れている椿桔と桔梗を視線でそのまま待機する様に指示した。
湊 月冴「其方に従う」
学園長「では、此方へ」
  学園長が話した直後、彼の足元に大きな魔法陣が浮かぶ。俺はその魔法陣の上に乗った。
帷 翡翠「っ待て!!」
湊 月冴「!」
  魔法陣が光ると同時に翡翠が突っ込んできた所為で、一緒に飛ばされる事に。

〇豪華な社長室
湊 月冴「・・・・・・何で来たんだ」
帷 翡翠「一人で行かせられるかよ」
学園長「おまけがついて来てしまいましたが、まぁ良しとしましょう」
帷 翡翠「・・・・・・おまけで悪かったな」
  俺達が飛ばされのは、何処かの大きな部屋。
  学園長が長いソファに座る。
  俺達はその正面に座った。
学園長「まず、私は貴方を王都の魔術師に売るつもりはありませぬ」
湊 月冴「そうか」
学園長「そもそも私と最高魔術師とは考えが違う様なので」
湊 月冴「・・・・・・取り敢えず、用件は?俺を匿うとはどういう事だ」
学園長「そのままの意味ですよ。貴方を学園で匿えば、王都の魔術師の目は届きませぬ」
学園長「其れに、貴方が留まればあの特例の子も学園に通えるでしょう」
  桔梗が欲しいから?
  本当に其れだけなのか?
学園長「──後は・・・・・・知りたいのです」
湊 月冴「知りたい?」
学園長「何故最高魔術師が貴方を求めるのか・・・・・・何故、最愛の娘有咲の息子が魔力を一切持たぬのか」
  その言葉に思わず思考が止まる。
湊 月冴「・・・・・・まるで俺が貴方の孫の様な言葉だな」
学園長「幼い頃にあの子は最高魔術師に才能を認められ、王都で暮らす事になりました」
  ・・・・・・知らない。
  学園長が母さんの父君で、母さんは最高魔術師に見初められて王都に住んでたなんて。
  白百合の渾名や父さんとの馴れ初めは聞いているのに。
学園長「そんなあの子の息子を、また最高魔術師が求めている。何より、僅かでも魔力を持って生まれる筈なのに一切魔力が無い」
学園長「・・・・・・謂わば特例」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  目が、離せない。
学園長「何故、お前には魔力が無い」
湊 月冴「っ!」
帷 翡翠「月冴!!」
  学園長が手を出した直後、頭の中を覗かれている感覚がした。
学園長「・・・・・・此れは・・・・・・封じられているのか」
湊 月冴「や・・・・・・め・・・・・・」
帷 翡翠「!!止めろ!!」
「!」
  翡翠が学園長に殴りかかった事で、その感覚から解放される。
帷 翡翠「ぐっ」
湊 月冴「翡翠!!」
  が、今度は翡翠が見えない何かに弾き飛ばされ、壁に打ち付けられた。
学園長「名家空の生まれながら微量の魔力しか持たぬ者が邪魔をしないで頂きたい。貴方の様な搾取される者には用はない」
帷 翡翠「っ・・・・・・」
  その言葉と翡翠の表情にカッとなり、頭が真っ白になる。
湊 月冴「“お前の様な考えの者が居るから、世界は滅びに向かう”」
学園長「!?」
帷 翡翠「月・・・・・・冴・・・・・・」
湊 月冴「“せめて身内を案じての事ならば良かったのに・・・・・・知的好奇心を満たすだけのお前は、容認出来ないな”」
  バァン
「月冴(様)!!翡翠(様)!!」
空 鈴芽「何をしてるの、学園長・・・・・・!」
  勢いよく開かれた扉にハッとなった。
  怒りで意識を飛ばすなんて・・・・・・不覚っ。
空 鈴芽「お兄ちゃん!」
  鈴芽は未だ壁に打ち付けられた状態の翡翠に駆け寄る。
空 鈴芽「お兄ちゃんを傷付けるなら・・・・・・貴方でも許せない!」
帷 翡翠「止め、ろ・・・・・・鈴芽・・・・・・!」
椿桔「下がりなさい!!」
「!」

