第16話 帰路に着いたら宴を開いて(前編)(脚本)
〇桜並木
真樹「皆無事に着いたね、疲れてるだろうけど歩けるかな?」
想里愛「そうですね、早くお薬買って妹さんに飲んでもらわないと!」
夜桜が舞い散り、花びらが彼女達の髪を優しく撫でる。
素敵な景色と絵面だが、今は妹さんの元へ駆け付けないといけない。
道を下る中、姉が自己紹介してくれた。
愛凛「私はアイリだよ。 前まで街の宿屋で働いてたんだ。」
愛凛「もうたくさん金を稼ぐ必要はないからアリスを助けたら、また宿屋で働こうと思ってるんだ。」
どうやら妹さんの名前は愛理守(ありす)と言うそうだ。
咲桜里「お兄ちゃん、今度街の宿屋にサオリ・・・皆で泊まりに行こっ?」
後ろから強烈な情念が伝わってくる。
皆で泊まりに行った方が良いに違いない。(震え声)
真樹「そうだね!皆で楽しまないとね!」
翠「ボクもそう思ってた!」
話をしている間にソリアの家に着く。
サオリが絵を取りに行っている間に、包丁や装備の鍋など不要な物を置いていく事にした。
咲桜里「ただいま~!持ってきたよ、行こ!」
〇森の中
アイリが言うように街が近いようだ。
山道を走破して遠くに街の灯りが微かに見える。
電灯は無いはずだから・・・火か魔法の光なのだろうか?
想里愛「あたしが街に遊びに行ってた頃は、夜は火をくべてたのですが・・・ あの灯りは一定に輝いてて魔法で光っている気がします!」
おお、異世界らしくなってきたぞ!
魔導書とか買ってみたいな!
そしてアイリを先頭にして街並みの中へ入っていく。
山の中より少し暖かい気がする。
これも魔法なのだろうか?
〇ヨーロッパの街並み
咲桜里「アイリちゃん、薬屋さんはどっちにあるの~?」
愛凛「このまま道なりに進んで左側にあるよ。 でもその前に・・・貴石屋に行かないと。」
想里愛「飲食店が増えて人が多くなってます♪」
翠「にぎやかでいい感じだね♪」
街の中心に向かって歩いていく。
5分程歩くとすぐ右側に貴石屋があり店に入る。
〇宝石店
光「いらっしゃいませ、そちらの品を売却なされるのですか?」
落ち着いた雰囲気の女性が対応してくれる。
まだ若そうなのに1人でお店を経営しているようだ。
店主さんの名前はヒカリさんだ。
客席に案内され、人数分の飲み物を出してくれた。
林檎の果実に漬けた水を出しているそうだ。
咲桜里「はい!この絵を買い取ってください!」
サオリが絵画を見せて、金額を査定してもらう。
光「初めて見る材料を使っていますね・・・。 母の手伝いで子供の頃から絵は見ていますが」
光「異国の品でもこれほど輝く石は見た事がありません・・・。 絵自体も初めて見る手法ですね・・・。」
光「これが市場に出れば相当な金額になりますよ。」
高い評価を頂いている。
しかし石の価値が未知である為、査定額で迷っているようだ。
アイリが落ち着かない様子だ、もどかしいのだろう。
「もう! 早く決めてくれないと他のお店に売っちゃうよ!」
サオリとリノアが催促すると、店主さんは焦った表情で慌てだす。
光「わかりました!こちらの金額でいかがですか!?」
〇宝石店
「ひゃ、百ウッズ!!??」
「ひゃ、百ウッズ!!??」
紙に書いてある金額に全員が驚いている。
価値がわからないので聞くと、金の単位にはスプリング(京)・フォレスト(兆)・ウッズ(億)・グローブ(万)・ツリー(円)
と右から左に上昇、この街の貨幣価値は現在の日本に近いそうだ。
スプリングの少し上の単位は季節の読み方で続いているらしい。
光「間違いなく世界に1つしかない品ですので、都市のオークションにかければもっと高額になると思いますが・・・。」
光「私の店ではこの金額が限界です。 いかがなさいますか?」
咲桜里「時間がないし、売っちゃおう! みんな良いよね?」
サオリが皆に確認する。
これだけ高額なら文句の出ようが無い。
さっそく売却する。
光「現金が足りない分は、こちらの現物で支払わせてもらえませんか?」
1ウッズ現金が足りないそうで、その分は店の品物を頂ける事になった。
光「母がオークションで仕入れた品がありますので、奥の部屋に来てください。」
〇屋敷の書斎
部屋に案内される。
一際目立つのは壁一面に広がる大きな1枚の絵だ。
月の表面と箒に乗った魔族と思われる人が描かれている。
想里愛「素敵な絵ですね、お母さんはこの絵を仕入れたのですか?」
光「その絵は母が描きました。 本当かはわかりませんが金策の為に山に採集に出掛けた際にモンスターに襲われたのですが、」
光「精霊に助けられてから魔術に興味を持ち魔法で月まで行って描いたと聞いています。」
咲桜里「お兄ちゃん、本当に魔族はいるのかな?」
真樹「うーんどうなんだろう・・・。」
咲桜里「リノアちゃん、サオリ以外もたくさん助けていてえらいね♪」
サオリとソリアになでなでされている。
ミドリとアイリと僕も一緒になでなでし始める。
