第九話『後宮の怪談(二)』(脚本)
〇皇后の御殿
旧太子妃宮での騒動から、数日後──
玉兎が使いから戻ると、何やら大勢の人が出入りしている。
徳妃「さあ、早く運び入れなさい!」
玉兎「な、何の騒ぎですか?」
皇后「あら、玉兎。いいところに来たわね。 金糸、ちょっといらっしゃい!」
徳妃「あら──あなたは!」
玉兎「は、はいっ! 玉兎ですっ!!」
徳妃「あなたはあたくしの命の恩人でしてよ。 さあ、この絹と玉を取りなさい!!」
玉兎「はえっ・・・!? 娘娘、これは・・・」
皇后「受け取りなさい。おまえはその褒美に相応しい働きをしたのだもの」
玉兎「で、では・・・ありがたく頂戴します。 徳妃さま、あれからお体の調子はいかがですか?」
徳妃「おかげ様で絶好調ですのよ。なんだか肌艶まで良くなったような気がしますの! おーっほっほっほ!」
あの夜──
〇皇后の御殿
玉兎「──御免!!」
玉兎の剣指が閃き、素早く徳妃の胸を突いた。
瞬間。
徳妃「っ・・・はぁあっ!」
医官「い、息が戻った! すぐに医局へ運ぶぞ!」
〇皇后の御殿
玉兎(幸い、後遺症も残らなかったようですね。きっと点穴を受けていた時間も短かったはずです)
徳妃「娘娘、ありがとうございました。あたくし・・・今までは娘娘に嫌われていると思っておりましたの」
玉兎(嫌っていたのは徳妃さまのほうでは・・・!?)
皇后「へえ? それで?」
徳妃「あたくしにも悪いところはありましたけれど・・・とにかく!」
徳妃「今までのわだかまりを捨てて、仲良くしていただきたいのですわ」
皇后「ふふっ! もちろん構わなくてよ」
麗華「・・・やるじゃない、玉兎。 徳妃さまが娘娘の味方になったわ」
玉兎「そ、そういうものなのですか?」
麗華「命を助けるなんて、これほど大きな貸しはないもの。あなたの手柄ね」
玉兎「なるほど、徳妃さまは娘娘の舎弟となられたのですね」
皇后「玉兎、これから少し金糸に話を聞くわ。 おまえも同席なさい」
玉兎「はいーっ、今まいります!」
〇皇后の御殿
皇后「まず金糸、あなたはどうして真夜中にあの場所にいたの?」
徳妃「それは・・・娘娘、誓って言いますけれど、今のあたくしは娘娘に悪意など持っていませんわよ?」
皇后「いいからおっしゃい」
徳妃「・・・娘娘の侍女が旧太子妃宮で肝試しに参加すると聞きましたの」
徳妃「ちょっぴり驚かせてやろうと思って、殿舎の中に隠れていたのですわ」
玉兎「・・・玉兎を驚かすつもりだったのですか?」
徳妃「娘娘に直接手だしするわけにもいきませんもの。なのにあなたったら、目にも止まらぬ速さで走っていってしまって・・・」
玉兎「肝試しは初めてだったもので、てっきり速さを競うものかと思っていたのです!」
徳妃「嫌がらせができなかったじゃありませんの!」
皇后「・・・金糸、話を続けなさい」
徳妃「とにかく、玉兎が行ってしまっては仕方がありませんわ」
徳妃「あそこは不気味ですし、あたくしもすぐに帰ろうとしましたの。その矢先に物音がして、振り向いたら──」
皇后「襲われた、と?」
徳妃「ええ・・・今思い出しても、恐ろしくてたまりません」
皇后「襲ってきた者の顔は見なかったのですか?」
徳妃「暗くて顔は見えませんでしたわ。 でも、女人だったはずよ。白くて細い手が見えましたの」
皇后「玉兎、肝試しの参加者に怪しいものはいないの?」
玉兎「その時は雨琳さんの番でしたが、雨琳さんに武術の心得はありません」
玉兎「雨琳さんが最後でしたので、肝試しの他の参加者は全員玉兎と一緒にいました」
皇后「では、殿舎の中には他の誰かがいたのね」
徳妃「ま、まさか・・・太子妃さまの幽鬼が?」
玉兎「あっ、それはあり得ますね!」
徳妃「月蝕も近いことですし・・・ぶ、不気味ですわ。あたくし、呪われていたりしませんわよね!?」
皇后「はぁ・・・わかったわ。祈祷の手配をしましょう。あなたはしばらく静養なさい」
徳妃「い、いいのですか・・・?」
皇后「構わないわ。大変な目に遭ったのだもの。それに、わたくしと金糸は仲良くするのでしょう?」
徳妃「え、ええ・・・! 娘娘のご厚情に感謝いたしますわ! あ、ありがとうございます・・・!」
〇皇后の御殿
徳妃が帰っていった後。
麗華「大変な怯えようでしたね」
皇后「威張ってはいても、金糸は箱入りですもの。死ぬような目にあって怖かったに違いないわ」
麗華「・・・贈り物の手配は万全だったようですけれど」
玉兎「これ・・・全部、徳妃さまが?」
麗華「あとで整理しなければならないわね」
皇后「玉兎、あの晩おまえは何も異変を感じなかったの?」
玉兎「はい。ですが玉兎は全力で肝試しをしていたため、人の気配に気が付けなかった可能性はあります」
皇后「下手人は、金糸を殺すつもりだったと思う?」
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