玩具の子供

鍵谷端哉

エピソード1 崩れゆく日常(脚本)

玩具の子供

鍵谷端哉

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〇大きい病院の廊下
  ――夜の病院──
  静かな廊下を赤子を抱いて歩く、女性が一人。
赤ちゃん「おぎゃー! おぎゃー!」
桐ケ谷 沙都希「ごめん・・・・・・ごめんね。――由衣香」
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・」
  赤ちゃんが泣き止み、ジッと沙都希の顔を見る。
桐ケ谷 沙都希「――由衣香。あなたは私の光。お母さん、頑張るからね」

〇黒背景
  ――17年後

〇綺麗なリビング
  キッチンで料理をしている沙都希。
桐ケ谷 沙都希「ふふふふーん♪」
桐ケ谷 由衣香「・・・お母さん、何か手伝おっか?」
桐ケ谷 沙都希「あら、由衣香がそんなこと言うなんて珍しいわね。どういう風の吹き回し?」
桐ケ谷 由衣香「・・・新しくできた友達の影響、かな」
桐ケ谷 沙都希「ふーん。でも、大丈夫よ。まだ早いんだから、もう少し寝てなさい」
桐ケ谷 由衣香「お母さんこそ、もう少し寝てなよ。朝ご飯やお弁当くらい、自分で作れるから」
桐ケ谷 沙都希「何言ってるの。今まで、これくらいやってたでしょ」
桐ケ谷 由衣香「お母さん、パート増やしたんでしょ?」
桐ケ谷 沙都希「・・・誰から聞いたの?」
桐ケ谷 由衣香「店長さん。この前、買い物行ったときに聞いたの」
桐ケ谷 由衣香「心配してたよ。凄い疲れた顔してるって」
桐ケ谷 沙都希「もう・・・。すぐペラペラしゃべるんだから」
桐ケ谷 由衣香「私、大学受験、やめようかな・・・」
桐ケ谷 沙都希「由衣香。いつも言ってるでしょ。お金のことは心配しなくていいって」
桐ケ谷 由衣香「でも、そのせいでお母さんが辛い思いをしてるのはヤダよ」
桐ケ谷 沙都希「何言ってるの。子供を大学までしっかりと行かせる」
桐ケ谷 沙都希「・・・ちゃんと母親らしいこと、させて」
桐ケ谷 由衣香「私がいるせいで、お母さんは再婚もできないし、お金の苦労もしてる」
桐ケ谷 沙都希「由衣香・・・・・・」
桐ケ谷 由衣香「私なんか、いなかったらよかったのにね」
桐ケ谷 沙都希「由衣香!」
桐ケ谷 由衣香「・・・・・・」
桐ケ谷 沙都希「バカなこと言わないの! 私は由衣香がいれば、幸せなの! わかった!?」
桐ケ谷 由衣香「でも・・・・・・」
桐ケ谷 沙都希「変なこと言ってないで、もう、学校行きなさい。ほら、お弁当」
桐ケ谷 由衣香「・・・・・・」
  ドアを開けて部屋に入って行く由衣香。
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・」
  しばらくして、ドアが開いて由衣香が出てくる。
桐ケ谷 由衣香「・・・行ってきます」
桐ケ谷 沙都希「あ、由衣香。今日は早く帰って来るのよ」
桐ケ谷 由衣香「・・・・・・行ってきます」
  ドアを開けて出ていく、由衣香。
桐ケ谷 沙都希「由衣香・・・」

