第十六話『消えた秘伝書』(脚本)
〇皇后の御殿
訪れる者もなく、どことなく寂しい殿舎。
麗華や小宝はしばしば皇后に指示を与えられている様子だが、玉兎はと言えば──。
玉兎(「頭を使うのは玉兎の仕事ではない」と言われて、納得しましたが)
玉兎「まさか本当に、一切関わらせてもらえないとは思いませんでした!」
とはいえ今日は久しぶりに、殿舎の掃き掃除に麗華や小宝も付き合ってくれていた。
玉兎「ふぅ」
麗華「手が止まってるわよ、玉兎。 それほど掃除がしたくないの?」
小宝「どうせ拗ねているのだろう!! 私や麗華ばかり娘娘に頼られているからな」
玉兎「いえ、玉兎はもう頭を使わないと決めたので、それはいいのです」
麗華「何ですって?」
玉兎「それよりも、解けない謎がありまして」
小宝「ほお? それならここに、娘娘の頭脳と呼ばれる宦官がいるぞ!」
麗華「誰が頭脳なの? 初耳ね」
玉兎「では誰に相談すれば!?」
麗華「ここに優しい先輩がいるでしょ」
玉兎「ええっ、どこですか?」
麗華「こ・こ! 私よ!」
玉兎「ひゃっ! そ、そうですよね! では・・・」
玉兎は右手に箒を握り締め、皇后や皇帝とのやり取りを思い出す。
玉兎「玉兎はこの前、陛下とお会いしたのです。その時に、陛下のお顔を見ても何も感じないな・・・と発見しまして」
麗華「不敬になりかねない発言ね」
玉兎「それなのに、寒月さんを見ると奇妙な動悸がするのです! 同じ顔をしているのに、変ですよね?」
小宝「待て待て玉兎、それは──」
玉兎「こんなことは初めてです」
玉兎「動悸だけでなく、全身がそわそわして、経絡の流れが乱れて・・・寒月さんは何か特別な気功でも使っているのでしょうか」
麗華「あなた、本当にわからないの?」
小宝「わかるわけがなかろう、玉兎だぞ」
玉兎「これが玉兎の解けない謎です。 お二人には解けますか?」
麗華「解けるも何も・・・」
麗華が何かを口にしようとした時、子蘭が姿を現した。
子蘭「失礼いたします。淑妃さまが皇后娘娘にお目にかかりたいのですが、お取次ぎ願えますでしょうか」
突然の淑妃の訪問に、緊張が走る。
麗華「・・・娘娘はいらっしゃるわ。 今うかがってくるから、少し待ちなさい」
子蘭「突然の訪問で申し訳ございません。 どうぞよろしくお願いいたします」
玉兎「子蘭さん、淑妃さまはどんな用事でこられたのですか?」
子蘭「娘娘のことを心配していらっしゃるの。 最近少し・・・悪い噂があるでしょう?」
子蘭「お話相手にでもなれれば、とおっしゃっていたわ」
〇皇后の御殿
すぐに皇后の許しがおり、玉兎たちもそばに侍ることとなった。
淑妃「皇后娘娘にお目にかかります。 突然の訪問を受け入れてくださり、ありがとうございます」
皇后「構わないわ、楽にしてちょうだい」
淑妃「お体の具合はいかがですか? 先日は徳妃とのお茶会にもいらっしゃらなかったので、心配しておりました」
皇后「問題ないわ。 潔斎をしたから、身を慎んでいるだけよ」
淑妃「安心いたしました。祭祀の準備でお手伝いできることがありましたら、何でもおっしゃってください」
皇后「ええ、ありがとう。あなたは古典に詳しいから、儀式の進め方を尋ねようと思っていたところよ」
当たり障りのない会話が続く中、麗華や玉兎たちは緊張しながら様子を見守る。
皇后「今日は手伝いを申し出るために来てくれたのかしら」
淑妃「・・・いいえ。私は娘娘の味方だとお伝えしに来たのです」
皇后「あら、それではまるでわたくしに敵がいるような言い方じゃない」
淑妃「娘娘のことです、後宮の噂話はお聞き及びでしょう」
淑妃「あのような下らぬ流言、私は信じておりません。そう言いたかったのです」
皇后「・・・そう。あなたはやっぱり情義に厚い人ね。気遣いに感謝するわ」
淑妃「いいえ。陛下に仕え、娘娘を支える四夫人の一人として、当然の務めです」
淑妃が茶に口をつけ、中身を干す。
玉兎「淑妃さま、お注ぎいたします」
麗華に教えられた通り、優雅な仕草でお代わりのお茶を注ぐ。
しかし茶杯を差し出そうとした左手に、痺れが走った。
玉兎「あっ!」
玉兎(もうだいぶ回復していたのに・・・!)
──かちゃん。
微かだが、陶器のぶつかる不作法な音が鳴る。
玉兎「し、失礼いたしました!」
淑妃「・・・もしかして、怪我をしているのではありませんか?」
玉兎「ええと、玉兎は元気です!」
淑妃「責めているのではありません。 玉兎・・・確か、徳妃の命を助けた侍女ですね」
皇后「・・・ええ、そうよ」
淑妃「大丈夫ですか、玉兎。 私への気遣いは無用ですよ」
さりげない仕草で、淑妃のたおやかな手が玉兎の左腕に触れた瞬間。
玉兎「う、ぁ・・・っ!?」
奇妙な気が流れ込み、怪我から回復しかけていた経脈が逆流する。
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冒頭のやり取りがかわいいな……と思いきや、後半の急展開……!