第七話、男になれない体(脚本)
〇山道
柿崎景家「お前、本当に男か?」
椎名康胤「!?」
椎名康胤「当たり前だろう、何を言っている」
柿崎景家「いや、その・・・ こんな美しい男がいるのかと」
椎名康胤「!? よせ。 男が美しくても何の武器にもならぬ」
柿崎景家「いや、武器だと思うぞ。 美しい者には味方をしたくなるだろう」
椎名康胤「判断を惑わせるのならば、ただの毒だ!」
柿崎景家「・・・気に障ったならすまない」
椎名康胤「いや、ただの自戒だ。 私はかつて、己を見失った」
柿崎景家「なんだ、女で失敗したのか?」
椎名康胤「そんなところだ」
椎名康胤「・・・従者と合流してくる。 ここで待っていろ」
柿崎景家「・・・俺は、 男色に興味はないはず・・・だが」
柿崎景家「まずいな。心臓がうるさい」
〇山並み
戦は長尾の圧倒的有利に進み、ほどなく将軍の仲裁も入って終息した。
私も戦場には出たが、誰かと刀を交えるには至らぬ程度の戦だった。
しかし、これはただの前哨戦。
〇山並み
数年後、命をかける戦になる。
〇大きな日本家屋
そして三年の月日が経ち──
椎名康胤「景家、また来たのか。 どこまで馬を極めるつもりだ」
柿崎景家「いいじゃねーか、鍛練だよ!」
椎名康胤「片道二刻(4時間)もかけてか?」
椎名康胤「初陣の猪が堪えたのはわかるが、 家督を継いだのだろう?」
椎名康胤「あまり領地を留守にしては・・・」
柿崎景家「うるせぇ!ちゃんとやってるよ。 たまには阿賀北で塩引き鮭食いてえんだよ」
柿崎景家「それに遠出は、 越後の地形を把握するのに良い」
柿崎景家「康胤もどうだ、今度一緒に柿崎まで」
椎名康胤「なるほど・・・ それは確かに、戦で役立ちそうだな」
柿崎景家「だろ?」
ちなみに、大まかな位置関係はこうだ。
藤丸「あー!景家だ!」
柿崎景家「おお、康胤の弟~、元気か!」
藤丸「景家、遊ぼうよ!」
椎名康胤「藤丸、母上は大丈夫なのか?」
藤丸「大丈夫だよ、松葉がついてる」
柿崎景家「ご母堂がどうかしたか?」
椎名康胤「ちょっと目を患ってな。 誰かついていないと危なっかしい」
柿崎景家「そうか。良い医者はいるか?」
椎名康胤「ああ、その点は清長どのが心を砕いてくださっている」
藤丸「景家ー、相撲しよう!」
柿崎景家「よっしゃ!どうだ、強くなったかー?」
鮎川清長「景家が来ているのか」
椎名康胤「清長どの」
鮎川清長「康胤、いよいよだ。 上条定憲様が挙兵する」
椎名康胤「!」
鮎川清長「今回は守護、上杉定実様も上条側だ」
椎名康胤「定実様も!?」
佐澄姫が頭をよぎった。どのような思いで父と敵対する報せを聞くのだろう。
いや、余計なことを考えてはいけない。
鮎川清長「管領細川高国様が失脚し、為景の後ろ楯は弱くなった」
椎名康胤「今が攻め時、ということですね」
鮎川清長「ああ、そうだ」
鮎川清長「景家にも陣に加わるよう話をしてくれ」
鮎川清長「柿崎が味方になれば、圧倒的に長尾の城を攻め易くなる」
椎名康胤「わかりました」
鮎川清長「大勝負だ。 長尾を討ち、越中まで行くぞ」
椎名康胤「はい」
〇日本庭園
虎千代「嫌だ嫌だ嫌だ、寺なんか行きたくない!」
長尾為景「お前は暴れ者だが頭は良い。 学問を修めれば必ず兄を支える力となる」
虎千代「はぁ? なんで俺が支えないといけないんだよ!」
虎千代「俺は立派な武将になって天下を取るんだ!」
長尾為景「うむ・・・野心溢れるのは良いことだが。 全く、お前が嫡男ならなぁ」
長尾晴景「虎千代」
虎千代「兄上」
長尾晴景「これが読めるか」
虎千代「・・・」
長尾晴景「兵法の書だ。全てが正しいわけではないが、教養は鎧となり武将をより強くする」
長尾晴景「お前の武力と胆力はたいしたものだ。 そこに知力をつければ儂を超えるだろう」
長尾晴景「お前が儂を超えたと思えば、家督を譲る」
虎千代「!」
長尾晴景「儂を納得させるだけのものを身につけてこい」
