トウベツピリカコタン

ゆきんこ

第九話 カムイの試練(脚本)

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〇神社の本殿
兼継(かねつぐ)「お互い、無事で良かったな!」
テイネプ「俺たちは慣れているけど、お前たちは大変だろう」
兼継(かねつぐ)「まあね・・・収穫前の農作物がダメになっちゃったから、これからはひもじい思いしなきゃならないかもな」
兼継(かねつぐ)「武士は喰わねど高楊枝! なんつって!」
テイネプ「そーだろうと思って」
テイネプ「ほらよ」
兼継(かねつぐ)「え、スゴイ!」
テイネプ「母ちゃんがさ、持ってけって」
兼継(かねつぐ)「お前ん家は?大丈夫なの!?」
テイネプ「俺のうちは秋に獲った鮭をたくさん干物にして保存しているからな」
兼継(かねつぐ)「それに、赤ちゃんのケガで和人に嫌な思いしてるんじゃ・・・」
テイネプ「妹の傷? もう、すっかり癒えたよ。 赤ちゃんは回復早いんだぜ」
テイネプ「それに、カネだってあいつらに石投げつけられていたろ」
テイネプ「嫌な思いしたのは、お互い様さ」
兼継(かねつぐ)「なんで、こんな良い民族のこと怖いって思ってたんだろう」
兼継(かねつぐ)「俺たち、親友だな!」

〇古風な和室(小物無し)
ちよこ「ちょっと、尚継」
ちよこ「いつになったらサクアを迎えに行くつもり!?」
尚継(なおつぐ)「迎えに行くも何も」
尚継(なおつぐ)「サクアから出て行ってしまったんだから、俺にはどうすることもできないよ」
尚継(なおつぐ)「・・・いきなり、何するんだよ!」
ちよこ「こんの、馬鹿ったれ!」
ちよこ「結婚の申し出をしておいて、逃げられたからしょうがないですって!?」
ちよこ「男のくせに、」
ちよこ「情けないにも程があるわよっ!」
たけ「ちよこの言うとおりよ」
たけ「連れて帰るまで、うちの敷居は跨がせないわ」
兼継(かねつぐ)「そうだそうだ!」
尚継(なおつぐ)「みんなして、何だよ! まだ村の復興もままならないのに、俺が留守にしていいわけないじゃないか・・・」
ちよこ「あんたはイロイロ、背負いすぎよ」
ちよこ「伊達家の長男として、ではなく」
ちよこ「伊達尚継は、どうしたいのよ?」

〇大樹の下
尚継(なおつぐ)「ずっと、伊達家の長男としての考え方しかしてこなかったから」
尚継(なおつぐ)「急に、尚継としてはどうかと聞かれても」
尚継(なおつぐ)「そんなの、分からないよ・・・」
ユワレ「久しぶりだな」
尚継(なおつぐ)「ユワレ!腹は大丈夫なのか?」
尚継(なおつぐ)「って、和人語喋れるのか」
ユワレ「同化政策もそうだが首長が和人語を喋れないと、不都合がある」
ユワレ「政府の役人達との付き合いもあるのでな。 必死で勉強したよ」
ユワレ「それはそうと」
ユワレ「サクアに会いに来たのだが、行方不明と聞いた」
ユワレ「何があったのだ?」
尚継(なおつぐ)「な、何?」
尚継(なおつぐ)「サクアはアイヌの里に帰ったとばかり思っていたのに・・・!」
ユワレ「・・・・・・」
ユワレ「そうか・・・」
ユワレ「災害や事故を悪いカムイの仕業だと言っていて、」
ユワレ「自分は巫女に戻ると言ったか・・・」
ユワレ「それはマズイな」
尚継(なおつぐ)「おっ、教えてくれ」
尚継(なおつぐ)「サクアが行きそうな場所で、心当たりは無いか!?」
ユワレ「ツキガタという場所のカムイシリ山」
ユワレ「サクアは悪いカムイが暴れると、必ずあの山の山頂でカムイノミ(神々へのいのり)を行なう」
ユワレ「だが、今回はただのカムイノミではなく」
ユワレ「自分をカムイに捧げ、犠牲になろうとしているのかもしれない」
尚継(なおつぐ)「・・・ありがとう。すぐに行ってみる」
ユワレ「途中まで道案内をしよう」
ユワレ「俺は腹の傷がまだ疼くので、無理はできない。 あとはお前らが何とかしろ」
尚継(なおつぐ)「ユワレは、サクアの幼なじみと聞いていたが」
尚継(なおつぐ)「なぜこんなにも親切にしてくれるんだ?」
尚継(なおつぐ)「まさか、お前もサクアのことを──」
ユワレ「残念だが、お前の推測はハズレだ」
ユワレ「サクアも気づいているようだったが、実は俺は異父兄妹なのだ」
ユワレ「コンベッキノはアイヌの首長に定められていた俺の父親と強制婚姻させられていた」
ユワレ「俺を産んだあと、すぐに交易に来たサクアの父親と出会い恋に落ちた」
ユワレ「アイヌを抜けるつもりだったようだ」
ユワレ「だが相手が腰抜けで、駆け落ちする約束の場所に来なかった」
ユワレ「すでにアシリを身籠っていたコンベッキノは身動きできず、おのれの運命を呪いながら生きることになったのさ」
ユワレ「俺は父に引き取られたし、コンベッキノも俺には無関心だったから」
ユワレ「アシリの側には居たものの、俺が義理の兄にあたることは内輪しか知らない」
尚継(なおつぐ)「そんな事情があったのだな・・・」
尚継(なおつぐ)「頼む」
尚継(なおつぐ)「次にアシリに会うときは、兄として会ってくれないか?」
尚継(なおつぐ)「いつもアシリはお前を気にかけていたよ」
ユワレ「約束しよう」