〇豪華な社長室
  椿桔が煙玉を床に叩き付けた。
  直ぐに袖で口と鼻を覆い、俺の方に駆け寄っていた桔梗を抱き寄せる。
湊 月冴「口と鼻を覆え」
桔梗「うん!」
  桔梗は直ぐに上着を使って覆った。
  風の流れで不透明な視界でも出口は分かる。
  桔梗を抱えて扉から飛び出せば、翡翠に肩を貸した状態の椿桔、翡翠の服を掴む鈴芽が続いた。

〇木造校舎の廊下
空 鈴芽「こっち!」
  鈴芽が駆け出せば、椿桔が躊躇い無く続く。
  彼等を俺も桔梗を抱えたまま追い掛けた。
  あの躊躇の無さから考えて、あの部屋にも鈴芽が案内したのだろう。
空 鈴芽「校舎の外に出ないと、転移魔術が使えないの」
帷 翡翠「ゲホッ・・・・・・」
椿桔「翡翠様、もう少しの辛抱を」
湊 月冴「・・・・・・すまない、俺が早計だった」
桔梗「月冴・・・・・・」
  大人しくついて行くべきではなかった。
  一人なら巻き込まずに済むと・・・・・・
帷 翡翠「変な事、考えんなよ」
湊 月冴「!」
帷 翡翠「俺が、勝手について、行ったんだ。お前に、責任はねぇ」
湊 月冴「・・・・・・翡翠・・・・・・すまない。ありがとう」
帷 翡翠「謝罪は要らねぇっての」
  やがて校外へと出ると同時に、鈴芽が着けている小鳥の髪飾りが光る。

〇島国の部屋
「うわっ」
  気付けば東さんの家に居た。
東 鹿江「・・・・・・おや、お帰りなさいまし」
  東さんは驚いた表情で俺達を出迎える。
湊 月冴「・・・・・・一先ず翡翠の治癒を頼めるか?」
桔梗「うん!」
空 鈴芽「治癒も出来るんだ、凄いね・・・・・・私は出来ないの」
  鈴芽は俯き、翡翠の手を握った。
  そんな彼女に翡翠は苦笑し、その頭を撫でる。
湊 月冴「椿桔、向こうで此れからの事を話すぞ」
椿桔「はい」
東 鹿江「お茶を用意しましょう」
桔梗「あ、お手伝い、します」
  何となく皆が兄妹二人きりにした。

〇洋館の一室
湊 月冴「さて、と」
椿桔「直ぐに発ちますか?」
湊 月冴「出来ればその方がいいだろう・・・・・・だが、この街を無事に抜けられるか・・・・・・」
東 鹿江「其れならば、地下通路をお使いになられては?」
  お茶を置いた東さんがそう提案する。
湊 月冴「地下通路?」
東 鹿江「ええ。この街が学園都市になる前・・・・・・一部の微量の魔力を持つ方は非道な扱いを受けておりました」
東 鹿江「其れを受け、その方々が外へ逃げる為に作った通路があるのです」
帷 翡翠「・・・・・・思い出した。その通路を使って、俺は逃げ延びたんだ」
「!」
  すっかり治った翡翠が顔を出しながら言ってきた。
帷 翡翠「一応此処の出身なんだわ、俺」
湊 月冴「そうか」
帷 翡翠「その通路を抜ければ街の外に出る」
椿桔「とは言え、直ぐに其処を離れなければなりませんね」
桔梗「あのね、転移魔術見たから使えるかもしれない」
「マジか」
  桔梗って、マジで凄い天才なんじゃないか・・・・・・?
空 鈴芽「私も行く」
帷 翡翠「!鈴芽!?」
  やって来た鈴芽は東さんへと振り返る。
空 鈴芽「お願いがあるの」
東 鹿江「はい、お嬢様。お洋服ですか?」
空 鈴芽「ええ」
  東さんは一度奥の部屋に行った。
帷 翡翠「鈴芽」
空 鈴芽「私は学園長と敵対してしまった」
「!」
  あの部屋で学園長に対し、魔術を放とうとした鈴芽。
  止めようと声を上げた翡翠と煙玉を放った椿桔が居なければ、魔術で攻撃していただろう。
空 鈴芽「どの道、退学だと思うの。そうなってしまったら、お母様は私を追い出すと思うから」
  そう言う鈴芽を見詰めた翡翠は、やがて俺に向き直り・・・・・・頭を下げる。
帷 翡翠「頼む。一緒に連れて行かせてくれ」
湊 月冴「ああ、分かった」
東 鹿江「お待たせ致しました」
  其れから制服から着替えた鈴芽を連れ、地下通路を目指した。