その間にヒカリさんが窓際に置いてある大きい道具箱を取ってきて中身を開ける。
鮮やかな装飾品や衣服が収納してある。
光「現物の品です、母が魔族から頂いたと聞いています。」
道具箱は5箱もあり、しかも中身はそれぞれ違うそうだ。
その中のひとつを開けると上下の衣服や帽子に箒・・・まるで大きな絵の魔族のセットのようだ。
里乃愛「まるで魔法少女のセットみたいだね♪」
みんなそう思っていたようで頷く。
お金と現物を受け取ったので足早に店を出て薬屋に向かう。
翠「あの建物かな?」
〇薬局の店内
ミドリが指差した先にそれっぽい店がある。
まだお店は開いているようだ・・・良かった。
店頭の看板には大きく「森の薬屋さん」と書かれている。
店内に入ると広くて客が多い。
繁盛しているのだろう。
中から小柄な可愛らしい店員さんがやってくる。
店の正装なのだろうが、まるでメイドさんのようだ。
真樹「こんばんわ、万能薬を売って頂けますか?」
紗癒璃「はい、1つでよろしいですか? 30グローブになります!」
けっこうな金額だが僕らには大金がある。1つで治るか心配だし僕達の冒険の分も考えて10個程買ったほうが良いだろう。
真樹「10個ください。」
紗癒璃「はい、ありがとうございます!」
店内には薬だけでなく、おいしそうな弁当や天然水も売っていた。
一度薬を届けて帰りに買いに戻る事にしよう。
想里愛「お店の店員さん可愛かったですね。」
咲桜里「名前は紗癒璃さゆりちゃんって言うんだね、サオリの次に可愛かったかな!」
翠「ボクもボクの次にかわいいと思ってた~。」
里乃愛「薬も買えたし、妹さんのおうちまで向かおっ!」
〇寂れた旅館
リノアちゃんがみんなに声をかけアイリがまた先導して妹のいる宿屋まで足を速める。
街の中心を通り過ぎて少し人通りが静かになった辺りで道の突きあたりにその宿屋はあった。
木造の3階建てで庭には綺麗な花や作物が植えてある。
花は詳しくないが今度何の花か教えてもらいたいところだ。
愛凛「ただいま!」
すぐに3階の奥の部屋まで向かっていく。中には汗をかいて寝込んでいる少女がいる。
この子がアリスちゃんだ。
早く薬を飲ませてあげないと!
〇部屋のベッド
愛理守「お姉ちゃん・・・あたしもうダメなのかな・・・?」
弱り切っているようだがもう安心だ。
アイリがコップに万能薬を注いでアリスちゃんに飲ませていく。
しばらくアイリが汗を拭いておでこの布を交換していたが、アリスちゃんはすぐに呼吸が落ち着きスヤスヤと眠り始めた。
効果は抜群のようだ、もう大丈夫だろう。
愛凛「良かった・・・みんなありがとう!宿屋で貯金貯めたらお金返すね!」
真樹「うーん、お金はもう十分あるし・・・ アリスちゃんと美味しい料理食べに行ったらいいんじゃないかな?」
想里愛「そうですよ、体調が回復したら姉妹で行ってくると良いと思います♪」
皆うんうんと頷いている。
宿屋には食堂があり夕食を取ろうか話した。
食事を食堂で済ませてお家でお菓子やデザートを食べて宴を開く事で話はまとまった。
アイリは今日はアリスのそばで過ごすそうだ。
妹想いで良い子だなぁ。
〇おしゃれな食堂
翠「どんな料理があるのかな?♪」
「早くお店いこ~っ!」
皆楽しそうだが特にリノアちゃんが楽しみにしているようだ。
これまでの生活で良いものを食べれていなかったのだろう。
一番高い料理をおすすめしてあげないとな。
庭で取れた食材も使っているそうだ。
無農薬でとても美味しいに違いない。
みんな料理を選び終わり食材が運ばれてくる。
真樹「僕は森の奥に居る野牛のステーキと庭で取れたネギや芋も入った、具沢山の豚汁とサラダだよ♪」
想里愛「あたしは清流上流から穫れた春魚と森の奥に実る林檎のホットパイと森の奥に住む霊鳥の鶏油のスープと霊鳥の親子丼です♪」
咲桜里「サオリは野牛のカルビや旬の野菜の鍋と栗ご飯にワカメとお芋の味噌汁だよ♪」
翠「ボクのは山蟹の料理と山蟹の出汁の野菜鍋と山栗と野牛の肉じゃがだよ♪」
里乃愛「私はサオリちゃんと同じ料理だよ♪」
落ち着いた雰囲気の空間でダンジョンの疲れが美味しい料理と共に癒される。
豊富なメニューが揃っていてとても良い食堂だ。
定期的にみんなで食べに行きたい。
5人で仲良く一口ずつ食べあいっこもして夕食を食べ終わる。
すっかり暗くなったが5人もいるし安全に帰れるだろう。
〇飲み屋街
想里愛「夜の街も賑やかで楽しいですね♪」
咲桜里「いろんなお店ある~♪」
帰り道に木の家具屋さんに寄ったりして時間を過ごした。
自然に囲まれている気分で落ち着く。
薬屋さんにも寄って明日の朝食用に山栗のごはんや天然水も買っておいた。
翠「もう夜が遅いし、帰ろうよっ」
里乃愛「私もそう思う。 夜は視界が利かなくて危ないからねっ」
ミドリやリノアちゃんの言う通りだ。
僕達はゆっくりと家に向かって帰路に着くのだった。