〇山中の坂道
ユワレ「俺が行けるのはここまでだ」
ユワレ「熊鈴を持っていけ。あと、これを」
尚継(なおつぐ)「飴? 軽い食糧と飲み物は持ってきたぞ」
ユワレ「お前にではない。 蕗の下の住人、コロボックルにだ」
ユワレ「この道は途中で行き止まりになっていて、そこから先は細い獣道なんだ」
ユワレ「方角を見失わずに行くために、蕗の下にを置いておくと、コロボックルがサクアの居る山頂まで導いてくれる」
ユワレ「試してみようか」
ユワレ「コロボックルよ。 サクアが山頂にいるなら、手助けしておくれ」
尚継(なおつぐ)「あっ!」
尚継(なおつぐ)「蕗が、頭を垂れた!」
ユワレ「コロボックルは恥ずかしがり屋だが、必ず居るから、その姿を捜そうとしてはならん」
ユワレ「蕗が頭を垂れた方角に進路を取れ」

〇岩山の崖
サクア「カムイよ・・・」
尚継(なおつぐ)「サクア!!」
サクア「ナオ!?」
サクア「なぜここが・・・!」
サクア「悪いカムイが、お怒りなの」
サクア「火事も水害も、子供たちのケガも巫女の仕事を全うしなかった私が悪い」
サクア「だから、私のことは放って置いて」
尚継(なおつぐ)「それはできない!」
尚継(なおつぐ)「やっと姉上や母上の言ったことが理解できた気がする」
尚継(なおつぐ)「サクア、俺たちは似た者同士だったんだ」
尚継(なおつぐ)「伊達家の長男、アイヌの巫女」
尚継(なおつぐ)「そういうちゃんとした肩書きの自分でしか、世の中に受け入れてもらえないと思っていた」
尚継(なおつぐ)「でも、そうじゃない」
尚継(なおつぐ)「考えてみてくれ──うちに居るとき、サクアを巫女として扱ったことがあるかい?」
尚継(なおつぐ)「サクアが巫女でも、巫女じゃなくてもサクアなんだよ」
尚継(なおつぐ)「だから、一人で抱え込むなよ」
サクア「ナオ・・・あっ、危ない!」
尚継(なおつぐ)「ハッ」
尚継(なおつぐ)「ウワアアア!」

〇炎
アプフチカムイ「またお前たちか」
アプフチカムイ「性懲りも無く」
アプフチカムイ「また私を利用する気なのか?」
尚継(なおつぐ)「わあっ! 炎の魔神!?」
サクア「視えるのか?ナオにも」
サクア「あれがアプフチカムイだ」
サクア「今は悪いカムイだが、本来は頑固だが良いカムイだ」
アプフチカムイ「頑固は余計じゃ」
アプフチカムイ「恩を仇で返した報いは受けておるようだが」
アプフチカムイ「用件を申せ」
サクア「これ以上は、トウベツに危害を加えないでくれ」
サクア「それが叶うなら、私を捧げても構わない」
尚継(なおつぐ)「馬鹿な!やめろ、サクア!!」
尚継(なおつぐ)「アプフチカムイ、そなたを祀らなかったのは伊達家の責任だ!」
尚継(なおつぐ)「罰するなら俺を!」
サクア「ナオ・・・」
アプフチカムイ「面倒な二人だぜ」
アプフチカムイ「まあ、儂は無謀な若者は嫌いではない」
アプフチカムイ「お前たちに試練を与えよう」
アプフチカムイ「今からお前たちを精神だけ異次元に飛ばす」
アプフチカムイ「そこで再び巡り会い、お互いの強き絆を示すことが出来れば良し」
アプフチカムイ「出来なければ、そのまま異次元で離れ離れになるだろう」
アプフチカムイ「お互いの記憶もなく、時代や年齢も違う状態だ。さぞかし困難は窮めるだろうな」
サクア「そんな・・・」
尚継(なおつぐ)「や、やってやるさ!」
サクア「ナオ!」
尚継(なおつぐ)「サクア、この櫛を持っていて」
尚継(なおつぐ)「これがを身に着けていてくれれば、俺は間違いなくサクアを探し出すよ!」
サクア「では、ナオはこれを」
サクア「必ず、見つける」
尚継(なおつぐ)「肌身はなさず、持っているよ」
アプフチカムイ「覚悟はできたようだな」
  尚継とサクアは肩を抱きあって手を繋いだ。

〇白

〇教室
先生「じゃあ、ここは新に読んでもらおうかな!」
先生「やっぱり寝ていたか! おい、起きろ!」
新(あらた)「んがっ!」
新(あらた)「アシリ!必ず迎えに行く!!」
先生「オーイ、なんの夢だ? 歴史の教科書、P78を開いて読みなさい」
新(あらた)「!?あ、ハイ」
新(あらた)「あれ? 俺、夢見てたのかな」

〇コンビニのレジ
桜(さくら)「いらっしゃいませ~!」
桜(さくら)「あれ?ポケットに何か入ってる?」
桜(さくら)「えー?」
桜(さくら)「私、こんな櫛持っていたかなあ」

〇白
  ──tobecontinued

次のエピソード:第十話 めぐり逢い

コメント

  • これが最後の試練…まさか現代とは。そして最終話のタイトルはここにつながってくるわけですね。奇跡は起きると信じていますが…

  • まさかの展開に驚きです!ぜひともこの試練を潜り抜けてほしいですね!最終話では読んでいて涙してしまう気がします。真っ直ぐピュアなエネルギー溢れる2人に幸あれ!

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