〇スーパーの店内
  品出しをしている沙都希。
桐ケ谷 沙都希「ふう」
千田 和夫「桐ケ谷さん、そろそろ時間だろ?」
桐ケ谷 沙都希「あ、店長。もうそんな時間ですか?」
千田 和夫「今日は由衣香ちゃんの誕生日だろ?」
千田 和夫「これで由衣香ちゃんにプレゼントを買ってあげなさい」
  和夫が封筒を渡してくる。
桐ケ谷 沙都希「いえ、そんなの悪いですよ」
千田 和夫「いいからいいから」
千田 和夫「由衣香ちゃんは小さい頃からずっと見てきてるからね」
千田 和夫「私にとっても子供みたいなもんだ」
桐ケ谷 沙都希「・・・ありがとうございます」
千田 和夫「いやあ、家族で子供の誕生日祝いができるなんて、羨ましいよ」
千田 和夫「私のところなんて、友達と祝うから、お金だけくれ、だってさ」
千田 和夫「困ったもんだよ。はははは」
桐ケ谷 沙都希「・・・普通の家庭なら、そうなんですかね?」
桐ケ谷 沙都希「高校2年生にもなって、家族で祝うのはやっぱり、変でしょうか?」
千田 和夫「いやいやいや。そんなことを言ってるわけでは・・・」
桐ケ谷 沙都希「由衣香は、片親だから、私に気を使ってるのかもしれません」
桐ケ谷 沙都希「だから、私が誕生会を祝うのを、嫌でも受け入れているのかも・・・」
千田 和夫「そんなことないさ」
千田 和夫「いつも由衣香ちゃん、笑顔で言ってるよ。私のお母さん、いつも誕生会を開いてくれるって」
桐ケ谷 沙都希「そうですか・・・」
千田 和夫「おっと。長話してしまったな」
千田 和夫「ほら、早くあがりなさい。ご馳走、作るんだろ?」
桐ケ谷 沙都希「はい、ありがとうございます」
  沙都希が歩き出そうとして、止まる。
桐ケ谷 沙都希「あ、そうだ、店長」
桐ケ谷 沙都希「由衣香に、私がパート増やしたこと、喋りましたね?」
千田 和夫「うっ! いや、その・・・つい」
桐ケ谷 沙都希「次の時給の査定、楽しみにしてますね」
千田 和夫「はははは。かなわんな、君には」

〇綺麗なリビング
桐ケ谷 沙都希「ふう。お料理、完成」
桐ケ谷 沙都希「・・・そろそろ、由衣香、帰って来る頃かしら?」

〇新橋駅前
  走っている由衣香。
桐ケ谷 由衣香「あー、もうこんな時間。早く帰らなくっちゃ」
「亜里沙」
桐ケ谷 由衣香「あれ? どうしたの? こんなところで」

〇綺麗なリビング
  机に突っ伏して寝ている沙都希。
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・ん。いけない。寝ちゃってた」
  スマホを開くと、時刻は19時。
桐ケ谷 沙都希「え?」
  沙都希が立ち上がり、ドアをノックする。
桐ケ谷 沙都希「由衣香? 帰ってる?」
  しかし、返事はない。
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・」
  スマホで由衣香に電話を掛ける沙都希。
「おかけになった電話番号は電源が入っていないか、使われていない・・・・・・」
  通話ボタンを切り、メールボックスを開く。
桐ケ谷 沙都希「メールも来てない」
  スマホで再び電話を掛ける。
桐ケ谷 沙都希「あ、もしもし! 先生ですか?」
桐ケ谷 沙都希「あの、由衣香、まだ学校に残ってますか?」
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・はい、はい。わかりました」
  しばらく時間を待つ沙都希。
桐ケ谷 沙都希「はい! はい・・・・・・はい。そうですか」
桐ケ谷 沙都希「4時にはもう・・・・・・。あ、いえ、まだ帰ってなくて・・・・・・」
桐ケ谷 沙都希「わかりました。もう少し待ってみます」
  通話ボタンを切る沙都希。
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・由衣香」

〇綺麗なリビング
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・」
  沙都希がスマホを見ると時間は21時と表示されている。
桐ケ谷 沙都希「け、警察に電話しよう!」
  そのとき、電話が鳴る。
  第一話 終わり。

コメント

  • こんばんは!母親を思う優しい娘さんですが、何か事件とかに巻き込まれてないか心配ですね😱💦
    続きが気になります!

  • ありさ、と名前を呼んでいたのが気になりますね😆
    今後どうなっていくのか、ゆっくりと読ませていただきます。

  • 母子家庭らしい、思うところはあるも穏やかな幸せが描かれていたところでのまさかの失踪でのヒキ。経緯や理由などが気になりますね、次話を楽しみにしています。

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