シュレーディンガーの方程式

Nazuna

第八話:原子核のアルファ崩壊(脚本)

シュレーディンガーの方程式

Nazuna

今すぐ読む

シュレーディンガーの方程式
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇電脳空間
葛城大河「『デルタ』を、破壊するだって?」
猫元才「そう」
葛城大河「どういうことだ?」
葛城大河「外にいる”デルタ”の狙いは、」
葛城大河「コンピューターを破壊してお前の意識が戻らないないようにすることじゃなかったのか?」
猫元才「その考えは間違ってない」
猫元才「確かに、ここが破壊されたら私の意識は量子世界に閉じ込められたまま」
猫元才「”デルタ”が私の体を完全に乗っ取ることになる」
葛城大河「じゃあ・・・」
猫元才「私ひとりだったらこの方法は使えなかった」
猫元才「でも今は、くずがいる」
葛城大河「どういう意味だ」
猫元才「”ダイビングマシン”だよ」
葛城大河「”ダイビングマシン”?」
猫元才「そう」
猫元才「”ダイビングマシン”によって、」
猫元才「現実世界のくずの意識は」
猫元才「量子世界の意識と量子もつれの関係にある」
猫元才「どちらかが存在するとき、もう片方は存在できない」
猫元才「逆に言えば、片方が消えたとき、もう片方は必ず存在できる」
葛城大河「つまり・・・」
葛城大河「この場所が崩壊すると、俺の意識は自動的に現実世界に戻される・・・」
葛城大河「・・・ってことで合ってるか?」
猫元才「その通りだよ、くず」
猫元才「量子力学についても勉強したみたいだね」
葛城大河「・・・それで、お前はどうなるんだ」
葛城大河「俺だけ戻れても意味がないだろう」
猫元才「くずの意識と同じように、」
猫元才「私の意識と”デルタ”の意識も量子もつれの関係にある」
猫元才「私が現実世界に戻ることが出来れば、”デルタ”の意識は必然的に消滅する」
猫元才「それは”デルタ”が最も恐れていることでもある」
葛城大河「それで、コンピューターの方の『デルタ』を破壊しようとしていたわけか」
猫元才「そう」
猫元才「もし『デルタ』本体が破壊されたら、私の意識が外に出る方法はなかった」
猫元才「でも、今は違う」
猫元才「くずなら、私を外に連れ出せる」
葛城大河「・・・どうするんだ?」
猫元才「簡単なことをすればいい」
猫元才「量子世界から現実世界に戻るその瞬間、」
猫元才「私の手を掴んで外に連れ出して」
猫元才「私とくずの手が触れていれば、」
猫元才「私もくずと一緒に現実世界に帰れる」
猫元才「そして、私には自らここを崩壊させる手段がある」

〇電脳空間
猫元才「じゃあ、準備はいい?」
葛城大河「・・・よし」
葛城大河「覚悟は決めた。やってやる」
猫元才「いいね。じゃあ、こっちに来て」
猫元才「この先に、『デルタ』を内側から破壊して、再生不能にするためのスイッチがある」
葛城大河「・・・お前が作ったのか?」
猫元才「そう」
猫元才「”デルタ”が私の手に余るものだった時のために、作っておいた」
猫元才「自分が作り出したものには責任を持たなくちゃね」
猫元才「さあ、ここよ」
  才は右手を正面にかざした
猫元才「私が決められた言葉を言うと、それに反応してプログラムが起動する」
猫元才「もう一度聞くよ。準備はいい?」
葛城大河「・・・ああ!」
  才は何かを思い出すように目を閉じた
  そして、ゆっくりと口を開いた
  ──Schrodinger's(シュレーディンガーの)
  equation(方程式)──

〇電脳空間
  次の瞬間、地面が大きく揺れた
  遠くの方の景色がガラスが割れたように崩れ、
  崩れた後はただ白い光があるだけだった
葛城大河「あれが・・・」
猫元才「量子世界の崩壊が始まった」
猫元才「もう誰にも止めることはできない」
葛城大河「あの白い光が、現実世界なのか?」
猫元才「そう」
  崩壊は徐々にこちらに迫っている
猫元才「すぐに私たちもあの白い光に飲まれる」
猫元才「私の手、ちゃんと掴んでね」
葛城大河「・・・ああ」
  葛城は、自分の左手を才の右手に近づけた
葛城大河(今はまだ触れられない。ここは量子世界だから)
  前を向くと、量子世界の面影はほとんど消え、
  白い光が大きな輝きを放っているのが見えた
葛城大河「ふぅ──」
猫元才「あれ、緊張してる?」
葛城大河「当たり前だ」
  白い光は二人の足元に迫っている
葛城大河「1,2,3で飛び込むぞ」
猫元才「うん」
葛城大河「行くぞ、いち・・・」
葛城大河「にの・・・」
葛城大河「さん!!」
  合図と同時に、葛城と才は白い光に飛び込んだ
  葛城の足が白い光に触れた瞬間、
  葛城の手が才の手に触れた
  量子世界は、完全に崩壊した──

〇白
  視界が白い光に覆われ、何も見えなくなった
  それでも
  葛城の左手は、才の右手の体温をしっかりと感じていた
  きっとそれは、時間にしてみれば一瞬のことだったのだろう
  だが葛城は、それが永遠であるかのように思った

〇研究所の中枢
葛城大河(はっ!)
  葛城の視界に映ったのは、
  猫元才の体に馬乗りになって拳を振り下ろすノイマンと、
  その脇腹にナイフを振りかざす猫元才だった
  なんとか声を振り絞って叫ぶ
葛城大河「待ってくれ!」
  才のナイフを握る手が動きを止めた
  と同時に、鈍い音が鳴る
  ノイマンの拳は才の頬に直撃した
  才の右手からナイフが落ちる
  口から血を出して地面に倒れ伏す猫元才
  横を見ると、唯が血を出した腕を抑えながら驚いた顔でこちらを見返している
  葛城は落ち着きを取り戻し、正面を向いて言った
葛城大河「そいつは、”デルタ”じゃない」
  静寂と緊張が部屋を満たした
「・・・・・・」
「・・・ふふっ」
猫元才「人に本気で殴られたのなんて、生まれて初めてだ」
三条唯「猫先輩、なんですか・・・?」
猫元才「ただいま、唯ちゃん」
猫元才「って、寝たままじゃ格好つかないか」
ノイマン「・・・・・・」
  ノイマンは黙って才の体から離れ、床に落ちているナイフを回収した
  才はよろけながらゆっくりと立ち上がる
猫元才「ありがとうございます、教授」
猫元才「私を止めてくれて」
ノイマン「・・・今はもう大丈夫なんだね?」
猫元才「はい」
ノイマン「・・・殴ってすまなかった」
猫元才「いえ。大事な研究室メンバーを守ってくれてありがとうございます」
猫元才「改めて、ただいま、唯ちゃん」
猫元才「そして、くずもね」
葛城大河「・・・ああ」
葛城大河「おかえり、才」

次のエピソード:第九話:ラプラスの悪魔

コメント

  • 良かった…本当に良かった……
    タイトル回収までに至ったカタルシスが絶妙で、良い読了感を感じます……残り2話、楽しみにしてます!

成分キーワード

ページTOPへ