名探偵になりたい。

ゆう羅

エピソード1(脚本)

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〇雪山の山荘
  ここはとある山奥にある貸別荘。
  参加者は昨日まで十人だった。
  現在は九人である。
  ――正確には九人と、一人が遺体になっていた。
  ここに集まっているのは、とある大学のサークル仲間だ。と言ってもふたつのサークルの合同合宿である。
  被害者は文芸部の男子学生・佐藤。
  二回生で、去年も合宿に参加している。外見はこれといって特徴がない、中肉中背の男だ。
  彼は江戸文化や落語などが好きだったという。
  さて、佐藤が亡くなったのは、事故か事件か・・・病死ではないように思える。
  何故なら背中に深々とナイフが刺さっているからだ。
  「ちょっと待って、何で探偵役みたいな顔してんの?」
  この僕の華麗な推理にツッコミを入れてくるのは、僕と同じくミステリー研究会のメンバーで二回生の女子・美崎だ。
  「これは自分が謎を解かなくてはならない、という神の思し召しか」
  そんなことを言いだしたのは、やはり僕と同じくミステリー研究会のメンバーで二回生の男子・御堂だ。
  そして最後のミス研のメンバーはこの僕、矢城だ。
  我らがこの事件を冴えた推理で解決しようと目論んでいるのだが、文芸部のメンバーはこちらのことなど眼中にないようだ。
  それもそうだろう、亡くなったのは彼らのサークル仲間なのだから。
  本来我々は部外者だ。

〇おしゃれなリビングダイニング
  今回の合宿はミステリー研究会だけでは借りられる予算が無かったこの合宿所を、文芸部と共同で借りることになった。
  さて、ここで本来なら警察や消防に連絡し、我々は事情聴取を受け、そして容疑者以外は解散という流れになるだろう。
  しかし、ここに警察や消防が数時間以内に来ることはない。
  何故ならば外界との連絡が閉ざされてしまったからだ。
  現在、外は猛吹雪で出ることは叶わない。もちろん携帯の電波は届かないし、電話線は雪の重みか風か、切れてしまっている。
  この猛吹雪が過ぎなければどうにもできないだろう。
  「完璧じゃない」
  
  こっそりとこのシチュエーションをさして美崎が呟く。
  不謹慎だと思われるかもしれないが、美崎の声に冗談めいたものはない。
  つまり、あまりにも舞台が整い過ぎているというのだ。
  しかも・・・。
  
  「ダイイング・メッセージまであるな」
  
  御堂までもそんなことを言う。
  確かに、佐藤は自分の血で食堂の床にメッセージを書き残している。
  ダイニング(食堂)&ダイイング(死に際)のメッセージだ。
  僕たちミス研が部外者扱いされてはいるが、警察や消防を呼べない今、この事件を我々に預けてはくれないだろうかと思ってしまう。
  文芸部のメンバーは亡くなった佐藤を含め、三回生は塩野先輩(女)と田中先輩(男)、
  二回生は鈴木(女)
  山田(男)
  そして一回生は佐藤【ま】(佐藤がふたりいるため下の名前の「まなみ」から【ま】と表記されている女)
  スリランカからの留学生
  ポディマハッタヤ(男)だ。
  文芸部は「せめてシーツでもかけて見えないように」とか「触ったら駄目だからこのままで」とか「何でこんなことに」と、
  話していてもどうしようもないことを繰り返している。
  確かに、ダイニングで死なれたままだと料理をするにも、
  食事をするにも困った状況ではある。
  冷徹だが、よく知らない彼が亡くなったことよりも、現状に困惑しているのは我々も同じだ。
  改めてこの状況を整理しよう。
  亡くなった佐藤は背中のど真ん中に包丁が刺さっており、死因はおそらく失血死であろう。現在の時刻は朝の六時。
  亡くなったのはおそらく夜中で、暖房の効いていないダイニングで倒れ、発見された時にはすっかり冷たくなっていた。
  第一発見者は田中先輩だった。
  朝起きて熱いコーヒーでも淹れようとしてダイニングルームの明かりを付けたら
  佐藤が背中を包丁で刺され、血を流している状態であったという。
  声をかけたが返事はなく、真っ青な顔に触れてみたところ、
  既に生きている人間の体温ではなかったそうだ。
  そして彼の左手の先には、自分の血で書いたらしきメッセージ「さとう」の文字が残されていた。
  すぐに田中先輩は他のメンバーたちを起こし、このダイニングルームに集めたのだった。

