1話【深夜の訪問者】(脚本)
〇一人部屋
──とある平日の夜──
都内の大学に通う「加賀美天馬」20歳は、自らの計画性の無さに嘆いていた。
それは、翌日の早朝から大学の講義が控えているというのにも関わらず、時間を忘れアニメの一気見をしてしまったからだ。
加賀美天馬「やばっ!もう1時前じゃん!」
天馬がベッドの宮の上に置かれたデジタル時計を確認すると、時刻は深夜0時30分と表示されていた。
加賀美天馬「早く風呂に入って寝なきゃ!」
・・・
・・・
・・・
加賀美天馬「ふぅー!さっぱりしたぁ!そろそろ寝よ!」
天馬が寝ようとした時
突如として、家のインターフォンが鳴り響く。
加賀美天馬「え?こんな時間に?誰?」
加賀美天馬(こんな時間に非常識な奴も居たもんだ! 何時だと思ってるんだよっ!)
そう考えると同時に、とてつもない恐怖が天馬の頭の中を駆け巡った。
それは何故か?
天馬はアパートの103号室に住んでいるのだが、101号室と102号室は、アパートの大家が本業の事務所として使用しており
この深夜という時間帯は空き家と化している。
104号室には以前、高齢のおばあちゃんが一人で暮らして居たのだが、老人ホームに入る事になったらしく引っ越して行った為
こちらも同様に空き家となっている。
ようは、自らが住んでいる103号室の両脇は現時点で空き家という事になる。
それに天馬自身は騒音には必要以上に配慮をしている為、別の部屋の住人が訪ねて来た説も考えられないだろう。
ならば上の階、204号室の住人が訪ねて来た事は考えられないだろうか?
いいや、それも考えられない。
以前バッタリあった時に気さくに話しかけてくれ、確かキャバクラのボーイの仕事をしており
平日は全て仕事で埋まっているから辛いと愚痴っていた為、上の階の住人が訪ねて来た説も考えにくい。
なぜなら今の時間帯は仕事をしていて、家にいないのだから。
親や友達が訪ねて来たとしても、そういう場合は大抵事前に連絡があるはず。
ならば、誰が来たんだ?
知り合いの中には、こんな時間に訪ねてくる人物が誰一人思い当たらない。
ドアの向こうに誰がいるんだ?
そんな恐怖が、一瞬のうちに天馬の脳内を支配した。
そんな天馬の心配をよそに、再びインターフォンが鳴り響く。
加賀美天馬「・・・・・・」
加賀美天馬「仕方ないな・・・」
加賀美天馬「怖いけど・・・もしかしたら事故とかで 助けを求めてる人かもしれないよな」
天馬は心で、どうか普通の人であってくれ!
包丁を持った暴漢じゃありませんように!
などと祈りながら恐る恐るドアを開けた。
〇アパートの玄関前
天馬がドアを開けるとそこには、一人の女性の姿があった。
加賀美天馬(随分と若い女の人だなぁ・・・ 俺と同い年くらいかなぁ?)
天馬がそんな事を考えていると、女性がおもむろに口を開いた
???「すいません・・・こんな夜分遅くに・・・」
女性は深々と頭を下げる。
加賀美天馬「いや、気にしないでください」
加賀美天馬「でもどうされたんですか?何かトラブルですか?」
???「あの・・・財布・・・」
加賀美天馬「財布?」
天馬が不思議な顔をしていると、女性が手に持った長財布を天馬に差し出してきた。
???「財布・・・落とされませんでした?」
加賀美天馬「あっ!!」
女性が渡して来た財布は、まぎれもなく天馬の財布だった。
加賀美天馬「あれっ?落としてました?」
???「はい・・・そこの自販機の近くに・・・」
加賀美天馬「あれ?そうでした?全く気づいてませんでしたよ」
加賀美天馬「わざわざありがとうございます」
???「い、いえ・・・」
お辞儀をする天馬だったが、とある疑問が頭をよぎり、思い切って女性尋ねてみる。
加賀美天馬「でも、よく俺の住所わかりましたね?」
これだ!落とした財布を拾ったとしても、天馬の住所までは分かるはずがない。
天馬自身、おおかた予想はついていたが、とりあえずの気持ちで尋ねみる。
???「すいません、ダメだとは思ったんですけどその・・免許証で・・本当にすいません・・・」
加賀美天馬(あ、やっぱりそういう事かぁ)
加賀美天馬(まぁ、確かに見ず知らずの人に財布の中身を見られちゃったのは、恥ずかしいけど)
加賀美天馬(わざわざ財布を届けに来てくれた人に、そんな事言えるわけないし・・・)
天馬は少し考えて
加賀美天馬「そんな、謝らないでください!あなたのおかげで、こうして財布が戻って来たんですから!むしろ感謝してるんです!」
加賀美天馬「だから頭を上げてください!ね?」
???「そう言ってもらえて安心しました」
???「怒られたりしたらどうしよう💦って思ってたんで」
加賀美天馬「財布を届けてくれた、親戚な方にそんな事言いませんよ!」
加賀美天馬「あっ!そうだ!」
加賀美天馬「ちょっと待ってくださいね」
天馬はそう言うと、財布の中を物色し始めた。
女性はそんな天馬を不思議そうな眼差しで見つめている。
加賀美天馬(やっぱこういう時はお礼渡さなきゃな!確か財布に入っているお金の1割を渡せばいいんだったよな!)
