消える探偵 中編(脚本)
〇高級マンションの一室
新(あらた)「霧子の家!久しぶりでキンチョーするな」
霧子(きりこ)「いつもどおりの大学生みたいな私服で、安心安定の新クンね」
霧子(きりこ)「ゴメンね、朝から」
新(あらた)「非番だし、大丈夫だよ」
霧子(きりこ)「新にこのハガキ、見てほしいと思って」
新(あらた)「コレが電話で話していた、暗号が書かれたハガキ?」
霧子(きりこ)「この御札の記号みたいなものは、──こうやって、半分隠すと・・・」
新(あらた)「『タスケテ』か!」
霧子(きりこ)「で、このメッセージが暗号になっていて、」
霧子(きりこ)「ワタシカンハンサレテイマス」
新(あらた)「??どういうこと??」
霧子(きりこ)「ヒントはハガキ」
霧子(きりこ)「つまり、「ハ」を「キ」に置き換えて読むの」
新(あらた)「『ワタシカンキンサレテイマス』」
新(あらた)「『監禁』!?あのおばあさんが?」
霧子(きりこ)「まだらボケというか、痴呆の時と正常な時があるから、一概に言えないのよね」
霧子(きりこ)「それに、自由にスーパーに出入りしてるところを見ると、監禁はされてはいないのよ」
新(あらた)「妄想、なのかなあ?」
霧子(きりこ)「──とにかく、二階堂さんに、日曜日の午後にお家に招待されているんだけど」
霧子(きりこ)「新も一緒に行ってくれないかな?」
新(あらた)「・・・」
霧子(きりこ)「どしたの?」
新(あらた)「・・・霧子、俺じゃなくても連れて行くヤツ居るんじゃないのかよ?」
霧子(きりこ)「ん?誰のことよ?」
新(あらた)「あのー・・・そのー・・・」
新(あらた)「この前、マッ●で一緒に居た男・・・」
霧子(きりこ)「南くんのこと?」
霧子(きりこ)「うーん、南くんでも良いんだけど・・・彼、イマイチ頼りないからなあ」
新(あらた)「じゃあ、俺は頼りになるってことか!」
新(あらた)「行きます!行かせて下さい!!」
新(あらた)「頼りになります!!」
霧子(きりこ)「警察官だから新が良いかなって思ったけど、」
霧子(きりこ)「人選間違えた?」
〇街中の交番
聖子(せいこ)「・・・・・・」
〇交番の中
新(あらた)「お義母さまの通帳とハンコの被害届を出したい、ということですね」
新(あらた)「本日は委任状はお持ちですか?」
聖子(せいこ)「それが、義母は痴呆症が酷くて、委任状を書いてくれないんです」
聖子(せいこ)「刑事さん、こういうケースの場合は、どうしたら良いんでしょうね?」
新(あらた)「ご本人を連れて来ていただいて、一筆書いてもらうのは?」
聖子(せいこ)「妄想の世界の住人ですよ? 私の言うことなんか、聞きもしませんよ」
聖子(せいこ)「それなのに、たまに正常に戻る時もあったりして、タチが悪いの!」
聖子(せいこ)「銀行もダメ、警察もダメなんて、私、どうしたら良いのか・・・」
聖子(せいこ)「もう、私1人では介護も限界なんです」
新(あらた)「こういう時の手続きって、融通利かないからなあ」
新(あらた)「支援が必要でしたら、地域包括支援センターなどでご相談されたらどうでしょう?」
新(あらた)「プロの第三者が入ることで、お義母さまも柔軟になるかもしれませんよ」
聖子(せいこ)「はあ・・・そうですね。検討してみますわ」
新(あらた)「警察では本日、このような相談を受けましたということで、」
新(あらた)「日付とお名前とご住所をこちらにご記入願います」
新(あらた)「・・・」
新(あらた)「・・・二階堂って、あの二階堂不動産の?」
聖子(せいこ)「お恥ずかしい話です。 主人が亡くなってから、義母はオカシクなっていく一方で・・・」
聖子(せいこ)「今回のこと、他言無用にてお願いいたします」
〇黒
──日曜日
〇西洋の住宅街
新(あらた)「なんつーお屋敷・・・!」
霧子(きりこ)「新ったら、急に服のセンス良くなったわね」
千鶴(ちづる)「いらっしゃい、佐川さん。お待ちしていたわ」
千鶴(ちづる)「カワイイ彼氏も一緒ね!」
「と、トモダチです!」
〇綺麗なダイニング
千鶴(ちづる)「今日は嫁の聖子さんがパーティに出かけて夜まで帰ってこないから、」
千鶴(ちづる)「ゆっくり過ごしていってね」
新(あらた)「全然、ボケてなさそうに見えない?」
霧子(きりこ)「そうなのよね・・・どうなってんの?」
〇綺麗なダイニング
霧子(きりこ)「め・・・」
霧子(きりこ)「めちゃくちゃ美味しいです! これが手作りケーキだなんて、プロみたい!!」
新(あらた)「この紅茶も不思議な色あいですね! 青い紅茶は初めてだし、段々濃い色になってくる」
千鶴(ちづる)「そのハーブティーには仕掛けがあってね・・・レモン汁を1滴、落としてみて」
新(あらた)「わあっ、赤色のレモンティーになった!」