〇おしゃれなリビングダイニング
  この山荘は一階がキッチンを備えたダイニングルームや風呂場、二階から上が個室とトイレ、洗面所となっていた。
  二階は個室が八部屋、三階は四部屋ある。
  文芸部は二階、我々ミステリー研究会は三階に部屋分けされた。
  この建物は一階から三階まで吹き抜けになっており、中央に階段があってそれを囲むように四方に部屋がある。
  二階は東西南北に二部屋ずつ、三階は屋根の近くになって二階より床面積が狭くなる分、東西南北に一部屋ずつになっていた。
  そして階段には感知型のランプがついており、夜に人が上り下りしようとするなら明かりが点く親切設計である。
  各部屋のドアにはすりガラスがついており、誰かが階段を使うとランプが点灯し、部屋の中にいてもわかる。
  昨晩は両サークルで吞み会を開催し、ダイニングルームには明日の朝片付ければよいとばかりに大量の酒瓶や缶、
  つまみの皿が残されていた。
  お開きになったのは十時半ごろ。
  各自、部屋へと戻っていった。
  第一発見者の田中先輩は、呑み会の後自室でとある文学賞へ応募する作品を一晩中執筆していたため、
  ある程度は階段を使った人がいたかどうかわかっていた。
  夜中の一時頃に二階のどこかから部屋を出る音がして、その後階段のランプが一度点灯し、その後は点いた覚えがない。
  つまり、トイレなどで見逃していない限り、夜中に階下に降りた者はその後二階に戻っていない。
  それが被害者の佐藤なのだろう。
  被害者の佐藤は、夜中の一時頃に何らかの用でダイニングルームへ向かい、そこで遺体となった。
  田中先輩「夜中に三階からの階段の電気は点かなかった」
  サンキュー先輩。
  この証言で、我々ミス研メンバーは関係者(ありていに言えば容疑者)から外された。
  塩野先輩「わたしはお酒に弱いから、すぐ寝ちゃって・・・何もわからなかったわ」
  白でも黒でも取れる発言だ。
  鈴木「飲み足りないから、自室に焼酎とおつまみ持って行って、タブレットで小説読みながら寝落ちたわ」
  彼女は昨晩の吞み会で一番呑んでいた。それでもまだ呑み足りないか。
  山田「一回寝て起きたら頭痛くなったんだ。田中先輩の部屋の電気が点いていたから、起きていたら頭痛薬ないか聞きに行ったよ。
  あれは何時頃だったかな・・・え?三時ぐらい?」
  廊下に出た時に階下で何かあれば気づくだろう、けれど何も物音を聞いていないのなら、犯行時刻は一時から三時ということか。
  佐藤【ま】「なんで『さとう』って書いてあるの・・・? あたし、佐藤先輩とあまり話したことないし。
  昨日は寒かったからポットのお湯もらってゆたんぽ作って、お布団にもぐりこんだのは確か十一時頃のはずよ。
  その時に食堂に佐藤先輩はいなかった」
  ダイイング・メッセージから考えれば容疑者だが、この発言はどうなのだろうか?
  ポディマハッタヤ「ワタシ、あまりニホンゴわかりません」
  だったら何故『文芸部』に所属している?
  だが我々ミス研はほぼ同時に叫んだ。
  「犯人は、あなたです!」と。
  続きは7月中旬~下旬頃公開予定です。

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • 留学生であったり、同じ苗字かぶりだったり、ちょっと混乱を誘いそうなキャラが混ざってたりとか、まるで名探偵○ナンを思わせるような、推理小説ですね。現実っぽさと非現実っぽさが混ざっているこういうタイプの推理小説が大好きなのでワクワクしながら読みました。もっと読みたいです。

  • 推理小説にはありがちな設定ながら、推理好きにはたまらない。
    読みながらあの人かな?なんて自分なりには考えたけど、続編でどんな謎解きが拝見できるか楽しみです。

  • ミステリーならではの建物を上手く使った謎が多い作品で続きが気になります!
    ダイイングメッセージとか、密室とか、見る分には楽しいですよね!

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