第十話『皇后の悪評』(脚本)
〇後宮の廊下
徳妃が襲われた事件から数日。
徳妃の見舞いに行っていた玉兎が、ひとり歩いていると・・・
妃・一「ねぇ、聞きまして? あの宮の見張りをしている宦官がまた交代したんですって」
妃・二「・・・本当に不気味ね。 娘娘は一体何をしているのかしら」
妃・一「こんなこと表立っては言えないけれど・・・やっぱり娘娘は皇后に相応しくないのではない?」
妃・二「そうね。あの方は徳妃さまや淑妃さまと違って、家格も劣ることですし」
妃・一「それに、あの宮は太子妃さまが住まわれていた場所だもの・・・やっぱり娘娘のせいよ」
玉兎「・・・・・・」
〇皇后の御殿
玉兎「麗華さん、ただいま戻りました! 徳妃さまはお元気そうでしたよ」
麗華「そう、それなら良かったわ。ご苦労さま」
玉兎「玉兎の仕事はほかにありますか? 最近は影武者をしていないので、感覚が鈍りそうです・・・」
徳妃の一件で目立ちすぎるほどに目立ってしまった玉兎。
しばらく影武者を休むことになったのである。
麗華「これから淑妃さまがいらっしゃるの。 あなたは侍女としての仕事をなさいとのご命令よ」
玉兎「本当ですかっ! 修行・侍女編の成果をお見せする時がついにきましたね!!」
麗華「肩の力を抜いて。あなたが張り切っていると、不安になるのよ」
玉兎「・・・はあい」
〇皇后の御殿
淑妃「娘娘にお目にかかります」
皇后「楽にしてちょうだい。麗華、淑妃にお茶を出しなさい。玉兎は侍女たちへ」
麗華「かしこまりました」
玉兎「はいっ! 子蘭さん、こちらでお会いするのは初めてですねー!」
子蘭「ありがとう、玉兎さん。 すっかり侍女が板についているじゃない」
玉兎「えへへっ! それほどでもーっ!」
麗華「真に受けるんじゃないわよ、玉兎」
淑妃「今日は娘娘に贈り物を差し上げたくてお訪ねしたのです。受け取っていただけますか?」
皇后「あら、何をくれるの?」
淑妃「ささやかなものですが、簪を。 娘娘がいつまでも健やかであらせられるよう、魔除けの水晶で作らせました」
皇后「まあ、それは嬉しいわ。ありがとう、淑妃」
麗華「とても見事な細工ですね。 娘娘にお似合いの意匠ですわ」
皇后「麗華、挿してくれる?」
淑妃「──娘娘、よろしければ私が」
皇后「あなたに侍女の真似事はさせられないわ」
淑妃「私がやりたいのです。 姉と慕う娘娘に似合うよう、細工師が怒り出すまで口出ししたのですから」
皇后「いつも冷静なあなたが、それほど? ふふっ、珍しいこともあるものね」
淑妃「私としても、近頃の後宮の雰囲気には辟易しているのです」
淑妃「口さがない者たちを黙らせるためにも、娘娘にはお美しくいてほしいのですよ」
皇后「身綺麗に着飾って、みなを導けということね。本当にあなたって、優しいようでいて厳しいわ」
淑妃「娘娘は後宮の模範となるべきお人ですから。御髪に触れても構いませんか?」
皇后「これ以上「皇后の道」を説かれてはたまらないもの、構わないわ」
淑妃が優雅に立ち上がり、皇后の背後へ回る。
玉兎「お二人が並ぶと、まるで一枚の絵のようですね!」
子蘭「ええ、本当ね」
淑妃が手にした簪を、娘娘の髪へ挿そうとした瞬間──
玉兎「・・・!?」
玉兎(何でしょう、今のは・・・殺気?)
子蘭「・・・・・・」
しかしすぐに淑妃は娘娘のもとを離れ、鏡を手にした麗華が進み出た。
麗華「とてもお美しゅうございます、娘娘」
皇后「本当ね。 ありがとう、淑妃。気に入ったわ」
淑妃「もったいないお言葉です」
〇皇后の御殿
淑妃と子蘭たちが帰った後。
皇后「玉兎、淑妃がいた間に何か気が付いたことはある?」
玉兎「はいっ! 淑妃さまはとても良い方ですね! 娘娘を気遣って、魔除けの簪を贈ってくださるなんて!」
皇后「はぁ・・・頼りにならない子ね」
小宝「そういえば、玉兎は淑妃さまの侍女と知り合いだったのか? 何やら言葉を交わしていたじゃないか」
玉兎「あ、はい! 友達を通じてお会いしたことがあるんです。子蘭さんも同じ時期に後宮に入った方ですよ!」
皇后「・・・あの侍女が?」
玉兎「はい! 淑妃さま付きになるなんて、きっととても優秀な方なのだと思います!」
皇后「それに引き換え、わたくしには玉兎だものね・・・」
〇皇后の御殿
小宝「皇帝陛下のお渡りにございます」
寒月「娘娘にお目にかかります、寒月です」
皇后「あら、陛下はお忙しいの?」
寒月「それもありますが、後宮の情報収集を命じられたのです。何か変わったことはありましたか?」
皇后「そうね、今日は珍しく淑妃がご機嫌うかがいに来たわ。贈り物まで持ってね」
寒月「なるほど」
皇后「それ以外のことで言えば・・・麗華や玉兎のほうが知っているでしょう」
麗華「それは・・・」
玉兎「何のことですか?」
寒月「娘娘について、後宮内でおかしな噂話が流布しているらしいな」
麗華「・・・下位の妃嬪や宮女が、幽鬼に怯えています」
玉兎「それなら玉兎も聞きました。徳妃さまが襲われたのは娘娘のせいだなんて言ってたんですよー!」
小宝「これっ、玉兎! どうしてそうあからさまに言うのだ!!」
玉兎「ええっ!?」
皇后「構わないわ。朝廷のほうはどうなの?」
寒月「似たようなものです。尹宰相が陛下に直接仰ったせいで、余計に娘娘を非難する声が高まっています」
皇后「あの方の諫言(かんげん)で、臆病な連中もさぞ元気づけられたのでしょうね。まったく・・・」
寒月「しかしそれだけでは後宮で噂話が広がる理由にはなりません」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)