第八話『後宮の怪談(一)』(脚本)
〇後宮の廊下
今日は午後から仕事を免除された、貴重な日である。
雨琳を訪ねようと歩いていると、彼女の方からやってきた。
雨琳「玉兎ちゃん~~~~!!」
玉兎「雨琳さん! 今日も元気ですね!!」
雨琳「げ、元気じゃないよぉ・・・! 大変なことになっちゃって・・・うぅっ」
玉兎「あのう、何の話ですか?」
雨琳「き、き、肝試しに玉兎ちゃんを連れてこいって・・・先輩にぃいいぃ・・・」
玉兎「先輩って、尚服局のですか?」
雨琳「そうなの・・・絶対に、連れてこいって・・・い、いじめるつもりだよぉ!」
玉兎「なら行かなければいいのでは!」
雨琳「・・・こ、断れないよぉ」
玉兎「わかりました。玉兎も友達が困っているのは見過ごせません!」
雨琳「い、いいの・・・? 本当ね?」
玉兎「はいっ! ・・・ところで、肝試しってなんですか?」
〇御殿の廊下
先輩宮女・一「久しぶりね、玉兎・・・さん」
先輩宮女・二「娘娘のところで侍女をしてるそうじゃない、玉兎・・・さん」
玉兎「はいっ! おかげさまで何とか頑張っています!」
先輩宮女・一「今夜は肝試しよ」
先輩宮女・一「一人ずつ殿舎の周りを歩いてから、最後に裏手の祠堂に置かれたお札を持って帰ってくるの。順番はくじ引きで決めるわ」
玉兎「わかりました!」
くじ引きの結果、玉兎は最後から二番目に、雨琳は最後になった。
玉兎「雨琳さん、さっきからどうして震えているのですか?」
雨琳「だ、だって・・・幽鬼と先輩、どっちが襲ってくるのか・・・両方来るかもしれないしっ」
玉兎「その時は返り討ちにすればよいかと!」
雨琳「玉兎ちゃんしかできないと思う・・・!!」
玉兎「あっ、先輩が戻ってきました。 それでは行ってまいります!」
雨琳「い、行かないでよぉ~!」
〇御殿の廊下
玉兎「ただいま戻りました! 残念なことに幽鬼には会えませんでしたよーっ!!」
先輩宮女・一「・・・いくらなんでも早すぎない?」
玉兎「玉兎、一番ですか!?」
先輩宮女・二「速さは競ってないわよ!! それより証拠は?」
玉兎「あっ、はい! このお札ですよね?」
先輩宮女・一「え、ええ、間違いないわ」
玉兎「きっと雨琳さんもすぐに戻ってきますね!」
先輩宮女・一「・・・あなたの速さは異常よ」
しかし──雨琳が戻ってくる気配は一向にないまま、夜は更けてゆく。
先輩宮女・二「ねぇ、いくらなんでも遅すぎない・・・?」
先輩宮女・一「そ、そうよね・・・」
玉兎「何かあったのでしょうか?」
玉兎(雨琳さんは怖がりですが、それにしても遅すぎます・・・まさか)
〇後宮の廊下
雨琳「そうなの・・・絶対に、連れてこいって・・・い、いじめるつもりだよ・・・!」
〇御殿の廊下
玉兎「先輩、雨琳さんに何かしたのですかっ!?」
先輩宮女・二「な、何もしてないわよ!!」
玉兎「でも、雨琳さんを脅して玉兎を呼んだのですよね?」
先輩宮女・一「た、確かに呼ぶように頼んだけど・・・脅してなんかないわ!」
先輩宮女・二「そ、そうよ! 私たち、あなたと仲直りをしようと思って、一緒に楽しむために肝試しに誘ったのよ?」
玉兎「・・・はい?」
先輩宮女・一「だってあなたは娘娘の侍女になったし、遺恨を残したくなかったの!」
先輩宮女・二「この後みんなでこっそり酒盛りをする準備だってしてたんだからっ」
玉兎「では──幽鬼が出たのかもしれません」
玉兎が真剣な面持ちでそう言った時──
きゃあぁああぁあっ!
夜闇に響き渡る甲高い悲鳴に、宮女たちは青褪めた。
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嫌がらせのための肝試しかと当然思っていたら……お、おぉ……平和(?)で良かったです。