〇中東の街
  この街に住む東さんから貰った地図と鈴芽の案内で、地下通路まではスムーズに進める。
  トンッ
椿桔「・・・・・・大丈夫そうです。暗いので気を付けてお降り下さい」
  人気の無い路地裏に、道と同化する様に作られていた地下通路への扉。
  其処を開ければ梯子があり、桔梗が灯りを落とした事で底が見え、椿桔が飛び降りた。

〇地下道
湊 月冴「っと」
帷 翡翠「っよし」
  俺が飛び降り、其れに翡翠が続く。
桔梗「みゅっ」
空 鈴芽「ん」
  其れから飛び降りた桔梗を俺が、鈴芽を翡翠が受け止めた。
桔梗「変な声出た」
湊 月冴「確かに。可愛かったな」
  恥ずかしそうな桔梗の頭を撫で、地下通路の先を見詰める。
空 鈴芽「灯りを・・・・・・」
湊 月冴「待て」
「?」
  魔術で扉を閉めた鈴芽が灯りを出すのを止めた。
湊 月冴「魔物の気配がする」
  俺の言葉に皆が警戒する。
  ビジョン ビジョン
「うわぁ」
「気持ち悪い」
湊 月冴「気持ちは分かるけど、油断するなよ」
  奥から現れたのはスライムの様な魔物。
  緑色の体を伸ばして進んで来る姿は正直気持ち悪い。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・アレって、刀が通じると思うか?」
帷 翡翠「・・・・・・微妙。俺のは通じると思うか?」
椿桔「微妙ですね。私の暗器も通じると思います?」
「微妙」
桔梗「僕、頑張るよ」
空 鈴芽「私も」
  俺の刀みたいな物理攻撃が通じると思えない。其れに魔術師の二人が前に出て倒していった。
  バンッ
帷 翡翠「・・・・・・やっぱ、駄目だな。俺の弾は貫通しちまう」
椿桔「私のナイフや苦無も貫通してしまいますね」
湊 月冴「俺のは・・・・・・」
湊 月冴「ん?」
「あ」
  翡翠の銃と椿桔のナイフは貫通したのに、俺の刀だけは斬れる。思わず揃って首を傾げた。
帷 翡翠「・・・・・・月冴って、魔力無い筈なのに何処かチートだよな」
椿桔「其れには同意します」
  そんなトラブルを切り抜け、地下通路を進む。

〇林道
椿桔「・・・・・・大丈夫そうです」
  地下通路を抜け、椿桔を筆頭に桔梗、鈴芽、翡翠、俺の順で上に出た。
椿桔「無事に抜けられたね」
空 鈴芽「此処まで来れば、転移魔術が使える筈だよ」
帷 翡翠「・・・・・・鈴芽、本当にいいんだな?」
空 鈴芽「うん」
椿桔「では、参りま・・・・・・!」
  椿桔が苦難を取り出して構える。
湊 月冴「どうした?」
椿桔「・・・・・・いえ、視線を感じた様な気がして・・・・・・気の所為でしょうか」
湊 月冴「・・・・・・いや、椿桔のその感覚は確実だ。警戒しておこう」
  視線、か・・・・・・。
湊 月冴「急いで移動しよう」
  という事で、俺達は直ぐに転移魔術で移動した。
  休む筈が、結局ゴタゴタで休めなかったな・・・・・・。

〇屋敷の書斎
  『旦那様へ
   今回、新たに魔術師になる筈だった少女が仲間に入りました』
  『どうやら、翡翠様の妹様の様です。
   所で、月冴様の母君は何処の生まれかご存知でしょうか』
  『学園長とやらが、祖父である様な物言いをしたそうです』
  『月冴様もお気にらしておられた様なので、戻った際にはお話しするべきかと思われます』
湊 月夜「・・・・・・余計な事を言ったな。魔力以外で彼女に何の関心も示さなかった癖に」
冨 友成「旦那様・・・・・・あの事、月冴様にお伝えされますか」
湊 月夜「・・・・・・出来る事ならば、気付かせたくはない」
湊 月夜「彼女が、月冴の魔力を封じる為に命と引き換えにした事は」

次のエピソード:5.騎士の娘

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