天馬は女性に、財布を届けに来てくれたお礼を渡すために財布を物色していた。
しかし──
加賀美天馬(やばっ!今日ATMに行ってなかったから、財布の中に300円しか入ってない・・・)
加賀美天馬(300円の1割って30円?いやいや、さすがに30円だけ渡すのは・・・)
加賀美天馬「すいません・・・・」
???「え?」
いきなり頭を下げて謝る天馬に女性は驚きを隠せない。
???「どうして謝るんですか?」
加賀美天馬「いや、その・・・恥ずかしい話、お金を下ろしてなくって、その・・・持ち合わせがなくてお礼が・・・」
???「え?それって中身を抜かれたって事ですか?お金足りませんか?」
加賀美天馬「いやいや、違いますよ!ただATMに行ってなかっただけです!」
???「じゃあお金が減ってるわけじゃないんですね?」
加賀美天馬「それは安心してください!抜かれてたとかじゃないですから!」
???「あぁ、よかったぁ」
???「安心しました・・・」
加賀美天馬「でも、その、これじゃお礼が渡せなくて、なんというか、申し訳なくて・・・なんか代わりのもの渡せたら・・」
???「そんな事は気にしないでください!それに私はお礼が欲しくて、届けに来たわけじゃありせんから!」
加賀美天馬「でもそれじゃ、さすがに・・・」
???「気にしないでください!本当に大丈夫ですから!ね?」
加賀美天馬「なんか、すいません・・・」
加賀美天馬(俺、格好悪いなぁ・・・)
???「じゃあ、私はもう帰ります。財布も無事に渡せましたし!」
???「夜分遅くにすみませんでした」
加賀美天馬「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
加賀美天馬「この辺り暗いから、気をつけてくださいね」
???「はい。ありがとうございます」
〇一人部屋
天馬は女性を見送った後、部屋の中で安堵の息を漏らしていた。
加賀美天馬「はぁ〜変な人じゃなくてよかったぁ〜」
加賀美天馬「ドア開けた瞬間、包丁で刺してくる様な変質者じゃなくてよかったよ〜」
しかし天馬は疑問に思っていた。
加賀美天馬「でも変だなぁ〜」
加賀美天馬「今日は、財布を使った記憶も、自販機に行った記憶もないんだけどなぁ」
加賀美天馬「まぁでも、この財布は明らかに俺のなんだし、たぶんどっかで使ったんだろ!」
財布に関しては、深く考えないようにする天馬だったが、もうひとつの不安があった。
加賀美天馬「でも、あの人・・・不用心だよなぁ」
加賀美天馬「だって、免許証を見て、この家に来たって事は、俺が男だって知ったうえで来たって事だろ?」
加賀美天馬「俺が、女とみれば、見境なしにレ○プするようなヤバい奴だったら、どうするつもりだったんだろ?」
加賀美天馬「実際にそういう事件だってあるわけだし」
加賀美天馬「まぁ、でもいいっか!もう会うこともないだろうし」
天馬が時計を見ると、時刻はすでに深夜1時を過ぎたあたりだった。
加賀美天馬「やばい!やばい!もう1時になってる!」
加賀美天馬「さっさと寝なきゃ!」
天馬は慌てた様子で、電気を消してベッドに滑り込む。
明日は大学だ。