MAD・AGE

山本律磨

対決(2)(脚本)

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〇古いアパートの居間
タケト「おはようございまーす!」
タケト「へへっ・・・今日も一番乗りか」
  机上、紙と筆を認めるタケト。
タケト「自由に使ってよろしい」
タケト「・・・んだよな」
  タケト、紙に落書きをし始める。
タケト「暴れ牛は高杉っと」
タケト「坊さんは真面目な久坂」
タケト「入江なんてまだまだ木刀じゃ」
タケト「コスケは・・・」
「おーい。もう誰か来とりますか?少し畑を手伝ってもらえませんか?」
タケト「はい先生」
スギゾウ「お早うございます!」
スギゾウ「む?何だこれは?」
スギゾウ「神聖な学び舎で落書きとはけしからんな」
スギゾウ「高杉は牛。久坂は坊主。僕は刀か。なかなかよく描けてるではないか」
スギゾウ「ふむ・・・山県コスケは・・・」
スギゾウ「ははっ!これは傑作だ!」

〇村の広場
  『棒切れ!棒切れ!棒切れ!棒切れ!』
武人「違う!違うんだコスケ!あれは・・・あの絵は!」
  『棒切れ!棒切れ!棒切れ!棒切れ!』

〇屋敷の牢屋
武人「あの絵は!」
武人「・・・」
武人「狂介・・・」
  と、格子から顔を覗かせる善蔵。
善蔵「赤根さん」
武人「どうした?」
善蔵「何ですかその紙。まさか辞世の句じゃないでしょうね」
  善蔵、懐紙を懐に収め、善蔵とその取り巻き達を一瞥する。
武人「ここはお前達の持ち場ではないはずだ」
善蔵「持ち場の人間の許可も得てますよ」
善蔵「俺達に賛同してくれるみたいです」
武人「賛同?」
善蔵「ここを出ましょう。出てもう一度、俺らの総督になって下さい」
  取り巻き達が善蔵に追従する。
  『山県の下についとったら命が幾らあっても足りゃあせんです』
  『あの戦ぶり。俺達を駒としてしか見とりません』
  『そうじゃ。アイツの頭ん中は粟屋と同じじゃ』
武人「君らは高杉と共に戦いたいのだろう」
武人「僕の目的は和睦だ。家老とも幕府とも話し合いで決着をつける」
善蔵「思い直します!」
善蔵「やっぱり長州人同士、日本人同士が戦い合うのはようない」
善蔵「恨みや憎しみからは何も生まれませんけえ」
武人「善蔵・・・」
善蔵「俺達は狂人にはなれません」
武人「僕もだ」
善蔵「山県を引きずり下ろしましょう」
善蔵「赤根さんが歴史を変えるんです!一緒に、本当の奇兵隊を作りましょう!」
武人「奇兵隊を『狂』より開放する。それでよいのだな」
  格子の向こうから善蔵と取り巻きのみに留まらず、沢山の隊士達が弱々しく赤根を求めている。
  それはまさに、新式の銃を手に余らせた百姓の姿に他ならなかった。

〇城の回廊
  月下の陣屋内を数十名にもふくれあがった隊士達・・・いや、最早単なる農夫に戻った者達の前を歩く武人。
  『ああ、助かったのう・・・これで戦ともおさらばじゃ』
武人「・・・」
  『雑兵のままじゃ恥ずかしくて村に戻れん。といってあんな狂った戦は御免じゃ』
武人「・・・」
  『話し合い話し合い。同じ日本人同士、仲良うせんとの』
  『赤根総督万々歳じゃ』
善蔵「絵堂を落しただけでも、もう俺達奇兵隊は充分英雄じゃ」
善蔵「あとはゆっくり萩で養生しようや。ひゃははは」
  立ち止まる武人
武人「養生?」
善蔵「す、すんません。浮かれすぎました」
善蔵「やけど、俺達はもう戦はこりごりなんです」
善蔵「こないだみたいな殺し合いはもう沢山なんです!」
武人「君達はよく戦った」
  『そ、そうじゃ。侍相手によう戦いましたいや』
  『維れ新た、維れ新た。維新万歳』
武人「・・・」
善蔵「山県は本陣で一人、もう大将気取りです。貴賎平等とは口ばかりの俗物じゃ」
  『中間風情が、ワシら卑しい百姓と何の変わりがあろうか』
  『それいや。足軽大将が高杉様と肩を並べるなぞ畏れ多いわ』
  『英雄は英雄、凡俗は凡俗』
善蔵「長州は長州、日本は日本。身の程わきまえてのお」
善蔵「本当、平和が一番じゃ!ひゃははは!」
武人「何が可笑しい」
  武人、善蔵の胸倉を掴み小さく呟く。
武人「死んでいった者達がそんなに滑稽か?」
善蔵「いえ、あの・・・それは・・・」
武人「・・・」
武人「お前達の本心はよく分かった」
武人「これより、この赤根武人が奇兵隊を作りかえる」
武人「善蔵。広場に全員を集めろ」
善蔵「え?」
武人「聞こえなかったのか?」
善蔵「は、はい・・・」
武人「お前達も広場で待っていろ。我が改革の邪魔だ」
  『赤根さん・・・?』
武人「さん?」
武人「英雄は英雄。凡俗は凡俗であろう。口のきき方に気を付けろ、百姓」
武人「俺と狂介の戦・・・黙って見ておれ」
  隊士達を残し、狂介の下に向かう武人。

〇城下町
武人(先生は言った)
武人(日本は江戸だけのものではない。世の才は江戸だけに集まっておるのではない)
武人(ここから学べ。ここから叫べ。ここから歌え。ここから踊れ。ここから戦え)

〇海辺
武人(僕達は五つの国と戦った。イギリス、フランス、オランダ、アメリカ、そして・・・ニッポン)
武人(人々は言った。長州は発狂したと)

〇風流な庭園
武人(身の程をわきまえぬ大望を抱いてはならん)
武人(浅慮な青下郎の分際で大公儀にたて突く事自体、間違うておったのじゃ)
武人(穢兵が政に口をだすでない)

〇城の回廊
武人(なにが奇兵隊じゃ)
武人(うぬらは侍どころか足軽雑兵でもない)
武人(防長二州の動乱にかこつけ浅ましく餌にありつかんとする商人水呑ども)
武人(馬と同じ、いやそれ以下の犬じゃ)

〇木の上
武人(僕達は高杉と話し合うんじゃ。血の流れん未来のために)
  『血は流れちょります。生れてからずっと流れちょります』
四郎「助けてつかーさい。助けてつかーさい」
武人「四郎・・・」
善蔵「身の程わきまえてのお、ほんと平和が一番じゃ」
善蔵「ひゃははは!」
武人「善蔵・・・」
狂介「・・・」
武人「狂介・・・」
武人「ああ。そうだ」
武人「僕は・・・俺は間違っちょった」
武人「何もかも間違っちょった!」

〇戦地の陣営
狂介「四郎、今はこれくらいの供養しかできん」
狂介「せめて上からよう見といてくれ。新しき世を。新しき侍の生き様を」
「狂介・・・」
狂介「武人か?」
狂介「どうせ、善蔵あたりにけしかけられたのだろう」
「奇兵隊を返してもらう」
狂介「それからどうするつもりじゃ?」
「解散させる」
狂介「なに?」
「狂った軍隊など解散させる」
狂介「お前・・・武人なのか?」
武人「決着をつけるぞ」
武人「棒切れ」

次のエピソード:対決(3)

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