BERSERKER(2)(脚本)
〇戦地の陣営
脇に側近を従え、床几に腰掛け苛立っている粟屋。
駆け込んで来る伝令。
『ご注進!壱番、崩れました!』
側近どもがあからさまに狼狽する。
『四番100で持ちこたえられるのか?』
『武器庫の参番を回せ。ここを・・・い、いや粟屋様を守るのじゃ』
帯刀「たわけが!」
帯刀「御殿より賜りし武器弾薬、我らの命よりもはるかに重いものぞ!」
床几を蹴り外に飛び出そうとする粟屋を、必死で抑える側近たち。
帯刀「腑抜けどもめ。それでも毛利の侍か」
『粟屋様。奴らは狂うております。味方も敵も構う事無く蜂の巣に致しております』
さすがの侍たちも、その理解不能な戦いぶりに怖気立つ。
帯刀「奴らに何が起こっておるのだ?」
『禁門や馬関の戦さの時と同じじゃ。未だ長州は狂気から解き放たれておらんのか』
今ひとり、負傷した伝令が駆け込んで来る。
『ご注進!戦況、かんばしからず。四番程なく崩れまする。決戦の御準備を!』
采配を掴む粟屋の手が震える。
〇屋敷の牢屋
傷だらけの四郎が、何の手当もされることなく牢の中に捨て置かれている。
『四郎・・・四郎か?』
奇兵隊士に声をかけられ、気づく四郎。
四郎「ああ・・・」
格子の向こうから語りかける隊士達。
『今、開けちゃる。早う逃げい』
四郎「戦さですか・・・ワシも連れて行ってください」
『そんな身体じゃ足手まといじゃ。村に帰って養生せえ』
四郎「戦えますけ・・・隊に・・・隊に置いてくだせえ」
牢を開け四郎の前に脇差を置く隊士。
『護身用じゃ。上手く逃げい』
隊士達、意気揚々と戦場に戻ってゆく。
四郎、去ってゆく隊士達の背を見つめ声をかけ続ける
四郎「連れて行って下せえ・・・新しい時代に・・・連れて行って下せえ・・・」
〇城の回廊
狂介「うおおおおおおお!」
侍達を次々と討ち果たしてゆく狂介。
豪雨の中戦う奇兵隊と、逃亡する撰鋒隊。
〇基地の倉庫
武器、大砲を手に出てくる力士隊と俊輔。
俊輔「よし、これでまだまだ戦える」
俊輔「見ていて下さい。高杉さん・・・」
〇戦地の陣営
隊士を率い、のりこんで来る狂介。
狂介「見参!粟屋帯刀、見参せえ!」
戦意喪失の側近たちが、へたりこんだまま震えている。
狂介「逃げたか」
苛立つ狂介、辺りを見回し腹立ちまぎれに撰鋒隊の旗を槍で叩き折る。
狂介「捕らえろ!生かして萩に帰すな!」
〇霧の立ち込める森
帯刀「はあ・・・はあ・・・」
ぬき身の太刀一本で雨の森を彷徨う粟屋。
と、前方の林の一角がガサリと動く。
帯刀「な、何奴!」
林から、脇差を手にした四郎が現れる。
四郎「・・・」
朦朧と粟屋を見ているだけの四郎。
帯刀「貴様・・・」
四郎「・・・」
帯刀「控えよ下郎!我に勝てると思うてか!」
四郎「・・・」
四郎、茫然とひざまずき頭を垂れる。
帯刀「それでよい」
帯刀「我が飼い犬となり萩まで従うのだ」
粟屋の胸に、脇差が突き立てられる。
帯刀「ぐが・・・っ」
四郎「大将首・・・これで奇兵隊に戻れる・・・」
四郎「これでワシも・・・新しい時代に・・・」
帯刀「野良犬めが!」
帯刀「犬畜生の時代など・・・」
帯刀「ぐふっ・・・」
その時、遠くで勝鬨が上がった。
勇者も敗将も聞くことができなかった鬨の声が。
〇城の回廊
ムシロの上に、四郎と隊士達の亡骸が横たわっている。
亡骸に向かって整列する奇兵隊と諸隊。
狂介「手柄一等、奇兵隊士四郎君。並びに尊攘の御霊となりし隊士諸君に奉り」
狂介「捧げ銃!」
天に銃をかざす奇兵隊、諸隊一同。
雲間からは光りが差し込んでいる。
狂介「なおれ。解散」
その場を離れる隊士達。
一人残る狂介、四郎の頭を撫でる。
狂介「大将首とは、ようやった」
狂介「お前は新しい世の、最初の侍じゃ」
「これからも血を流し合うつもりか」
武人「同じ長州人同士。同じ日本人同士」
武人「次は萩で、次は京で、次は江戸で同じ事をする気か」
武人「答えろ!」
狂介「皆が命を賭して戦う場で、こそこそと逃げ隠れしておったようだな。奇兵隊総督として看過できぬ」
狂介「赤根武人。お前を捕縛する」
武人「狂介・・・」