MAD・AGE

山本律磨

対決(1)(脚本)

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山本律磨

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〇城下町
瓦版屋聞多郎「さあ聞けみなの衆!高杉晋作が三田尻港を占拠したぞ!」
瓦版屋聞多郎「さあ戦慄せよみなの衆!維新志士が軍艦三隻を率いて海よりこの萩へ攻め込んで来るぞ!」
瓦版屋聞多郎「陸からは奇兵隊、遊撃隊、長州中の尊攘諸隊全てが合流。その数、千とも二千とも三千とも!」
  高杉の錦絵が描かれた瓦版に、むらがる町民達。
  赤ん坊を抱いた町民の女が不安げに呟く。
  『これから長州はどうなるんじゃろ』
瓦版屋聞多郎「どうもならん」
瓦版屋聞多郎「もっと幸せになるだけじゃ」
瓦版屋聞多郎「きっとこの子が大人になる頃にゃ、威張り散らす侍共は消えてなくなっちょるけえの」
  子供達が瓦版を掲げて騒ぎだす。
  『まおうたかすぎ!きょうじたかすぎ!』
瓦版屋聞多郎「今は違うぞ。維新提督高杉晋作じゃ」
瓦版屋聞多郎「でっかい花火を上げる維新のお祭りじゃ!」
  と、どこからともなく現れた芸奴幇間が、鐘や太鼓を鳴らして練り歩く。
  『男ならお槍かついでお中間となって、ついて行きたや下関』
  おうのは旅籠の二階からその様子をじっと眺めている。
おうの「おっしゃる通り・・・」

〇謁見の間
  毛利公の両脇に居並ぶ家老達が、苦渋と動揺を隠しもせずにうろたえている。
  『絵堂が落ちたじゃと?』
  『海からは高杉。陸からは奇兵隊とは』
  『備えを改めさせよ!萩を守るのじゃ』
  『そ、それよりも幕府に援軍を・・・援軍んんんん~!』
毛利の殿様「もうよい!」
毛利の殿様「これまでだ。大人しく高杉を、若者達を受け入れよ」
  『し、しかし・・・』
毛利の殿様「高杉を止められるのは余だけじゃ」
毛利の殿様「お前達の命乞いもまた余が行う。それでよかろう」
  ぴたりと反駁をやめる家老達。安堵の色さえ見える。ただ一人を除いて
椋梨家老「・・・」
毛利の殿様「椋梨。お前の・・・いや、我等の時代は終わったのやも知れぬ」
毛利の殿様「新たな世のための幕引き。共にその魁となろうではないか」
椋梨家老「そうなされませ」

〇戦地の陣営
  桶に張られた水がゆらめいている。
  剃刀を並べ剃髪の用意をしている俊輔。
俊輔「山県さん。僕もお供致します。四郎とは一言二言口をきいただけなれど・・・」
狂介「いらん。これは俺だけの供養だ」
狂介「それに坊主頭になったら女が寄ってこんぞ」
俊輔「し、失敬な」
俊輔「モテたくて志士をやっとるわけじゃありません」
俊輔「それに高杉さんなどは、むしろ剃髪してから男ぶりが上がったと町娘たちの噂で・・・」
狂介「モテたくてやっとるじゃないか」
俊輔「ははっ・・・それでは」
狂介「うむ・・・やってくれ」
  俊輔、剃刀を手に取ると狂介の髪にあてがう。
狂介「なむあみだぶつ・・・なむあみだぶつ・・・なむあみだぶつ・・・」

〇屋敷の牢屋
  囚われの武人、姿勢正しく瞑目する。
  格子の向こうで欠伸をする見張り。
武人「疲れたか?」
  『え?ああいえ、赤根総督』
武人「もう総督ではない」
武人「とはいえ、咎人になったつもりもないがね」
武人「だからしっかり見張っておくように」
  『す、すみません』
  懐から一枚の紙を出す武人。
  それは、自らの血がついた、主君より賜りし懐紙だった。
武人「なあ、すまんが筆を持ってきてもらえんか?」
  怪訝そうな見張りに笑って続ける武人。
武人「辞世の練習・・・なんてな」