虎千代「・・・やってやる! 兄上なんかすぐに超えてやる!」
長尾晴景「よし。では逃げずに部屋に戻れ」
虎千代「言われなくても戻るよ、命令すんな!」
長尾為景「・・・本気か、晴景」
長尾晴景「ええ。虎千代の素質は稀有のものです。 あれなら天下も夢ではない」
長尾為景「いずれお前の養子にするのも手かもしれぬな」
長尾晴景「それより、父上。 上条がまた不穏な動きをしております」
長尾為景「やはり、来たか・・・ 儂は管領様と共倒れにはならぬぞ」
長尾為景「戦の用意だ」
長尾晴景「は」
〇山並み
上条定憲が、上杉定実を擁して蜂起した。
阿賀北は上条につき、柿崎も味方した。
上条軍の勢いは、
先の戦とは比べ物にならない。
長尾は苦戦し、軍勢は長尾の居城に迫る。
〇けもの道
鮎川清長「ここを突破して開けた場所に出れば、 一挙に攻勢をかけられる!」
鮎川清長「皆の者、怯むな!死ぬ気で戦え!」
「おーっ!」
松葉「康胤、背後は気にするな!私が捌く!」
椎名康胤「わかった!任せたぞ、松葉!」
椎名康胤「はぁ、はぁ・・・」
松葉「康胤、血が・・・」
股間の血には、先刻から気づいていた。
月の穢れの最中に、これだけ動けば仕方ない。
椎名康胤「ああ、大丈夫だ。返り血で誤魔化せる」
松葉「この丸薬を飲め。血の道に効く」
椎名康胤「ありがとう」
松葉「顔色が悪い。ここまで随分無理を・・・」
椎名康胤「松葉、気を緩めるな!」
松葉「はっ!」
松葉「もう少しで一兎と合流できる。 頑張ってください」
私たちは山中を徒歩で行軍し、一兎は馬で駆け、この先で落ち合う予定だ。
〇森の中
一兎「康胤様、ご無事ですか!」
松葉「一兎!康胤を乗せてやってくれ」
一兎「周辺の敵は掃討しました。 もう大丈夫です」
一兎「俺が支えますから寄りかかってください」
椎名康胤「ああ・・・」
一兎「月の穢れか」
松葉「ああ。周期が乱れて日が空いたせいで、今回は特に重いようだ」
一兎「負傷したことにして、明日は休ませよう」
松葉「くっ・・・なぜ女だけがこんな思いを」
一兎「命を生み出す尊い体を維持するためだろう」
一兎「女は穢れを外に出し、清らかさを保っている」
一兎「男は穢れを溜めているから臭いし早く死ぬのだ、と、俺は思う」
松葉「・・・へえ。面白いことを考えるな」
松葉「嫌なことに変わりはないが、そう思うと少しだけ気が晴れる。少しだけな」
〇屋敷の一室
佐澄「私はここに残ります!」
長尾晴景「佐澄!聞き分けてくれ」
佐澄「私がいるとわかれば、万が一敗北しても城だけは守れるかもしれません」
長尾晴景「佐澄。儂はそなたに女としての情はなくとも、家族としての情は深い」
長尾晴景「後ろを気にしては存分に戦えぬ。 安全なところで待っていてくれ」
佐澄「康胤様は、此度はあちら側なのでしょう?」
長尾晴景「・・・」
佐澄「あの方の覚悟を、私も迎えたいのです」
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作中のシリアスさの割に作者コメントが軽い(笑)
今回、スチルで地図が数回出てきましたが、ちょうどマップが欲しいタイミングででてきて、「神か」と思いました。
実はアレがないといつも戦国話の把握が出来ない僕がスムーズに理解できました。
そしてやっぱり心の中にいるんですね!
素敵。
そうか、女だと色々煩わしいものがありますもんね……男になりたいという気持ち、でも彼女の想いの強さは男たちよりも強いかもしれません。事情も知っている松葉は朱にとっては心強い存在ですね。
そして景家はやっぱり勘が良かったのですね!
個人的には虎千代出てきて謙信きたーーーーってなりました😆笑
女性が戦場に出れば必ず出てくる問題ですね。男の作家では書きにくい部分なので参考になります(参考にして良いのかわかりませんが)
それにしても一兎の解釈が素晴らし過ぎる…… あんなん惚れてまうやろーっ😭