後宮!功夫娘娘物語

秋山ヨウ

第七話『妃たちの午後』(脚本)

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秋山ヨウ

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〇皇后の御殿
  影武者修行が始まってしばらく。
  麗華による侍女修行も並行して行われていたのだが──
皇后「いつになったら玉兎は使い物になるのかしら。ねえ、麗華」
麗華「この調子では、来世でも玉兎が娘娘になるのは難しいかと」
皇后「──それは、おまえの力不足よね?」
麗華「・・・っ」
玉兎「ち、違うんです! ひとえに玉兎が未熟なせいで・・・!」
麗華「・・・いいえ。娘娘のおっしゃる通りです」
皇后「わかっているのならいいのよ。ところで、今日は予定があったかしら」
麗華「淑妃さまのお招きでお茶会がございます。徳妃さまもいらっしゃるとのことです」
皇后「玉兎。わたくしの代わりに出席なさい」
玉兎「え・・・いいのですか?」
皇后「行きなさい、と言っているのよ。おまえの場合、体に教えるのが一番でしょう」
玉兎「わ、わかりました! が、頑張りますっ!」
皇后「招きに応じる時は、常に麗華がそばにいるわ。多少の問題なら、麗華が助けるでしょう」
麗華「はい。しっかり役目を果たします」
玉兎(玉兎のせいで、麗華さんまでお叱りを受けてしまいました・・・絶対に、失敗できません)

〇後宮の庭
  淑妃の名は尹梅花(いんばいか)、皇后より一つ年上の二十歳。
  皇帝と対立している尹宰相を父に持つことから、皇后とはさほど親しい仲ではないらしい。
玉兎(ですが、子蘭さんは淑妃さまを優しい方だと言っていましたし、意地悪されることはないはずですよね)
  控えめながら趣味の良さがうかがえる装いの女人──淑妃が、皇后に扮した玉兎の前で礼を取る。
淑妃「娘娘にお目にかかります。本日は招待に応じていただき、感謝いたします」
淑妃「心ばかりのもてなしですが、楽しんでいただければ幸いです」
玉兎「あなたはいつも他人行儀ね。身内の集まりなのだから、もっと気楽になさいな」
淑妃「これが私の性分ですから。 さあ、おかけになってください」
徳妃「淑妃さまは堅苦しいのですわ! あたくしを見習って、誰もに愛される妃嬪であるよう心掛けたほうがよろしくてよ!」
淑妃「だからといって、無礼は許されませんよ。陛下があり、娘娘があり、その下に私たちがあるのですから」
徳妃「無礼といえば、あたくし、娘娘に申し上げたいことがありますわ」
玉兎「あら、何かしら?」
徳妃「近頃、下位の妃嬪たちの礼儀がなっていない、ということですわ!」
玉兎(じ、自分のことは完全に棚に上げてます・・・! さすが徳妃さま!)
  玉兎はかえって感動してしまったが、淑妃は柳眉を寄せ、ため息を吐いた。
淑妃「徳妃、少しは自分をかえりみたらどうですか。礼儀を守るべきは誰なのか、本当にわからないのですか?」
徳妃「娘娘をお諫めするのは、四夫人の責務ですわ。あたくし、時には礼儀よりも道義が大切だと思いますの」
玉兎「では金糸、わたくしはどのように振舞うべきなのかしら?」
徳妃「古い時代の皇后娘娘は、自分に従わない妃嬪たちをみな厳しく罰したと言いますわ」
徳妃「娘娘はもっと威厳ある振舞いをなさらねば!」
玉兎「待ちなさい、その理屈で言えば・・・真っ先にあなたを八つ裂きにしなくては!!」
徳妃「八つ裂き!?」
淑妃「確かに、歴史にはそのような刑罰もありますね。後宮の序列を守らぬということは、陛下を侮辱していることと同じですから」
徳妃「ど、どうしてあたくしが・・・っ」
玉兎「それが江湖のやり方よ。あなたも上に立ちたいというのなら、武を示しなさい」
徳妃「・・・え?」
淑妃「娘娘・・・? なんだか今日は、いつもと雰囲気が違いますね」
玉兎「はっ・・・」
玉兎(や、やってしまいました!!)
淑妃「もしかして、お体の調子がすぐれないのですか? 失礼ながら、お化粧もいつもより・・・」
玉兎「そ、そんなことはないわ。気分を変えてみたかっただけよ。あなたたちと集まるのも久しぶりだもの」
徳妃「あら、この前もお話したばかりでしょう?」
玉兎「はうあー・・・っ!」
淑妃「娘娘、今なんと・・・?」
玉兎(どどどどうしましょう!? お、落ち着かなくては・・・!!)
玉兎(落ち着いて、ええと・・・!!)
  玉兎が慌てていると、華やかな庭園に先触れの宦官がやってきた。
宦官「皇帝陛下のお渡りである!」
  その一言に、妃たちは腰を浮かせる。
徳妃「な・・・なんですって!?」
淑妃「落ち着きなさい。みんな、早く陛下のお席を設けるのです」
玉兎「え、え・・・?」
  妃や侍女たちが慌てふためく中、その人は悠々とした足取りでやってきた。
寒月「かしこまらずともよい。気まぐれに歩いていたら、そなたたちの話し声が聞こえてな」
玉兎(こ、これは寒月さんですーっ!! まさか玉兎の仕事ぶりを見に来たのですか!?)
寒月「さて、朕は・・・」
淑妃「陛下もぜひ同席なさってくださいませ。娘娘と徳妃と、お茶を楽しんでいたところです」
徳妃「陛下っ、陛下っ! ぜひこちらにお座りになって! あたくしの隣、空いておりますわ!!」
淑妃「徳妃・・・」
寒月「いいや、朕は──皇后の隣へ」
玉兎「ど、どどっ、どうぞ・・・!」
徳妃「・・・ちっ」
淑妃「はしたないですよ、徳妃。陛下が娘娘の隣へ座るのは当然でしょう」
徳妃「ふんっ! いいわ、それならせっかく陛下がいらしたことだし、なにか楽しい遊びをしませんこと?」
寒月「ほう? 何かおもしろい考えが?」
徳妃「ええ! あたくし、つい最近珍しい茶葉をたくさん手に入れましたの」
徳妃「ですから、闘茶(とうちゃ)などいかがでしょう!」
寒月「茶で・・・闘う・・・!?」
寒月「・・・利き茶だな。いいだろう」
淑妃「ですが、徳妃はすべての銘柄をご存知なのではありませんか? この闘茶、公平ではありませんね」
徳妃「おーっほっほっほ! あたくし、数えきれないほどの茶葉を買いましたのよ?」
徳妃「この頭脳でも記憶できないほどですの!」
淑妃「自慢をされても、公平性が担保されるわけではありませんよ・・・?」
寒月「では、勝敗のつけ方は朕が決めよう。 茶の銘柄を当てるのではなく、希少価値を当てるのだ」
徳妃「名案ですわ、陛下! それでは希少価値の高いと思ったものを、右から順に並べましょう」
徳妃「答え合わせをするときは、茶を買い付けたあたくしの侍女に聞きますわ。もちろん、不正はしないと誓いますことよ」
寒月「ああ、徳妃がそのようなことをしないことはわかって──」
徳妃「ちなみに! あたくし、買い物をするときに値段を見たことがありませんの!」
徳妃「正解を知りようがないということを、覚えておいてくださいませね」

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