猫撫村ノ神隠シ事件の真相(脚本)
〇けもの道
雨は嫌いだ
怖いし、それに
一人ぼっちであることを、感じさせるから
〇畳敷きの大広間
お館様「いよいよ明日だな」
侍女「はい」
侍女「お館様には、ここまで育てていただき感謝しております」
爺「猫撫村の百年祭に選ばれることを、光栄に思いなさい」
爺「身寄りのない異国からきたお前を、巫女にまで登用し」
爺「ここまで育てたのはお館様の温情があってこそ」
爺「その恩を返す時が来たのです」
お館様「もういい!」
お館様「爺や、本日は前夜祭だ。舶来酒と肴を皆に振る舞う様手配をしてくれ」
爺「仰せのままに」
お館様「お前も最後の夜だ。楽にして過ごしてくれ」
侍女「はい」
〇祈祷場
猫撫村には、鬼神を祀る神社がある
伝承では、鬼神がこの社に住まう限り五穀豊穣を約束すると言うものだが・・・
今年で竣工から百年目・・・
鬼神と社の建替を約束した年でもある
侍女「ここに来るのもおしまいかぁ・・・」
侍女「いつも二人で話をしに来たっけ」
侍女「ははっ」
侍女「お館様と一緒にまたお話ししたかったなぁ・・・」
〇祈祷場
お館様「お前、いつもその装束なのか?」
年に1回の豊穣祭。
領主と巫女だけで行われる、定型的な祝詞と供物を読み上げる儀式。
これを1日かけて行うけど、大体は夕方頃に終わってしまう。
侍女「はい、儀式の時はこれと決められているので」
お館様「変なやつだ、誰もみてはいないのに」
お館様「西洋では「まふらぁ」と言うものらしい」
侍女「お館様、いけません。私になんか・・・」
お館様「いいんだ、それより」
お館様「一通りすんだら、また異国の話を聞かせてくれ」
侍女「はい」
巫女である私が、唯一自分を語れる時間
それが、豊穣祭の後の親方様との茶話会
お館様「なんと!毛のなき猫が世の中にいるのか?」
侍女「すふぃんくす と言う猫です!」
侍女「仏蘭西と言う国でみた時があります!それでね、それでね!」
侍女「あっ、すみません。お館様に向かって」
お館様「はっはっは、いいんだよ」
お館様の笑顔は、いつも私を救ってくれた
〇古びた神社
お館様「今年の豊穣祭は雨か」
侍女「それでは、豊穣祭を始めます」
お館様「手短になっ」
お館様「儀式の後、お前の話が聞きたいんだ」
お館様「世の中には、自分が知らないことだらけと言うことに気付かされる!」
お館様「それと豊穣祭の時は、敬語はナシだ!」
侍女「あっ、ありがとう・・・ございます」
お館様「あっはっは!まだまだだなぁ」
この日は 「蘇」が異国だと ちぃず と呼ばれていることをお話ししたっけ。
〇森の中
侍女「お館様、豊穣祭が終わったからといって外に出てはなりません」
お館様「いいんだ!歩いて話したくてな」
お館様「お前と話すのは、なぜか心が穏やかになる」
お館様「本当に不思議なんだ」
侍女「わ、私もです」
お館様「なんと、お前もかぁ 奇遇だなぁ!」
この日は、父が好きだった「ぶらんでぃ」と言う異国のお酒の話と、自分の生い立ちの話をした
〇霧の立ち込める森
侍女「お館様、こわいよぉ」
お館様「お前怖がりだったのか」
侍女「ひっ」
お館様「俺だよ」
侍女「お館様のバカー」
お館様「手を繋いで帰るぞ」
侍女「え、は、はい」
確か、これは二年前の豊穣祭の帰り道。
手が暖かかったことしか覚えてない。
この日常が、永遠に続けばいいな・・・
〇古びた神社
去年の豊穣祭だったかな・・・
お館様「来年が、鬼神と約束した百年だ」
それが何を意味しているのか、私は知っている。
お館様「鬼神と関わりの深い、お前が選ばれるだろう」
侍女「それが、村人やお館様のためになるなら」
お館様「そうか」
お館様「お前は本当に優しいのだな」
お館様「だからか・・・」
お館様「いつも自分の「世界」の狭さに気付かされる」
この日は、何を話したのかはあまり覚えてない。
お館様と最後に気兼ねなく話せる機会だと言うのに。
〇血しぶき
人柱
建築物、堤防工事などの完成を祈って捧げる生贄のこと
「正確」な伝承では、鬼神は百年に一度
社の建替と、その「人柱」となる生贄を捧げることによって、村の安寧を約束したという・・・
〇祈祷場
侍女「あっ・・・」
豊穣祭の時の夢をみながら、寝てしまった
侍女「馬鹿だな、もう決められている運命なのに・・・」
侍女「でも──」
侍女「あの人に会って、もう一度お話ししたかった」
お館様「お、やはりここか」
侍女「おっ、お館様?」
鍵をかけていたのだが、無理やりこじ開けて入ってきたらしい
侍女「前夜祭は?」
お館様「お前が教えてくれ舶来酒の 「ぶらんでぃ」 が、思ったより強い酒で」
お館様「みんな酔っ払って寝てるよ」
お館様「ほらっ これ!」
侍女「っ!」
「もう泣かない」と決めていたけど、早速自分との約束を破ってしまった。
お館様「さらに!念の為」
お館様「睡眠薬も少し入れておいた!」
侍女「ええええっ!?」
お館様「領主からの酒を断る者等いない!」
お館様「注いだらみんな素直に飲んでくれたよ!」
この笑顔に、いつも救われてきたんだっけ・・・
お館様「さて、ここからは真面目な話なのだが」
お館様「皆が起きるまで、そう長くはない」
お館様「だから、選んでほしい」
お館様「このままの未来か」
お館様「俺との未来かを」
侍女「それでは、お館様が・・・」
お館様「俺は、さっき綾に全てを委ねるということを決めてきた」
初めて名前で呼んでくれた
ああ、きっとこの人は本当に・・・
綾「私は・・・」
〇霧の立ち込める森
雨の降る山道
いつもは、怖くて一人ではおりれなかった
お館様「今雨だよ?傘さしてよ」
今は、この人がいるから全然怖くない
綾「もし、村の人に見つかったら──」
お館様「ただじゃすまいないだろうなぁ・・・」
お館様「その時は、一緒に死んであげるよ!あっはっは」
綾「そ、それも悪くないかもねっ!」
この人の笑顔に、弱いんだなぁ・・・私
街の灯りが少しずつ見えてくる
お館様「さぁ!新世界への幕開けといこうじゃないか!」
お館様「まずは、あそこで宴の続きだ!」
逃げた先で、二人が幸せに暮らしてほしいなぁ、と思えるようなラストでした!伝承の部分が結構リアリティがあって、面白かったです!素敵な作品ありがとうございます!
遅ればせながら、読ませていただきました!
親方様がイケメンすぎて眩しい...!!
侍女ちゃんの名前が変化する描写、個人的にお気に入りです♪
遅まきながら読ませて頂きました。
ちょっと怖いような、しかしドキドキもする、安堵も覚える、不思議な読後感に包まれております。
2人はこの後どうなったのか? 野暮だろうと思いつつ、続きがあれば読んでみたい気もします。