千鶴(ちづる)「面白いでしょ? 私と主人は昔から人を驚かせることが大好きでね」
千鶴(ちづる)「ああ、楽しいわ」
千鶴(ちづる)「こうして、お客様をおもてなしするのも、久しぶりよ」
霧子(きりこ)「もしかしたら、二階堂さんは・・・」
〇華やかな裏庭
霧子(きりこ)「素敵なお庭!」
千鶴(ちづる)「この庭と同じ面積の庭が、あと3つあるの」
新(あらた)「俺の部屋、この庭の1/20くらいなんですけど・・・」
千鶴(ちづる)「四季を感じられるように、木や花にも工夫を凝らしているのよ」
千鶴(ちづる)「一の庭には春、ニの庭には夏、三の庭には秋、四の庭には冬といった具合にね」
千鶴(ちづる)「そうそう」
千鶴(ちづる)「亡くなった主人が、この庭のどこかに、遺産を隠したらしいのよ」
「ええっ遺産!?」
千鶴(ちづる)「もし良かったら、あなた達でその遺産を探してもらえないかしら?」
千鶴(ちづる)「見つかればもちろん、報酬はお支払いしますよ」
霧子(きりこ)「でも、こんな広大な土地からどうやって・・・?」
千鶴(ちづる)「イタズラ好きな主人でね、ヒントの暗号はあるのよ」
〇桜並木
霧子(きりこ)「屋敷の庭の地図と、文字が書いてある」
新(あらた)「春夏秋冬 夏1 秋3 0 春5 冬5」
新(あらた)「春夏秋冬は庭のテーマだって言ってたよな?」
霧子(きりこ)「じゃあ、季節の横の数字は何を表しているのかしら? 真ん中の0には季節が書いていないけどいないけど・・・ゼロ?」
霧子(きりこ)「ここの庭は春で、数字は5」
新(あらた)「ムズ〜!!」
霧子(きりこ)「とりあえず、自由に庭を見て回っていいって言われたから、全部を見てみましょう!」
新(あらた)「そういえば、あのハガキの暗号のこと、聞かないの?」
霧子(きりこ)「もし、私の考えが合っていたら・・・」
霧子(きりこ)「あの二階堂さんには、言わない方が良い気がするの」
新(あらた)「なんだよ、それ」
〇睡蓮の花園
「スゴ〜イ!!」
霧子(きりこ)「夏の庭は1ね」
新(あらた)「1つのもの・・・池かな。春にはなかったよね」
霧子(きりこ)「広すぎて、1個1個調べてたら、日が暮れるわね」
新(あらた)「霧子の能力で、地面触ってたらお宝探し出来ないの?」
霧子(きりこ)「金属探知機じゃないっつーの!」
霧子(きりこ)「そんなことができたら、万引きGメンのバイトなんて、しないわよっ」
霧子(きりこ)「次行きましょ!」
〇後宮の庭
霧子(きりこ)「秋の庭は3よ」
新(あらた)「こっちにも池がある。さっきのはダメだな」
霧子(きりこ)「ちょっと大きい石が1つあるだけね」
新(あらた)「数字と庭自体は関係無いのかな?」
霧子(きりこ)「何かもっと、考え方を変えなきゃならないのかもね」
〇イルミネーションのある通り
霧子(きりこ)「冬も5よ」
霧子(きりこ)「ここは夜、イルミネーションをつけたらキレイね!」
新(あらた)「なんか、謎解きじゃなくてデートみたいになってない?」
霧子(きりこ)「昔、『ウインター・ソナタ』って歌詞に、彼氏とイルミネーション見たら」
霧子(きりこ)「別れた後も、イルミネーション見るたびに思い出すって歌ってた」
霧子(きりこ)「だから私、好きな人ができても、イルミネーションは一緒に見に行かないぞって思ってたのよね!」
新(あらた)「霧子は単純だな!」
霧子(きりこ)「ウインターは冬・・・」
霧子(きりこ)「春はスプリング、夏はサマー・・・」
霧子(きりこ)「ねえ、秋って英語で何だっけ?」
新(あらた)「オマエ、大学出てたよな? アウターだろ?」
霧子(きりこ)「あ、思い出した! オータム、もしくはフォールよね」
新(あらた)「俺、役に立ってない・・・?」
〇西洋の住宅街
聖子(せいこ)「失敗したわ。携帯忘れるなんて」
聖子(せいこ)「あら、お義母さまの靴がある。 家に居るのかしら」
聖子(せいこ)「いつも日中はフラフラ出歩いているのに」
聖子(せいこ)「この前は万引きまでして・・・そろそろ施設に入れなきゃマズイわね」
聖子(せいこ)「でも、その前になんとしてでも通帳や遺産の在り処を教えてもらわないと・・・」
〇綺麗なダイニング
千鶴(ちづる)「ううっ、まださ・・・わ・・・いるのに・・・」
千鶴(ちづる)「ああっ」
千鶴(ちづる)「・・・」
千鶴(ちづる)「ここはどこ?」
千鶴(ちづる)「うちに、帰りたい・・・」
春夏秋冬
夏1 秋3 0 春5 冬5
ヒント:英語に直す。
0=アルファベットの『オー』
〇黒
──後編に続く
身内にアルツハイマーがいて厄介事を経験した身としては、とても共感できるリアリティでした。それにしても新くん、読むにつれて可愛く思えてきます。尻尾振り通りの犬系男子というかw