〇屋敷の牢屋
  蝋燭一本の灯を頼りに、なにやら筆を走らせる武人
武人「風が寒いな・・・」
武人「村下の風は心地よかったな・・・」

〇古いアパートの居間
「本日より入門いたしました山県小介っちゅいます」
コスケ「よ、よろしゅうお願いします」
武人「僕は赤根タケトだ」
タケト「よろしく」

〇古いアパートの居間
  庭の木が赤く色づいている。
  起立して押し黙ったままのコスケ、そっと机上の本をめくろうとする。
松陰先生「いけません。暗唱しなさい」
松陰先生「間違ってもいいから」
コスケ「子のたまわく・・・人が・・・人の・・・ええと・・・好んで・・・人が・・・望んで・・・」
タケト「人の患は好んで人の師となるにあり」
コスケ「え?なに?」
タケト「馬鹿。聞き返すなって」
スギゾウ「赤根。助け舟とは卑怯ぞ」
タケト「ほら~面倒くさいヤツに見つかった~」
コスケ「ご、ごめん」
スギゾウ「誰が面倒臭いヤツだ!」
スギゾウ「先生、山県は昨日教わった事も今日には忘れよる。気合と集中が足らんのです」
スギゾウ「はっきり言って、学問にはむいちょらんです」
松陰先生「ふむ・・・」
コスケ「す、すいません。ワシ・・・」
松陰先生「はっ!」
松陰先生「いや、むしろ向いとる」
スギゾウ「は?」
松陰先生「なまじもの覚えの良い者はそれに驕り復習を怠る」
松陰先生「憶えられぬは何度も復習できるよい機会ではないか。なるほどなるほど。目から鱗だ」
松陰先生「さすがはスギゾウ。いい所に気付いた」
スギゾウ「ま、まあざっとこんなものです」
タケト「天才と秀才の会話はよう分からん」
コスケ「うん」
松陰先生「コスケ。字面を追うから頭に入らんのです。意味を考えなさい」
松陰先生「『人の患は好んで人の師となるにあり』」
松陰先生「すぐ人の先生になって物を教えて威張りたがるのは良くないこと」
松陰先生「はっ!」
松陰先生「ぼ、僕のことではないか!これは困った、困ったぞ!」
  松陰、自分の世界に入り込みひとり書物を読み漁りはじめる。
スギゾウ「諸友に告ぐ!」
スギゾウ「しばらく自習・・・」

〇草原の道
  肩を並べ家路へつくコスケとタケト。
  コスケふと立ち止まり、落ちていた長い木の棒を拾う。
コスケ「よ、よし!決めた!」
コスケ「侍になる!」
タケト「お前んちは、もう侍やろ」
コスケ「中間なんぞただの馬番じゃ」
コスケ「ワシは、松陰先生が作る新しい世の中で新しい侍になるんじゃ!」
タケト「何じゃその新しい侍っちゅうのは?」
コスケ「そ、それはその・・・」
コスケ「分からん!」
タケト「だろうな」
  コスケ、棒を槍に見立てて振り回す。
コスケ「難しいことはスギゾウやシンサクに任せる」
コスケ「ワシはばかたれじゃけ、その分強うなる!」
タケト「また泣かされるぞ」
コスケ「な、泣いちょらんわ!」
コスケ「う、産まれてから一回も泣いたことなんかないわ!」
タケト「出た・・・思い出し泣き・・・」
武人「はは・・・いつもそうだったな」

〇屋敷の牢屋
  『棒切れ』
武人「え?」
  『棒切れ・・・棒切れ・・・棒切れ』

〇古いアパートの居間
  『棒切れ・・・棒切れ・・・棒切れ』
武人「違う・・・」
コスケ「タケト・・・何で?」
武人「違うんだ・・・聞いてくれコスケ」
武人「あれは・・・」
狂介「友と思ってたのに」
武人「聞いてくれ狂介!」

〇黒
「この・・・裏切者」

次のエピソード:対決(2)

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