9.抜け殻【閑話】(脚本)
〇研究所の中
粟島くんが持ってきた
腕を見た瞬間──
ワタシが面白すぎると
評した理由は3つある
1つめ、異臭がしない
最初はよくできた模型かと思ったよ
医療教育に使う蝋模型は精巧だからね
おおかた、ソレだろうと
だが、手渡された瞬間わかった
独特な質感・・・
柔らかさとでも言おうか
軟組織が維持されている
ヒトの肉と同じだ
模型ではないとなると
次に面白い点が湧きあがった
〇山中の坂道
2つめ、腕がキレイ過ぎる
爆風で焼け焦げて燃え尽きるはず
・・・という意味ではない
例えば・・山で死んだ動物は
白骨化まで何日かかると思う?
答えは1週間、約170時間だ
カラスに啄まれ、ハエがたかり、
ウジがわいて、肉は消える
〇源泉
ニュースから逆算する限り・・
粟島くんが腕を発見したのは
隕石落下から4、5日あとだ
仮に隕石の衝撃で腕がもげて
森の中に吹っ飛んだとして
発見されるまで約100時間は
野ざらしだったはず
だというのにハエはおろか
ウジの1匹もわいていない
〇雪山
考えられる原因として
例えば強酸性の湿地帯や
永久凍土の中など
そも動物、微生物すらいない
極限環境に遺体があったか
もしくはミイラのように
なんらかの防腐処理がなされ
腕自体が生物に分解されにくい
モノへと性質が変わったか・・
このどちらかだろう
〇原っぱ
腕が見つかったのは日本の
ごく一般的な森の中だ
近場に隕石が落ちたことを除き、
特に自然環境への変化は・・
それとも、気づいていないだけか?
・・・いや、粟島くんが
現地で調査済みだったな
環境要因の線は薄いか
なら、腕自体が変質したのだろう
生き物から分解されにくいモノに
〇研究所の中
そして3つめ、体表の白色化
遺体は長時間放置すれば色が変わる
血の変色による青
皮膚が溶け出す赤
そして腐敗の行き着く先、黒
最後は白骨化で白くなる
変色の理由は酸化、成分の置換、
体組織の崩壊と様々だけど・・
いきなり白色は見たことがない
魚沼准教授「あるとすれば、火山灰に覆われた遺体か」
魚沼准教授「さて、CTの描画は終わったかな〜」
魚沼准教授「おや?」
魚沼准教授「・・いやに写りがイイな 筋肉のX線透過が良すぎる」
魚沼准教授「太い血管の隅々まで明瞭だね 骨の位置、関節、ともに異常なし」
魚沼准教授「いたって普通の腕だ なんの変哲もない」
魚沼准教授「いやまあ、森の中に普通の腕が 転がってる時点で異常だけど」
魚沼准教授「・・MRIの方はどうかな?」
魚沼准教授「ん、んんん?」
魚沼准教授「なんだこれ、見辛い! ボケボケじゃないか!」
魚沼准教授「撮影ではよくあるが・・ ずいぶんと差が出たなぁ」
魚沼准教授「──にしても極端すぎないか?」
魚沼准教授「この感じ、どこか見覚えが・・」
〇近未来の手術室
CTはX線の透過率で体内を撮る
X線が通りやすい血や空気を黒く、
通りにくい骨を白く写す
言い換えれば、体の固さを
可視化する手法だ
一方、MRIは水素の量で濃淡を決める
磁場で水素原子の電波信号を
発生させ、捕らえる仕組みで
乱暴に言えば、水素の多い
血や体液、脂肪を白く描く
逆に、水素の含有量が少ないと
描画できず真っ黒になるため
例えば、空気ばかりの肺には向かな・・
〇研究所の中
そう、肺だ
肺の撮影に似ている
CTに向いて、MRIが不得意な臓器
空気から酸素を取り込む器官
仮に空気なら水素が少なすぎるので
黒くボヤけるのも無理ないが・・
だけどおかしい、今回は腕だ
数百、数千年たったミイラみたく
水分の抜けたカラカラ遺体ならわかる
にも関わらず、この腕はまだ柔らかく
肉体としての水分も残って──・・
魚沼准教授「まてよ、本当にそうかな?」
魚沼准教授「悪いね粟島くん、切るよ」
魚沼准教授「・・・・・・・・・」
魚沼准教授「ビンゴ、と言うべきか」
手ごたえは肉そのもの
だけど驚いたことに
断面からは血はおろか
体液の一滴も流れなかった
魚沼准教授「道理でウジがわかないと思ったよ」
血抜きで済むレベルじゃない
腕は中身まで真っ白だった
魚沼准教授「どういう理屈かな」
魚沼准教授「筋繊維、体細胞が形を崩さずに死んでいる」
魚沼准教授「柔らかさの正体はコレか・・ 保存食に応用できそうだな」
魚沼准教授「ムリヤリ例えるならスポンジか? 血と体液を抜き取った腕のスポンジ」
魚沼准教授「ふむ、観念的な言い回しは 不適当ではあるけど・・・」
〇黒
まるで細胞のひとつひとつを
隅々まで調べてから
中身、いや──
『命』だけ抜き取って捨てた
そんな印象を受けた
〇黒
第9話
抜け殻
このスチル作るの大変ですね。
文章じゃあ伝わらないし。
しかし…何故こんなことに。隕石による変なウイルスか…。種明かしが楽しみです。
腕の謎がいよいよ……?
変質した腕の原因が気になる
腐らない理由は腕自体が単独で自生している生命体かなと思っていましたが、むしろ逆のアプローチでしたか。
分析結果的には異生物的存在の介入がありえそうですが、各組織の裏の技術であれば可能…?でも、それをやる意味は…?
病理的な視点で見ても面白い結果がわかりそう